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そこは普通の国でした

 気付いたら船に乗せられていためぐみだったが――今は、無事にアルバディスト大陸へ到着していた。

 予想していたよりも海は穏やかで、揺れもなく、船酔いになることはなかった。


「やぁ……。これはちょっと、想像してなかったなぁ」

『なんだよ』


 めぐみの前には、うさちゃん人形となったメデュノア。そしてセドリック。

 こくりとジュースを飲み干して、脱力する。


 魔大陸と呼ばれているアルバディスト大陸は――普通の国でした。

 てっきり魔物しかいないような恐怖大陸を想像していたため、人が普通に暮らしていることに驚いた。村ではなくて、普通に立派な街があった。


 船が着いた港は、街などなく森ではあったのだが――そこを抜けると、普通の国だった。

 森の魔物がとても強いため、人間は魔族の住む場所までたどり着けないことが多いとは聞いた。そのため、この大陸に住む人々、魔族という人種はとても強く戦闘面でも優れているのだ。


「しかし、メデュノアは可愛いですねぇ」

『なんだお前、喧嘩売ってんのか?』

「違いますよ」


 あははと笑いながら、セドリックはうさちゃん人形のメデュノアをつっついて遊んでいる。


「そのお人形、すっごくもふもふだから私のお気に入りなんです」

「確かにいい肌触りだよねぇ」

『ええい、触るな阿呆!』


 むにむにとほっぺたやら耳を触られて、メデュノアは逃げるようにめぐみのところへやってくる。

 もはや定位置となってしまっている彼女の膝に落ち着いて、ぎろりとセドリックを睨む。「怖いですねぇ」と笑われて、しかし不愉快なのだから仕方がない。


「まぁまぁ。セドリックさんだって、もふもふが好きなんだよ」

「そうですよ」

『あのなぁ……』


 そんなに起こらないようにめぐみが言えば、ここぞとばかりにセドリックがのっかってくる。呆れながらメデュノアは、『男に触られるなんて気持ち悪いだけだ』と起こる。

 それを聞いて確かに、と納得する二人ではあるのだが――いかんせんもふもふが気持ちよすぎるのだから仕方がない。


「さてっとー! めぐみさん、私は宿屋の手配をしたりしてきますね。メデュノアと観光でもしていてください」

「え? でも、私も一緒にお手伝いとか」

「大丈夫ですよ。これも私の仕事ですから」


 にこりと笑って、「メデュノアのお世話をお願いします」とセドリックが言い切る。

 お世話とは……と思いつつも、めぐみは了承してメデュノアと観光をすることにした。




 ◇ ◇ ◇


「うわぁ、すごい。これ、ノアに似合うんじゃないかな!?」

『こら、喧嘩売ってんのか!』


 道に並ぶ露店をはしゃぎながら見ていれば、ピンク色の可愛らしいリボンを発見する。これはメデュノアに付けてあげたら可愛いだろうなぁとオススメするが、全力で拒否をされてしまう。


「残念……」

『当たり前だ』


 広い中央の通りには、両サイドに露店が並んでいる。

 とても賑やかで、人間の街となんら変わらない。ただ、少し違うところと言えば――住んでいる人が魔族だということだろうか。

 人間となんら変わらない外見の人も多くいるが、背中から羽根が生えている人や、獣のように毛深い体の人がいたりと様々だった。

 しかし怖いという雰囲気はなく、めぐみは安心した。


『そういうのは、自分に付けるものを見るもんだろ?』

「え? でも贅沢はなかなかねぇ。自分でそんなに稼げるわけでもないし」


 ――ノアがいないと、依頼ひとつこなせないのに。

 めぐみは小さくため息をついて、並んでいるアクセサリー類に視線を落とす。

 確かにどれもこれも、可愛らしいのだ。この大陸特有の魔法を使い、花の時間を止めてアクセサリーにしたものが多く見られた。

 生花だけれども、特殊な魔法で永遠に枯れるということがないのだ。


「ロマンチックだねぇ……」


 まるで枯れない愛のようだと考えて、めぐみは笑う。


「お嬢ちゃんは、このブローチがお気に入りかい? 女性にとても人気でね、最近は仕入れるのが大変なんだよ」

「そうなんですか? 確かに、女の子はこういう可愛いのが大好きですもんね。部屋に飾ったりしておくだけでも、華やぎそう」


 そんな様子のめぐみを横から見ていたメデュノアは、何個かある内のブローチを一つ手に取った。可愛らしいピンク色の小さい花が三つ付いているブローチだった。

 おもむろにめぐみの胸にあてて、色合いが似合うか見出す。

 露天商の女性が「可愛いじゃないかい」と褒めてくれて、めぐみはなんだか恥ずかしくなる。


『よし、これをもらおう』

「えっ!?」

「はい。まいどありー! それにしても、可愛いうさぎちゃんだねぇ。おまけにこれをあげるよ」

『ん?』


 露天商の女性が、めぐみのブローチと同じ花を一輪使ったピンを差し出した。


「わぁ、可愛い!」

「人形につけておやりよ」

「ありがとうございます」


 お金はすでにメデュノアが支払ってしまったので、めぐみはありがたく受け取ることにした。

 一輪の花で作られたピンを、人形がきている服の襟部分に付けてあげる。まぁ、服を着ていると言っても襟があるだけなのだが……。


『……ん』

「これでよし、っと」


 大人しく花をつけさせたメデュノアはどこか満足そうにして、大きく頷いた。

 めぐみが「お揃いだね」と言えば、『主人と召喚魔だからな』と笑いながら返す。


「ありがとう、またきておくれ」

「はい! ありがとうございます」


 めぐみも胸にブローチを着けてもらい、露店を後にした。

 次はどこのお店を見ようかなぁとるんるん気分で歩いているときに、それは起こる。


 ――大きな爆発音が、街を襲った。

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