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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第三章 激動する状況
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3-19 深窓のお姫様

「めぇめぇ~♪」

 羊の着ぐるみ姿の蒼溟(そうめい)がご機嫌で鳴きながら移動する。


 着せられた当初は落ち込んでいたのだが、それを哀れに思ったエスタ王が貴重な魔鉱石をあげる約束をした途端に復活した。


(貰った魔鉱石で何を作ろうかなぁ~♪)


 唯一の趣味であった狩猟が出来なくなった現在、魔鉱石を使った道具作りが一番のお気に入りの遊び。ダンジョン内で魔鉱石を獲りに行くのもいいが、狭い空間内で黙々と討伐するのも味気ない。そんな時に王様から予想外のご褒美に蒼溟は嬉しくて、着ぐるみ姿の羞恥心など何処かに飛んでしまったのだ。


(か、可愛い~~~///)

(お持ち帰りして、存分にモフモフしたい!!)

その様子を内心悶えながら見守る侍女集団。表面上は平静を装っているが異様な気迫がみなぎっており、蒼溟以外の男性であるエスタはドン引きしている。


「なんと言うか…雌ヒョウに囲まれた羊だな。」

「あら、蒼溟ちゃんは食べられちゃうのかしら?」

「ひねりも何も無いたとえね。」

 そんな夫婦の言葉に娘であるレイルは色々と言いたかったが、あえて深いため息を吐くだけに止めた。


◇ ◇ ◇


「そ、蒼溟っ!?」


 パシエンテの居室で話し相手を務めていたフェリシダーは入室してきた集団の中にいる一際、奇妙な姿の人物を注視していた。それが、自分の家に居候中の弟分であることに気付いた途端、思わず叫んでしまったのだ。


「ふふふ、可愛らしいでしょう。」

 羊な蒼溟の頭を撫でながらアン王妃はニコニコと笑いながらフェリシダーに言う。


「………。」

 その言葉に絶句しながらもマジマジと観察してしまう。


 モコモコの手触りの良さそうな着ぐるみに全身を覆われて、顔の部分だけ出しているのだが、頭には綿を硬めにつめた巻き角が二本に、ピョッコリと出たヘタレ耳。足元は蹄を再現させて、手の部分は何故か白手袋、首には大きめの鈴と赤いリボンが可愛らしく結んである。まだまだ少年らしい体格の為に、大き目のぬいぐるみのような様相で思わず抱きしめたくなる愛らしさである。


「…めぇ~///」

 頭の先からつま先までジックリと観察されて、さすがに恥ずかしくなってきた蒼溟は顔を赤らめながら誤魔化すように鳴き真似をしてみる。


「か、可愛いーぃっ!!」


 羞恥心から俯いてしまった蒼溟を真正面から抱きついたのは…深窓のお姫様であるパシエンテだった。

 身長差があまり無いため、首の辺りにガッチリと腕を回され、更には全身隙間なく密着された蒼溟はどうしていいか分からなくて目を白黒させるしか出来ない。


「ちょ、ちょっと、パシエンテ。それはさすがに…まずいでしょう。」

 着ぐるみ姿とはいえ、異性に抱きつく妹にレイルが慌てる。


「あらあら、情熱的ねぇ~♪」


 のほほんと答えるアン王妃に襟首を掴まれて動きを封じられているエスタ王は「こらっ、蒼溟!早く離れろぉー」と叫んでいるが何故かビクともしない王妃の手によって近寄ることすらできないでいる。


「気に入ったのか?良かったな、新しい玩具ができて(笑)」


 レダ王妃の言葉に抱きつきながら嬉しそうに頷くパシエンテ。王妃たちは微笑むのみで特に注意する気は無い様子。侍女集団は逆に羨ましそうな表情をするが満面の笑みのパシエンテに苦笑しながら、それぞれの職務に戻り始める。


「いやいや、何を微笑ましい状態にしているのですか。蒼溟は男性なのですよ、万が一にでも間違いでもあったらどうするのですか。」


 慌てた様子で言うレイルにレダ王妃はニンマリと笑う。


「なんだぁ~、妬いているのか?それなら、そうと積極的にいかないといかんぞ♪」

「まあまあ、レイルちゃんもやっと恋愛方面に興味も持ってくれるようになったのね♪」

「お姉様も一緒に抱きついてみますか?モコモコで気持ち良いですよ♪」

 三者三様の見当違いな発言に何処からツッコミを入れればよいのか。


 悩んでいる間にパシエンテがレイルの手をとり、強引に蒼溟共々抱きついた。さすがに二人同時では手が回らなかった様子で、レイルの服をシッカリと掴んで逃げられないようにしている。


「ちょ、ちょっと、待って!?」

「ほらぁ~モコモコ♪」

「パシエンテ、子供返りしていない?…でも、確かに手触りがいいわ、コレ。」

「でしょ!でしょ!」

「う~ん。ちょうど良い大きさで、いい感じかも…。」


 戸惑っていたはずのレイルまで着ぐるみ姿の蒼溟を愛玩動物のように扱い始めた為に、王族たちの暴走を止めるものがいなくなってしまった。


(なんだろうなぁ~。美少女や美女に囲まれて嬉しいはずなのに、涙が溢れてきそうな…この哀しい気持ち。)


 異性どころか、オスとしても認識してもらえない状況に蒼溟から悲壮感が滲み出てきている。


「あ~…。姫様方、そろそろ落ち着かれてはいかがですか?」


 少年のあまりにも哀れな姿に苦笑しながら止めに入る女性は、手に小さなお盆と鞄を持ちながらソファーセットのテーブルへと向かう。

その姿は簡素だが清潔感のある薄緑色の長衣にズボンと白手袋。長い髪を綺麗に纏め上げたメガネ姿、少しツリ目できつそうな印象を与えそうな目元は優しい眼差しと落ち着いた感じの声色により逆に魅力が増し、出来る大人の女性像そのままである。

そして、特徴的な横に長く先端の尖った耳から彼女がジンの奥さん、フィランと同じエルフェ族であることを示している。


「は~い、ごめんなさい。」

「うっ、すみません。」


 姉妹仲良く謝る姿にその女性も優しく微笑むだけにとどめ、パシエンテをソファーに座るように呼び寄せる。


「それじゃあ、行こうか。えと、…羊さん?」


 蒼溟と手を繋いで行こうとするが、名前を聞いていないことに気付いたパシエンテは思わず着ぐるみ姿の方で呼びかけてしまう。


「ぶふっ!そ、そうか。羊か、良い名ではないか(笑)」


 エスタは噴出すと蒼溟の肩をバシバシ叩く。アン王妃の手が外れて、さっそく抱きつかれていた蒼溟に物申そうとしていたのだが、愛娘の言葉に毒気を抜かれてしまった。


「はぁ~、お父様…。パシエンテ、こちらは蒼溟・東雲(しののめ)と言って、私の友人だ。」

「ふふ、それから私たちの家族の一員でもありますわ。」

「まぁ、今日から王族の一員となったのだが…告知はまだしていない。」


 家族から矢継ぎ早に与えられる情報にパシエンテは頭の中が混乱してしまう。少し情報整理をした後で、この羊姿の少年が自分の身内同然と理解すると同時に…

(えと、これからも私の所へ遊びに来てくれる?……わぁ!素敵だわ。)

パシエンテからも玩具認定される蒼溟であった。


 ちなみに、フェリシダーはあまりの急展開に思考停止していたのだが、その要因に祖父であるジンが関わっているだろうと推測。帰宅後には必ず締め上げて詳細を聞こうと固く誓っていたのであった。


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