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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第三章 激動する状況
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3-24 寝耳に水…ですか?

 魔の森のファンタスマ族の村で行っていた露店商も順調に終わり、残りの材料を蒼溟(そうめい)が採取しに行った頃、ジンはアルシュと密談をしていた。


「悪いな。蒼溟を自由にしておいてやれなかった。」


 ジンの言葉にアルシュは予想していたのであろう。笑いながら答える。


「蒼溟自身が決断をしたことなら、別にいいですよ。それに、他国よりも近場で、なおかつ我々が友好関係を築けているラント国なら無所属でいるよりは安全でしょう。」


「すまんっ!!本当は協会関連のシエンシアに放り込みたかったのだが、ウチの腹黒宰相に阻まれちまった。」


「インテグリダー殿ですか…。まぁ、大丈夫だと思っておきましょうか。」


「そういえば、その腹黒タヌキから聞いたが…サングィスのバカ共がちょっかいを出してきているそうだが?」


「さすがに情報が早いですね。隠すことでも無いので、正直に言えば…小競り合い程度ならここ数ヶ月でかなり増えているわ。」


 アルシュの言葉にジンが目を細める。その真剣な表情にアルシュも気を引き締めて情報交換をしていく。お互いに推測なども交えて考察をするが、サングィスの古代研究所の所長が数年前に代替わりをしてからきな臭くなってきたことが分かってきている。


「その所長、異邦人に関わりがあると思うか?」


「無関係…では無いと思います。だけど、純粋な異邦人にしてはこちらの事情などを知りすぎている印象があるから、異邦人の誰かに師事した者ではないでしょうか?」


「ありえるな…だが、どれも可能性に過ぎない。」


「えぇ、確固たる証拠に繋がるものもありません。」


 二人が気分を変えるためにファンタスマ族の執事、ハーディにお茶を頼もうとした時であった。


「会談中ですが、失礼させて頂きます。」


 沈着冷静でめった事では動じないはずの執事がノック後の返答も聞かずに入室してきた。その様子に二人は緊急事態が起こったことを察する。


「蒼溟さまの護衛の方から、蒼溟さまがシュンと共に外に出られたそうです。また、外に展開していたレーヌ族のうち、緩衝役の部族が何者かに襲撃されているようです。」


「ダイ」


 ハーディの報告に、すぐさまアルシュはレーヌ族のダイを呼ぶ。呼ばれて直ぐに、机上に現れたダイは一切の無駄話を省略し、必要なことのみを報告し始める。


〔 交戦中の人族は、サングィスの部隊と判明しました。ここ数ヶ月に及ぶ小競り合いは陽動のようで、本来の目的は別にあると推測しております。 〕


「交戦中の部族からの救援要請は…」


〔 有りましたが、現在は停滞中です。救援はすぐに行えるように近隣に配置済みです。 〕


「理由は…」


〔 “選定の儀”が履行されました。対象は蒼溟、選定の場は交戦中の敵部隊との戦場です。これにより、レーヌ族による干渉は行うことができません。また、防衛戦を行っていた部族からも承認の報告がありました。 〕


「ッ!?選定の内容と成否は…」


〔 …不明とさせて頂きます。 〕


 その言葉にジンが舌打ちをする。

 レーヌ族にとって“主”を定める重要な儀式である。それを彼らが破ることは死んでも無い。それどころか、死んだ後でも妨害するものを阻止しようとするだろう。


「ならば、俺が今すぐに行く。ハーディ、エアバイク(飛翔艇)の準備を急げっ!!」


「畏まりました!」


「蒼溟の安否の保障はあるのかしら。」


 アルシュの鋭い眼差しと殺気に対して、ダイは何処吹く風といわんばかりに…


〔 我々が待ち望んだ“主上”たる方がアノ程度でどうにかなるはずがありません♪ 〕


 楽しげに答える。まるで、これくらいの事など騒ぐに値しないという態度は信頼の現われなのか、願望なのか微妙である。


「“主上”…確か、異邦人たちの世界にある一国の王の尊称だったはずですが。」


〔 それに相当するお方だということですよ、アルシュ様。 〕


 その言葉にアルシュは深いため息しかつけなかった。ジンのように蒼溟の元に飛び出していければ…そう思いもするが、自らに課せられた責務のためにこの森を出ることすらできない。


