表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

キミという光

作者: 雲雀

じめじめとした梅雨も終わり、夏がはじまろうとしているのに、外は相変わらずの雨模様。空はあたしの心を知ってるんだろうか。



休み明けの月曜日。教室はいつになく騒がしくて嫌気がさす。さすがにこの時期になると、クラスに馴染めない奴なんてあたしぐらいか。



教室の隅で、携帯とにらめっこ。何をすることもなく、ただ携帯の画面を見つめてる。何でこんなことをしてるかって、とにかく何かしてないと、格好がつかない。プライドだけは高いから、友達がいないなんて思われたくない。あたしは、メールで忙しい的な感じ。まぁ、あたしのことなんて誰も見てないだろうけど。


「席につけー。」

やる気ない担任の声が響いた。みんな慌てて席につく。こうしてあたしの一日は始まる。最初から最後まで空気のように過ごしてる。生きてる意味なんて、あるんだろうか。



一日の中で最も嫌な時間は、移動教室の時。普段は目立たなくても、この時ばかりは妙な注目を浴びてしまう。

「早瀬さんってさ、暗いよね…。」

「なんかすごく性格悪いんだってさ…。」

おいおい。誰がそんなデタラメ言ってんだ。そりゃあ、あたしは性格悪いかもしれないけどさ、この学校の誰とも話したことないんだけど。それなのに、あたしの性格が悪いなんて誰が知ってんだ。…残念ながら、心の中の悲しいツッコミは届かないみたいだね。



あと四日もこんなのが続くのか…。昇降口の前で、週末までの長い時間を考えると、ため息の嵐。いつものように、靴をとって帰ろうとすると…。



「ねぇ、君!天文部入らない!?」

突然後ろから、威勢のいい声が…。「…天文部…??」

とっさに出た言葉がそれだった。校内で人とまともに話すのは初めてなので、ものすごく戸惑った。

「そ。天文部。今体験入部やってんの!!この後ヒマならやってかない!?」

「けっこうです。」

ハッキリ断った。確かにこの後特別やることはないが、部活なんて入りたくない。ましてや天文部なんて…宇宙とか興味ないし。



「ちょっとだけ!!ちょっとだけでものぞいてかない!?一年生部員ウチだけなんだよ〜お願い!」

「ダメなものはダメです。だいたい、なんであたしなんかに…。他にも人いっぱいいるじゃないですか。他をあたってください。」

一年生だと分かったので、ちょっとキツイ言い方をした。

「なんでって…なんでだろ??なんかアンタと同じ匂いがしたんだよね♪友達になりたいって思った。」

その少女は、太陽のように微笑んだ。


「え…??」

「でも、ヤなら仕方ないかぁ。あ!!気が変わったらウチんとこまで来てね。二組の矢部だから。」

そう言って去っていったが、あたしは気が動転していた。あんなこと…友達になりたいなんて言われたの…初めてだなぁ。しばらく頭から消えなかった。


次の日になっても、考えるのはあの人のことばかり…。あたし、どうしたんだろ。他人のことで、こんなに頭がいっぱいなんて。



下校時間。いつもは、真っ直ぐ昇降口に行くはずが、足が止まっていた。しばらく悩んだ末、二組の教室に行くことにした。別に、入部するわけじゃない。ただ、このモヤモヤしたモノの正体を知りたいだけ。



一大決心はしたものの、やはりいざとなると緊張する。他のクラスに入るなんて、今のあたしには、初めておつかいに行く子供のようなもんだ。そう、全く想像つかない未知の世界…。



勇気をふりしぼって中に入ると、妙な注目を浴びた…気がした。それでも、近くにいた女子に

「矢部…って子……いる??」

たったそれだけ言った。



「え…?」

その子は一瞬驚いた顔をした。そして、俯きながら

「矢部…さんなら、たぶん屋上。天文部だから……。」

あたしは、その子の態度が気になったが、構わず向かうことにした。


長い長い屋上への階段を登り、やっとのことで辿り着いた。ドアの隙間から覗いてみると、五人ぐらいの天文部員がせわしく動いていた。



(……あっ!!いた。)

