3-18 諦めが肝心です
「おーい、連れてきたぞぉ~。」
近所のおっちゃんが知り合いを家に連れ帰ったかのような気安さで声をかける王様。しかも、小脇にはいまだに蒼溟を捕らえたまま引きずっている。
「あら?お帰りなさいませ。」
「ん?仕事はどうしたの。さては…さぼったな。」
やさしい微笑みで迎えてくれた女性がアンプレクスス第一王妃でレイルの生母。名前が発音しづらそうという理由で、公式の場以外ではアン王妃と呼ばれている。
勝気そうな言動で現在、王様に凄んでいる女性がレダクテーア第二王妃。二人の王女を産んでいるが、母親らしい落ち着きは見られない。アン王妃同様に、普段はレダ王妃と呼ばせている。
「まぁ、そんなことよりだ。ほれ、コレがこないだ話していた蒼溟だ。」
まるで捕らえた動物を見せるかのように襟首を引っつかむと、どうだ!といわんばかりに前に突き出す。抵抗する気力もないのか、蒼溟はされるがまま宙吊りにされ脱力気味にプラプラゆれている。
「お、お父様!蒼溟は、動物ではないのですよ。」
あわてるレイルをよそに、興味深そうに見つめる二人の王妃に護衛騎士たち。
「へぇ、なかなか可愛らしい顔じゃないか。状態も良さそうだし。」
「あの、レダ様…。一応、ヒトですから。」
「あらあら、首が絞まって苦しそうですわ。」
「…シッポと耳があれば、完璧。」
「ふむふむ。それなら獣人族の少女をコンセプトに着せ替えでもしてみますか。」
「え?部隊長。どうして、そんな発想に…。」
「面白そう…。いえ、王の認可があるとはいえ、後宮内に男性がいるのはどうかと思いますわ。」
「ちょっと、メ…“四葉”。本音が漏れているわよ。」
「…メイド服とか?」
「蒼溟で遊ぼうとしないで下さい。」
「フェリシダーも参加する?ほら、男性に免疫の無いパシエンテ様に無理はさせられないでしょう?」
「部隊長。もっともらしい事を言っていますけど…本音は。」
「「「「楽しそうだから♪」」」」
「レダお母様まで…面白がらないで下さい。」
「おぉ~。女三人寄れば姦しい…というけれど、これはすでに超えているな。」
最初の方こそ蒼溟を見ていたが、ものの数秒で女性のみの会話に発展してしまう。蚊帳の外にされた王様は、いまだに宙吊りの蒼溟と目線を合わせるとそのまま部屋の隅にあるソファへと向かう。
「まぁ、ああなると長いからな。茶でも飲んで待つか。」
「そうですね。」
諦めの表情をしながら、蒼溟も同意する。
村での経験上、ああなった女性陣に近づくのは自傷行為だと理解しているからだ。その様子に王様も同属意識を持ったのか、二人静かに待つことにするのであった。
◇ ◇ ◇
王様と雑談している間に似たような境遇に同属意識が芽生えました。今では、ジンのようにエスタさんと呼べるほどになりました。
「まぁ、蒼溟も苦労しているよなぁ。」
「エスタさんほどでは無いですよ。僕はまだ子供ですし、結婚もしていませんから。」
「そうだな…人生の先輩として、一つだけ忠告しよう。女は結婚すると変わるが、子供が出来ると旦那は付属品以下になるから覚悟しておけ(涙)」
えっと、そんな夢も希望もない忠告は正直、いらなかったです。
「あら?珍しい。エスタが男の子と仲良く雑談しているなんて。」
エスタさんの奥さんの一人、レダ様が侍女の皆さんを引き連れてこちらにやって来て、パチンと指を鳴らすと同時に攫われる蒼溟、それを諦観の表情で見送るエスタ。
「それで、話してみてどうだったのかしら?」
レダの意味深な言葉にエスタは苦笑しながらもあっさりと応える。
