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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第四章 ???
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4-7 破られた平穏

 事の起こりは突然だった。

 よい気分で帰宅する四人の男たちのもとに一通の連絡が来たことから事態は急変していく。


 リベルターのポケットにしまってあった簡易連絡装置から緊急の知らせが届く。

「どうかしましたか?…ええ、はい。」

 カルやハチ、蒼溟から少し距離をとって通話をするリベルターの姿をボンヤリと眺めていると、突然こちらを振り向き一瞬だが鋭い目線を送ってくる。

「どうしたんでしょうか?リベルターさん。」

 ハチが戸惑いながらカルに問いかけるが、心当たりの無いカルも首を傾げる。


 通話を終了させたリベルターの姿は、すでに蒼溟の義理の兄ではなく、ラント国の師団長としての雰囲気を纏っていた。そこに先ほどまでの友好的な感じは微塵もなく軍人としての鋭くも凛々しい気迫を放っている。

「サングィス国からの使節団、護衛騎士たちにより我が国の第二王女が攫われました。」

 その報告にハチは息を呑み、カルもサングィス国の王族としての顔を見せる。

「それは、何時ごろのお話でしょうか。」

「ご自分に心当たりが無いとおっしゃるつもり…「リベルター兄さん」…どうしましたか?蒼溟クン。」

 二人の会話を遮るように蒼溟が小声ながらも鋭い声で割り込む。その目線は王城方面を注視したまま何かを探るような感じだ。

「こちらに向かって数名の人間が来る。一人は何かを背負っているのか足音が重い。」

 その報告にリベルターはすぐさま周囲に展開していた監視者に指示を出す。


 四人が気配を殺し、その場で待っていると細い路地裏から続く角を後方を気にしながら三名ほどの不審者たちが走りこんできた。

 監視者たちも含めて、その不審者を注視すると暗闇に溶け込むように暗褐色のマントを身に纏った男性らしき者たちの一人が同色のマントで包み込んだ荷物を肩にかつぎ、それを前後で護衛するように動く残りの二名。その動きは明らかに軍人のそれであった。

「ハチ、奴らの動きを止めるぞ。蒼溟とリベルター殿は肩に担がれている者の救出を優先してくれ。」

 カルは鋭い眼差しを不審者どもに向けながら、素早く指示を出す。リベルターもその内容に異論は無いようで静かに頷き了承する。

「いくぞ。」

 気負う様子もなく、静かに素早くハチとカルは暗闇に身を躍らせると同時に前後に居た護衛を無言で叩きのめす。それに気付き無言で剣を抜き放つ不審者に、わざと自分の顔が見えるように蒼溟から購入した閃光弾を使用する。

 王族であるカルテリアーとその専属従者、プリーハチの姿に驚愕し、一瞬スキが出来る。その刹那に蒼溟が襲い掛かり無力化すると同時に肩に担がれていた人物を確保する。リベルターはすぐ様その人物を蒼溟より受け取り、覆われていた布を取り払う。

「要人を確保。どうやら目的の人物ではなく、彼女の傍にいた方術師見習いの娘のようだ。」

 監視者たちも使用していた特別仕様の通信機に確保した人物を通達する。それを聞いていたカルとハチはすぐさま無力化した不審者を縛り上げ、刈り取った意識を戻させる。


「クッ、よもや貴方様がこのような場所に居られようとは。」

 憎々しげに呟く不審者の一人を無言で蹴り上げるハチ。それを当然のように睥睨するカルは不審者に見えないように蒼溟に黙っているように伝える。

「貴様らは誰の命でこのような不始末をしでかした。」

 ハチは不審者の中でも一人だけ平然とこちらを見据える男の髪を掴み上げて問う。無言で質疑を拒絶する男にハチは容赦なく尋問用の簡易道具を使用する。

「グハッ!…ふっ、不始末だと。それは低脳な奴らに媚を売る貴様らのような売国奴のことだろうがっ!!」

 吠える不審者の男を今度はカルが無言で蹴り上げ、その横面を足蹴にする。

「低脳なのは貴様らだ。王族たる私がわざわざこのような僻地に来る本当の理由を貴様らのような低俗な者たちに伝えると思うのか?この愚か者がっ!!」

 今までのカルテリアーからは想像も出来ないくらいの覇気と王族としての気迫に、足蹴にされた男は目を見開き硬直する。

「貴様らのように考えの足りぬ愚か者どもが無計画に動くために、我ら王族が自らの身をもって動かざるおえなくなったのだ。真に売国奴は貴様らのようにぐっ直な忠誠心を持つ者たちを影で煽り、唆し、決して表に出ようとしない卑劣な者たちのことを言うのだ。」

 王族としての威圧をかけながらカルテリアーは言い切る。その堂々たる姿に足蹴にされた男も拘束された男たちも押し黙る。

「貴様らが我が国を憂いいる気持ちも分からないでもない。だが、こと国政に関しては王族たる我らの責務にして義務だ。それを真の忠誠心をもつ騎士を唆し、愚劣な盗賊まがいの命令を下すものがサングィス国を担えると本当に思っているのか。」

