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アネモネの庭園  作者: アリア
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03 美少女現る



「とーや!おはよう!」


下駄箱にローファーを入れようとしていた冬弥に思いっきり後ろから抱きついて来たのは幼なじみでもあり今年も同じクラスになった木下あいだった。


「あい、おはよう。危うく投げ飛ばしてしまうところだったわ。」


この声の持ち主があいで無ければもれなく条件反射で投げ飛ばしていたところである。

あいは今日も完璧に作り込んでいる顔を冬弥に向けた。


「え!冬弥には負けないぞ~!」


そう言いながら彼女はつけまつ毛が音をたてそうなほど瞬きをしてはガッツポーズをして見せる。

冬弥はやれやれと首を振った。


「おーい、もう予鈴鳴るぞ~。」


生活指導兼私達のクラスの担任でもある古賀先生が朝のチェックを終えて下駄箱へやって来る。

朝は弱いのかまだ半分ぐらいしか目が開いていないようだった。


「こがっちおはよー!今日も眠そうだね!」


「木下今日も化粧濃すぎるぞ~。肌がぴっちぴちなのは若い頃だ...」


「なあに?こがっち。」


古賀先生の前であいはキラキラとした笑顔を向けて見せる。しかしなんとなく黒いもの混ざっていた。

あいは一見派手な女子高生だが、その明るい性格と化粧は濃いが可愛い顔立ちは周りの生徒に人気があるらしかった。

そしてそのハッキリすぎる物言いも。


「ほどほどにな...。冴木からもよく言っておいてくれ。」


「はい先生。」


古賀先生は口元をへにゃとゆがめる。


「木下も少しは冴木を見習ってくれ。ほら教室へ...」


古賀先生がみなまで言う前に鬼のような形相で走り寄ってきた十数人の女生徒があっという間に先生を取り囲んでしまった。


「なっ!?」


冬弥もあいもその様子をただただ呆然と見つめていると、その囲みの中にいた可愛らしい雰囲気の女の子が声を上げた。


「せんせー!!転校生、なんでうちのクラスじゃないんですかぁ!!あんなにイケメンだなんて聞いてませんよぉ!!」


そーよそーよ、と周りの女の子たちも抗議を始め出す始末。

あいが可哀想にと首を振った。

たぶん可哀想なのは先生の方だと思いたい。

不思議そうに冬弥が首をかしげていると小声で色々と教えてくれた。


「あの子は学校一モテるって有名な同じ2年生の柏木花蓮。男子の前では虫も殺しませんみたいな顔してるけど相当なやり手らしいよ~。」


「確かに可愛いものね。」


普通に返したつもりだったが何故かあいはきょとんとした表情だった。

亜麻色の髪とはまさにこんな色なんだろう、地毛でも明るい綺麗な髪を緩く巻いている。

くりんとした目は大きく、各パーツがバランスよくその小さな顔に収まっていてその背丈も相まって守って上げたくなるような雰囲気を醸し出していた。


「冬弥のそういうとこ、好きだ~。」


あいは頭を抱えて嘆き始めたがそれを気にもとめずそう言えば、と昨日のことを思い出した。


図書館にいた異国のおもかげを持った見た目麗しい謎の青年。

彼のことか、と冬弥は納得した。

この女子の反応を見るともう登校してきているのだろうか、これからとても騒がしくなりそうだった。


「そりゃ仕方ないだろ~。全体の人数でうちのクラスが一番少なかったんだから。

ほらほら教室に戻りなさい。」


古賀先生は参った様子でポリポリと頭をかいた。

周りの女子はそれでもなお引き下がらないため、それを見ていた生徒も見物で集まってくる。


「はやいとこ行きましょう。もう本鈴が鳴ってしまうわ。」


予鈴はとうに鳴っていた。

冬弥は踵を返しあいに声をかけ、その場を離れた。


否、離れようとしたつもりだった。


「あ、冴木!昨日で知ってるかもしれないがアイツはお前の後ろの席だから色々と教えてやってくれ!」


あたりは水をうったかのように静まり返った。

なんという爆弾を投下したのだこの先生は。

冬弥がじと目をくれてやると先生は気まずそうに視線をそらした。

確信犯か...。

おかげで冬弥は柏木花蓮とその取り巻き、外野までもの視線を一身に集めてしまった。


「へぇ、あの冴木さんと同じクラスなんですねぇ。天才さんと同じクラスなら転校生も安心ですね!」


花蓮は花のような笑顔を冬弥に向けた。

外野の男子からは「やっぱり花蓮ちゃんは優しいなぁ」なんていう声も聞こえてくる。

このあからさまな嫌味に気づかないだなんておめでたい頭をしているんだろう。


「困ります先生。学級委員に頼んでください。」


「なぁんにも困ることないじゃないですかぁ!

文武両道容姿端麗を兼ね備えた冴木冬弥さんにぴったりですぅ!」


これはこれは、凄まじい。

周りの外野からは謎の拍手さえ起こった。

そうね、冴木さんならね、と。


「花蓮ちゃんうちの冬弥をそんなに褒めてくれるなんて嬉しい!私もそう思うの!!」


あいは突然花蓮に駆け寄るとぎゅっと手を握った。


「キャンキャン五月蝿いよ、チワワちゃん。」


「そのケバケバしい顔を寄せないでくださぁい。」


二人は周りの外野に聞こえないように笑顔で牽制し合っている。

もちろん私と取り巻きには聞こえてためこの場の空気は限界に達していた。


その時、天国からの鐘のような本鈴が鳴り響く。

古賀先生は助かったと言わんばかりに声を張り上げた。


「本鈴鳴っちまっただろ!お前達とっとと教室に行きなさい!!」


外野は散り散りに各々の教室へと走っていき、冬弥もあいも颯爽と階段を駆け上がっていった。


後ろで花蓮と取り巻きがぜぇはぁ言いながら階段を駆け上がっていたが知ったことではないのだ。



今日は騒がしくなりそうだと冬弥は顔色を少し悪くした。



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