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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第四章 ???
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4-4 言い訳って難しい

 サングィス国の第六王子と従者の視点。

 主人公(蒼溟)よりも書きやすいかも (^_^;)


 ラント国の一般商店街の店主からすすめられた“国営商店街”にある雑貨屋へ行き、事情を話すと今度は“魔工術式研究会”という名前の工房を教えてくれた。


「いやぁ~、タライ回しってサングィス特有かと思っていましたけど、よその国にもあるんですねぇ~。」

「オレの稼ぎが、銀貨8枚…。あんなに働いたのに。」

「さすが、サングィス国貨幣ですよねぇ。他国に喧嘩売りまくりの上に腐れ上層部が大半を占めているから貨幣の信頼度が一番低い。小国よりも劣るんじゃないですかねぇ?」

「はぁ~、仕方がないだろう。協会はともかく、ギルドは慈善事業ではないのだからな。あんな見栄だけの実益無し、統一性無し、発展性無しの無いものだらけの経済状況では貨幣といえども信頼も価値も低迷するさ。」

「そのうちに自家中毒で滅びそうですね。」

「いっそのこと、綺麗に消えた方が国民のためになりそうだな。」

「うわっ、自分の存在意義すら否定しそうな発言ですねぇ。」

「腐れ根性の連中に利用されて消えるよりも有意義な消え方に思えてしまうのは何故だろうなぁ~。」

「あー、それは何故か厄介事に巻き込まれる体質の性で、見なくてもよいものをたくさん見てきた弊害だと思いますよ。」

「トラブルメーカーと言いたいのか。」

「否定できます?」

「……チッ」


 そんな雑談をしている間に工房の入口へと辿り着き、扉付近にいる警護らしき者に事情を説明してみると、あっさりと応接室へと通された。


「そういえば、うちの国の魔技師たちはここよりも腕があるのでしょうかね?」

「無いだろうな。技術知識に関しては不明だが、職人としての腕は劣っているだろう。」

「でも、装備品とかは奇妙な形や奇抜な特性とか色々な物がありませんでしたか?」

「アレは古代研究所の奴らが研究成果として提出してきたものだ。現代の魔技師としての技術力で作成したものでは無い。それに……まぁ、気のせいであって欲しい情報も聞こえてくるがその信憑性はかなり低い。」

