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第11話 〜婚約と進展〜


「……えっと、もう1回言ってくれませんか?お父様」

「ああ。……お前に婚約の話がきている」


……ん?


「クライヴ王子との」


倒置法、使う必要あったんでしょうか?

そんな事を頭の隅で考える。

今、そんな事を考えている余裕などないと分かってはいたけれど現実逃避がしたかった。


だけど、いつまでも現実逃避は出来ないわけで。

クライヴ王子。

その名を私は知っている。いや、この国に住んでいる人なら誰でも知っているだろうけれど、“前世”から私は知っている。


クライヴ王子はこの国の第2王子。

太陽の祝福を受けたかのような金糸の髪に澄んだ海の色の瞳。金髪碧眼、お伽噺の王子様の如き甘さも含んだ美貌の持ち主。実際、王子様なんだけど。


性格も温厚で誰にでも脇隔たりなく優しい。

品行方正で礼儀正しい理想の王子様像だ。


……ゲームの中の彼を思い出す。

彼は、私と関係なかったはずなのに。

私の存在が登場してきたルートはフィンレイルートだけ……。


「アンジェ、アンジェ。聞いているか?」

「す、すみません、お父様」


何回か呼び掛けられていたらしい。

私は意識を父の方に向けて、乙女ゲーを思い出すことをやめる。


「大丈夫だ。それで、話の続きなのだが、今度クライヴ王子との顔合わせがある」

「……かお、あわせ」

「そうだ。くれぐれも失礼のないようにな」

「はい……」


半ば放心状態で、お父様の話を聞く。

顔合わせ……顔合わせ……。

憂鬱極まりないです。


全ての話を終え、私はお父様の部屋を去り、例にもよって自分の部屋に帰るとベッドにダイブした。


私がこんなにも憂鬱になっているのにはきちんとした理由があるのだ。

クライヴ王子が、攻略対象だというのは、関係なく会いたくない理由は一重に彼の性格にある。


表は温厚で優しく理想の王子様!という性格な彼だが、実は病んでいる。

フィンレイも病みキャラなのに王子様も?と聞かれたら、申し訳ないのだが病んでいる。


それもフィンレイと違う方向性の病みだ。

フィンレイは人間不信、人間恐怖症を抱えている方の病み。人間に対する不信感や恐怖心を取り除いてしまえば周りとも仲良く出来ていた。


しかし彼は根本的に違う。

人間不信、人間恐怖症……そういった物ではなくある人間を憎悪して殺したいとまで思っていた。

彼が憎悪している相手は……実の兄だ。

クライヴ王子は実の兄であるセオドール第1王子を憎みに憎んでいる。

そして密かに暗殺計画を企てているのだ。

周りにはそこまでして王位を手に入れたいのか?この傲慢王子め、と思われているようだがクライヴ王子は王位が欲しい訳では無いのだ。


『アイツに全てを奪われたから、自分もアイツの全てを奪うんだ』


私が彼のルートを攻略した時にクライヴ王子が放ったセリフ。

彼がセオドール第1王子を殺したいのは地位とか富とかそんな物の為ではなく復讐心からだ。


ノートに万年筆を使って日本語でそれらを書き記す。こうやって攻略対象の事を纏めている紙はいつかは役に立つはずだ。


それにしても、と。

なんで私は本編開始前に退場する悪役令嬢もどきキャラだというのに元々関係のあるフィンレイは兎も角関係の無い攻略対象であるクライヴ王子の婚約者になるという話が出始めているの?おかしい!と抗議したい。


ちょっと私に重荷を載せすぎじゃないですかね?

病んでいる方2人のお相手を務めるのは私には難しい。

まぁ、クライヴ王子もゲーム内では好きだったけど!推しのフィンレイには負けるけどね!


そんな事をつらつらと考えていたら家庭教師の先生が来る時間になった。

……今は一旦クライヴ王子のことは忘れて勉強に専念しよう。



*****


家庭教師の先生も帰り、私は再び部屋に帰ろうかと思ったけど、今日はまだフィンレイと話していないと言う事を思い出して、フィンレイの部屋に向かう事にした。


「フィンレイー!いるー?」

「……はい。おります」


淡々とした事務的な返答が返ってくる。

切ないけれど、徹底的に居留守を使われていたあの頃と比べれば進歩したのではないか?


「入ってもいい?」

「どうぞお入りください」


召使いさながらの敬語で向かい入れてもらった。

そういえば、何気にフィンレイの部屋に入るのは初めてだ。いつもはやんわりと断られて庭や図書室に行く事を提案されるもの。

あれ?これってちょっと進展!?

嬉しくてニヤニヤしてしまう。


「フィンレイの部屋、綺麗ね!」

「ありがとうございます」


相変わらず、言葉少なだ。

さっきちょっと進展!?等と考えた人は出てきて。ソレ、思いっきり勘違いよ。


部屋をバレない程度にキョロキョロと見渡すとある物が目に入る。


「あれ?コレって……」


それは、魔法の花。

しかも、庭師さんが作った物の中にはない新種だった。


「あ……えっと。コレは自分で作りました。庭師のバーナードさんに教わって……」

「えっ!?自作なの!?」


衝撃だ。

何もかもが衝撃である。

まず、魔法の花を自作したということ、次にバーナードさんと共同作業をする程仲良くなっているということにだ。


「はい……」

「す、凄い……!」


そして、フィンレイの才能とセンスにも脱帽だ。

美しく輝く宝石のような花びらに感慨を受ける。深い海のような色をしているその花は私の瞳の色にも似ている気がする……。


「あの……これ。良ければもらってくださいませんか?」


フィンレイがおずおずと素敵な花瓶に入れられた宝石のような魔法の花を差し出してきた。


「……え」

「いつも……気にかけて下さっているのでその御礼に……と。もっと気の利いた物を用意できれば良かったのですが、アンジェリカ姉様の好みを知らなかったので……。申し訳ございません」


固まる私に何を思ったのかフィンレイは視線を彷徨わせ言い訳じみた弁明を繰り出す。


「……うれしい」


言葉が勝手に口から零れ出す。

嗚呼、何だかまた勘違いしてしまいそう。

フィンレイが、フィンレイが私の事を少しでも認めてくれたんだって。少しでも好きになってくれたんだって。


「ありがとう……っ!とても、とても嬉しいわっ!」


花瓶をそっと受け取り、花弁に軽く触れてみる。ヒンヤリとした感触が気持ち良かった。


「フィンレイ!本当に……ありがとうっ!……大好きよ」

「……っ」


大好きなんて、気恥しいけど。

本音だもの。口にしなきゃね。

真っ直ぐにフィンレイを見詰めて告白めいた事を告げるとフィンレイが息を呑み、瞳を伏せて「……です」と何かを呟いた。



ストックが切れたので更新遅くなりました。

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