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ノアの変化

「ノア、大丈夫〜?」

『んー……』

「って、寝てるのかぁ」


 ギルドから宿に戻っためぐみは、ベッドですぴすぴと寝ているメデュノアを見てほっとする。

 様子が変だったので気になっていたが、どうやら疲れているだけなのだろうと結論づける。ちらりと時計を見れば、時間は夕方の少し前。


「まだご飯には少し早いかなぁ」


 ――それに、ノアを置いて夕飯に行くのも嫌だしなぁ。

 夕飯はメデュノアが起きてからにしよう。そうきめて、めぐみもベッドへと潜り込む。なんだかんだで、護衛依頼を終えたところなのだ。

 めぐみも疲れがたまっていた。


 だからか、メデュノアを見ても、いつもと少し違うことに気付かなかった。

 メデュノアの体が、ほんの少しだけ、あわく光っていたことに。もちろん、外から差し込む太陽の光があったから気付きにくくはあったのだが……。




 ◇ ◇ ◇


「ん……」


 ころりと、めぐみはベッドの中で寝返りを打つ。

 思っていたよりも寝てしまったと思いながら、しかしまだ眠いので目を開きたくはない。隣で眠っているメデュノアをぎゅーっと抱きしめて――違和感に気付く。


 もふもふのうさちゃん人形だから、メデュノアはとても柔らかい。抱き心地も、とてもいい。

 けれど、なんだが固い。柔らかいという成分が、どこにもないようにめぐみは感じる。

 いったいどうしたのだろうか。うさちゃん人形に何か変化でも起こってしまったのだろうか。


「……のあ?」

「何だ」


 寝ぼけた目をこすりながら、めぐみはメデュノアに呼びかける。しかし返ってきた返事は、いつもの調子のメデュノアの声だ。

 抱きしめようとしたのに、妙にごつい。そう思ったのだけれど……。


 ――元気になったのかな?


「結構、寝ちゃった。ノアはもうだいじょう――!? え、えっんぐっ!!」

「もう夜中だから、静かにしろ」

「ん――!」


 めぐみの上から覆い被さるように、さらりとした白銀の髪がかかる。腰までの長さがあるそれは、夜にちりばめられた星のよう。

 何もかもを見通すような金色の瞳は、めぐみを見つめて離さない。

 それはめぐみが知らない、男だった。


 ――誰だこの男は! っていうか、ノアは!?


 叫びそうだっためぐみは、男の手によって口を塞がられる。「むむむ」とこもった声を出して抵抗をしてみるが、まったくもってびくともしない。

 そして近くに、声がしたはずのノアがいない。いったいどういうことだと、恐怖がめぐみを襲い、震える。

 もう駄目だ、殺される!? そんなことをめぐみが考えた瞬間、白銀の男は大きくため息をついて呆れた顔をめぐみに向けた。


「ったく。俺だよ、メデュノアだ」

「……え?」


 ――えっ?

 白銀長髪の、美丈夫が、メデュノア?

 しかし、男の声はメデュノアと同じだし、雰囲気も似ている。


「ここはアルバディストの近くだから、俺の魔力が高まって人形から本来の姿に戻ったんだろうな」

「ほ、本当にノアなの……?」

「ああ」


 静かに頷いたメデュノアはベッドから立ち上がり、伸びをする。小さなベッドに寝ていたため、体が凝ってしまったのだろう。

 めぐみといえば、本当にこのイケメンがメデュノアなのかとどきどきしてしまっている。


「っし、飯でも食いにいくか。どうせめぐみ、何も食ってないんだろ?」

「え? 夕飯は食べてないけど、だってこんな時間――」

「酒場ならやってるだろ」


 あっけらかんというこの男は、やはりメデュノアだとめぐみは思った。姿はまったく違うのに、口調も、めぐみの寝癖を手で撫でて直すというおせっかいなところも……一緒なのだ。

