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アネモネの庭園  作者: アリア
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01 学ランは似合わない

この高校の図書館には幽霊が出る。



どの学校にもある七不思議のひとつで、それでもこの広大で豊富な蔵書を誇る図書館に近づくものは少なかった。



新学期のため、まだ授業はまだしばらく午前中しかない。

嬉しい限りである。

冬弥はそんなことを考えながら昼下がりの図書館へと足を運んだ。




県立青藍高校。

偏差値を少しだけ平均を上回るこの高校は、緑豊かな郊外にある。

繁華街からは少し遠いが、駅も近く閑静な土地にあることから人気のある高校だ。

創立当初から建てられている別棟として造った、高校の図書館にしては立派すぎる図書館が以前までのこの学校の売りだった。

しかしいつからか幽霊が出る、なんていうデタラメな噂が蔓延ってしまい今ではテスト前や授業で使う以外に訪れる生徒はめっきり減ってしまった。


「もったいない...」


そう冬弥はひとりごちに呟いた。

広くて蔵書も富んでいる。

建物がボロボロで汚いというわけでもなく、歴史を感じる素晴らしいものだ。


中学生の時に訪れた高校見学のことをふと思い出した。

初めてこの学校を訪れ、図書館に足を踏み入れた時のあの感動は今でも忘れられない。

この場所のためにこの青藍高校を選んだのだから。


そんな図書館は冬弥の居場所のひとつでもあった。

幽霊だなんてひどい話である。

冬弥は週に何回も足を運んでいるがそんなものは一回だって見たことがない。

いるのは図書館司書を務めてくれている田中さんと、テスト前のごく少人数の生徒ぐらいだった。


売りであった図書館の人気が落ち込んで取り壊されないか心配していたがその心配は無用だと田中さんは笑って話してくれていた。



そんなことを思い出しているといつの間にか図書館の前にいた。

重厚なドアに手をかける。

ギギギという音とともになんとも言えないにおいがする。

紙のにおい、埃っぽいにおい、お日様のにおい。

どれも嫌いではない、いつしか冬弥を安心させてくれるものとなった。

扉をくぐるといつもの風景が見えてきた。

壁を埋めるようにして立つ本棚。一階にも本棚が並べられていて、吹き抜けのようになっている二階も同様だった。

その手前には読書用のテーブルが並んでおり、今は人影は無い。

そして大きな天窓。

四月の昼下がり、空は晴れ晴れとしており雲が霞むように浮かんでいた。

桜の花びらが窓に張り付いているのが見える。


「もう桜の季節も終わってしまうわねぇ。」


振り返ると司書をしてくれている田中さんが立っていた。

田中さんはもう何年も青藍高校の図書館司書を担ってくれている方で、すでに還暦を迎えている方だった。

一体どうやったらこの広い図書館の司書を一人で務めあげているのかが七不思議になってもいいと思うのだが、司書は彼女一人だけだった。


「こんにちは、田中さん。」


「こんにちわぁ、今日も新学期始まったばっかりだっていうのに偉いわねぇ。」


「春休み来れなかったので今日はどうしても行きたかったんです。」


冬弥はニコリと微笑んだ。

春休みはアルバイトに勤しんでいたので図書館に来ることは叶わなかった。

本当に今日を楽しみにしていたのだ。


「確かに冬弥ちゃんは見かけなかったわね。

しばらく見なかったから心配してたのよ。

元気そうで良かったわ、ゆっくりしていってね。」


田中さんはそう笑うと職員室に用があると言って出て行ってしまった。

しんとした空間が再び戻ってくる。

外では運動部の部活の声が遠く聞こえていた。


天窓からはまだ春の柔らかい陽の光が差し込んでいる。

この空間が冬弥にとってなによりも落ち着くものだった。


今日は春休み前に借りていた本を返しに来た。

ついでに気になっていた本も借りていこう。

冬弥は持っていた本を返却口には返さず直接カウンターへ持っていき、自分で返却手続きを始める。

もう慣れたものだ。

よく来るから、と田中さんはここのスペアの鍵も貸してくれていた。

本当はいけないことのようだ。


元の場所に戻そうと二階へ続く階段を上がっていく。



ふと先ほどの会話が蘇った。

田中さんは私のことは見かけなかったと言っていた。

わたしのこと、は。

春休みだというのに他に誰かここに通っていた者がいたのだろうか。

一体だれが...?


そんなことはどうでもいい。

この図書館は私だけのものではないのだから。



すると二階の奥からばさっという音が響いた。

バスタオルを干す時のようなそんな音だ。

けしからん、誰かが何かを干そうとしているのだろうか。湿気は厳禁である。

音は本棚の奥からした。


「ちょっとあなた...」


本棚からぬっと顔を出しながら注意をしようと思った冬弥の言葉は、眼前の景色を前に消えて無くなってしまった。


天使が、いる。


日本人離れした顔立ちにあるのは生まれて初めて見る薄紫色の瞳。

色素の薄い茶色の髪の上にあるのは宙に浮く光の輪である。

そして背中にはーーーーーーーー


「羽...?」


羽を携えた彼は恐ろしくその格好に似合わない学ランを着ていた。



初めての投稿です。

至らないところたくさんあるかと思いますが少しでもみなさまの記憶に残るようなそんなお話がかけたらなと思います。

よろしくお願い致します。


アリア

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