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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第四章 ???
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4-5 人事とは思えないから

 すっかり仲良くなった三人は、依頼の装備品の試作で色々と遊びながらも完成させ、最終的には工房責任者のガリーに品質チェックをしてもらい無事に納品となった。


「いやぁ~、魔工術式って面白いものだなぁ。」

「確かに。もっと複雑で面倒臭いものだと思っていた。」

 プリーハチとカルテリアーの言葉に蒼溟(そうめい)は笑う。

「難しい理論を基に考えると確かに複雑だけど、いくつかの基礎術式をそのまま覚えて組み合わせるだけでも簡単で楽しいと思うけどね。」

「いやいや、理屈ではそうだけど…まず、覚えるのが面倒臭い!」

「さすがチンピラもどき。その理由だと、全ての物事に当てはまりそうだが。」

「世間知らずなごく潰しさんはおしゃいますけどねぇ~。全ての物事を真面目に受け止めていたら、ストレスで頭が禿げ上がりますよ。」

 ハチの言葉に思わず髪に触れてしまうカル。どうやら心当たりがあるらしい。

「(いや、私は大丈夫なはずだ。だが、父上と母方の伯父を見ていると少し不安に…いやいやお爺様は高齢でも髪は豊かな方なのだから)…大丈夫だ!」

「長い葛藤でしたねぇ~ (-人-)合掌」

「手を合わせるなぁー!?」

 すでに日常の一部となってきたカルとハチのやり取りに周りにいる魔技師たちも笑う。


「おやおや、すっかり君たちはココに馴染んだようですねぇ。」

 にこやかに笑いかけてきたのは、蒼溟の義理の兄であるリベルターだった。

「ちわーす。」

「こんにちは、お邪魔しています。」

 素直に挨拶するカルとハチだが、実は初対面の時に警戒心からかなり失礼な態度をとってしまったことがある。その結果、リベルターから微笑みながらの教育的指導と称したイタズラを延々とされたのである。

「カルとハチは、もうすぐ帰国するのですか?」

「父上よりも長兄次第ですねぇ。」

 ちなみに、カルとハチの本来の身分もすでに周知の事実となっている。だが、ここに居る魔技師たちは「知らぬ存ぜぬ」の態度をとり続けてくれる為、逆に彼らの信頼を勝ち得たのである。

「まぁ、兄弟が多いと単純に家族愛だけではすまないと聞くからねぇ。逆にそれが強みになることもあるから、一概には言えないらしいけど。」

 リベルターの言葉に苦笑しか返せないカルをフォローするようにハチが会話に割り込んでくる。

「そんなことよりも、聞きたいことがあるのですが。」

「何ですか?」

「ここの同好会とかに俺たちも加入できますか?」

「あ~、無理ですね。必須条件を満たしていない者の加入はもちろん、会誌もお渡しすることは禁じられておりますので…。何か、興味を惹かれるような同好会があったのですか?」

「(がっくり)実は気になることを聞いたもので…『幼児の正しい愛で方』という素晴らしい方法を伝授してくれる同好会があると。その他にも“可愛いは正義である!”という格言もその同好会が提唱したらしいと…くぅ~っ、俺は何故にこの国で産まれなかったのだぁーーーっ!!」

 本心からなのか、崩れ落ちるように床に膝を付き、そのまま両手をつきながら男泣きするハチに一部の魔技師たちが同情していた。


( よもや、サングィスの王子付き従者がインテグリダー様と同類とは… )