「そ、それは…。」

「我が国は優位種族である人族が治める国だ。その威光を貶めるような命令を下す者が真に国を憂いいる者か?優位種族としての矜持を示すことも出来ない狭量な者が真に国を率いていけると思うのか?貴様らが行ったことは愚劣な奴らにただ踊らされただけに過ぎん。」

「「「……も、申し訳ございません。」」」

 そこからは、必要な情報を得るのは容易かった。


◇ ◇ ◇


 第二王女パシエンテの救出の為に急遽組まれた部隊は、サングィス国の護衛騎士たちに出し抜かれた王宮護衛担当の近衛騎士数名からの小隊、姫百合部隊からフェリシダーを頭とした小隊とサングィス王族のカルテリアーに従者プリーハチ、蒼溟に彼らを監視していたラント国の暗躍部隊数名だった。


「ハチ、第二王女を攫った連中は討伐しても構わん。憶測ではあるが、そいつらは唆した側の連中に違いない。」

「ハッ、承知。」

「蒼溟、手遅れになる前に奴らに追いつくぞ。」

 カルの言葉に頷くと、蒼溟は得た情報をもとに別路で逃走する連中を様々な術式を展開して追跡する。

「見つけたっ!カル、それに他の人達も速度を上げます。」

 補足した対象を見失わないようにしながら、蒼溟は今まで以上に速度を上げると同時に隠密性も数段あげると他の者たちが辛うじて追跡できるかどうかの高速移動を開始する。

「クッ、ハチ!決して遅れをとるなっ!!」

 カルテリアーの命にプリーハチと同じく疾走する暗躍部隊の一人がさらに速度を上げる。



 到着した場所では、不可思議な魔道術式が展開された後であった。

 地面に直接展開された術式はすでに完了した後で淡い残滓を残しながら消えていく途中でその中央では、身じろぎ一つしない第二王女パシエンテの姿がある。

 円形で展開させたであろう術式の外円部に数人の横たわる人影と二人の小柄な影があったが、蒼溟は無言でその二人に奇襲をかける。それと同じくしてプリーハチは人影と王女の間に割り込み、一足先に到着した暗躍部隊の兵士一人が王女の身柄を確保する。

「おっとぉ!」

 蒼溟の抜き手の見えない居合いに紙一重で回避した小柄な人影が素早く後方へと飛び退くが、続けざまに放たれる攻撃をことごとく回避していく。

「遊んでいないで、撤退するよっ!」

 もう一人の小柄な人影の言葉に彼らが逃げ出す前にハチは素早く小刀を投擲する。その小刀は言葉を発した小柄な人物の外套をかすり、わずかにその顔をさらけ出すことに成功する。

「お、女っ!?」

 王女を確保した暗躍部隊の兵士が呟く。

「チッ!」

「ヘッ、ドジ!」

 あざ笑うもう一人の人物の一瞬の油断を突いて、蒼溟は刃を構え、さらなる猛攻撃を開始する。

 それらを紙一重で回避していくが徐々に攻撃がかすり、その人影も外套から顔が識別でき始めるが、その表情は「この戦いが面白くて仕方が無いっ」と語っているかのように獰猛な笑みを浮かべている。

「クッ!さっさと撤退するぞ、この戦闘狂ッ!!」

「ヘイヘイ、そんじゃまぁ。またなぁ~!」

 懐から謎の道具を取り出すと地面に叩きつける。それと同時に爆発と膨大な煙幕が展開される。蒼溟はとっさに目を瞑り、気配により攻撃していた人影へと手を伸ばすが外套を引き千切るだけに終わってしまう。

「クソッ!逃したかっ!!」

 ハチが悔し紛れに煙幕の中、投擲を数回繰り返すが効果は無かった。


**** ??? ****


「このバカがっ!!危うく捕まるところだったじゃないか。」

 逃走する少女が相棒である青年を殴るが、青年は気にした様子もなく笑う。

「まあまあ、依頼は達成したんだからいいじゃねぇかよ。…とアレ?一個足らないや。」

「全然、よくないわ。これで任務失敗と判定されたら仲間が危ないのよ!ちゃんとそこのところ分かっているのぉー!!」

 逃走しながらも器用に青年を蹴飛ばす少女に

「はっはっはっ、大丈夫だって。それに俺たちクリミナルがそう簡単にやられるかよ。まぁ、奴らには誰に喧嘩を売ったのか思い知らせてやるがなぁ。」

 少女の懸念を笑い飛ばしながらも、自らの仲間を罠に陥れた連中への報復を思い描き獰猛な笑いをこぼす青年に少女も不満ながらも安堵する。

「まぁ、いいわ。一応、依頼の品は確保してあるのだし。大体、連中の策を成功させるのが任務でも無いのだし…いっその事、失敗すればいいんだ。」

「そうそう、俺たちは俺たちのやり方でやっていけばいいの。連中みたいに頭の固くて愚かな策に乗ってやる必要なんて無いね。」

「能天気ね。まぁ、今はそれが頼もしいと感じるのだから私も落ちぶれたものだわ。」

「あ゛あ、それはさすがに酷くねぇ?」

「うるさいっ!さっさと依頼を完了させて報復を開始するわよ。」

 少女の言葉に朗らかに笑いながら青年は了承すると、ラント国から脱走するのであった。


**** ****


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