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第五話「最強の勇者、忘れ物に気付く!」

前話のあらすじ「よか牛がダンジョンにいるけ、肥料作ってもらうっぺ」



【現在、大変のお見苦しい映像のため、綺麗な風景を想像してお待ちください】





「耕作魔術あるふぁ型、範囲指定0:0(ゼロ・ゼロ)、120:0、121:130、0:130。深度4。実行せよ(ラン)


 ぐににに、ぐももも。





…………





「はい、おつかれさん。ありがとね、わざわざ来てくれて」


「ううう、もうお婿にいけない……」


「もしよかったら来年も頼める? また迎えに行くからさ」


「ひっ、い、いや、そうっすね。き、機会があったらということで……」


「わかった、ありがとね。帰りの転移魔法陣すぐ起動するから」


 肥料の提供をしてくれたバトゥミノタウロスをダンジョン直通の魔法陣で見送った。帰りの間際、「来年は旅行でもしよう……」というバトゥミノタウロスの呟きが聞こえた気がしたが、あまり興味はなかった。家族サービスでもするつもりなんだろう。


 俺は一通り前準備が済んだ広大な畑を見回して満足げに頷く。

 土壌消毒は済んだ。これで畑の中の悪い菌は死滅してくれるだろう。善玉菌も同時に消毒されてしまう諸刃の剣なのだが、栄養素さえたっぷりあれば作物の育ちはかなり良いはずだ。善玉菌を残そうとして連作障害を起こしてしまう方がよっぽど怖い。

 そして栄養素は今しがたたっぷり補充した。さすが王国騎士団を斧の一振りで半壊させられるほどの巨躯を誇るバトゥミノタウロスだ、出してくれた肥料も思っていた以上に凄かった。臭いはそれほどでもなかったのだが、ソレ(・・)自体が発するインパクトが余りに大きすぎて並みの冒険者なら近寄ることすら躊躇うだろう、色んな意味で。


 なので、いつまでもデンと畑の上にソレ(・・)が鎮座しているのは景観及び精神衛生上よろしくなかったので、即座に耕作魔法を使用して土の中に混ぜ入れた。

 これで今畑の中は消毒と肥料が満杯の状態だ。畑としては最高の状態といえよう。例えるならば魔王城に挑む直前に有り金を全部はたいて、ありったけの回復薬と装備品を揃えた直後のパーティーのようなものだ。負ける気がしない。


 さて、これからどうしようか、と俺は少し考えた。土壌消毒は1日2日で終わるような簡単なものではない。

 毒素が強いけれど花粉なので土壌に分解されるであろうヴィルレントポイズンツリーの花粉を使用したが、消毒が安定するまで1週間くらい様子見をした方が良いだろう。少なくとも普通は土壌消毒で間を開けるものらしい。違和感。何かを忘れている気がする。


 俺はメモ帳を取りだしてパラパラとページを捲る。去年はこの暇な時間に何をやったっけなと思いだすためである。

 薪集めついでに森の開墾していたか、雑草取りでもしていたか、家の大掃除だったか。何をやっていたか思いだそうとメモ帳の目的のページに辿りつくと、俺は声をあげた。


「あ、忘れてた! カバーだ! ど、どうしよう……」


 実家が農家だと言うゲフェン及びご近所(徒歩2時間)の農村の方等に根掘り葉掘り聞き出した数々のアドバイスの中に、「土壌消毒後はカバーをかける」というのがあったのをすっかり忘れていた。

 土壌消毒で使われる農薬は基本的に劇薬である。直接触れるのはもちろん、畑に散布した後でも気化した毒気は十分人体他近くの動植物にも害を与える。そのため土壌消毒後はカバーをかけて飛び散らないようにしなければならないのだ。毒無効のアクセサリーをつけっぱなしだったため気付けなかった。


 通常、カバーとして使うものはモンスターの素材を使う。イビルジュリーというクラゲみたいなモンスターの表皮は半透明で伸縮性があり、それなりの強度があって破れづらい。表皮単体では水を弾く性質があるため地面に直置きしても布とは違って腐食しないという、まさしく農家のためにあるかのような素材である。

 一匹当たりから取れる量は微妙だが、軽く熱すると簡単に癒着するため大きなシートにするなど加工しやすいというメリットがある。また、イビルジュリーは海中ではそれなりに厄介らしいけれど陸揚げされると簡単に倒せるため素材が集め放題であるというのも良い点だ。かなりの安価ではあるが、引き潮に残された見渡す限りのイビルジュリーの死骸を集めて剥ぎ取って売るのは漁師の嫁と子供の仕事でもある。


