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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第一章 胎動
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1-5 森の宮殿 ~お風呂編~

 純白の獣は堂々と森を進んでいく。その姿は悠然(ゆうぜん)としていて、木漏れ日がまるで光り輝く王道ように見えるほどだった。その道中、木々の間から小動物がチラチラと顔をのぞかせては興味深そうに僕の姿を見つめるのを感じた。


 しばらくすると、つた草で出来たアーチ状の門みたいなところを通り過ぎる。


「なんだろう? 門のようにも見えるし、自然に出来たもののようにも感じる。」


 人の幅よりも大きな半円でありながら下部には他の下草なども生えている。人が整えたにしては中途半端な感じだが、周りの景観とは違和感のない感じなのだ。


「・・・・・・ほぅ。」


 僕の独り言に肩越しに振りかえりながら、純白の獣が感心したような言葉を発する。そのまま、何事もなかったように進んでいく。

 アーチ状の門をくぐり抜けた先は、不思議な森の景観よりもさらにすごかった。まず、樹齢何年たっているのかも分からない大木をそのまま利用した建物が建っていたのだ。その周辺は、やっぱり不自然にならないように整えられた木々と下草。


「・・・うわぁ。」


 近づくと大樹も一つの木が育った感じではなく、いくつかの大木が年月をへて絡み合い一つの大樹のように見えているようだった。しかも一種類の植物ではなく、いくつかの種類の樹木で形成されている。その中に遺跡のようでありながら、よく見ると神殿のように所々複雑な彫刻がされた建物が植物と一体化するようにあるのだ。


「・・・・・・・・。」


 言葉無く茫然(ぼうぜん)とする僕の様子に、満足そうな純白の獣は楽しそうに声をかけてきた。


「どうだ?我が宮殿は荘厳であろう。」


 その台詞に一切の異論なく、僕は興奮したようにうなずく。


「ふふっ、なんとも素直なヤツじゃな。」


 微笑ましそうな様子の声で答える純白の獣。そのまま建物の中へと入るようにすすめられて僕は中がどうなっているのかワクワクしてきた。


「まずは、風呂に入って汗を流せ。臭くて話にならん。」


 建物の中はさらに整然とした感じだった。外から見て気付いてはいたが、この建物は二階以上あるようだ。一階部分は、絨毯の代わりに綺麗に刈りそろえられた芝生だった。壁には僕が見慣れた電灯のかわりに光る実をつける植物。下の方には淡く輝くコケが生えているようだった。


「お風呂があるの?」


 ちょっとうわの空だった僕は純白の獣の言葉にようやく返答する。


「あるぞ。なかなか広くて、天然の温泉を加工した露天風呂だ。」


 自慢するように答えた獣の言葉に僕は心躍らせた。

 広いお風呂。しかも、露天風呂なんて・・・・。すっごく、楽しみだ!!


「衣服や荷物はそのまま脱衣所に置いておけ、洗たくが済むまではしばらくここにおるといいだろう。」


 風呂場に続くらしい扉の前で説明する純白の獣。洗たくなんて誰がするんだろう?


「後のことは、その者に聞くがよい。我は他の部屋でくつろいでおるからな。」


 僕が疑問に思っている間にさっさといなくなってしまった。


「その者って、アオのこと?」


 周りに人影はなく、僕の横に今まで無言でついて来ていた薄青色の球体生物を見つめる。


「みょ、みょーん。」


 まかせておけ。というように鳴くアオに・・・意志の疎通が出来ているの?と再び疑問に思いつつも扉の中へと入っていく。



◇ ◇ ◇



「ふわぁ~。なんか、初めてここに来てホントに良かったと思えるよ。」


 まず、脱衣所の中は遺跡の神殿風の建物でありながら、何故か銭湯のようにスノコがひいてあり、木製の棚に木で編んだカゴ。洗面は磨かれた大理石のような綺麗な台座に装飾付きの鏡。光源としての入口付近でみかけた光り輝く実の植物が、まるで装飾のように壁に生えているのはホントに不思議な感じ。

 お風呂場に続く扉を開くと、そこは予想以上に綺麗で広かった。


「うわぁー。(みなと)兄さんのウチのお風呂もすごかったけど、このお風呂もすごいやぁ。」


 そこには一つの浴槽だけではなく、(おもむき)を変えた浴槽がいくつもあったのだ。それも建物の中庭を連想するような四方を石造りと植物におおわれた壁に、上は吹き抜けになっているのか木々の葉の間から空が見える。

