4話 赤の国『クリムヴィル』 3
「来い、童。貴様の全てを見せてみろ」
「えぇ。さっさと用を済まさせて貰うわ」
赤髪の大男、恐らく王であろうその人物の周囲には炎球が浮遊している。大きさはばらつきがあり、ビー玉くらいのものからバランスボールくらいの大きさのものまである。
対するリヴァは一見何もしていないように見えるが、時折その姿が歪んで見えることから何かしら対策は施してあるらしい。
両者、一歩も動かずただただ睨み合う。
何このガチガチのバトル展開。俺この場に必要なのだろうか。連れてこられた意味……。
「お父様。ちょっと待って」
均衡を破ったのはリヴァでも、それに対する王でもなく、
「君はさっきの……」
先程ワープした先の小部屋で出会った女の子だった。
「セシル……何のつもりだ」
「私暇なの。この人達に遊んで欲しいの。それに、折角兵達の追跡を掻い潜って来てくれたんだもの、炭にしてしまうのは勿体ないわ」
物騒だなおい。
「だが……」
「じゃあこの黒い人だけでいいから」
……は?
気づくと右腕をガッチリと掴まれている。
「……元々喧嘩をふっかけてきたのはこの白髪だ。よい、黒いのはくれてやる」
『ルフト』
リヴァの放った認識出来ない何かが赤の王の周りを周遊していた炎球のいくつかを撃ち抜き破壊した。
「私の名前は白髪ではないわ脳筋赤ゴリラ」
「いい度胸だ白髪モヤシ」
口調は淡々としているが表情が本気だ。この雰囲気はあれだ、無表情のまま淡々とした口調でブチ切れる国語教師のそれだ。
「お父様、お城は壊さないでね。……さぁ行きましょ、お城を案内してあげる」
腕を引かれ部屋を出る。
その直後激しい爆発音が背後から聞こえてきたが、振り返ろうとした瞬間腕を掴む力が強められた。
「あなたは今私の物なの。それ以外に興味を示す必要は無いわ」
「……はい」
ダメだ、逆らったらタダでは済まない。本能と右腕の痛みがそう告げてくる。
ーーー・ーーー
「これで終わりなどではなかろうな?」
「あれぐらいでダメージになると思っているの?なんておめでたい頭かしら」
先程までリヴァが立っていた床は赤の王によって放たれた魔法によって巨大な穴へと変貌していた。
しかしリヴァは既に別の位置へワープしその攻撃を回避している。
「その減らず口もいつまで叩けるか見ものだな」
『ルフト』
『ヴォルク』
二人の放った下位魔法が錯綜し、巨大な爆発と共に相殺した。
「貴様のそれは何なのだ。新勢力なのはほぼ確実だが」
「詳しい事は言えないけれど、私は新勢力なんて安い物ではないわ。そうね、空特化とだけ言っておこうかしら」
「……大方察しがついた。さて、ケリをつけよう」
「私はあなたとお話をしに来ただけで別に喧嘩しに来たわけではないのだけれど……白髪と呼ばれた分をお返ししなければね」
『アルバ・ヴォルク』
『ラファ・ルフト』
煌々と煌めく巨大な炎球
風切り音のみの見えない刃
明らかに先程とは桁外れな威力の魔法が放たれた。