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1ー7 世界を終わらせない

これで終わりにします。

 胸くそが悪かった。

 物心がついた頃から、いや、もしかしたらこの腐った世界に産まれ落ちてしまった日から、アタシは生きづらさを感じていたのかもしれない。

 違和感が形になったのはチカラを自覚してからだ。

 初め、自分が化け物になったと錯乱した。

 誰も彼もが持ってる当然のもの?

 何もおかしいことじゃない?

 そんな理解できない常識を平然と垂れ流す輩に恐怖すら覚えた。

 人が産まれ持った能力の中に、何故これほどまでに異質な力が混ざっているのか。

 何故その他大勢はこれを受け入れることができているのか、アタシには消化できなかった。

 ああ、分かってる。アタシが異物なんだろう?

 皆分かってることが分からない、気にしないことを気にするアタシこそが異質なんだろう?

 多数決をすればアタシがおかしくて、踏みにじられて、口を塞がれるわけだ。

 だから敢えてこのいまいましいチカラを使おう。

 このチカラでもって、チカラが如何に危険で気味が悪いものか見せつけてやろう。

 簡単な話だ。

「で、お前はアタシを裏切って、騙して、不意打ちをして、これ以上どう辱めようってんだい?」

 目を覚ますと松明だけが光源の、薄暗い石畳の上に転がっていた。

 今ぶち殺したい男1位の野郎との間に鉄格子が生えてることから察するに、アタシは牢屋に放り込まれたらしい。

「なに。ただ君の愚痴を聞きに来たんだ」

 反射的にウサギを突っ込ませようとするがリンクを感じない。

 なるほど、あいつもとうとう終わったか。

「へー、流石は正義に目覚めた元悪役ヒーローのバッゲンさんだー。こんなぼろ雑巾にも優しくしてくれるなんて死にたくなるなー」

 なんてほざいても今のアタシには自殺をすることもできない。そもそも、そんな度胸があればとっくにやっている。

「ていうかさー、なんでお前はそっちにいんのー? こっち側だろー?」

「今だけさ」

 表情を変えずにそんなことをぬかすもんだから唾でもはいてやりたくなるが、それよりもいいものを思いついた。

「そっかそっかー。アタシを売って仲良しこよしかー。ヒーロー様はやることが違うなー」

「そんなことはしないさ」

 でも思いの外野郎は動揺しなかった。つまらない。

「ふーん、で、アタシの愚痴を聞いてくれるんだっけ。じゃあ聞いてよ、聞き続けてよ」

「ああ」

 けっ、白々しい。どうせアタシから情報を搾り取るよう言われてるんだろ?

 ご苦労なことだよ。

「アタシはさー、ただこの世界をとっとと終わらせたかったんだよー」

「うん」

「チカラなんていう気持ち悪いものを笑って使ってる生き物が跳梁跋扈してるじゃんかー。こんな無法地帯、いつかそう遠くない未来終わるに決まってるよー。現に、北の方じゃ戦争開始間際だー」

 「らしいね」

「でもアタシは待てなかったんだー。こんな気持ち悪い世界、とっとと終わらせたかった。そんな時、貰ったんだよねー。あの力をー」

「ケモノと羽」

 黒いフードを被ったナニカが、ある日突然おいて行ったそれらは、世界を終わらせるための兵器だった。

「……バッゲンはさー、なんで貰ったのー?」

「つまらない話だよ」

「いいから」

 こいつが嫌がることは何でもしたい。

 少しでもやり返さないと気が済まない。

「復讐さ」

 渋々と言った風な口調は、どこか錆びているようだった。

「昔、教え子をチカラの実験のモルモットにされ、使い潰された。その研究所は跡形もなく消してやったけど、それを容認した世界を許せなかった。そんなものさ」

「なんでだよ」

 さらっと流した風を装ってるけど、実際は復讐の炎を隠し切れていない。

 だから納得いかなかった。

「なんで今更許したんだよ。世界に復讐するために、ケモノを育てて来たんじゃないのかよ」

 ずるい。

「なんで、ヒーローになったんだよ!」

 馬鹿野郎のキョトン顔にいい加減一発入れてやろうかと思ったが、

「さっきから誤解なんだけど、僕はヒーローなんかじゃないよ。君と同じ罪人さ。自分の行いが誰かを傷付けると分かっていながら牙を磨き続けた、クズ野郎だよ」

 開き直るかのような言い草に遮られた。

「たまたまだったんだ。あの二人が、似ていたんだ。優秀なチカラを持った教え子だった」

 アタシの行動を先読みした男の子と、水を操る女の子ことか。

「似てると言っておきながらなんだけど、男の子はチカラが使えないことを知った」

「そん、な、……嘘だ!」

 嘘じゃないと、じゃないとアタシはチカラじゃなく、ただの子供にこけにされたことになる。

 そんなこと、認められない。

「疑うなら改めて彼に会うといい。嫌でも身に染みるよ、己の滑稽さがね」

「どーいうことかな」

 足が不自然に震える。

「彼はね。世界を憎んでいないのさ」

 息が詰まる。

「どれだけ理不尽でも、不条理でも、不自由でも、不十分でも。彼は世界を、人生を諦めてやしないんだ。なぜだと思う?」

 何も言えない。

「彼には選択肢が見えている。チカラがない故の考え方なんだろうね。できなかった。なら次は? もっと良い方法はないか? 足掻いてもがいて最善を掴む。君も痛い目を見たはずだ」

「あれは、最後はお前に」

「それが見えていないということさ。あの結果を導いたのは最初から最後まで探し続けた彼と、そんな彼を信頼し守り通した彼女さ」

 搾り出した言い訳もかきけされてしまう。

「子供が諦めずに生きようとしている。その片鱗を見せつけられたら、いくら僕みたいなクズでも立ち上がらなくてはならないのさ」

 イヤダ。

「認めない、認めないぞ、そんなの。じゃないとアタシは、アタシの今までは」

「時間だ」

 役目を果たしたかのようにバッゲンは立ち上がった。

「言ったろう? 愚痴を聞きに来たって。僕もこれから牢屋行きだ。今までギルドに貢献してきたことの恩情とやらで猶予を貰ったんだけど、まぁ伝えたいことも言えたし、後はあの子達に任せるよ」

 と、離れた所から聞き覚えのある話し声が聞こえてきた。

『尋問なんて初めてだから緊張するわー、ねムスビ』

『絶対おかしいよね? なんで怪我してボロボロな子供の僕達が尋問とかするんだ? 受付のお姉さんもバッゲンさんも「ああいうタイプは君達みたいなのがよく効く」とか言ってたけどなんのことやら』

 ああ、来る。

 アタシの定義を木っ端みじんにする光が襲ってくる。

「さぁ、覚悟しなよ」

 バッゲンは笑い、

「圧倒的な諦めないが、君の世界を終わらせないぞ」

 アタシは世界を終わらせることを終わらせられた。

平成に間に合わなかった。。。

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