現実世界にて<美玖と見守る二人>
時は少し遡る。
明日お出かけ! と内心から浮かれまくった美玖は、普段しないような失敗ばかり繰り返していた。
「美玖、今日の手伝いはあとよい。少し大人しくしておれ」
と、昌代に言われるほどに。
しかし落ち着かない。初の親子行事だ。そして何より、悠里に「どこに行きたい?」と聞かれたのが嬉しかった。
人がいっぱいのところは苦手だから……と必死に考え、結局美術館と博物館巡りをすることになった。ついでに雑貨屋をのぞきましょう、などと言われたものだから完全に舞い上がった。
「明日、お土産買ってきますね!」
「ほほほ。お主の楽しそうな顔を見るだけで、我は十分すぎるぞ」
お主もそう思うじゃろう? とあえて保に圧力をかけているようだが、美玖は見ないことにした。
保が「俺だって納期がなきゃ……」とブツブツ文句をつけていたので。
「保さんはお土産何がいいですか?」
「土産要らないから、出かけな……」
保が最後まで言い切る前に、いつもの如く昌代が首筋に扇子をあてていた。
こんなやり取りを「仲がいい」と思う位には平常だったのだが。
「……寝れない」
ここ数年、まともな「お出かけ」というものは父方の実家に行くくらいだった美玖だ。興奮は夜中近くになってもおさまらない。
お水を飲みに行けば眠気が来るかな、そんなことを思いベッドからそろりと抜け出した。
「寝付けぬか」
「楽しみすぎて」
「明日、……いや既に今日か。起きられなくなる故、せめて床に入っておれ」
「……はい」
そんな会話をしながらも、美玖は昌代が出してくれたホットミルクを畳の上に座って、ゆっくりと飲む。
「保が苺ミルクをまた買うていたようじゃの。お主の好きなものと分かれば馬鹿の一つ覚えのように繰り返しおって」
「あはは」
毎度でかけるたびに、保は苺ミルクを買ってくる。さすがに昌代は呆れ果てているようだった。
この状況だと「ミルクに溶かして飲むタイプも好きです」なんて言おうものなら、間違いなくダース単位で買ってくる。
それに関しては、保だけに限らないのだが。
「美玖よ」
「はい」
「お主はこれから幸せになるのじゃ。
不安になることは悪しきものではないぞ。その時はこの老いぼれも頼れ」
「はいっ」
今が幸せ過ぎて、この幸せが夢だったらどうしようという不安を指摘された気がした。
「……おばばさん」
私、幸せです。その言葉を紡ぐ前に瞼が落ちた。
「ほれ、そこに隠れておる変態」
「誰が変態だ!!」
あとをつけていたのは知っている。そして、変態で返答してきたら己が「変態」だと言っているようなものなのだが。
「もう少ししたら、美玖を部屋に連れていけ」
「俺の部屋で……」
「戯けが」
「だから、何度も言うけど、気が付いたら後ろにいるの止めろ、陰険策士様」
「お主が馬鹿げた妄想を口にするからじゃ」
「いいじゃねぇか。どっちにしても一緒に行けねぇんだ」
ぶつくさと文句を言うものの、美玖を見る目は優しい。……これで変な欲情が入っていなければ、最高なのだが。
「惚れた女相手に平常心でいられる男の方が少ないと思うぞ」
「……そのようなものかの」
「陰険策士様の恋愛偏差値が低いってのはよくわか……、殺気を出すのはやめろ。美玖が起きる」
「お主ほどではないと思うがの」
恋愛偏差値の低さは認める。何せ元夫がアレ過ぎた。
「明日は寂しくなりそうじゃの」
「……だな」
どんな土産話が聞けるのか。それを想うだけで顔が自然とほころんだ
……本当は美玖が寝付けず保に添い寝をしてもらうというプロットだったのですが(;'∀')
女帝が出張り、あっさり撃退。さすが女帝!(違うwww)
本当は、ここのところちょっと影の薄いヒーロー・保のいいところを見せたかったはずが、女帝がかっこよくなりました。
まいっか(放棄