「なるほど。研究所の連中が関わっているのなら、厄介事しかないですよねぇ。」

「正直、かかわり合いたく無い。」

「無理でしょうねぇ。気付いた時には渦中(かちゅう)に陥っていますから。今回もきっと同じだと思いますよ?」

「…現実逃避したいな。」


 従者の言葉にうな垂れるように俯く第六王子。そんなときに「遅くなってすまない」と言いながら汚れた作業服を着た体格の良い中年男性が入ってきた。


「待たせたな。俺はここの工房責任者のガリーだ。護身用のアイテムが欲しいという話だが詳しく説明してもらってもいいか?」


「サングィス国の使節団所属のプリーハチです。ハチとお呼び下さい。こっちは使節団の小間使いの一人でカルといいます。」


「カルです。お忙しい中、突然の訪問をお許し下さい。」


 三人はそれぞれ握手をして和やかに挨拶を終えると席に座る。


「堅苦しい言葉使いは無しで頼む。それで、わざわざ工房まで来たのは何か事情でもあるのかい。」


「それではお言葉に甘えて…大して込み入った事情ではなく、金銭的な事情からですね。他の店主殿に話したところ、ここを薦めてくれたのでお伺いさせてもらったのですよ。」

 従者のハチが誤魔化すことなくアッサリと事実を言う。


「ほぅ、金銭面か。ちなみに予算はどれくらいだ?」


「銀貨6枚くらいで、殺傷力よりも拘束力などの行動制限を重視したものが欲しい。」

 第六王子の言葉にガリーはしばし考える。


「銀貨6枚で行動制限か…既製品ではちょいと緩いが銀貨1枚で売れる。ただし、使い捨てだな。護身用というよりも捕縛時の補助として使われるくらいだな。」


「装備できて任意で複数回使えるものは無理か。」


「安全保障のできない試作品なら何とかできるが、どうする?」


 ガリーの言葉にハチは顔をしかめる。

「(カル様、やめた方がいいと思いますよ。安全保障のない試作品なんて実験台になれといわれているのも同然ですよ。)」

「(確かに…だが、万が一の時に備える分には使えるかもしれないぞ。)」

「(逆に危機的状況下で誤作動を起こされる方が危ないでしょう。)」

「(むぅ、ここは既製品で購入した方が安全かぁ。)」

「(使い捨てでも十分に使えると思いますけど。)」

 従者の言葉に悩む。


「試作品の性能確認は購入前にすることは可能か?」


「あぁ、もちろんだ。使えない物を売るほどあこぎな取り引きはしねぇよ。」


「それなら、試作品でお願いしたい。」

「ちょ、マジですか!?」


 ハチの言葉を手で遮りながら、カルは懐から銀貨6枚を机に置く。

 その様子を面白がるように見つめながら、ガリーは試作品の作成担当者を呼んでくると席を外した。


「おいおい、世間知らずのごく潰しさんよぉ~。正気ですかぁ?」

 ガリーが席を外して気配が遠のくのを確認すると同時に自らの主である第六王子に問いかける。

「やかましい、チンピラもどき。既製品を購入したところで効果が薄いのであれば、買う意味もない。それに、世間に出回っている物では最悪の場合、対策を立てられて効果がまったく無い状況になりかねん。」

「だから、試作品を購入するんですかぁ。それは、さすがに博打過ぎるでしょう。」

「ある程度の効果が見込めるのなら、それに賭ける。それに、新たな技術開発のきっかけになるかもしれんだろう。」

「それは、生き残れたらの話ですよねぇ。」

 額に手を当てながらため息はつくがカルテリアー様は一向に気にした様子はない。まったく、この人は思いつくままに行動するから…面白い。


 従者と王子という立場でありながら、威張り散らすことも無く。それどころか、自分が分からないことや対処できないことに対して、割と素直に助力を求めてくる。

 それがどれほど希少で勇気のいることなのか、分かっていないところも面白い。仕える側としてみれば、自らを頼りにされ、そして努力を怠らない主はとても魅力的だ。それなのに当の本人は能力不足なことを嘆き、落ち込んでいる。王子としても主としても力不足で他の兄弟より劣っていると思い込んでいる彼だが、使用人たちからの信頼と人気は彼が一番であり、彼が呼びかければ呼応する者は多数存在するだろう。


( 王位継承権争いなど、この人は一切望まないだろうなぁ )


