現実世界にて<そして……>
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今日が正式な「お披露目」となる。美玖の後見人は昌代とさゆりの二人。他にも後見人として立候補していた面々がいたのだが、昌代が物理的に黙らせた。
「見つけられなんだ、己の運の無さを恨むのじゃな」
その一言で禰冝田の長老すら黙らせたのだ、誰が叶うというのか。
「可愛がれるからね。昌代の目を盗むのが大変だけど」
その一言で一族内でどれくらい活気がついたか。それを見ていた遠縁の紗耶香は「うさちゃん、恐ろしい子!」などと言っていたのだが、全く分からない美玖であった。
本日の装いは、正月にも着た兎柄の振袖だ。
紗耶香が一緒に撮った写真を全員に見せびらかし、羨ましがられたからである。
そんな美玖をエスコートするのを頑なに譲らない男がいた。保である。
保の優秀さは禰冝田でも認めており、「あの性格がなければ」とか「あの性格故女帝とやりあえるのかもしれぬ」などと囁かれていた。
「好き勝手に言いおって」
「陰険策士様がそれだけ怖いんだろ」
さらりと言い返す保にある種の尊敬の念が寄せられたいた。
「えっとこのあとご挨拶に伺うのは……」
己の頭上で繰り広げられる舌戦を一切気にすることなく、確認に回る美玖。ある意味こちらも凄いのだが、本人は「毎度の仲良し会話」としか思っていないのだ。
「美玖ちゃん、こちらが分家の……」
勿論慣れてしまっているさゆりも二人の舌戦を気にしせず、紹介に回っていた。
「初めまして、ふる……じゃなくて溝内 美玖と申します」
挨拶中は舌戦を辞めるが、他のところに回る幾分かの隙間を狙って舌戦を繰り広げる昌代と保。それをのほほんと躱すさゆりと美玖。
当然、周囲から浮きまくっていた。
「美玖ちゃん、相変わらずですわねぇ」
「だな。あれをまったく気にしないって、どうなのかな」
本来であれば己たちの「娘」として紹介に回るはずの良平と悠里は、離れた場所で見守ることになっていた。
「まぁ、親子行事も出来たし、良しとするかね」
少しは爺婆に譲らないと後が大変である。
静かに良平の持つスマホが着信を伝えた。
「はい、溝内です」
そのスマホを飾るのは、「カエルム」メンバー全員お揃いのストラップ。
これからも増えるであろう、それは日々厳選されて付け替えを行っていたりする。
間違いなく苦楽とともに増えるであろう、それは幸せの形ともいえた。
「お父さん、お母さん」
こちらに向かってくる美玖の笑顔に陰りはない。
「挨拶が終わったので帰っていい……と言うかすぐ帰れとおばばさんが」
「え!?」
美玖からの言葉に、良平と悠里は驚きの声をあげた。
「さっさと帰らんと美玖が攫われれる可能性があるとよ」
嫁にしたいとか、娘にしたいとか、姉・兄になりたいだとか。付け足された保からの言葉に良平は言葉を失った。
「すぐ帰りますわ! では皆さまごきげんよう」
慌てるように悠里が返し、良平の手を取り急ぎだす。
美玖は既に保によって姫抱っこをされ、逃げる準備が整っていた。
「飯、どうするかね」
現実逃避をした良平は思わずぼやいた。何せ、この会合で出る料理は皆美味そうだったのだ。それを食いそびれた。
出来ればお母さんと一緒にご飯を作りたいです。
おどおどと言った美玖の提案に、三人がにこりと微笑む。
何よりのご馳走だな。そうですね。
逃げながら交わされた会話がすべてを物語っていた。
尻切れトンボのような気もしますが、これにて完結です。
長い間、ありがとうございました!!




