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現実世界にて<保と昌代の攻防>


 美玖が待つところに帰る保に、孝道とさゆり、そして良平と悠里も一緒に行くと言い出した。

「養子の件もあるしね。話すべきことはたくさんあるから」

 さらりと孝道が言うが、保としては納得がいかない。……存分に甘やかすつもりでいたのだ。


 それでも、美玖への土産にとビーズやレース糸、それからそういった関係の本を数冊購入している。

「よかった。ビーズはともかく本は被ってないわ」

 そう言ったのはさゆりと悠里だった。二人も同じ事を考え、色々買ってきたらしい。

「で、こっちは?」

 もう一つの紙袋を指差し、良平が不思議そうにする。

「砂○け婆様から頼まれたやつです。あの方、編み物と和裁が得意らしいですね。美玖がビーズでアクセサリーを作っているのをみて、触発されたみたいで『糸と反物はこちら指定の店に頼んでおくから、取って来い。あとはこれを買って来い』とメモを渡されました」

 ついでなので、美玖用のものもそこで購入した。

「……ご苦労さん」

「美玖に教えるという名目もあるみたいですね。呉服屋にはまだ行ってないので、これから行かなきゃいけないんですけど」

「ひょっとして、『為吉(ためきち)』かしら?」

 さゆりが思い当たった場所を言う。

「はい。そこです」

「だったらわたくしも一緒に行くわ」

 そんなこんなで、この面子で一度呉服屋に向かった。



 素晴らしい店のつくりに、保と良平は固まった。そして、一人で来なくてよかったと心底思った。

「ごきげんよう。店主はいらっしゃるかしら?」

 誰よりも早く店内に入ったのは、さゆりだった。

「おや。さゆり様。ご無沙汰しております。本日はどのようなご用件で?」

「母が反物を頼んでいたと言っていたので、取りに伺った次第です」

「禰宜田の奥様が? 誰か禰宜田の奥様から……」

「義母ではなく、養母ですわ」

 その言葉に、数人が固まった。

「あ……あの、失礼ですが……お渡しする方のお名前を伺っていまして……。その方以外に渡すなと……」

 しどろもどろになりながら、接客を担当していた女性が言った。

「多分、俺です。野々宮と申します」

「失礼ですが、下のお名前は」

 昌代はフルネームで言わない限り渡すなと厳命しているらしい。

「保です。野々宮 保」

「し、暫くお待ちください」

 名前を紙に書き、店員は奥へ行った。


「お待たせいたしました」

 さゆりの反応を見る限り、店主が店奥から反物をもってやって来た。

「あの婆、嫌がらせか?」

 量を見た保は思わず毒ついた。

「なにぶんにも、お教室を開催されるとかで、安い反物からそれなりまでの反物を多くご注文いただきました」

 店主が保の呟きを無視してさらりと言う。

「元々昌代様は、ご自身の和服(ふく)はご自身で仕上げる方ですから」

「……あっそ」

 量はそのためだと言いたいらしい。半分くらい保への嫌がらせを含んでいるはずだ。

 一切封を切っていない封筒を店主に渡す。受け取った店主が目の前で明けにこりと笑った。

「確かに。おつりがございますので少々お待ちください」

 そう言って手渡された釣りは、思った以上に多かった。


 保の運転する車と良平が運転する車で北ヶ原に向かう。何故か保の車に、孝道とさゆりが乗り込んだ。

「お母様らしいといえば、らしいですわね」

「?」

「そのあたりはあとででいいような感じがするね。しかし、何を思ってあの方は『一反ずつ風呂敷に包め』なんて指示をしたのだろうね」

 着物の良し悪しなど保には分からない。だからかも知れない。


 そんな話をしているうちに、あっという間に北ヶ原についた。


「やっと戻ってきおったか」

 保を見るなり昌代が言う。

「ほれ、頼まれていたやつだ」

「ほほう。……相変わらずいい仕事をしおるわ」

「砂○け婆様、あんた俺に言ったよな? 『さほど多くない』って。五十反ってどこが多くないんだよ」

「我が買うときは百反単位だぞ?」

「誤魔化すんじゃねぇ! 店主も『教室を開くから大量に購入してもらった』って言ってたぞ。ふざけんな。それから、釣り」

 指定の手芸ショップで頼まれた袋と共に二箇所ででたお釣りを渡す。

「お主は少し懐に納めようと思わなんだな」

「人様の金を奪ったって、いい事なんかない。それくらいなら自分で地道に稼いだ方がいいね」

「そうか。美玖なれば、お主が帰ってくるのが遅かったから、さっき治療を始めたばかりじゃ。茶でも飲んで待っておれ」

 一反ずつ目の前で風呂敷に入れられなければ絶対に間に合った。そのために一反ずつという指定をしたのかと思うと、やはりこの砂○け婆さんは食えないやつだと保は思った。


勿論昌代さんは店主に「品物を見せてから一反ずつ包め」と指示しています。

理由は無理矢理一人で治療用VRカプセルに美玖を入れることです。


このあとから、美玖は昌代さんとも仲良くなり、保が仕事中は和気藹々と二人で趣味に没頭することになります。昌代さんは、自己流だった美玖の編み物関係の癖を直したり、和裁を教えたり。美玖はそんな昌代さんにビーズや風呂敷、反物の切れ端を利用し、巾着や小物入れ、髪飾りや簪の飾りの部分をプレゼントしています。

気に入ったり、自分が使えそうなやつは昌代さんは貰っていますが、他はバザーに出すことで美玖と商談(?)が成立してます

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