クィーンの企み
いつもありがとうございます。
広大な場所をせしめて、クィーンがしたかったのは。
何ということはない。マナースクールである。
ただしこちらは完全課金制だ。通常でも学ぼうとすればかなりの金額が発生する。それを通常よりも安くする代わり、入門編だけをやるということで落ち着いている。
その他にも伝手を駆使して茶道やら華道など俗に言われる「習い事」の師範も呼んでいる。
これは美玖の一言が発端となっている。
「色々習い事をしたいと思っても、近くに場所がなかったり、お金の問題で出来ないみたいですよ」
と。
詳しく聞くと、母方祖母がこっそり習わせようとしたらしいが、近くはあまりにも高額だったため、そしてお手頃な金額の場所は遠かったために諦めたという。
学習塾も出来るゲームならば、習い事も出来るはず。そうクィーンは閃いた。
ただでさえ、礼儀作法のなっていない子供たちが多すぎる。畳の縁は踏むし、お辞儀の仕方もなってない。
ついでだし、国外で日本文化を話す機会というものもよくあるので「道」と呼ばれるものをすべてやってしまえ、と動いただけのことだ。
娘夫婦や孫夫婦には呆れられたが。
そして国外でも通用するように欧米のマナーも軽く学べるように施設を用意したのだった。
余談だが。
これには別の嬉しい誤算というものもあった。
特に舞踊関係は場所がないと練習ができない。個人でやるために場所を借りるというのも難しいらしい。そんな生徒たちがわらわらと集まるようになり、師範ですら「やるからおいで」と声をかけていたというのを後日知ることになる。
欧米のマナースクールにも、日本国外からまで生徒が集まり、クリスを驚かせたことも笑えることだったりする。
「礼儀作法というものは金を出してでも覚えるべきものじゃ」
通称「道場」と呼ばれる土地の中にある、日本家屋のとある和室の一室でクィーンがのたまった。
存外、興味を持っていた子供たちも多いものである。半数以上が親も一緒になって学んでいるため、「家族割」というものを設定したばかりである。
本日はとある茶道の流派で茶室を使っていること、クリスには「煎茶道」も楽しんでもらおうという二つの条件が重なったために、クィーンがもてなしている。
流派は秘密だ。
「我らのように幼少時から習う人間は少数じゃ。興味があったとしても様々な流派があるために門戸を叩くことすら難しい。なれば、誰かが色々と学べるように用意するのも一興じゃ」
「ですが、よくぞ本場のマナー講師を……」
「クリス殿が気にしておったのはそこか? あの方はユーリにも教えてくださった方じゃ。我とも面識がある。お時間が取れる時にとお呼びした」
国外に行けないであろう、カナリアのためというのもあるのだが。
それに気づいたクリスがため息をついていたが、知らないふりをした。
「そうそう、先日の。医療用『TabTapS!』フィールドとやらのおかげで、カナリアも来月には復帰できるという見通しじゃ」
「それは何より。せっかくLittle ladyのおかげでプレイヤーが増えたのですから」
クリスとしても、カナリアに抜けられては困るというものあるらしい。
「で、クリス殿よ」
「何でしょうか?」
「我の頼みは聞いてもらえぬか?」
先日も散々依頼してきて、というのを顔に出さないだけだというのもクィーンは知っている。
「……今度は何を用意すればよろしいのですか?」
「せっかちじゃな。頼みは聞いてもらえるのか?」
諾、という言葉以外で頼みを言うつもりはない。
しばらく二人の間に沈黙が流れた。
「……分かりました。何を用意すればよろしいのですか?」
しめた! 内心でほくそ笑んで、クリス一人で大丈夫だと伝える。
「さすがに女帝のお相手は難し……」
さすがジャッジの育て親。そんなボケはいらない。
「なに。ダンスの講師じゃ。人手が足らぬゆえ」
ジャッジにダンスの基本を教えたのはクリスだという。
その情報を知ったクィーンが利用しないわけはなかった。
周囲を派手に巻き込んだクィーンがしたかったのは、カナリアのために礼儀作法を教える場所を整えるというとこでした( ´艸`)