 手持ちの銀貨2枚で懇意にしている使用人たちにお土産を買おうと画策している主の姿に苦笑してしまう。

 望めば、遥かな先を見据えることのできる器量と能力を持ちながらも、争うことよりも平穏を選ぶカルテリアーに誇らしさを感じてしまう自分も似たもの同士なのかもしれない。


◇ ◇ ◇


「それでは、腕輪型と足輪型の二種類を作成いたしますね。」


 あの後、工房責任者のガリーに連れられてきた蒼溟(そうめい)という魔技師見習いの少年とどのような形にするのか話し合い、あらかたの取り決めを済ませた。

 ガリー曰く、見習いの中でも有望で面白いものを作る奴だと紹介されたが、少年の自己申告ではイタズラグッズを主に作成していただけらしい。


「蒼溟、この後の予定は無いのだろう?お客様に商店街を案内してやれ。」

 ガリーの言葉に少年は素直に頷く。

 ハチが空腹ということで、とりあえず美味い食べ物屋を案内してもらうことにした。


「くぅ~、腹減ったぁ~。できればガッツリと食えて酒の美味い所だといいなぁ。」

「…仕事中だろうが。」

「酒は命の水なのです。食事をより美味しく頂くための必須アイテムなのです。」

「チンピラもどきから飲んだくれにジョブチェンジかぁ?」

「失礼なっ!ここはモドキからチンピラに上位変化しただけですよ。」

「開き直るんじゃねぇっ!」

 オレたちのやり取りに少年はクスクスと笑う。

「プリーハチ様とカル様は仲良しなのですねぇ。」

「あー、少年よ。敬称や敬語はいらんぞ?ハチと呼んでくれ。」

「オレもカルで構わない。」

「わかりました。僕のことも蒼溟と呼んで下さい。」

「蒼溟、敬語が抜けてないぞ。」

 ハチの指摘に蒼溟は苦笑する。


 年齢が近いこともあってオレたちは直ぐに打ち解けて、蒼溟が案内してくれた店に付く頃には気心の知れた友人同士のような感じになっていた。


「おぉ、ボリュームも味も文句無し!悔やまれるのがアルコールを摂取出来ないことだな。」

「誰が飲ませるかっ!」

「確か、ノンアルコール飲料ならメニューにあったと思うけど?」

 蒼溟の言葉にハチとカルがメニュー表を探す。

「あ、あった。でも、ノンアルコールだと単なる炭酸飲料なのでは?」

「それよりも美味いのか?」

「さぁ?僕は未成年だからお酒の味を知らないし、気分的なものなんじゃない?」

「よし、ここはチンピラもどきに試させよう!」

「分かった!不味かった場合はごく潰しが飲むんだな。」

 主従は引きつった笑みを互いに浮かべ、机の下で苛烈な足の踏みあいをしながら注文を追加する。

「「…美味い!?」」

「ウチの国の酒よりも数十倍は美味いっ!」

「驚いたなぁ。ノンアルコールでこの美味さだと、本来の酒は更に美味いのか?」

「カル様、ここは是非とも購入していきましょう!!」

「だが、ここまで美味いと値段も高そうだぞ?」

 二人の会話にお店の人がおススメの安くて美味いお酒を教えてくれる。さらには、試飲としてノンアルコールの物を幾つか出してくれた。

「くぅ~、カル様。もう俺たちココに永住しませんかぁ~。」

「ノンアルコールで酔ったのか?器用な奴だな。」

「だってぇ~、サングィス国ではあり得ないと言えちゃうこの優しさと料理の美味さ!!もうコレだけでも永住希望の理由には十分でしょう。」

「なるほど。永住権の為に婿入りして、嫁さんにこき使われつつ飲んだくれて、最後には嫁の両親からダメだしを喰らって、家を追い出される…なかなか素敵な将来設計だな。」

「グハッ!?絶対に無いとは言い切れないのが、なお悲しい…。そぅめ~い、苛めっ子がいるよぅ~、シクシク。」

 嘘泣きと共に蒼溟に寄りかかるハチを足蹴にするカル。そんな二人を笑いながら食事をする蒼溟。

「あははは、二人は不思議な関係だねぇ。」

「ん?どうしてだ。」

 ハチの問いに蒼溟は少し考える。

「立場的にはハチの方が上なのにカルの事を敬称で呼んだり、それをカルが平然と受け流す辺り実は立場が逆なのかと思えば、軽口を言い合ったり、戯れる姿は唯の友人同士にも見えるから…どんな関係なんだろうと思ったんだ。」

 この言葉に慌てたのは主従だった。

「あー、ほら。上司とはいえ、使節団内では下っ端だからカルと似たような扱いなんだよ。」

「そうそう。それに、ハチとは付き合いが長くて、いまさら上司や部下といわれてもついつい友人同士の対応になってしまうんだ。」

「まぁ、カルの態度が横柄だというのも原因だろうけどね。」

「(ムッ)…ハチが上司らしく無いのも原因かな?」

「(ヘェ~)…カルが口やかましいのも要因じゃねぇ。」

「(ムカッ)…ハチが職務怠慢で敬意も何もあったものでは無いからでは?」

「(ホゥ~)…カルの品位の無さが大きいと思うけど。」

「「(怒)…やんのか、ゴラァア!!」」

 途中から青筋立てながら引きつった笑みで応酬していた二人がとうとう、お互いの額をぶつけ合うようにしながら、睨み合いだした。

「プッ!クスクス…あははははー。」

 二人の息のあったやり取りに蒼溟は笑いを我慢できなくなり、大笑いをする。

 さすがに店内に響き渡るような笑い声に、カルテリアーとプリーハチは恥ずかしくなって互いにそっぽを向きながら飲み物を飲むフリをするのであった。



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