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第8話 〜亀裂〜


そんなわけで。

私は、お母様とお父様にお茶会がしたいと相談しに行っていた。


どうにかお茶会でトーク力を磨かなくてもフィンレイと楽しい会話が出来ないかとフィンレイが好きそうな話を振ってみたり屋敷の図書室でコミュニケーションについて書いてある本を読み漁ったりしたものだが、あまり手応えはなかった。


なので私は諦めて、お茶会の開催を頼む事にした。

他力本願、極まりないけれど仕方ないわ。

これは、屋敷の未来の為でもあるの!


「お父様!いらっしゃいますか?」

「お嬢様……?申し訳ございません。旦那様は外出されています」


お父様の自室へ詰めかけてみたけれど、いなかった。残念である。

一応、お父様専属執事のヴェルノに『お茶会についてお父様に話があるの』と相談してみる。


「お茶会、ですか……。旦那様が帰られてから仰ってみますね」

「ありがとうございます!」

「それにしてもお嬢様、どうして急にお茶会などを?」


ヴェルノの質問にギクリとする。

トーク力をあげたくて~とはちょっと言い難い。

別に、悪い事じゃないんだけどなんか……ね。


「あはは……ちょっと……上手く会話できるようになりたいなって思いまして……」


変な笑い声を漏らしながらも素直に言う。

ヴェルノとは長年の付き合いだし、今更隠し事をすると言うのも変な話だ。

ヴェルノは年が4、5こ程上のお兄さん的存在だ。

いつもお世話を焼いてくれて、ついつい頼ってしまう。


「会話……ですか」


ヴェルノはうーん、と考え込む。


「お嬢様は、何故会話が上手くなりたいのですか?」


そんな質問来ると思ってなかった!

余りの変化球な質問によろめきながらも、ヴェルノの顔を一瞥してみれば、真剣そのもので、この質問にも何かしらの意味があるのかも。


「……ええっとぉ。フィンレイと……仲良くなりたいかしら」

「……」

「今の私だとあんまり面白い話をしてあげられないから……。お茶会に行ってお話が上手なご令嬢方のトーク術を取り入れて、磨いて……そしたら────」


「お嬢様」


そこまで、黙って話を聞いてくれていたヴェルノが突然口を開いた。


「……ヴェ、ヴェルノ……?」


その声は、いつも穏やかなヴェルノとは到底思えない位冷たくて。

少し怖くなって、無意識のうちに名前を呼んだ。


「……っ」


ヴェルノは私の呼び掛けに肩を震わせて、それから俯き謝罪する。


「あ……。申し訳、ございません……っ」

「い、いえ。いいんです、気にしないでください」


その場に気まずい沈黙が訪れる。

先に耐えられなくなり、口火を切ったのはヴェルノだった。


「お嬢様、本当に申し訳ございません。お嬢様のお話の途中で口を挟んでしまい……」


ヴェルノは私がそれで、気を害したと思ったのだろうか。

私は、怒ってなんかないのに。

寧ろ……怒っていたのはヴェルノの方に見えた。

あの時の、氷のような眼差し、声色は……私に対して何かしらの不満があり怒っていたんじゃないの?


アリシアのあの時の反応もまた脳裏に蘇り、お茶会というのはいけないことなのか?と錯覚までしてしまう。


「あの!本当に大丈夫ですので……」


私は、いつも親身になって話を聞いてくれるヴェルノの心底不快だ、というような表情に怖気付いてしまった。

全く、豆腐メンタルも良い所だと自分自身を情けなく感じつつも、ヴェルノの反応に傷付いたのは隠しようのない事実で。


「……わ、私。お母様にも相談しに行かなければいけないので……その。ヴェルノ、お父様によろしく頼みますね」


その時私がとった行動は逃げること。

肝心な時に逃げてばっかりだから前世でも、今世でも私は取り返しのつかない事に事態が発展してしまうんだろうなぁと反省しつつも辞められないのは私の心が弱いからだろうか。


ぺこり、と頭を下げると、相手からの言葉も待たずにスタスタと小走りでその場を去った。


*****


「あら?アンジェちゃん。どうかしたの?」


お母様は、聖母のような笑顔で私を出迎えてくれた。

その包み込むような優しさにいつも私は救われる。


「あのね、お母様……私、お茶会がしたくて……」


お願い事をそっと告げてみると、お母様は大輪の花が花開くように満面の笑みになった。


「まぁっ!アンジェちゃんのお願いなんて珍しいこと!それに、お茶会?とっても良い事だわ!」


良い事……。

その言葉が、胸に染み渡った。


実はお茶会の件、アリシアにも反対されていたのだ。

高笑いがやんだ後、アリシアは作り物じみた笑みを口元に貼り付けて


『お嬢様、その……お茶会等する必要ないと思います』


と、控えめながらもハッキリとした言い回しで私に告げたのだ。


アリシアがこんな風に主張することも、作り物地味た愛想笑いも、全てが全て初めての事で私は混乱した。


自信を無くしかけた矢先に、ヴェルノの態度だ。

お茶会は悪いものなのか?と本心から疑ってしまったけれど、お母様の表情を見る限りそれは違うよう。


「お母様……お茶会とは、悪いものじゃありませんよね?」

「……アンジェちゃん?急にどうしちゃったの?お茶会は悪いものではありませんよ?」


お母様は戸惑いながらも答えてくれる。

……やっぱり、私の思ったような答え。


それに安心すると共に、だったらアリシアとヴェルノはどうして反対だったのだろうか?という疑問が生まれてくる。


「……なんでもありません」


一瞬。

ほんの一瞬。

お母様に、アリシアやヴェルノの事を話して、アドバイスを貰おうと考えてしまった。


でも、言葉を紡ぐ直前に、思い留まる。

……お母様に相談する事じゃないわ。


「アンジェちゃん。何かあったならお母様に話して頂戴ね?」

「はい、ありがとうございます……お母様」


心配そうなお母様。

ごめんなさい、でも……。

アリシアやヴェルノの件は、自分で解決すべきだと思ったから。


お母様はきっと、私と親友同然の付き合いをしてきたアリシアや、兄のように慕っていたヴェルノがそんな反応をしたと知ったら、大慌てで、仲を修繕しようとするだろう。


でも、私は────。

アリシア、ヴェルノとは、自分の口で話して、自分の耳で2人の意見を聞き、自分の力で気まずい空気を取り払いたかったんだ。



こうして、フィンレイと仲良くなる為に思い付いた策は、大事な2人との仲に僅かな亀裂を生みつつも……お母様や、ヴェルノに報告を受けたらしいお父様によって進められていくのだった。



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