( 蒼溟…なんでこうも、厄介なもの達に気に入られているのよっ!!変な色気でも振りまいているのかしら。 )


 完全に自分のことを棚上げしながら、心内で蒼溟をなじるアルシュ。もしも、この言葉をフェリシダーが聞いていたらきっと…「アンタもその内の一人でしょ(呆)」と突っ込みをいれられていただろう。



 ジンは、蒼溟の護衛という名の監視役である蜂種族のカラブローネから報告を聞きながら現場に向かっている。


( ちっ、蒼溟。自棄にだけはなるなよ! )


 飛翔艇(ひしょうてい)で上空を可能な限りの速さで飛ばしながら、ジンは心の中で蒼溟の身を案じる。


 ファンタスマ族はその見かけに反して温厚な種族だ。対して人族は良くも悪くも己の欲求に忠実だ。それが悪意であろうと善意からであろうとも状況によっては反転する。

 今回の件を単純にみれば「温厚な種族を己の欲望の為に蹂躙する人族」

 いまだに“良い子”であろうとする蒼溟にどんな影響を与えるか。下手をすれば人族もろとも世界を滅ぼす…なんて極端な考えを持ちかねない。



◇ ◇ ◇



 現場に到着したジンは、その異様な風景に絶句してしまった。


 戦場跡と呼ぶに相応しい、荒れた地に無数の死骸。ここまでは、想定内ではあるが倒されたはずの敵兵の死骸が無傷なのがおかしい。そして、戦場の端辺りにいる少年…蒼溟の雰囲気がガラリと変わってしまっている。


( 遅かったのか… )


 気負い無く佇む蒼溟の姿を見ているうちに、ジンは本能的に戦慄していた。まるで、初めて強大な魔獣と遭遇した時のように死の予感と強者と戦える喜び、生存本能が刺激される感覚にジンは無意識に武者震いをする。


「蒼溟。全部、やっちまったのか…。」


「ううん。数名は殺したけど、他は生きているよ。」


 ジンの問いかけにアッサリと答える。

 その声色に後悔や葛藤といった迷いは感じられなかった。その事にジンは余計に心配してしまう。


( これは、後で面談すっか…。 )


 面倒くさいが避けるわけにはいかない。蒼溟が間違った方向に進むというのなら、それを止める役は自分でなければ納得もできないし、後悔もするだろう。

 ジンはガシガシと頭を掻きながら、とりあえず後処理をすることにした。


〔 蒼溟さま。敵兵の扱いは、救援部隊の獣人族の方々が行い、監視及び周辺の調査は蜂種族のカラブローネ、第八四部隊が行って下さいます。 〕


「ファンタスマ族の子供たちは?」


〔 一部を除いて無事です。緩衝役のレーヌ族、ゴウから早急に森への帰還を推奨されています。今回の事件の詳細は彼らが落ち着いた頃に森の管理役、ダイが行う予定です。 〕


「分かった。捕縛した捕虜をひとまとめにした後に、砦へと向かう。」


〔 畏まりました。ジン様は砦へとお越しください。レーヌ族の長からご報告したいことがあるそうです。 〕


 ジンはそれに頷くと、救援として現れた獣人族たちが荒れた地の片付けと亡骸を丁重に扱い始めたのを見てから、蒼溟より一足先に砦へと向かった。

 蒼溟と直接話す前に、共に居たはずのシュンに状況と考えを聞いておきたかったからだ。


( 蒼溟のヤツ、シュンに対しての口調が変わってやがる…。あー、マジで面倒くせぇ~ )


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