 内心でドン引きしながらも表面上は笑顔を崩さないのはさすが、リベルターといえよう。


「チンピラもどきではなく、変態野郎だったとは…。」

 隠すことなくドン引きするカルは、ハチから瞬時に3歩以上後方に離れている。

「いえいえ、カルさん。それは認識の誤りだと思いますよ。」

「えぇ、我々は紳士なのです。彼もまた正しき紳士の心を持つ(おとこ)なのです!!」

 カルの両肩にそれぞれ手を置きながら語る魔技師たち。彼らこそ、ハチに同情の眼を向けていた同類たちである。

「は?」

 変態と認識したハチから逃げ出したつもりだったが、真性の変態共につかまり逆に彼らの熱すぎる偏愛と主義主張を聞かされる羽目に陥ってしまう。

「おぉ~~、ここにも同胞が!!」

 さらにそこへハチも加わり、カルは完全に包囲され逃げることも聞き流すことも出来ずにひたすら忍耐を強いられる。


「いやぁ~、ものの見事に墓穴を掘りましたねぇ。」

「リベルター兄さん、助けないの?」

「無理ですね☆」

 あっさりと見捨てるとリベルターは蒼溟を伴って隅の方で休憩をすることにした。


「蒼溟クンは、彼らとすっかり仲良しになりましたねぇ。」

 リベルターの言葉に蒼溟は楽しそうに笑いながら頷く。


 東雲(しののめ)村の住人たちは蒼溟よりも年上ばかりである。唯一の年下は親友である柊の妹、芽衣だけ。

 カルやハチとの付き合いは、海も含めて男三人で色々なイタズラや遊びをしていた頃を思い出す。だけど、村では住人全員が家族のような感じだったからなのか、海や柊に対しては年の近い男兄弟な気持ちだった。対してカルやハチは蒼溟が初めて対等と思える男友達な感じがして新しい発見や感情のすれ違い。ちょっとした見栄や意地による対抗心など、村では感じたことのない気持ちに蒼溟は戸惑いながらも楽しくて仕方が無いのである。


「村では弟扱いだったから、今はとっても楽しいよ。」

「そうですか、良かったですねぇ。」

 微笑みながら相槌を打つが、リベルターはちょっと心配してしまう。

( 折角できた友人たちですが、相手はサングィスの王族とその従者。時と場合によっては敵どころか相手と表面上の友好を示しながら欺かねばならなくなる。この義弟はそれを受け止めることができるのでしょうか。 )

 なんとなく、幼子に対してするように蒼溟の頭を優しく撫でてやる。それを嫌がるでもなく、ごく自然に受け入れる姿にリベルターは( …その前に、男として成熟を促してあげた方がいいかもしれない )と真剣に思ってしまった。



◇ ◇ ◇



「さて、本日の夕食ですが…折角なので、大人への第一歩として飲みに来てみました。」

 工房から成人指定範囲にある隠れ家のような雰囲気のお店の前まで来た。

 入口は周囲の店舗の看板などにより分かりにくく、狭い。かろうじてお店の営業を知らせる小さな看板により、その存在が分かる程度。初見で入るにはためらう店構えで、常連さんかその紹介を受けた者以外はとても入りづらそうな感じである。

「おぉ、さすがはリベルターさん。分かっているぅ!!」

 リベルター兄さんの提案にハチがもろ手を挙げて喜ぶ。

「酒よりもご飯が美味しいといいなぁ。」

「もちろん、味も量も保証しますよ。」

 カルの言葉にすかさず答える兄さん。

「未成年でもいいの?」

 確か、この国の成人は一応18歳だったはず。

※ 種族によっては成人扱いの年齢が違ってくるが、法律上は統一してある。

「何事も経験です!!大人がいない時に無茶をされるよりも目の届く範囲でハメを外してもらった方が安心しますし、それと成人した先輩として後輩に正しい遊び方を教えるのも大事な役目ですからねぇ。」

 にんまりと笑うリベルター兄さんにイタズラ実行直前の海兄さんの姿が重なって見えた。

( 経験上、きっとろくでもない事になるのだろうなぁ… )