「大丈夫だろうよ。それどころか、こちらが害意を持たなければ友好的どころか心強い味方になると思う。ただし、敵に対しては容赦なさそうだけどなぁ~。」
だてに王様業をしているわけではない。詳細な情報などを元に、自らの目と耳に経験や勘なども総動員して相手を見極めていたのだ。
「そう。それなら、パシエンテに会わせても問題なさそうね。」
「あぁ、それ以上に蒼溟の薬学で少しでも健康になってくれれば、親としては言うことなしなんだけどな。まぁ、世の中そこまで都合良くはいかねえだろうけど…。」
娘たちに立場上、親密にしてやれない父親としては色々と心中複雑なのだろう。そんなエスタの姿に苦笑しながらもレダは頭を軽くはたいてやる。
「何を柄にもなく黄昏ているのやら。エスタは他の誰よりも家族を大事にしているし、守ってもいるわよ。」
その言葉に少し照れたようにそっぽを向く王様であった。
王様夫婦が互いの絆を確かめあっている時、攫われた蒼溟は…。
「さぁ、蒼溟さま。早速、着替えを致しましょう。大丈夫です、ここにいるのは着せるのも脱がせるのもプロの侍女たちばかりですから♪」
手をワキワキさせる女性陣に囲まれて涙目になっていた。その様子は、飼育小屋の片隅で震える子ウサギのようで侍女のお姉さま方の嗜虐心を存分にくすぐっている。
「あらあら、皆さんダメですよ。蒼溟さんが怖がっていらっしゃるわ。そうねぇ…リラックスする為にもお風呂に入れてあげたらどうかしら?」
のほほんと更なる追い討ちをかけるアン王妃、その提案にすぐさま飛びつくお姉さま方。
「いやいや、自分で出来ますから!!」
首が取れそうな勢いで左右に振るが「遠慮するな♪」と分かっていながら面白がる姫百合部隊の隊長の手刀によりアッサリ気絶させられると哀れな生け贄は侍女集団によりお風呂場へと連れ去られていくのであった。
「きゃあ♪以外にいい身体している。ほどよく筋肉も付いているわ。」
「そうね、無駄についていなし柔軟性のある良い筋肉の付き方よね。」
「うわぁ、若いだけあってお肌の張りが半端ないわ~。羨ましい!」
「髪質もいいわよ!本当、羨ましいわぁ~。」
「あ、指先や爪もきちんと手入れしてあるぅ。これ、自分でしているのかな?」
「くふ、案外さぁ。フェリシダーがしていたりしてぇ~。」
「キャーー♪自分好みの男に育て中~とかかな?」
「うわっ、それ萌える♪」
「ね、ね、ここも立派だよぉ~。」
「あらぁ~、子供かと思ったら立派な男性ねぇ。」
「あ、ピクッて、動いた!」
「ほらほら、ちゃんと皮の中も洗ってあげないと♪」
「そうね♪敏感な場所だから丁寧に扱ってあげないとね。それとも誰かお口で綺麗にしてあげる?」
「「「いや~ん、エッチぃ~~!!」」」
「こらこら、遊んでいないで早く済ませてしまいなさい。」
「「「「「はーーい」」」」」
気絶して意識が無いのが幸いなのか不幸なのか…全身隅々まで磨き上げられるまで蒼溟の意識は戻らなかった。案外、防衛本能により起きるのを拒否していたのかもしれない。
「えと、この姿は一体…。」
気付いてみれば着替えも済み、自分の姿を鏡で確認した蒼溟は若干うなだれている。
「…羊の着ぐるみ♪」
「お~、似合う。似合う。」
「うん、うん。笑えるほど似合っているねぇ~。」
「(ちょっと可愛いかも)」
「あー、蒼溟。何事も諦めが肝心だ。」
何故か、エスタさんの言葉が一番身にしみる蒼溟であった(笑)
久々の投稿です!!
お待たせして、ホントにすみません(土下座)
少しだけ書き溜めることができたので、その分を投稿していきたいと思います。