2話 赤の国『クリムヴィル』1
「確かに私にも非があるわ。それは認める。けれど、いきなり襲いかかってくることはないんじゃないかしら」
「あぁ、うん。飛びかかったのは悪かった。……いやお前にしか非はないんだけどな?」
白髪の彼女は先ほどからタンスやクローゼットを覗き込んではごそごそとやっている。見た感じ、外出の準備をしているようだ。
しかし、先程はキレて飛びかかったはいいがここが俺の元居た世界ではないことを忘れていた。その体に拳が触れる直前、俺は飛びかかる前の場所に立っていた。未だ理解出来ていないが、そうとしか説明のしようがない。時を止めるスタ○ドでも宿しているんだろうか。
どうやらこの世界では、俺の中の常識は通用しないらしい。
「これから外へ出るのだけれど、一緒に来てくれないかしら」
「それでさっきからごそごそとやっててんだな白髪」
「さっきから白髪白髪と呼ぶけれど、私にはリヴァって名前があるの」
「いや知らねぇし。お前一度も名乗ってねぇし」
「そ。じゃあこれからはそう呼んで」
どこまで自分勝手なんだろうか。だがまぁ、今のところはこいつに付いていくしかない。こんな部屋に閉じこもっていても何も始まらない。
「……付いてくよ」
「意外ね。まさか直ぐに承諾してくれるなんて」
俺の答えを聞くや否や、俺の手を取り
気づくと見知らぬ街の中にいた。
「……え?」
「どう?少しは尊敬したかしら」
隣にはドヤ顔の白髪、もといリヴァが立っていた。
ーーー・ーーー
「まずはこの世界について知ってもらうわ」
「その前に、まずこれはなんだ?」
到着後すぐに着させられたローブの端を摘む。頭まですっぽりとフードに覆われていて少し暑い。リヴァも同じような物を身につけているようだ。
「それは後で説明。まずはここ、クリムヴィルについて」
質問は無視か。
それになんだその名前は。
カッコイイな。
「ここは『赤』の勢力が治めている国よ」
「質問」
「どうぞ」
「赤の勢力って何?他にも色々いるような言い回しだなそれ」
「他には青、黄、緑、紫それぞれの勢力が散らばって存在しているわ。まぁ、それはおいおい」
さっきから俺の質問を後回しにし過ぎじゃねこいつ。
「私の家もこの国の勢力圏内だから、ここには度々足を運ぶことになると思うし覚えておくことね」
「なんでお前ちょっと上から目線なの?そういう話し方しか出来ねぇの?」
「こういう話し方しか出来ないのよ」
おぉう、予想外の返答だった。
それはいいとして、この場所は覚えておいた方がいいだろう。この世界についてはまだないも知らないし、こいつの言うことを聞いておいて損は無いはずだ。
「それでね。これからしようと思っていることなのだけれど」
そう前置きされて話された内容は、この世界の初心者な俺ですらわかるほど無謀でアホなものだった。
ーーー・ーーー
「ねぇアルフ」
小さな部屋の中。赤髪の少女は足をバタバタさせながら不満そうな顔で使用人の名前を呼ぶ。
「なにか?」
同じく赤い髪をしている、アルフと呼ばれた男性は本を読む手を止め主に視線を向ける。
「暇よ」
「と、言われてましても。僕などではお嬢様と組み手しても十秒と持ちそうにありません」
「何故、組み手することが前提なの?私がそんなに好戦的に見える?」
「えぇ」
「あと、女の子に負けるなんて男の子失格よ」
「僕はもう男の子なんて年齢ではありませんが」
「知らないわ、そんなの」
と、その部屋に一つしかない扉が勢いよく開かれた。その先には息を切らしたメイドが。
「……お嬢様、少しお待ちを」
その様子から只事ではないと察したアルフは手に持っていた本を机の上に置き、一言だけど告げるとメイドと共に部屋を出て行った。
「新戦力を名乗る者が正面から攻めてきました」
「……敵員は」
「二名。白と黒です」
「たった二名……!?」
この世界では、今年新たな勢力が生まれるであろうことをほぼ全ての人が知っている。
そして、それを利用し自分達に領地を与えろ等といった要求をしてくる者達がそれなりの数出てきた。
今までも数多くの偽新戦力を追い返してきたが、二名だけというのは前例がない。
「舐められたものだ……たった二人で、我々をどうにかできると思っているのだろうか」
アルフと呼ばれていた青年の目が紅く輝き始める。
「いい暇つぶしが来てくれたわ」
対して部屋に残された少女は心底愉快そうに呟き、クスリと笑った。