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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第四章 ???
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4-9 不幸中の幸い ②

話的に区切りが良いところまで一気に掲載してみました。

目次で確認してみて下さい。

 城へと戻った蒼溟(そうめい)への事情調書は簡易なものでアッサリと終わった。


 蒼溟が今回の事件に関与している疑いは、彼を知るもの達の大半が「ありえない」と判断していたが、王族や一部の臣下の審議のみでの無罪放免は後世への要らぬ前例を作ってしまうという判断から、キチンとした調書と犯行現場不在証明を明らかにしたのである。


「まぁ、蒼溟クンが首謀者という見解をする方々が居たとしたら、逆にその方たちの方が怪しいですからねぇ。」

 リベルターの言葉に宰相補佐であるインテグリダーも苦笑いする。

「つまらん嫉妬で己の立場を危うくするような愚者ならば、この際に申し出てくれた方が私としてはやりやすいのだがな。」

「そんなアホを貴族地位にしたままにしておくほど、この国は優しくねぇと思うぞ。」

 ジンは呆れながらも返す。

「それでも妄執から行動する方々もいますから。そもそも、魔の森でのファンタスマ族の件を鑑みてもありえないのですけどね。」

 リベルターはドコから聞きつけたのか早々と届いた事件詳細についての遠まわしな問い合わせの書類を手にとりながらため息を吐く。

「こういった事には、対応が迅速だな。」

「税務関連の書類提出もこれくらい迅速だと大変、ありがたいのだがな。」

 ジンとインテグリダーは書類を速読すると放り捨てるように机の上に投げる。

「それで、サングィス国兵たちは何か話したか。」

「方術師見習いを攫った方は大体の事情は話ました。もう一方は、黙秘したままですね。」

「カルとハチはなんと?」

「こちらもコレといった情報はありません。」

 ジンとリベルターの会話に嘆息するインテグリダー。

「はてさて、いかがしたものかね。」


◇ ◇ ◇


 後宮内の一角ではいまだに緊迫な雰囲気が漂っていた。


 無事に保護されたパシエンテを専任方術師であるメディシーナが現場で行われていた蒼溟の簡易診察の状況メモと共に精密検査を行っていたのだが、その間も彼女の意識は戻らなかった。


「ふむ。蒼溟はどう診断する。」


 正式な手続きを異例の速さで終えた蒼溟は無罪放免と同時に後宮専属方術師のメディナにより拉致されるとすぐさま、医療行為の補佐役として酷使されていた。


「以前に検査した際の(仮称)流動型魔素鉱石と思われるものが綺麗に無くなっています。異物により滞留していた気の流れも正常になっているし、メディナさんが行った魔力検査での様子から正常体になったと判断しても大丈夫だと思います。」


「気になるのは、魔術を過度に使用した直後の魔技師たちと類似した検査数値ということだな。これでは、パシエンテ様自らが魔術を使用したことになる。」


「術式の媒体に使用された為に体内の魔素、および魔力を行使された…という考えは?」


「それも考えられるが、今回の場合だと当てはまらない。特にパシエンテ様は流動型魔素鉱石の為に魔術の行使は当然ながら、心身の体調を崩されるくらいの影響を常に受けていたはずだ。そんな状況下で身体に好影響以外を残さずに行使することは不可能だ。」


「特殊な魔道術式によるものでしょうか?」


「今現在は、それ以外に考えられないな。幸いなのは、健康体になられたことくらいだろうが…目覚めていただかない限りは安心できないな。」

 メディナと蒼溟はベッドに眠る姫君を見つめるしかなかった。


「ふぅ、ここからは私が付いていよう。蒼溟は悪いが他の補助へと回ってくれ。」

 メディナの言葉に静かに頷くと蒼溟はフェリシダーの元へと向かった。



「蒼溟、こっち。」

 移動中に姫百合部隊の副隊長、パルウムが手招きしてくる。

 蒼溟が近づくと袖を引っ張られ、パシエンテの私室へと連れていかれた。


「後は、お願い。」

 扉の前で蒼溟に懇願するとパルウムはすぐにどこかに行ってしまう。


 主の居ない部屋の中には、よく知った気配を感じる。

 敬愛する主人であり、妹のように可愛がっていたパシエンテを守ることが出来なかったフェリシダーがいるのだ。


「…入るよ。」

 軽くノックをした後に返答も聞かずに扉を開ける。

 部屋の中央で顔を俯かせているフェリシダーが一人直立していた。

 部屋の内部は争った痕跡も不審者が侵入した様子も無いことから、事件後に清掃されたか元々、ここで拉致されたわけではないのかのどちらかだろう。


 僕が入って来たことに気付いているはずだけど、フェリシダーは身じろぎもしない。無言で物思いに沈んでいた。


 部屋の隅に置いてある茶器で紅茶を入れると僕は自分とフェリシダーの分を手に持ち無言で彼女に差し出す。

 最初は無視をしていたフェリシダーも僕が引かずにそのままにしながら、自分の紅茶をのんびりと飲んでいると諦めたのか目を開けて静かに受け取る。


「蒼溟、行儀が悪いぞ。」


 そんな言葉に肩を軽く上下して聞き流す。

 元々、お行儀の良い方では無い。知識として(ちがや)姉さん達に叩き込まれてはいるけど、正直な気持ちは窮屈で苦手である。必要だとも理解しているけど、なんとなく面倒臭いと思ってしまうのだ。


