4-6 男連中の内緒話といえば
良い感じに酔いが回ったプリーハチの暴挙により、自らの性癖?を自白しなければならなくなったカルテリアー。そんな主従を好奇心から煽るリベルター。カルと同じく、いじられキャラ属性をもつ蒼溟も巻き添えを受けて酒の席での会話はどんどん下ネタへと変わっていくのであった。
「それで、カル様の好みは何ですか?」
目を好奇心でキラキラさせながら、こちらを問い詰めるハチに心底嫌そうにしながらも勢い付けの為に酒を一気にあおるカル。
「オレの好みは…常識のある平民の娘だな。」
「なにそれ?そうじゃなくてさぁ~。もっと、胸は控えめで小柄な体型がいいとかさぁ。顔は整ったのもいいけど、可愛らしい方が好みとか。そういう答えを期待しているんですけどぉ~。」
不満たらたらの表情で自分の好みを暴露していくハチに、知らんとばかりに顔を背けるカル。
「いいんだよ、体型も顔も特に好みは無い。とにかく、常識的な思考とほどほどの欲で収まる範囲の性格でさえあれば。」
「あ~、カル君。何かトラウマでもあるのかな?」
拳を握り締めて語るカルテリアーの姿にリベルターが面白そうにたずねる。
「年頃になると色事を教わるのだが…。」
俯きコップを両手で包み込みながらポツポツと語りだす。
( ふむ、面倒臭いので要約すると…。初めての相手が優しげで純朴そうな容姿でありながらその性格は正反対の強欲娘で、様々な技を駆使しされて篭絡されるならまだしも、逆に弄ばれる。次の講師役は色々な技や心得を教えてもらい信頼し始めると同時にアッサリと裏切られた。…なかなか、得がたい経験ですが女性不信になりそうですねぇ。 )
「ほとほと嫌気が差して、色町で遊ぼうとしたら…男娼と間違えられた。」
「あー…、もしかして色町の宿屋で殺気を放っていた時のことですか?」
ハチが心当たりのある出来事を言うとカルは無言で酒をあおる。
「ふっふっふっ…婚約者候補には女装を強要され、侍女連中にはおぞましい妄想をされ、野郎騎士連中は指導と称して身体を撫で回してくるわ。ロクなことがねぇ!!」
八つ当たりにハチの首を締め上げるカルに、笑いを堪えるために机にうつぶせになって肩を震わせるリベルター。そんなカルの手を取り、涙目で同意するのは蒼溟であった。
「全てとは言えないけど、よく分かります!!」
「蒼溟…。」
「可愛いと言っては女装を強要され、異性に興味を抱く前に様々な色事に関しての技と性知識を覚えさせられる。挙句には、実践と称して…。」
最後の方は涙ながらに小声で語られた為に、すぐ近くにいたカルにしか聞こえなかった。しかし、驚愕に目を見開いていたカルの顔色が悪くなり、その顔は滂沱により濡れていた。
「蒼溟…」「カルテリアー…」「「お互いによく耐えたっ!!」」
体育会系の連中のようにガッシリと抱き合い、力強く互いの背を叩く二人。
「あー、そういう事をするから要らない誤解を植えつけるんじゃないのかなぁ~。」
「まあまあ、きっと彼らにしか分からない苦労があるのですよ。」
「そう言う割には容赦なく爆笑していましたよねぇ~。」
白けた目線で呟くハチに、リベルターは笑いながら流す。
「まぁ、それはさておき。カル君は良識がある女性が好みとして、蒼溟クンはどんな女性が好みなのかな?」
一通り互いの健闘を称えあった二人はようやく落ち着くが、リベルターの質問により場は再び盛り上がり始める。
「僕ですか?」
悩み始める蒼溟に他の三人が不思議そうに首を傾げる。
「えと、その前にですねぇ。“好み”ってどう判断するんですか?」
「「「はぁ~!?」」」
「好意とか興味を持つだと、女性全般になるのですが…。」
蒼溟の答えに急遽、円陣を組む三人。
「(なに、実はかなりの女好きだったのか!?)」
「(その割には、工房での対応は普通だったぞ。)」
「(以外ですねぇ。もっと純情だと思っていたのですが…それとも、色狂いなのでしょうか?)」
「(うむむ。この中で一番の未熟かと思いきや、実は熟練者だったとは…うらやましい!俺にもお裾分けをくれっ!)」