その中の一人は、まさしくあの少女だった。慎重に、望遠鏡の位置を合わせている。あたしは、自分でも気付かないうちに、その少女のもとへ駆け寄っていた。


「あの……」

「…ん??あ…あれ!?アンタ昨日の!!そっかぁ!来てくれたんだぁ!!」

満面の笑みで迎えてくれた。あたしは、どう応えていいか分からず黙っていた。


「じゃ、早速体験入部ってことで。今ウチらは、金星を観測してま〜す!」

そう言って、あたしの手を引き、望遠鏡の前まで連れていった。

「見てみ。」

言われるがままに見てみると、そこには丸く輝く惑星が…。

「……うわぁ……綺麗…」初めて見るその光景に、素直な感想が口から漏れた。

「でしょ!?ウチもこれに心奪われて、天文部に入ったんだから。」そこには、最初に出会ったときと同じ笑顔があった。

「またまた〜、かっこつけちゃってぇ。」

先輩らしき人が近づいてきた。

「いいじゃないですかぁ。ウチだって、先輩みたいにおいしい所どりしたいですもん!!」「生意気〜!!」

二人がじゃれあってる姿を見て、思わずクスクス笑ってしまった。

「あっ!!やっと笑ったぁ!!」

「え…」

「アンタさぁ、ずっと同じ表情だったから心配しちゃった。」

あたしのこと一…ちゃんと見てくれる人がいるんだ…。そう分かった瞬間、何故か涙が出そうになったが、必死にこらえた。

「……あたし…入部します。」

あたしは、自分でも気付かないうちにそう言っていた。

「本当!?やったぁ!!仲間が増えたー!!…っと、自己紹介がまだだったね。ウチは、矢部 星華。よろしくね。」

「あ…あたしは、早瀬……奈緒。よろしく…。」

何だか照れ臭くって、相手の目を真っ直ぐ見れず、うつむきながら言った。



次の日から、あたしは毎日放課後が楽しみで仕方なかった。なんで、こんなにウキウキするのか自分でも分からなくて…不思議だった。今までに味わったことのない感情…。



毎日、くだらない話を星華と話したり、星を見て感動したりとか…けっこう普通のことをやってるだけなのに、前の生活が信じられないくらいあたしは…笑顔だった。こんなキャラだっけ??とか思うトキがあるけど、今の自分はかなり好きだった。人って変わるもんだ、と心底感心している。



ある日、いつものように星華を迎えに二組へ行ったが、星華がいなかった。

「あれ…星華は…??」

星華の隣の席に座っている女の子に聞いてみた。その子は一瞬ぎょっとしながら、

「矢部さんなら…たぶん英語の追試……。」

「…ふぅん??ありがとう。」

このまま部活に行くかぁと背を向けたとき、

「待って…!!あなた…矢部さんの友達でしょ…??悪いことは言わないから、矢部さんとは一緒にいないほうがいい……。」



突然の忠告に何がなんだか分からず、ただその女の子の話を聞いた。



「…矢部さん……。前に、傷害事件を起こして…矢部さんと友達になったら、いいように使われて、おもちゃにされるって噂があって…。だから、この教室では誰も話しかけたりしないの…。……だから、今のうちに…別れるべきだと…

「ゴメン、待たせたね!!」



女の子が話し終わる前に、星華が戻ってきて、教室中に声が響き渡った。「早く行こっ!!今日は、夜遅くまで活動するしね。」星華はいつも通りの笑顔でそこにいた。聞こえてたはずなのに…。



あたしは、星華のほうへ向かって歩いた。あたしに忠告してきた女の子の視線が、背中に突き刺さるのを感じたが何とも思わなかった。



「うん!!行こっか!!」

そして、あたしたちは夜の屋上へと消えていった。




「さて、観測も終わったし帰るか一。」

先輩の疲れ切った声が天体観測終了を告げた。時刻は8時。随分長い間やってたものだ。



「先輩。ウチラ残ってやりたいことがあるんで、先帰っててください。」

突然、星華があたしの肩を掴みながらそんなことを言ったので、びっくりした。

「分かったよ一、鍵よろしくね一。」「ハイ。任せてください。」

あたしは、今ここで理由を聞いちゃいけないような気がして、ただ星華をじっと見つめていた。



頭上には満天の星空。夏の大三角形が輝いている。あたしたちは、屋上のコンクリートに座り込み、それを見上げている。



先に口を開いたのは、星華だった。

「今日、何も用事なかった??…勝手に残らせちゃって、ゴメンね…。どうしても、言いたいことがあって。」

情けなく、視線を落とす星華は星華じゃないみたいで、これから話そうとしてることが何となく分かった。

「さっきのこと…??」

恐る恐る聞くあたしに、星華は弱々しく微笑んで答えた。

「うん。さっきのこと。…正直…さ…ウチのこと…今、どう思ってる…??」

そう尋ねる星華の手は震えていて、そこにいるのはいつもの勝ち気な少女じゃなくて、ただの弱い少女だった。そっか一…星華だって、やっぱり同じなんだ。人に嫌われるのは、恐い。だから、こんなに震えながら、それでも必死に、勇気を出して、あたしからの答えを聞こうとしてるんだね。


