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アネモネの庭園  作者: アリア
9/13

09 本の虫



学力テストは二日間にかけて行われた。

あの後冬弥はヤマを張りあいに勉強を教えたがやはり限度があるらしく、冬弥が帰った後も徹夜で勉強し続ける羽目になってしまった。


当日あいはクマこそ無かったが目を真っ赤にさせて学校にやってきた。

化粧でクマはある程度誤魔化せるが流石に寝不足による目の充血は隠しきれなかったらしい。


「あい、だいぶ疲れているようだけど。」


テストが前日程終了し、帰る支度を皆始めている。

エルは前の席で未だに手元に残った問題をパラパラと捲る冬弥に話しかけた。


「全く勉強してなかったようだから詰め込んだのよ。

あの子地頭は良いのに勉強しないからいつも赤点とかなんだけれどもう二年生だししっかりしてもらわないとね。」


「まるで彼女の母親みたいだ。」


ニヤニヤと笑うエルを一瞥すると当夜は再び視線を手元に戻す。


「エルは余裕なのね。

あなたはイギリスでもとても成績が良かったと聞いたわ。飛び級とかは無かったの?」


「おや、珍しいね君からの質問は。」


冬弥は黙ったままバッグに問題を押し込むと帰る支度を始める。


「学ぶことは好きなんだけど授業とかそういうのが苦手なんだ。」


「サボり癖かしら?」


「まあそんなところとでも言っておくよ。

そんな大した話じゃない。歳だって君と同じ今年で17歳だし、学年は高等学校の二年生だ。」


既に教室の人はまばらになっている。

あいはそのまま机に突っ伏して寝始めてしまった。


エルは持ち主が帰ったあとの、冬弥の前の席に座ると冬弥の方を向いて跨って座る。

長い脚が少し窮屈そうに見えた。


「あれ、木下さん珍しいね。そのまま寝ちゃうだなんて余程疲れてたのかな。」


隣に黒田君もやってくると机の上に腰を下ろした。


「少し寝かせてあげることにするわ。」


帰る支度をしていたが再び冬弥も席に落ち着く。

そんなやり取りをしているうちに購買でお馴染みのこの4人以外皆帰ってしまっていた。


「冴木さんは今日バイトは無いの?」


「ええ。人が足りているらしくて急遽休みになったのよ。」


先ほど携帯を確認すると店長から今日は休んで良いとの連絡が入っていた。

その分もちろん稼げはしないがたまにはこういう急な休みも嬉しいものだ。


「そういえば冬弥はなんのアルバイトをしているんだい。」


「教えたことなかったかしら。駅の近くの本屋でバイトしてるの。」


「本当に本が好きなんだね。

君にぴったりだ。僕も本に囲まれてみたいよ。」


そう言ったエルは窓の外に視線を外した。

桜は散ってしまっていたがうららかな日が続いており気温は日に日に上がる一方だった。


「佐倉君も本が好きだって言っていたね。

そういえばうちの図書館にはむかし図書委員がいたんだよ。」


その話は冬弥も初耳であった。

たしかに今でこそ人の出入りが少ないため田中さん一人でも司書が務まるが全盛期は少し無理があっただろう。

どれくらいの規模の委員会だったかはわからないが図書委員という言葉はやはり委員会らしくて胸の中にストンと落ちるような感覚だった。


「僕も入りたいな、図書委員。」


それを聞いたエルは菫色の瞳を煌めかせて妖しく笑ってみせた。

彼がこういう笑い方をする時は決まってなにか企んでるいる時か思いついた時である。

それがわかってしまうぐらいにはすでに同じ刻を彼と過ごしていた。


冬弥は感情の起伏が乏しい。

昔から喜怒哀楽の感情を滅多に表に出さない子であった。

それに伴い彼女の周りの人間も限られた人になっていき、昔からの親しい友人と言えばあいだけである。

あまり人付き合いがうまいとは言えない自分に何故か付き纏うこの青年が冬弥は不思議でたまらなかった。


ずかずかと踏み込んで来るでもなく、かと言って全く無関心でもないらしい。

今でもその得体の知れなさが冬弥にとってはまるで答えのない問題をずっと解いているような気持ちにさせる。

答えは、無いのだ。


「今では図書委員なんて無くなっちゃってるからなあ、難しいとは思うけど...」


黒田君もこればかりはどうしようもないと困ったようにメガネを押し上げた。


「古賀先生に聞いてみるよ、ありがとう。」


彼はそう言って目を瞑った。








2ヶ月ぶりの更新となってしまいました、すみません汗


またコツコツと書いていけたらと思いますので長い目で見てやってくださいませ。

ここまで見ていただいてありがとうございました。

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