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9話 紫の国『ヴィオプラ』3

「何処にいるの、紫王しおう

 空間のゆがんだ紫の国で最も栄えている(はずの)町の中心に位置する広場に降り立ったセシルはあたりを見回す。何度か父親の付き添いで訪れ目にしていたはずの景色全てが否定されるような有様な街並みを見渡すが、自分を呼んだはずの紫の王の姿は何処にも見当たらない。

「まさかもう死んだんじゃないでしょうね」

「不吉なこと言わないでくださいよ」

「あら、生きてた」

 相変わらずその姿は確認できないが、声は確かにセシルの耳に届いた。紫の勢力は隠密特価とされており、他人の前では基本被り物等で素顔を隠すのが風習となっているのだが、紫の王は顔どころか姿すら人前にあらわさない。セシルの父にして赤の王であるイクズィ王ですら面と向かい合って話をしたのはわずかに一度のみである。

 ちなみに、セシルは顔を隠す風習の必要性について何度も紫の国の住人に問い詰めては逃げられてもやもやさせられているため紫の国に対してはいいイメージはない。

「生きてたとはこれまた冷たい反応ですね。まるで青の王の側近メイドが放つ言葉の刃のよう!」

「無駄口たたいていないで状況を教えて。私は別に貴方の国を助けるために一人で出てきたんじゃないの」

「言われてみれば、おひとりで赤の領地外へ出ているのは珍しいですね。家出でございますか」

「家出ではないわ。しいて言えば……修行?」

「貴方たち戦闘狂を理解しようとした私が愚かでございました」

 それはさておき、と咳ばらいをひとつして話を続ける。

「今の状況ですが、町の有様をご覧になっていただければわかると思いますがほぼ壊滅させられました」

「なにがあったらこうなるのかしら。街中で魔法でも暴発した?」

「まさか!……まぁ、そのほうがまだ面目も保てたかもしれませんが」

「というと?」

「……白髪の侵入者たった一人にここまでやられたと他の勢力に知られたら、どうなるでしょうね」

 紫の王の声は先ほどまでの調子とは打って変わり、落ち込んでいるのが声だけでもわかるほどだった。もしも先日、あの侵入者二人組と出会う前のセシルだったなら、この場でそれを鼻で笑って紫の王を嘲笑っていたかもしれないが、今はそんなこと不可能だ。つい先程、この世で最も強大な力を持っているといわれている父親があっさりと倒され、白髪の彼女の力を目撃していたから。きっとこの国も彼女によってここまでの被害を受けたのだろう。自分たちの被害と比べると、少しやりすぎだとは思うが。

 ここで、自分たちも同じ目に、なんて言ってしまっては赤の勢力の面目すらともにつぶしてしまうかもしれない。セシルの頭にはもっとも効率が良くすべてがうまくいく展開がすでに一つ浮かんでいた。

「……ねぇ。もしこの有様を私の心のうちにしまっておいてお父様に伝えないと約束したら、この元凶となった白髪の人を見逃してあげられないかしら」

「何ですかその条件は。セシル様にとっては何のメリットもないじゃぁありませんか」

「いいのよ。これだけ町をぐちゃぐちゃにしたってことはかなり強いじゃない?私の修行の初戦にうってつけだわ」

 もしこの条件が通れば、紫の王にもあの白髪の少女にも貸しを一つ作ることになる。しかも自分自身があの少女にどれほど通用するのか、確かめられるのだ。やはりセシルも赤の国の、それも王族の一人である。そのうちに宿している闘争心は計り知れない。

 しかも、

「……わかりました。お願いしてもいいですか?」

 紫の王は、この条件をのむしかないのだ。彼の力では白髪の侵入者を止められないことは周囲の様子を見れば一目瞭然である。

「あ、手出しは無用よ。貴方の援護をもらえば負ける戦いも勝ててしまうから」

「なんですかその常人とは真逆の発想。いやまぁ褒められたってことにしときましょう。私も緑の領地に避難することにしますが……、もし命の危険を感じたらすぐに最大魔力で空に魔法を放ってください。感知してすぐに緑の王と共に駆け付けますので」

「あら、二人の王が来てくれるなんて心強いわ」

「こちとら、自国で娘が死んだと聞かれたら赤の国に滅ぼされてしまうので」

 紫の王は最後に、まぁ既に滅びかけてるんですけどね、と自嘲しその気配を完全に消した。つまり、あとはお好きにどうぞという合図であり。


「……貴方はお呼びではないの」

「予定とはかけ離れた再開の仕方だけれど、私は貴方たちと外の世界を見て回ると決めたの。まずは頭を冷やしてもらうわね」

 敵が近いという合図でもあった。

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