一…ぎゅ


星華の気持ちが痛いくらい伝わってきて、あたしは星華の手をそっと握った。



「…あたし、別にさっきの話なんて気にしてないよ…。」そう言うと、星華はあたしの方を向いた。

「……ありがと。でも、もう隠し事はいやだから、本当のことを言うね。さっきの話…実は、半分は本当なんだ。傷害事件を起こしたって話。」

あたしは、黙って星華の話を聞いた。

「あたしさ…昔、突然クラス中に無視されて、それでつい…怒って相手を傷つけた。自分でも、すごく反省してて、それで高校入ってからは、誰とも友達になるもんか!!って、一人で過ごしてたんだ。」

あたしと同じだ一…。正直、びっくりした。同じような経験をした人が、こんなに近くにいることに…。

星華はまた話しはじめた。

「それでも、やっぱりダメなんだよね。少したつと、友達が欲しくなる。自分の居場所が欲しくなる。自分から、要らないって言っときながら勝手な話なんだけど。…で、その時ふっと上を向いたら見つけたのが…。」星華は、上を指さした。

「星。」

それだけ言うと、屋上の端の方へ走りだした。あたしも、慌てて後を追いかける。

「気づかなかったんだよね。下ばっか向いて過ごしてたから。こんなに空に星があったなんて。…こんなに輝いてたなんて。それから、星のことに興味が出て、天文部に入ったってわけ。……えへへ。ちょっと語りすぎたかな。でも、ウチはその日から変わることができた。まだ、クラスの人の誤解は解けないけど、部活では素の自分でいられる。すごく安心できる居場所を見つけられたから。」

やっと、幸せそうに笑う星華を見て、思わず唇が動いた。


「……あ…あたしも、ずっと友達いなくて…。でも、ここに来て…変われた…と思う。でも、あたしが変わることができたのは………星華が…いてくれたから。星華が…いつも傍に…。」そこまで言うと、涙が溢れてきた。まだ、伝えたいこと…たくさんあるのに。でもどうしたって、この涙を止めることはできなかった。「…ごめ…何で涙が出ちゃうんだろ…。あたし…このぐらいで涙が出ちゃうなんて…本当弱いよね…ごめんね…いつも迷惑かけて…ごめんね…。」

「…全然迷惑なんかじゃないよ…。」

星華の声はかすれてて、ふと顔を見ると…泣いてた。

「それに…誰だって、弱い部分っていうのは持ってる。…でも、そうやって弱い所を認めようとしない人もいるんだよ。…だから、奈緒は強いよ…。」

最後はもうほとんど、聞き取れなくて一…。お互い、子供みたいにえんえん泣いてた。一人だったら、泣く度に虚しくて、切ないけど、二人だったら、こんなにも気持ちが楽になれるんだね。




しばらくすると、落ち着いてきた。あたしは、ふと思い出して、尋ねた。

「そういえば…さっき…あたしのこと…奈緒って呼んでくれた…??」

正直、初めてだった。星華が名前を呼んでくれたのは。


星華は少し顔を赤らめた。そして横を向きながら、あたしにつぶやいた。

「…だって…ウチら…友達でしょ!!」

あたしは、驚いた。友達…。その響きが、いつまでも頭の中でこだましてた。そっか…こういうのを友達って言うんだ。いらないものかと思ってたけど、本当はすごく必要なものだったんだ。友達っていうのは、きっと一…

「…奈緒…??」

ハッと我にかえり、星華を見た。

「…ウン!!あたしたちは、ずっと…ずっと友達だよ…!!」

星華は優しく微笑んで、うなずいてくれた。

そして、あたしたちはじっと星を見た。

たくさんの星…その下で生きてるたくさんの人…。これからも、辛いこととか苦しいこととか、あるかもしれない。

でも一…何でも乗り越えられる気がする。それは、友達がいるから。


そう、友達は一…


絶望から救ってくれる光なんだ。


あたしも、そんな存在になりたい。そしていつか一…


この星たちのように輝けますように一…。

駄文ですいません;この小説を通して、少しでも友達の大切さに気付けていただけたら、嬉しく思います。そして、感想などありましたら、気軽に書いてください。ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 読んでて 涙がでました。 ありがとうございます。 綺麗なお話だと思いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