 若干、諦めモードの蒼溟をよそに皆は店へと入っていく。


カランカラン、扉の上部に取り付けてあった鈴が軽やかに鳴る。

「おうっ、いらっしゃい!!」

 入口での客を選ぶような雰囲気とは打って変わって、店内はフレンドリーな呼び声と落ち着いた明るい感じの居酒屋だった。


「店主、おススメを四人前とエールを頼む。」

 リベルターが先に注文をして、適当な席につく。程なくして、つまみ料理とエールが出てくると「乾杯!」というと、リベルターとハチは一気に飲む。

「くぅ~~、美味い!!」

「仕事の後には格別ですよねぇ。」

「ほぅ、結構飲みやすい味だなぁ。」

「?あまり、美味しいと感じないかなぁ。」

 二人の呑み助は嬉しそうに飲み干すとすかさずに次の注文をするが、カルと蒼溟はチビチビと口にしながら料理を食べる方を優先する。


 ほどよくお腹も膨れ、酔いも回ってくると徐々に本音が暴露し始めてくる。

「リベルターさ~ん。大人の“遊び”といえば、酒の次は女ですか!?」

「女性ですか?さすがにソコへ連れて行くのは難しいですねぇ~。」

「えぇ~~、行きましょうよぉ~。大人の一歩手前のお年頃といえば、異性に興味津々な時期でしょう。」

 酔っ払い特有のなれなれしい態度で、リベルターの肩をゆするハチに苦笑しながらもリベルターもどうしようか悩む。

「犯罪行為を起こす前にスッキリさせてもらって来い、チンピラもどき。」

「おやおやぁ~、カル様も行くんですよぉ~。頭の中で妄想ばかりしていないで、お姉さま方に相手してもらったらどうですか?このムッツリスケベ☆」

「誰がムッツリだ!それを言うなら、年中発情しているお前の方だろう。」

「ハッ!男なら女性を目の前にして発情しなくてどうするんですか。それが魅力的な幼女ならなおさらですよっ!!」

「幼い子供を対象にするなっ!この犯罪者予備軍。」

 何故か胸を張って自慢げに答えるハチを容赦なく殴るカルだが、効いていないのかアッサリと体勢を戻すと真顔でこんな事を聞く。

「カル様。もしかして…ですが、女性相手では機能しないのですか?」

「はぁ?どういう意味だ。」

「異性ではなく、同性でないとその気にならないのかと…。大丈夫です!このプリーハチ、己の貞操を守りつつも遠巻きに護衛させて頂きます!!」

「勝手に人の性癖を決めるなっ!!」

 椅子から素早く立ち上がるとカルは全身の筋肉の捻りを利用した破壊力抜群の拳をハチの顔面へと炸裂させる。

「いやぁ~、なんとも素晴らしいツッコミですねぇ。」

 リベルターは楽しそうにお酒を飲みながらカルを賞賛する。

「それでは、カル様の好みってどんな女性なのですかぁ~。」

 吹き出た鼻血を店員から貰った布切れで拭きつつ執拗に聞きだそうとするハチに、もの凄く嫌そうな顔しつつもカルは悩む。

「(この酔っ払いを適当にあしらってもいいが、絶対に後で面倒事を起こすに決まっているからなぁ。ここは正直に答えた方が後の被害が少ないか?)」

 小声でブツブツと思案するカルに、リベルターはとっても黒い笑顔で

「素直に答えた方が良いと思いますよぉ~。ほらぁ、酒の席でのお話ですから、好奇心が満たされれば収まりますよ?」

ちゃっかりカルの小声を聞き取った挙句に助言…というよりも面白がるように発言する。

「クッ!ならば、貴様らにも答えてもらうからなっ!!」

 指差して宣言する先には何故か蒼溟が居たりする。

「えぇー!?僕もですか。」

「一人だけ逃がさんっ!!」

「とばっちりだぁ~。」

 ぼやきながらも結局は想像通りに巻き添えになった事に諦めも含めてため息を吐く。飲む前にいじられキャラ(カルテリアー)が一人居れば大丈夫かな?と思ったのは内緒である。

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