 自分の保護者であるうさちゃん人形としか、思えなかった。


「ほら、お前はこれを羽織れ。夜なんだから、あんまり肌を出して街を歩くなよ」

「う、うんっ」


 たたまれていた上着を渡され、めぐみはそれを素直に着込む。

 そのままメデュノアにつれられてめぐみは夜の街に繰り出した。


 ひんやりとした空気が肌に冷たい。

 そんなことを思っていれば、メデュノアがめぐみの手を取る。


「え?」

「迷子になるといけないからな」

「そ、そこまで子供じゃないよ!」


 くつくつ笑いながら、「どうだかな」とメデュノアはめぐみを見る。

 この世界の常識があまりないめぐみは、メデュノアにしてみれば心配で仕方がないのだ。

 もともと無理矢理召喚されたのだから、もちろん面倒を見る必要なんてメデュノアにはまったくないのだけれど――どこかほっておけない。


「そういえば、船はどうだったんだ?」

「あ! そう、それそれ。アルバディスト行きの船は出たばっかりで、次は二週間後くらいじゃないかって。あとは、ギルドで冒険者を募集して集まれば行けるって……」

「ふーん」


 メデュノアは予想していたらしく、めぐみほどには驚かなかった。

 のんびりと「どうするかなぁ」と、あまり困っていなさそうに口にする。もちろん、頭の中では今後に関するやり方をどうするべきか思考を巡らせているのだが……。


 しかし、反対にめぐみはそれどころではない。


 ――てっ! 手、繋がれてる!?

 メデュノアはとてもさりげなくめぐみの手を取り、平然としているのに。めぐみはどきどきと早鐘のような心臓を治めようと必死だった。

 いつもは人形の姿だったので、メデュノアをめぐみが抱きしめて移動することが多かった。しかし今は、まるで逆だ。

 手をつないでいるだけなのに、今度は自分が抱きしめられているみたいだと……めぐみは思う。


「ん? どうかしたか?」

「う、ううん。――ノアって、人間だったの?」


 てっきり、魔物だと思い込んでいためぐみだ。

 メデュノアも特に否定はしなかったので、そうなのだろうと信じて疑いはしなかった。しかし、今の姿はどう見ても人間。


 ――あ、でも。白銀の髪に金色の髪だから、神様だと言われたら信じるかもしれない。


「人間じゃないな」

「え――?」


 どきどきと、メデュノアの顔を覗き込みながらめぐみがたずなれば、あっさりと否定の言葉が返される。


「前に、めぐみが言っていただろう? 魔物かって」

「う、うん。でも、ノアの姿は魔物になんて見えないよ?」

「ああ、そうだな。俺は魔物じゃなくて、魔族っていう部類だな。人間より、魔力が多く魔法に長ける者が多い」

「ふぅん……」


 魔族の中の頂点である魔王だ――とは告げずに、メデュノアは魔族というものに関して簡単に説明をした。

 それをふむふむと聞きながら、めぐみの中で少しずつこの世界のことがまとまっていく。


 人間が暮らすここ、ノストファティア大陸。

 けれど、メデュノアが暮らしていたらしいのはアルバディスト大陸。つまり、アルバディスト大陸とは魔族という種族が暮らす場所ということになる。


 ――ノアは、とても優しい。魔族だと言われても、怖いなんて思えない。

 めぐみは人づてに聞いた話よりも、実際自分があって話をしたメデュノアのことを信じる。今までめぐみを助けてくれた人を、魔族だから怖いなどと言ったりはしない。


「魔族っていうだけで、忌避する人間だっているぞ?」


 ――怖くないのか?

 と、メデュノアの瞳がめぐみに問う。


「全然。ノアはこの世界で、誰よりも優しいと思うよ」

「……そうか」


 めぐみの言葉を聞いて、メデュノアは立ち止まる。

 そのバックには月が輝き、悪魔というよりは、まるで天使のように神々しい。白銀の髪が月の光を反射して、少しだけきらきらしている。


 綺麗だと――めぐみはそう思った。

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