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アネモネの庭園  作者: アリア
8/13

08 ヤマは賭け



新学期が始まり、一番最初にやってくるイベントと言えば学力テストと体力テストである。


そもそもこの学校は学力順にクラスが編成されている訳では無い。

しかし定期テストとは別に去年やった範囲がどれだけできているかという学力テストが存在する。

定期テストほどではないが多少内申に影響するので、定期テストと同じように勉強する生徒が大半だった。


また、そのテスト期間が終了すると身体測定を含めた体力テストも行われる。

体育会系の生徒はこの体力テストを楽しみにしている者も少なくなかった。


この両方合わせたテスト期間は授業らしい授業が行われないため、青藍高校の生徒達はみな浮き足立っていた。











「とーーーやーーーー!!!!!どうしよう!!」


朝から騒がしく教室に入ってきたのはあいだった。

今日も綺麗に髪の毛を巻いているのにそんなに走ると崩れてしまわないのだろうか。


「そんなに騒いでどうしたの。」


とは聞いたものの冬弥には彼女がどんな案件を持ってきたのか大体予想がついた。


「ねえ!明日からだよ!!テスト~!」


やっぱり。

何も今日知らされたわけではあるまいに。

冬弥は再び机に向かった。


「ねえ、ひどくない?」


「ひどいも何もテストがあるなんて学年上がる前からわかっていたことじゃない。

あいのことだからまたろくに勉強していないんでしょう。」


あいは大人しくなるとコクリと頷いた。

ノートを走る手を止めると冬弥は長いため息をつく。


「私はほとんど勉強終わってるから、今日の放課後に勉強見てあげるわ。」


それを聞くとあいは勢いよく顔を上げ冬弥にそのまま抱きついた。

周りの生徒は少し驚いた様子でこちらを見ている。


「か!み!さ!ま!ありがとう冬弥ー!」


あいの屈託のない笑顔を向けられるとどうも弱い。自分でも思うがきっと甘やかしすぎだ。

上機嫌で自分の席へ戻っていくあいを見ていると周りの生徒達が声をかけているのが見えた。

あいは本当に友達が多い。

周りの生徒達と楽しそうに話しているのを見ているとこちらも温かな気持ちになれた。







「あ~もう帰りたい!お昼食べて帰りたいよ。」


「あと一時間で終わるから我慢しましょう。」


今日も晴れていたため冬弥とあいは屋上で昼食をとることにした。

屋上へ上がるとちらほらと他の生徒が見える、皆各々の話に花を咲かせているようだった。


「冬弥ってほんとにお弁当いつも美味しそう。

私も少しは料理できるようにならないとなー。」


あいは自分の髪の毛をくるくるといじりながら冬弥のお弁当を覗いている。


「たまにはまた遊びに来て。」


冬弥は少し微笑むとあいも照れくさそうに笑った。


「いつもそうやって笑っていて欲しいな。

気づいてないのかもしれないけど冬弥って本当に笑うと可愛いんだから!」


「そんなに怖い顔してるかしら。」


「美人は真顔してるだけでも近寄り難いの!!」


雲は穏やかに流れていた。





「とにかく今日しかまともに勉強できないのであればヤマを張るしかないわ。範囲は去年一年分だけあって基本的な簡単な問題しか出ないはずよ。」


「数学と日本史がやばいかもしれない...」


「じゃあもう他の教科はあいの基礎学力に頼って数学と日本史に重点を置きましょう。」


メモにざっと計画を書き出す。

もうすぐ午後の授業が始まろうとしていた。


「今日は...寝ない...」


「無理しない程度にね。」


お弁当を片付け荷物をまとめているとどこかで聞いたことのある鼻にかかった声が聞こえてきた。


「あれ~、冴木さんと木下さんじゃないですか~!」


振り返ると取り巻きを数人引き連れた柏木花蓮が可愛らしい笑顔を浮かべている。

二人とも特に興味が無いように花蓮たちを見やると痺れを切らしたように再び花蓮が口を開いた。


「明日から学力テストですね~!冴木さんはまた一位とか取っちゃうんでしょうか~」


「そうなるようにいつも努力はしてるわ。」


「またまた~!努力なんてしなくても冴木さんなら楽勝ですよー!」


はっきり言ってこういうやり取りは非常に疲れる。

だからなんだと言うのだろうか。

本当に興味が無いのか隣であいはメイクを直し始めている。


「木下さんも随分余裕なんですね~、今回は大丈夫なんですか?」


「まぁ大丈夫じゃないけど今日冬弥に勉強見てもらえることになったからね。

で、何か用?」


ビューラーで睫毛を整えると花蓮にニッコリと微笑むあい。

その圧力に花蓮は押し黙った。


「そろそろ授業始まるわよ。」


冬弥は立ち上がると乱れていた制服を直す。

花蓮と取り巻きたちも授業をさぼるつもりは無いのだろ、ゾロゾロと階段に向かって移動し始めた。

するとそういえば、と花蓮は足を止める。


「佐倉くんも相当頭が良いらしいですよ~!

負けないといいですね。」


それだけ言い残すと彼女達は去っていった。


「柏木花蓮、実は冬弥のこと好きなんじゃない?」


あいも立ち上がると怪訝そうに彼女達が去っていった方を見つめている。


花蓮は随分とエルにご執心だった。

どうも最近冬弥に突っかかって来ることが多い。



彼女の言う通り確かにエルは賢いようであった。

話し方や人との接し方、教養面などあらゆる方面から見ても彼と話していればどことなく窺い知ることができる。

ひどく大人びた印象を持つ冬弥でさえ、エルには計り知れない何かを持っているという印象を抱かせた。


「私には関係の無いことだわ。」


気づけば屋上には二人以外誰もいない。

冬弥とあいは花蓮たちを追うように階段を降りた。




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