非常識親子の戦い 6~ある職員の苦悩~
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どういう風に、戦闘に参加するかを迷うディッチたちよりも早く動いたのは、いきなり現れたハリセンを持つ小人だった。
「何やらかしてんですか! この非常識親子が!!」
スパパ――ンといい音とともにジャッジとクリスの頭に炸裂した。
「役員会議があったと聞いて嫌な予感満載でしたが、いつでも動けるようにして正解でしたよ! あんたらプログラム弄りすぎ! これに対抗できる輩もインしてるって、在住プログラマー泣きまくってましたよ!!」
「え―――? そこまで酷いの俺はくんでな……」
「私のせいではないと思うね。きちんと許可を……」
似たもの親子が異議申し立てをした瞬間、またしても小人のハリセンが二人の頭に炸裂した。
「ふざけんのも大概にしろよ? この非常識親子が!! ハリセンだっただけましだと思え!」
小人なのに異様に存在感を増す小人に、全員が引いた。
「神崎さん、このクエストどうやって終わらせるの?」
ユウが小人に訊ねていた。
「何も運営権限でキャンセルすればいいだけですけど?」
その手があったか!! と全員が思うものの後の祭りである。
「その方法があったにも関わらず、弄りまくったせいでできなくなりましたけどね!」
ぷんすかと怒る小人な神崎。少しだけ笑えてくるが、ハリセンが怖いので黙っていることにした。
本来であれば、ディッチたちが「無理」と判断し、運営に報告した時点でキャンセル扱いになるはずだったらしい。
それをどこぞの誰か(これは現在も調べている最中だとか)が「キャンセルできないクエスト」とアナウンスさせたために、誰しもがキャンセルできないと思い込んだ。
この時点で、ディッチたちは「運営に相談する」という項目が抜けた。
ジャッジ対策としてクリスに相談したのが間違いともいえる。せめて、ギルド職員や神崎に相談すれば違ったのだ。
全員から一気に力が抜けた。
「だと、このレイドは?」
「本来であれば組んだプログラマーに何とかさせるんですが、今回はそうもいきませんので。
これは運営権限です。クリスさん、『七つの森』『十二宮』の皆さんに、ジャッジ君。あんたら全員でキャンセル用のプログラムをここで今から作れ。五分以内に」
その瞬間、指名されたプレイヤー全員が露骨にいやそうな顔をした。それこそ全員「似ている」と思えるくらいの。
「ジャッジ君、このプログラムを成功させれば、このゲームを続けている限り称号はそのままだ」
その言葉にジャッジが少しぐらついたのが分かった。
「で、クリスさん。あんたが協力して成功させれば……」
「我と密に連絡の取れる方法を教えるとするかの。会社、秘書、弟ども。どれの手も煩わせることのない連絡方法じゃ」
クィーン自ら餌をまいた。
「My dear sonを中間に置くということ?」
「たわけが。誰がかような面倒になることをすると思うておる。禰宜田家でも半数は知らぬ我の連絡先じゃ」
「やろうか」
クリスが即答した。
「ついでだから、My dear sonが協力しないんだったら、称号剥奪しちゃおう」
「やりゃいいんだろ!? ……カナリアが巫女としての仕事が大変そうだったから、解決したかったのに」
いや、あんた、絶対に一緒にプレイできる時間が少なくなるから嫌なんだろ!? ディッチ以下何人もの仲間が同じことを思った。
「じゃあ、そのあたりもジャッジ君がプログラムで何とかすればいいよ。とりあえず今日やるべきことは、このくっだらないクエストを終わらせるプログラムを組むこと。期日はリアル時間で三日。それを私宛に送って。
……私のほうでも勝手にアナウンス流した馬鹿と、このクエスト組んだ輩を探しますので」
そこまで言うと、神崎はため息をついた。
「クリスさん、あんたやりすぎです」
「すまないね。一応彼らに補填アイテム渡すということでいいかな?」
「……欲しいアイテムが貰えるアイテムボックスにグレードアップさせといてください。それくらいしないと、あんたら非常識親子に巻き込まれて元が取れない」
その言葉にカナリアの目がキラキラした。
「カナリアちゃん、君にはないからね」
「え!?」
「君一応レイドボス。おそらく難易度が上がったのは君のせい。もちろんジャッジ君にもないから、安心して。それから、全員譲渡不可だからね」
あからさまにショックを受けたカナリアを、スカーレットたちが宥めていた。
それを悔しそうに見ながら、ジャッジがプログラムを組んでいた。
リタイアできないレイドは神崎さんが解決しました。
ハリセンで二人を黙らせるお人、神崎さん。ある意味最強。
でも、ある意味一番胃薬が必要なお人かも。




