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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第一章 胎動
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1-8 森の宮殿 ~来訪者編~

 アルシュから人族の来訪があるとの言葉を聞いた夜から、すでに五日以上たっていた。


 その間、蒼溟は日常的なことはスリールやダイ、下働きの者たちから学び。その都度、疑問に思ったことなどを夜に書庫で調べるという日々を過ごしていた。

 言語や文字に関しては、村に住んでいたころに茅姉さんから教わっていた文法に近いものがあった為、比較的覚えやすかった。

 人族に関しての基本的な知識は、童話や旅行記などを見て何となく察するというかなり曖昧なものではあったが。


 朝食後のお茶の時間。

「蒼溟、明日は狩猟に出かけないように。」

 ゆっくりとお茶を楽しんでいたアルシュが不意に告げる。

「?何かあるの?」

 心当たりが無くて首を傾げていると

「あぁ、例の来訪者が到着する予定なのでな。」

 人族の王族関係が来るというアレのことかぁ。どんな人たちなのだろう。

「・・・ところで、その人達はどうやってココに来るの?」

 魔の森は物理的にも人が入れないようになっている。

 狩猟の際に一度だけダイにお願いして森の境界付近まで行った時に確認したのだが、森の周辺には深い谷間と猛毒の下草に、茨の群生に隠されるように鋭角に尖った岩肌などなど。

天然の城塞が築かれていたのだ。

「ん?・・・あぁ、奴らは空から来るから大丈夫じゃ。」

 綺麗に手入れされた人差し指で上を示すアルシュの行動に、自然と僕の視線は上を仰いだ。

「空から?」

 いまいち、要領を得ない僕の姿を面白そうに見ながら

「まぁ、明日の楽しみにしておくとよいじゃろう。」

 クスクスと楽しそうに笑い出すアルシュ。

 首を傾げながらも、その意見に同意するしか無かった蒼溟だった。


◇ ◇ ◇


 次の日の朝。

 蒼溟は狩猟に出れないかわりに、庭で柔軟などをして身体をほぐしていた。

「よくよく考えれば、僕って村の人たち以外の人間に会うの初めてなのでは?」

 自分が生まれ育った村はかなり閉鎖的で、稀に外から来る人は大抵、村の誰かの親戚縁者か知り合いしかいなかった。

 まったくの見知らぬ他人に出会う。

人間限定ではあるが、初めてのことである。

 そう考えると好奇心と緊張で、ジッとしていられないのだ。

「どんな人たちなんだろうなぁ。王族って言うから、一人ではないだろうし・・・。」

 色々と想像していると、薄青色の球体生物が頭の上に乗ってきた。

「みゅ。」

 落ち着け。とアオが言ってくれるが、僕としては人生初のことでムリです。

 幼い頃に初めて村に行った時のように、ドキドキが止まらないのだ。あの時は親友の柊が僕をすぐに受け入れてくれたのだが、今回は王族――特権階級の人だ。

「失礼の無いようにしないとな・・・・・ん?」

 ここまで想像して、ふと思ったのだが。

「来訪したからと言って、僕が会うとは一言もなかったよね?」

 アオを見つめて確認すると、アオもそう言えば・・・みたいなことを言った。

「「・・・・・・。」」

 うわっ、恥ずかしい!!

