3話 赤の国『クリムヴィル』 2
数分前、こいつが俺に話してきたのは「城内に忍び込んで王様に会いに行く」とかいう内容のものだった。
まず忍び込むと言っている時点でダメだろう。
そう思ったし止めようともした。が、気づいた時には既に城の中らしき場所に立っていた。 また隣でドヤっているリヴァが何かしやがったのだろう。俺の意見とか、完全無視である。
「侵入者ぁぁぁぁ!」
そんな叫び声が聞こえたのは、それから数秒も経たない内だった。ここの警備兵は優秀だなおい。
とか言ってる場合じゃない。普通ならなすすべなく捕まるかもしれないが、リヴァはワープ的な何かが使えるらしいし何とかなるだろ。
「おい、早くワープ」
「それなりに準備時間が無いと、あれは出来ないのよ」
肝心な時に使えねぇなこいつ。
結局、
「お前って馬鹿だよな。俺が知っている人の中でダントツだ」
「私のおかげで捕まらずに済んでいるのだから、少しは感謝の言葉を述べてもいいと思うのだけれど」
「捕まりそうになった原因を作ったのもお前だろうが!」
走るしかなかった。背後からは大勢の足音が迫ってきている。
『ヴォルク!』
なんか背後の集団からよく分からん単語が聞こえた。何かの合言葉かなにか……
俺の頬を何かがかすった。標的から外れたそれは少し先の通路に落下し火柱を創り出す。
おーおーよく燃えとる。
じゃねぇよ。
「……おいおいおいおい何だ今の!?」
「赤の勢力は火属性の魔法を使うのよ。あれは下位魔法ね」
あれで下位かよ!
「逃がすな!我々赤の本拠地地に立った二人で侵入してきた無謀な蛮族をひっとらえろ!」
追手の先頭を走る青年が吼えた。多分あれがリーダー格なんだろうな。
「ヴォルク」「ヴォルク」「ヴォルク」「ヴォルク」「ヴォルク」
ゲシュタルト崩壊しそうな程連続で魔法が唱えられ炎弾が打ち込まれてくる。が、それらは俺たちの周りの床に着弾するだけで俺たち自身に当たることは無さそうである。まるで、どこかに誘導しようとしているような……。
廊下の角を曲がると、すぐ先にガチガチの装備に身を包んだ兵士達が待ち構えていた。これはシンプルにまずい。
「リヴァ、いけるか?」
「いいわ。掴まって」
準備できたらしいリヴァが右手を差し出してくる。
まるで何度もこなしてきたかのような、流れるような動きで差し出された手を取る。
目の前の景色が変わる。
そこは扉一つと窓が一箇所、本棚一つといった小さな部屋の中。
「あら。そちらから来てくれるなんて」
そこには既に、微笑を浮かべる先客がいた。
「座ってくれて構わないわ」
その先客は赤い髪をした少女だった。それだけなのだが、他の人達とは違う何かを感じる。
「……君は俺達の事を衛兵的な奴らに報告しないのか?」
「えぇ。むしろ歓迎するわ」
なんだこの女の子、超余裕そうだな。こういう態度からは強キャラ臭がプンプンする。
「私達、赤の勢力の王様に会いに来たのだけれど……何処にいるか知らない?」
リヴァも少女の背丈に合わせ、しゃがんで話しかける。そういう所はちゃんとしているらしい。俺にもそういう風に接してくれや。
「お父様なら一番上の階よ」
「そう、ありがと。助かったわ」
やるべき事は決まった。まずは上に行くべき階段を探さなくては。
「リヴァ。そこまでワープは?」
「あれはワープなんて安いものじゃ無いの。それにまだ準備時間が足りていないわ」
本当に重要な所で役に立たねぇなこいつ。
「部屋の中は見つかったとき逃げ場が無くなるし、さっさとここから移動するわよ」
「そうだな。それじゃ、ありがとな。無事に生きて帰れたらいつかまたお礼しに来る!」
矢継ぎ早にそう告げ、リヴァと二人その部屋を出る。
「え、気づかないの……?」
残された少女は呆然とした様子で一人部屋に取り残された。
ーーー・ーーー
「おい、さっきの『お父様』発言には触れるべきだったか?」
「いえ、早めに事を済ませないと捕まる確率も上がるし良かったんじゃないかしら。というか、聞いていたら絶対面倒なことになっていたわ」
同意見。あの子には悪いが面倒事はご勘弁だ。
「発見したぞぁぁぁぁぁ!」
その一言を聞いた瞬間、その声の主の姿も確認せずに走り出す。
背中を高熱の何かがかすった。完全に殺しにかかってきてやがる。いや、急に侵入者が現れたらこうなるものなのかも。
「リヴァ。ワープ」
「だからワープじゃないって……まぁいいわ。あと2、3分で準備出来るから、時間稼ぎを頼むわ」
「何言ってんだお前。俺何も出来ねぇけど。超無力!」
「胸を張って言えるセリフじゃないと思うわ。……それに大丈夫よ。あなたはこの世界に来た時点で無力ではないから」
「お前何言って……」
『ヴォルク』
追ってが例の魔法を放ってきた。あダメだこれ、避けられない死ぬ。
完全に俺達の進行ルートを予測されて放たれたそれは、着実にこちらとの距離を縮め今更避けられないであろうところまで迫ってきた。
だめだ避けられない。覚悟を決め目をそらす。
しかし、俺達目掛けて放たれたそれは大きく軌道を変え廊下の壁を撃ち抜き火柱を上げるだけだった。
「……ここの奴らはノーコンしか居ねぇのか?」
「違うわ。あなたの力よ」
おいおい何だその展開すげぇテンション上がるなおい。異世界来たら能力に目覚めるとか誰もが一度は想像する事じゃなかろうか。いずれはこの世界を救う使命を背負うのかもしれない。夢が膨らむ。今のうちにイキリ文章とか考えておくべきか。
『ヴォルク!ヴォルク!ヴォォォォォルクゥゥゥゥッ!』
あほなことを考えている暇はなかった。
追手の方も意地になって撃ちまくってくるが全然当たりそうにない。なんか可哀想になってくる。だからって俺自身どうなっているのか分からないんだからどうしようもないが。
「おい。可哀想だから早めに気絶させてやれ」
「そうね。不憫過ぎて見ていられないわ」
「好き放題言ってくれる……。いいだろう、俺のプライドにかけて必ずお前を『ルフト』ぐふぁぁぁぁぁぁ!」
追手が言い切る前にリヴァの放った魔法で吹き飛んだ。なんだ今の。何も見えなかったが、空気砲みたいなものだろうか。
「ごめんなさいね。あなたみたいなモブキャラに構っている暇はないの」
「最後まで哀しい奴だったな……。リヴァ、準備出来たか?」
「大丈夫よ。一気に一番上まで飛ぶわ」
再び差し出されたリヴァの手を取る。
ーーー・ーーー
「よくぞ来た。ここまで来るとは見上げたものだ」
「御託はいいわ。お話しにきたの。時間あるかしら?」
「はっ、いい根性だ。……白髪風情が調子に乗りおって。かかってこい。我を倒した暁にはどんな申し出も受けようぞ」
「いまの言葉、忘れない事ね」
着いた瞬間これだ。