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現実世界にて<女帝頭を下げる>


 保が隆二を連れて北ヶ原の駅にたどり着くと、昌代が立って待っていた。

 いつの電車で帰ると言っていないにも関わらず待っていたということに、疑問を覚えた。

「砂○け婆様、いつから待ってた?」

「昼過ぎじゃ。そんなに待っておらぬ」

 既に夕刻、暗くなっている。

「美玖は?」

「狭山達が看ておる。して、そちらの方を我の場所まで連れて行くわけにはいかなくなってしまってな」

「なんか、あったのか?」

 電話で軽く説明しただけのはずだ。それなのに昌代の顔は険しい。

「近くの旅館に部屋を用意しておる」

「この辺に旅館なんてあったっけ?」

 ビジネスホテルや観光ホテルくらいしか知らない。

 だが、行った先は老舗旅館というに相応しいところだった。


 離れに通されてしまうと、既に隆二も緊張していた。

 普段は上座に座るはずの昌代が、今回は下座に座ったことに、保は驚きを隠せなかった。

「すまぬ」

 誰にも頭を垂れないと思っていた昌代が、二人に茶を出すなり土下座した。

「今、近くの保養所に押し込んでおるが、厄介な者が来おった。名前は柊 レイモンド。馬鹿な遠縁が案内してしまった」

 その言葉に隆二がすぐさま反応した。

「しかも、我が弟夫婦と面会している間に、入り込んで美玖と接触した。……よくなりかけた物がぶり返した」

「なんだよっ。それは!!」

「我の責任じゃ。角田殿はお会いしたくなかろう。早急に宿を取らせてもらった。……お父上にも一度連絡を入れ、時期をずらされるがよいかと思う」

「父は既に山小屋を出ているはずです」

「金銭面で工面できるものは、全ていたす。ただ、予想外に会われたとき、我は言い訳などできぬ」

「分かりました。俺もあなたが信用できないので、父は別の方に迎えを頼みます。……それでいいですか?」

「無論。それにかかる費用は全て持つ。それ以外に何か望みはあるか?」

「何故、そこまで?」

「信用というものは金で買えぬ。我が持てる範囲で礼を尽くすのは当然のこと」

「禰宜田の女帝」という言葉は、ただ権力があるだけでなった言葉ではないと痛感した。


 結局、隆二の父親は良平たちに頼むことになり、この離れには保か昌代以外は通さないことで決着がついた。


 その代わり、保がもっていたウルトラブックは良平に取られることになった。


 後日、昌代が隆二に満足するだけのパソコンと部屋を与えることで決着した。



 そのまま、保はタクシーで昌代と共に美玖のところに向かう。

「なあ、陰険策士様」

「なんじゃ?」

「美玖は放っておいて大丈夫だったのか?」

「美玖にはお主を迎えに行くと言ってある。それに寝室には狭山が、部屋の入り口には遠山と三浦が張り付いておる」

「……マジか」

「仕方あるまい。それくらいせんとな。……油断したのが悪かったのじゃ」

「普通は思わないだろ」

「美玖にも同じ事を言われた」

 どんなになじられても昌代は言い訳一つせず受け入れた。今まで見てきた権力者とは違う。


 沈黙が続くまま移動する。

 そして、保養所の前に着くと、見慣れぬ人たちが立っていた。

「お主らは何をしておるか」

 厳しげに言う昌代に、招かざる客であると保にも分かった。

「姉さん! 午後からどこへ行っていたのですか?」

「喧しい! その不快な顔を遠ざけよ!!」

「え? 私も?」

「こやつの視線の先じゃ」

 そう言って昌代は保に視線を移した。


 保の視線の先にあるのは小さな林のようなところだが、そこには一つの気配があった。



「美玖!!」

 林にいた男が柊 レイモンドだと知った瞬間、保は慌てて部屋に向かった。

「……保さん、お帰りなさい」

 点滴をさした美玖がベッドで横になっていた。

「具合は?」

「おばばさんや皆さんが色々気遣ってくれたおかげで、大丈夫です。それに保さんも無事に帰ってきてくれましたから」

「あとでゲームに戻ったら、『深窓の宴』ごとブラックリストに……」

「そんなことしたら、レンさんやサイレンさんに会えなくなります」

「こんな時に他の男の名前を出すな」

 どこまでも他者を思いやる美玖がこんな時ばかりは恨めしい。

「それに……私なりに兎さんたちや他の人の役にたちたいですから」

「兎たちも入れるのか……」

 やはり通常のゲーム常識が美玖には通用しない。

「兎さんたちは、もう仲間です」

「……そうだな」

 どこまで美玖らしい言葉に、保は少しばかり微笑んだ。

「ログインできるようになったら、月の島とマリル諸島に行かないとな」

「……そうですね」

 少しでも明るいことを美玖に話すしかない。


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