 僕はすっかり、その人達と会って挨拶をするつもりでいたが。冷静に考えてみれば、僕はアルシュの客分ではあるが関係者というわけではない。

「なんか、すごい思い違いをしていたのか!」

 身悶える僕を慰めるように、アオが肩にのり頬をすり寄せてくれる。


 恥ずかしさと好奇心などで心中がざわつくままに身体を動かし続けたおかげで、少しずつ冷静になってきた。

 その内に、村で教わった体術の鍛錬をこなして気持ちが落ち着いた頃には僕の身体は汗だらけとなっていた。

「ふぅ。」

 呼吸を整えて静止、礼をして終える。

「すっかり汗だくだな。・・・・ダイにお願いして、お風呂に入ろう。」

 アオと一緒に、折角だからと思い露天風呂の方へと向かった。


◇ ◇ ◇


 蒼溟が一人で身悶えている頃、アルシュはというと・・・。

「ハーディ。どうせ来るのはヤツなのだろう?ここまで、装う必要もあるまい。」

 執事としての役割を果たすべく、ハーディがアルシュの身の回りを整えていた。

「気心の知れた仲であるからこそ、装う必要もあるのですよ。」

 ハーディが用意した洋服を手に、嫌そうにするアルシュをすました様子で諭す。

「いや、しかし・・・。」

 それならば、いっそのこと獣姿になろうとする主に対して。

「アルシュ様、さすがにそれはどうかと思われますよ。それに、このお姿をご覧になられた蒼溟様の姿を見てみたくはありませんか。」

 ハーディの甘言にイタズラ心を刺激されるアルシュ。

「う~む。・・・ハーディがそこまで言うのであれば、致し方あるまい。」

 決して、蒼溟の様子を見てみたいからではないぞ。と言い訳をしつつも楽しそうな様子のアルシュを気付かれないように生暖かい眼差しで見つめるハーディであった。


◇ ◇ ◇


 二人が準備を完了した頃に、魔の森の上空を一匹の飛竜が宮殿へと向かっていた。


 多種族が移動手段として使用する竜族のほとんどはドラッヘと呼ばれる種族で、それぞれ生息区域などにより呼び方が違っている。

 『ヴォレドラッヘ』 空を飛ぶ能力をもち、比較的温厚な性質。知能もほどほどにあり、人族を始め多種族と友好な関係を築いている。

 『トレホドラッヘ』 陸を走る能力をもち、馬などよりも速く、力も強い。普段は従順だが、戦闘となるとその強靭な肉体と牙で敵を粉砕する。馴らすまでが大変でもある。

 『ナジェドラッヘ』 水辺に生息して水陸両用で活動できる。実は、ドラッヘと称される竜の中では一番、手懐けるのが難しい。だが、船の護衛としてはピカ一でもある。


 一般的には、飛竜・陸竜・水竜と呼ばれている。

 そのヴォレドラッヘの中でも中型の飛竜に乗った人物は、森の宮殿上空を数回ゆっくりと旋回したあとに屋上庭園へと降り立った。

 颯爽とした仕草で旅装束の人物が降り立つと、すぐさまファンタスマ族の一人が飛竜の世話の為に近付いてきた。その者に手綱と荷物を任せて、扉付近で待ち構えている執事のハーディへと向かう。

「お久し振りです、ハーディ殿。」

 涼やかな声で挨拶をする旅装束の人物はゆっくりと外套のフードを取り払らう。

 長い髪を後頭部辺りで一つに括ったその人物は穏やかな微笑みを浮かべる妙齢の女性であった。

「ようこそお越し下さいました。フェリシダー様。」

 ハーディはゆっくりお辞儀しながら挨拶を返すと、自らの主であるアルシュの下へと案内をすることにした。


 宮殿の中央部、4階部分でアルシュはその人物を迎えた。

「お久し振りです、フェリシダー様。」

 ハーディに案内されて来た女性を立ち姿のまま迎え入れると、親しげにお互いを軽く抱きしめあう。

「お久し振りです、アルシュ様。元気にしていらっしゃいましたか。」

 至近距離で顔を見合わせながら、嬉しそうにフェリシダーが訊ねるとアルシュも微笑みを返しながら答える。

「えぇ、元気ですし、ここ最近は楽しいものを見つけましたので。」

 互いに身分ある者同士で知り合いでもあるが、それ以上に二人には親密な友好的な雰囲気が醸し出されていた。

「それは、手紙で書かれていたアレで?」

 ちょっとイタズラめいた眼差しを向けると、アルシュも楽しそうに頷く。

「きっと、フェリシダーも気に入ると思うの。」

 途端に二人の口調は親しい友人同士の会話へと変わる。

 それを微笑ましそうに眺めるハーディは、レーヌ族の一人に何かを尋ねて確認をとる。

「そういえば、ここにはフェリシダーだけで来たの?」

 いまだに、互いの身体を触れ合わせながら彼女の後ろを一応確認してみるが、人影も何もいない。

「彼が貴女を一人で行かせるとは思わなかったのだけど。」

 アルシュの言葉に苦笑とも諦めとも取れる表情をした後に

「事前に連絡はしておいたけど・・・新しい玩具に夢中で、少し遅れるみたい。」

 ため息混じりに答えるフェリシダーの様子に、いつものことね。と答えるアルシュ。

 それから、二人は室内に準備してあった席へと向かい。しばし、互いの近況を雑談と共に語り合った。


「それじゃあ、アルシュはその少年を宮殿に住まわせているの。」

 フェリシダーが少し驚いた様子で聞くと

「えぇ。まさか、放り出すわけにも行かないでしょう。それに、4枚羽のインフィニティ殿も共にいるのだし。」

 アルシュは、それ以外にどうしろと?と言外に訊ねる。

「へぇ、その子すごいわねぇ。4枚羽なんて私もお目にかかったこと無いのに。」

 感心するフェリシダーに苦笑するようにもう一つ付け加える。

「それに、レーヌ族の長まで気に入っている様子よ。」

「ふわぁ。何か、ますますその子に会うのが楽しみになってきたわ。」

 目をキラキラさせながら、フェリシダーはまだ見ぬ異邦人の少年に抑えきれない興味を覚えた。

 思い出したかのように突然、アルシュが

「さっき言っていた彼の新しい玩具。今度はどんなものに夢中になっているの?」

 その問いに、何かを思い出したのかため息をつきながらフェリシダーは耳慣れない言葉を言う。

「飛翔艇っていう乗り物によ。」

「ひしょうてい・・・?」

 その言葉をおうむ返ししながら、自らの記憶をたどってみるが、該当する単語はあいにくと出てこなかった。

 そんな困惑気味のアルシュに苦笑しながら、

「まぁ、空を飛ぶための乗り物と思ってくれてかまわないわ。」

 この世界の一般的な移動手段は先に述べたように、ドラッへという竜種によってだが、知性ある種族である為、誰でも扱えるというわけではない。

 そうなると、庶民の移動手段としては昔ながらの馬や牛など。水上では小舟を竿などで上手に水流を利用して行う。空に関しては、使用できないというのが常識だ。

「でも、空の移動ならヴォレドラッヘでも十分だと思うけど。」

 飛竜での移動手段は、確かに上流階級でなければ基本的には無理だが、何事にも例外というものは存在する。竜自身が固定の主に忠誠を誓う場合には階級など関係が無いのだ。

「私もそう思うのだけれど。本人いわく、男のロマンだそうよ。」

 肩をすくめて、やれやれと呆れた様子を表現するフェリシダーに苦笑を返しながらも、アルシュは久々の気心の知れた女友達との会話を楽しむのだった。


アルシュの言葉使いが違いますが、その理由はそのうち出てきます。

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