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閑話 〜ある転生者の混乱〜


ある日私は、変な夢を見た。

その夢の中で、私は“俺”で、世界はここじゃない全く別のどこかだった。


魔法は存在しない。その代わりに科学という物が発達している。


その世界で、私は“俺”の中に存在して、“俺”の目線で、物を見ていた。


“俺”は、兄だった。

明るい笑顔が特徴的な私の世界では珍しい黒髪に黒目を持つ少女の兄。

その、少女はこうこうせい?という職業に就いており、げーむ?というものが好きだったらしく“俺”に度々その話をしていた。


その少女の笑顔は、私の大好きな人ととても似た者で、思わず私はその人の名前を呼びそうになったりもした。


“俺”と深い関わりがあるのはその少女だけで、その少女と自分だけで“俺”の世界は完結していた。

だからこそ。


だからこそ、“俺”は耐えられなかったらしい。


少女の死を。


受けいれられなかった。


少女の亡骸を見た時に、“俺”は狂ってしまった。

狂って、泣き叫び、ひたすらに少女の名前を呼び続ける苦しそうな“俺”を私はただ見続けることしか出来なかった。


この世界で、私はあくまで【傍観者】だから。


私は、“俺”に対して親近感のような物を感じていた。

同じように笑顔が明るく傍に居ると癒される大事な存在を持っていて。

私にも、“俺”と同じように守るべき人がいる。


だから、“俺”が鈍く光る刃物を取り出し、自分に突き刺そうとした時は必死で止めようとした。

しかしそれは無理な話。

私は、この体を借りてこの体で物を見ているけれど、これは私の体じゃない。

“俺”の物だ。


「……俺も今行くから。待ってて、――――」


一切躊躇なく、刃を振り下ろした“俺”。

思わず痛みに身構えたその瞬間。


私は目が覚めていた。

元の世界の朝が来た。



*****


次にその不可思議な夢を見たのは、それから何ヶ月か後だった。


今度は、誰の体に入るでもなく、私は映像を見せられていた。


その映像には、主にふわふわとした金髪の髪の女の子と沢山の美形な男が出てきた。


そこまで興味はなくて、横目で適当に流れるのを見ている程度だった。

あの映像が出るまでは。


『ふんっ、汚らわしい愚民が!』

『何様なのかしら?ほら、せいぜいわたくしの役に立ちなさいよ』

『わたくしが、世界一なのよ。この世界はわたくしのものなの!』


その声は、確かにアンジェリカの物だった。

その顔は、確かにアンジェリカの物だった。


私は、画面に釘付けになった。

アンジェリカの一挙一動が気になった。

そして、アンジェリカから罵声を浴びせられ、時には暴力まで振るわれ、アンジェリカを憎悪の色が見え隠れする暗い瞳で見つめていたのは黒い髪に赤い瞳の美少年。


確か、名前は“フィンレイ”と言っていた筈だ。


いつの間にか、場面はアンジェリカがフィンレイに酷い仕打ちをする場面から、移っている。


『あははははは!女遊びに必死なお前もっ!人のせいにして八つ当たりばっかりのお前もっ!そして……、傲慢で醜いお前もっ!全部全部僕が殺してあげるよ……!』


見開いた瞳孔。

瞳に宿る狂気。

そして、手にした凶器。


それは少し“俺”に似ている気がした。


抱えた感情は正反対だけれど、その狂気は似たものだ。愛と憎悪は紙一重とは言ったものだ。


そして、とうとうその物語はクライマックスに向かっていった。

正確に言えば、本来の物語は始まってもいないのだけれど、私にとって本来の物語など興味が一欠片もない。


『御願い……っ御願いよ……っ!やめ、て』


アンジェリカの悲痛な願い。

フィンレイは聞く耳も持たず、アンジェリカを剣で突き刺す。


アンジェリカのそれは私には命乞いに見えなかった。


それどころか、フィンレイに何かが起こることを心底恐れているような────。


次の瞬間。


私は目が覚めていた。

前の時と全く同じ。


あれは、本当に夢なんだろうか…………?



*****


その日、私はある噂を耳にした。

それは「魔法管理会がある少年を保護したらしい」というものだ。


私の中に、ある可能性が生まれた。

普段、噂話なんてさほど気にしない私だけれど、その話はとてもとても気になるものだ。


そこで私は、噂好きなメイドに尋ねてみる事にした。

メイドはとても驚いていたけれど、教えてくれた。保護された少年の名前を。


「意外ですね。こんな話、興味無いかと思っていました。まぁ、いいです!保護された少年は“フィンレイ”という子らしいですよ!何でも絶世の美少年らしくてっ」


きゃっきゃっと騒ぎながら、弾んだ声で語る彼女の言葉に、私の中に確信が生まれる。


────あの夢は、私に何かを教えようとしている。


きっと、あれは予知夢か何か。

もしかすると、天啓かなにかなのかも知れない。


私は、行動した。

行動しないと、いけなかった。


この行動によって、私の、そして“俺”の大切な存在が危険に陥るかもしれないとも危うんだ。


でも私は、直ぐに考えを改める。


だって、あの方はもう違う。

アンジェリカじゃないから。


アンジェリカじゃなくて……。


「杏奈」


無意識に零れ落ちた名前。


“俺”の妹の名前であり、多分【今のアンジェリカ】である人。



言い回しを変えました。“ヴェルノ”の性格に変わりが出てきたので少し重要になってくるかもしれません。お時間があれば読み直してみてください。修正部分は最初の方です。

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