「(冗談はさておき、実は女性関係にトラウマ持ちすぎて無意識にストッパーをかけている可能性もありますよ?)」
「(どういう意味だ?)」
「(ですから、被害を最小限にするためにあえて嫌悪や忌避を除外し、好意を持つことにより回避しているのではないかと。)」
「(あー、確かに。別に性別を抜きにしても好意的に接してくる相手を邪険にする奴は少ないからなぁ。)」
「(だが、それは諸刃な対応だと思うぞ。好意的=肯定的と認識して色々な事をやられかねない。)」
「(カル様?なにやら実感がこもっていそうなお言葉ですが。)」
「(かつて、早々に喰われたことがあるからな。)」
カルテリアーの言葉に微妙な表情をする二人。
「コホン。蒼溟クンは、女性を見ていてついつい目線を送ってしまう部位とかはないのですか?」
リベルターが意識を切り替えるように空咳をしてから蒼溟に問う。
「う~ん、髪かなぁ…。綺麗な髪を見るとちょっとドキドキする。」
「以外にも髪フェチかよ。」
「あと、指先とかも?」
「うわぁ、さすが女性全般を好意的に見ると言っただけはある。実はフェチというよりも女性であれば全てに目がいくのでは?」
「おやおや、単なるムッツリスケベ君だったのかな。」
「「リベルターさん、その意見に賛同です!!」」
蒼溟の性癖はこの時より、ムッツリスケベと認定された。
「むぅ、ムッツリじゃないと思うけど…。そういうリベルター兄さんはどうなの!」
全面否定できないことが悔しい蒼溟は、反逆とばかりにリ問うと、
「ふふふ、私ですか?」
余裕の笑顔で迎え撃つリベルターの姿に、腰が引ける蒼溟とカル。逆に一言も聞き漏らすまいと身を乗り出すハチ。
「私はですねぇ。少しだけ、加虐性癖がありましてね。若い頃は少々加減が出来ずに問題を起こしたこともありましたが、今の嫁さんと出会ってからは円満な関係を築いています。」
「(ゴクリ)それは、奥さんに嗜虐趣味があった…ということッスよね?」
あらぬ妄想をしながらハチが確認する。
「ふふふ、そこはそちらの判断にお任せしましょうかね。」
「まっ、まさか!!自らの手によって目覚めさせたのですか。リベルターさん!いや、師匠と呼ばせて下さい。そして、是非ともその技巧を伝授して下さいっ!!」
リベルターの手を掴み血走った目で頼み込むハチ。
「(蒼溟は、どっちだと思う?)」
「(そうですねぇ。意表をついて…実はリベルター兄さんの方が嗜虐趣味に目覚めたとか。)」
「(あ~、確かにありそうだな。加虐趣味の連中で相手にしてやるのが快感というよりも相手からそうされたい願望から行うヤツも居ると教わったしなぁ。)」
「(後は、リベルター兄さんの様子から男性や敵に対しては容赦なさそうだけど、好意のある女性に対して嫌がることとかはしなさそうだから。)」
「(でも、嗜虐趣味だとソレが“ご褒美”になるから案外、言葉通りかもしれないぞ。)」
「(う~ん、どっちだろう。)」
リベルターとハチから距離をとりながらコソコソと話す蒼溟とカル。
そして、実は狭い店内に居る監視者たちも内心で驚愕していた。
**** 監視者たち ****
「(えぇ~、マジですか!?)」
「(あそこの夫婦は理想の家庭と称されていたはずなのに…)」
「(なんだ、お前たちは知らなかったのか?)」
「(ちょ、ちょっと。何か知っているんすか!?)」
「(アレが若い頃は父親並みにヤンチャでなぁ。母親によく叱られていたんだが、嫁さんを貰った途端に落ち着いてなぁ。嫁さんと母親の仲も良好なことから女性上位の家庭の一例として独身男性陣から密かに恐れられていたんだぞ)」
「(な、なにぃ――――!!)」
「(亭主関白だと何かで聞いたことがあったのに、実態はその逆だったとは…)」
「(なるほど。だから、理想の家庭と言われていたのですね)」
若干一名だけ、納得したとばかりに頷くが他の連中は密かに涙していた。
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