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5話 赤の国『クリムヴィル』 4

 上の戦況が気になる。正直今すぐにでも戻ってリヴァの手助けをしてやりたい。……いや俺が行ったところで邪魔なんだろうけど。

 だが今はそれどころではない。

 右腕から離れない少女と共に城の廊下を歩いていく。時折立ち止まっては「ここが食堂よ」とか説明されるが、覚えた所で今後来ることは無い、というか来たところで殺されるだろうから殆ど聞いていない。意識はどうしても最上階で繰り広げられているであろう戦闘のほうに引っ張られてしまう。


「ねぇ、あなたは何故黒い髪をしているの?」

 唐突に予想していなかった質問をされ慌てて右腕を掴む少女、確かセシルと呼ばれていた娘の方を見る。

「俺の故郷ではこれが普通だった。むしろ赤い髪のほうが希少だったな」

「黒い髪ばかりって地味ね」

「他には金と茶色は居たかな……稀に紫とか青とかもいたけど」

「茶色は見たことないわ」

 そういえば、こちらの世界は赤、青、黄、緑、紫の五色が存在しているんだっけか。……だとしたら、俺もリヴァも異質なんじゃなかろうか。

「もしかして、俺達って変な人扱いされてる?」

「そうね、貴方達は二人とも凄く変だわ」

 リヴァと同レベルの変人扱いされてた。なんと心外な。

「でも、だからこそ、面白いのよ。普通じゃないって素敵じゃない?」

「君からも普通じゃない雰囲気がすげぇするんだけど」

「王族だからかしら」

「そうかもな。超強そう」

「女性に強そうなんて、デリカシーのない人ね」

 言葉とは裏腹に凄く嬉しそうな顔をしている。言動は大人びていても中身は外見通り子供らしい。可愛いとか言ったら怒るんだろうか。

「……今、子供っぽいとか思った?」

「いや全然」

 なに、心の中でも読めるのかよ。


ーーー・ーーー


 一方最上階。

 明らかに下位魔法とはかけ離れた魔法同士の衝突は相殺するだけにとどまらず、屋根を吹き飛ばし壁もほぼ全壊させた。


「……セシルの説教は確定だな」

 それを見ながら呟く赤髪の王。そこからは既に勝敗が決しているかのような余裕が感じられる。

「説教で済めばいいでしょうけど」

 しかしそれは今までの経験を踏まえてのものであり

「しぶといな」

「あなたの魔法の威力が弱いんじゃないかしら?」

 未知の敵に通用するとは限らない。

「終わりにしましょう。あなたの底はもう見えた」


『ルフト』


 呟かれたのは下位魔法。

 だが、それで充分。

 リヴァによって放たれた不可視の刃は一般の下位魔法とはかけ離れた威力で赤髪の王に直撃し、その衣服をズタズタに切り裂く。が、それに留まりその身体に傷がつくことはなかった。

 お互い数秒動きを止めにらみ合っていたが、赤髪の王の大きなため息とともに均衡は解かれた。それは己が対峙する敵に敵わないことを悟ったため息だった。それを察したリヴァも臨戦態勢を解く。


「……要件を聞こう」

「あら、死なないのね」

「これで死ぬようなら王なぞには成れぬ」

「そうね、仰る通りだわ。……少し、お話をしましょうか」


ーーー・ーーー


「ここが私のお部屋」

 お城案内もそろそろ終盤に差し掛かっている。色々な部屋を紹介されたたがあまり興味もないためサラッと流してここまで来てしまった。

「君と最初にあった部屋ではないんだね」

「あんな部屋と一緒にしないで欲しいわ。あと私はセシルというの。君という名前じゃないわ」

 似たようなやり取りをごく最近交わした気がする。

 少女が、もといセシルが頬を膨らませながら扉を開く。そこには大きなベッド、シャンデリア、鏡台などthe・お嬢様な部屋が広がっていた。

「凄いな……」

「でしょう?」

 ふふんと自慢げに鼻を鳴らし扉を閉じる。

「次はお庭に行きましょ」

「いいけど……なんか揺れが凄くね?」

 上で闘っている二人が何かしたのだろうか、城全体が激しい揺れに襲われている。おお怖い怖い。

「そうね……お父様、暴れ過ぎていないといいのだけれど」

「どうする?戻る?」

 少女は問いかけにしばしば黙って考えた後、「まだ大丈夫でしょう」と腕を引っ張ってきた。

「さぁ、早くお庭へ行きましょう?」

「あ、うん」

 正門から出て中庭に到着した。


 瞬間。


 城の最上階が崩壊した。

『……え?』

 二人の声が重なった。


ーーー・ーーー


「……なるほど、な。つまり貴様は」

「えぇ。説明の通りよ」

「何故、それを我に話した」

「私の住処が偶然あなたの領地だったから。そしてもう一つは」


 一度言葉を切り、その目を見据えて続ける。

「あなたがこの世界で最も強い王だから、かしらね」

「ふは……これだけ力の差を見せつけられた後ではその言葉もイヤミにしか聞こえんな」

「えぇ。王の中ではという意味だもの」

 相変わらずの口調だが、今ではそれに怒りを覚えることは無い。この少女は、嘘をついていないだろうから。自身がその身をもって体感し、それを事実であると認めているから。

「いいだろういいだろう。貴様の申し出を受けようではないか」

「助かるわ。じゃあ、お城は治して行くから後は頼んだわ」

 そう継げると白髪の少女はその場から姿を消した。


ーーー・ーーー


「おい、城がぶっ壊れたぞ?あいつら何やってんだよ」

「お城が……しかも、あれはお父様によるものじゃない……」

 気づくと隣に立っていたはずのセシルは右腕から手を離し呆然と崩壊した最上階に視点を固定している。いきなり自分の家の一部が崩壊し、それに家族が巻き込まれたかもしれないとなれば俺でもこうなってしまうだろう。かける言葉も見当たらず、ブランと下げられた手を取るくらいのことしかできなかった。


 数秒後、城は元に戻った。


『……え?』


 二人の声が重なった。

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