「あー、そうだ。去年はあのシート、うっかり魔法に巻き込んで燃やしちゃったからなぁ……。代わりを用意しようと思っておいて忘れてた。どうしよう、今から急いでなんとか仕入れられるか?」


 利便性に富んだ半透明シートなのだけれども、前述した通り非常に熱に弱いため、火や強い直射日光にさらされ続けると簡単に傷んでしまうという欠点もある。

 ましてや、害虫駆除と称してせっかく作った作物ごとファイアーストームで焼き尽くしてしまったアホな勇者でもいようものなら、買ったばかりのシートも即座におじゃんになろうものである。でも言い訳させてほしい、あの時は処理しても処理しても沸いてくる羽虫や油虫に苛ついて、思わず魔法を放ってしまったのだ。放ってすぐに失策だと気づいたが、シートがダメになったことよりも作物が根こそぎ灰になってしまったことにショックを受けて今日まで忘れていたのだ。


 見ると、害虫駆除をした日のメモ帳に「畑で火属性魔法は絶対厳禁、シートを新調すること」と滲んだ文字で書かれている。どうやら泣きながらメモっていたらしい。濡れてたわんだページを閉じながら、俺はどうするか思案した。


「イビルジュリーのシートが安売りされるのって基本夏らしいからなぁ。今から慌てて揃えられるか? お金はまあいくらでもつぎ込めるけど、問題はこの畑全体を覆うほどの量が店に残ってるかどうかなんだよなぁ……」


 農家をやってる奴は俺だけではない。みんな必要な分は予備を含めて買い込んでいるだろう。比較的安価で消耗率が高いため、基本的に2,3回使ったら使い捨てだ。在庫はほとんどないかもしれない。

 転移魔法を使ってしまえば王都だろうがどこだろうが行けるけれど、あれは魔力の消耗が激しいからあまり乱発したくはない。既に今日は2度も使っている、できれば無駄な移動は避けたかった。


「うーん、いっそ使わないって手もあるか。どうせ近所には人いないし、俺は毒無効できるし……」


 そんな横着な手段も思いついてしまう。サリィは文句言うだろうが、彼女にもアクセサリーを渡せば問題ないはずだ。たった1週間だし、それでもいいだろう。

 と、楽な方へと考えが流れそうになった途端、俺は頭を振ってその考えを否定した。


「いかんいかん! 何をやるんでも全力でやらなきゃいけないでしょう男として! それに、ゲフィにも周囲になるべく迷惑かけるなって言われたし、安易な方に行っちゃダメだ」


 俺は畑で一人突っ立って拳を握って決意を新たにする。

 例え一面広がった平地と遠くに連なる山しか見えないほど人里離れた場所であろうとも、例え「勇者様の家なんて恐れ多い」と一番近くの村人もあまり近寄ってこなかろうとも、我が家にやってくる奴は魔物を含めて高レベルな奴しか来ないから毒なんてあまり効かないという事実があろうとも、他人様に迷惑をかける可能性がある芽は潰しておくべきだと思った。

 うっかり転移魔法でうちの畑に降りちゃったお客様が毒に気付かず、いきなり泡を吹いて倒れてしまう可能性だってあるのだ。シートは敷かなければならない。諦めて各方面の街に買い出しに行こうかと考え出す。


「ん、待てよ? そういえば代わりになりそうな物があったかも……」


 地面に突き刺していた聖剣を引き抜いて転移魔法を使おうとするも、ふと思い出して家に戻る。行先は物置小屋である。ここには勇者時代に集めたいろいろな使わない物が溢れていた。ちなみにアイテムバッグの登録先はこの小屋の端の一角である。

 俺は一見散らかっているようにも見える物置小屋の中を迷わず歩き、一番使わない物が山積みにされている場所を順々にひっくり返した。3年もほったらかしだったのでかなり埃が被っている。

 ものすごく強くなる代わりに呪われて外せなくなってしまう鎧や、大昔に鉱山で採掘をしたときに使ったピッケルセット、大量に買ったは良いものの魔法で回復しちゃうから使わなくなった麻痺回復薬なんかの山を退けて、目的のものを探し出す。


「げほっ、ごほっ。結構大きいし、数もあるから縫って繋げれば使い物になるかな? 今年だけ使えればいいから、これでいっか……。ごほっ」


 俺は黒い布上のソレをバサッと広げると、舞い上がった埃に顔を顰めながら代替品に使うことに決めた。

次話「神父、呆れる」



※今日のおまけはないです。

 あと、更新が滞ったら「あ、作者またモンスターをハンティングしてるな」って思ってください。笛面白いです

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