「私は何をしていたのだろうな…。」

 僕から受け取った紅茶をボンヤリと眺めながらフェリシダーがポツリとこぼす。


「常に姫様のそばに居ながら、肝心な時に役に立たないなんて…何のための護衛だっ!!」


 一滴の言葉がすべり落ちれば、後はとめどなく溢れてくる言葉たち。

 誘拐事件を未然に防げなかった悔しさ、攫われた姫様の安否に心配で冷静に行動できなかった未熟さ、発見の知らせを受けたときの安堵とその糸口すら見つけられなかった不甲斐なさ、そんな色々な感情と自責の思いが彼女の口から止めようもない勢いで語られていく。


「わ、私は…なんの、ために…。」


 悔し涙で濡れた彼女の姿を、僕は場違いにも綺麗だと思った。

 様々な感情を溢れさせ、力尽きたかのようにその場にゆっくりと座り込むフェリシダーのそばに僕は無言で寄り添うように座る。


 それから、どれくらいの時が経ったのか分からない。

 涙していたフェリシダーが落ち着いてきたのを感じた僕は、身につけていた〔圧縮袋〕のポシェットからハンドタオルを取り出し、魔術で冷たく濡らすと赤くはれ上がった彼女の目元へと静かにあてる。


「ありがとう」


 小さな声で呟くようなお礼の言葉に微笑む。

 彼女のそばの床の上に放置されていた紅茶を回収して、自分の分と一緒に入れなおす。温かい紅茶を受け取り、今度はゆっくりと飲むフェリシダーの姿にもう、大丈夫かな?と判断する。


「パシエンテ様に身体的な外傷は一切なかったよ。詳細は不明だけど、今まで虚弱体質の要因となっていたものも無くなっていて、かえって健康体になっている。後は、精神的傷害がないかどうかの確認くらいかな?」


 僕の報告にフェリシダーは静かに聞きながらホッと安堵の息を吐く。

 方術師メディナのところに連れて行ったときに簡易詳細は聞いていたのだろうけど、明確な情報として改めて聞いて安心したのだろう。


「ヤツラは、一体なにがしたかったのだろうか。」

「さぁ?確かなのは、ロクでも無いことを企んでいそう…ということかな。」

「姫様もだけど、他の王族の方々も今後、狙われるのだろうか。」

 不安そうにするフェリシダーの姿に僕は思わず、頭を優しく撫でてしまった。


( あ~、やっちゃった。でも、フェリシダーの髪もサラサラで気持ちいいなぁ。 )


 藍色のポニテールにされた彼女の頭部を撫でていた手は、次第に後ろに流された髪に指を絡めさせるように優しく梳いていく。

 フェリシダーは恥ずかしいのか、紅茶のカップを両手で包み込むようにして持ちながら俯く。

そんな姿も可愛らしくて僕は自然に微笑み、寄り添いながら彼女の髪を梳く。


「コホンッ! あ゛~、お二人さん。よろしいかな?」


 ビクッ!と身体をはねさせたフェリシダーは驚きで落としそうになったカップをワタワタと持ち直そうとする。


「いい雰囲気のところを邪魔して悪いが“まだ”任務時間中なのでね。そろそろ、今回の事を陛下たちに報告しようと思うからついて来てくれ。」


「わ、わかりました。」

 フェリシダーの持っていたカップを回収すると同時に、彼女はすぐさま直立すると敬礼をして返事をする。その頬が赤くなっているのはご愛嬌だろう。


「いやぁ~、ほんっとぅ~に申し訳ないねぇ~(笑)良い雰囲気を壊してしまってぇ~。」

 扉を開いたまま、近くの壁に背を預けながらニヤニヤと笑いつつもフェリシダーをからかう姫百合部隊の隊長ナダール。

「ち、ちが…」

「えっち」

 慌てて否定しようとするフェリシダーよりも早く、扉からヒョコッと顔を覗かせた副隊長のパルウムが無表情でポツリと零す。

「なぁ――っ!?」

「フェリシダーって、以外にも大胆だったのねぇ~。」

「年下の彼氏に優しく癒される女騎士…いやぁ~ん、エッチぃ~。」

「あぁ~、あの二人だけの世界。姫様の私室で燃え上がってしまう情熱、理性ではいけないと思いつつもその熱情に身を任せてしまうイケナイ二人…くぅ~、萌えるわぁ~。」

 いつの間にか扉付近に居る他の部隊員の言葉にフェリシダーは顔どころか耳や首下までも真っ赤に染め上げる。

「ち、ちが―――うっ!!!」

 絶叫するフェリシダーにその場のみんなが笑う。


「クスッ。本当は心配で扉の外で様子をうかがっていたんだよねぇ。」

 気配にさとい蒼溟は、最初から待機していたパルウムたちを知っていたのだが、あえて伝えることもしなければ、指摘するつもりもなかったのである。


 良い人たちに囲まれて良かったね、フェリシダー。


 お忘れの方もいらっしゃるかも?なので、補足説明を…。

 人族は魔素を扱えないので魔術を使えません。ですが、異邦人たちは人族でありながら魔素を扱えるので魔術を使用することができます。

 ジンや蒼溟は異邦人なので魔術が使用できます。フェリシダーとリベルダーもジンの奥さんであるフィランがエルフェ族の為、魔術が使えます。

 逆に王族は人族なので使用できません。(パシエンテは例外です)

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