 大きな木の節を利用したかのような浴槽に、ヒノキ風呂!と言いたい浴槽。一つの大きな岩をくりぬいた感じの浴槽と、大小さまざまな浴槽の間にも植物や磨かれた岩が配置されておりホントにお風呂場?と聞きたいくらい贅沢(ぜいたく)な作りだった。


「あっ、よく見ると下の方に流れる溝の中に小魚までいる。」


 自然的な感じに僕はとっても気に入ってしまった。素っ裸でウロウロする僕を注意するようにアオが洗い場付近を示してくれる。


「みゅ、みゅっ。」


 早く身体を洗え。という感じの声に僕は慌てて洗い場へと向かった。


「これがボディソープかな?・・・え、こっちは髪を洗うのに使うの?」


 いつの間にかアオとの意思疎通が出来ている自分に気付かないまま、僕は据え置きされているスポンジ代わりのヘチマもどきを使って身体を入念に洗う。

 洗い終わると「今度は自分を洗え」とばかりにアオが丸い身体を僕の膝上に置いた。


「それじゃあ、水を流すよぉ。」


 僕は力を入れすぎないようにゆっくりと薄青色の球体を丁寧に洗っていく。気持ちいい~と言わんばかりに、目を><の形にしてアオが喜ぶ。


 そうして、一人と一匹は今までの汚れを綺麗に落とすと、ゆっくりと湯船につかった。


「あぁ~~、幸せぇ~。」


 恍惚(こうこつ)とした表情でお風呂を楽しむ僕に微笑むような雰囲気のアオ。


「・・・・アオって結構、柔軟性があったんだねぇ。」


 僕と一緒に湯船につかるアオはネリ消しゴムをこねて丸くしたものを引き延ばしたような感じに変形していた。そんなに間延びしているわけではないのだが、球体から変わらないものと思っていただけにちょっと驚いてしまった。



◇ ◇ ◇



 お風呂を心ゆくまで堪能(たんのう)して、脱衣所に出ると僕の衣服と荷物は消えており代わりに作務衣(さむえ)のような服が置いてあった。


「これに着替えればいいのかな?」


 つぶやく僕にアオが肯定してくれる。僕の体型に合わせたかのようにピッタリのサイズだった。靴も草履(ぞうり)のようなものが用意してあったので、ありがたく使わせてもらうことにした。


「それで、アオ。どこへ行けばいいの?」


 たずねると僕の肩くらいの高さを浮遊していたアオはこっちと案内を開始してくれた。

 いくつかの角を曲がり、幅広の通路を進む。そのどれもがお風呂場でみたように、石造りの建築物を損なわず、装飾のように生えた植物が配置されていた。


「ホントに不思議だけど、どこか居心地がいいなぁ。」


 建物の中には木の実の香りなのか、とっても良いニオイがほんのりと漂っている。コケとかが生えている割に湿気(しけ)たニオイがしないのが逆に不思議に思えるほどだ。


「みゅ、みゅ。」


 ひとつの大きな扉の前でアオが立ち止まる。


「この部屋がそうなの?」


 うなずくように上下するアオを確認して、扉を押し開くとそこは花園だった。


「・・・・驚き過ぎて言葉が出てこない。」


 部屋だと思って開いたそこは、三方を木々におおい隠された石壁と目の前の壁があるはずのところは大きく外に開かれていた。そこから見える風景は、キラキラと日差しを照り返す水面の姿。花園の両壁には石造りのベンチが置いてあり、僕が開いた扉の壁側には淡く輝く玉石らしきものが装飾と共に埋め込まれていた。


「ん?ようやく来たか。」


 花園のど真ん中で寝そべっていたのは、あの純白の獣だった。


「遅くなってすみませんでした。」


 僕が素直に謝ると、優しそうな眼差しで


「なに、かまわないさ。自慢の風呂は気に入ってくれたようだしな。」


 その言葉に強くうなずく僕の姿に楽しそうな顔をしてくれる。お互いに微笑んでいると、その間を邪魔するようにアオが飛び込んできた。


「みゃぁ。みゅ、みゅう。」


 仲間外れにするなぁ。とばかりに両者に訴えかける。そして、お互いにいいかげん自己紹介をしろ。とも言ってきた。


「ははは、そんなに拗ねるな。」


 笑って軽く受け流す純白の獣に僕は改めて姿勢を正して、名乗りあげることにした。


「それでは、あらためて僕から名乗らせていただきます。」


 真っすぐに純白の獣の目を見つめる。


「僕は東雲蒼溟。苗字は東雲(しののめ)、名前が蒼溟(そうめい)です。」


 それから、簡単に今までの経緯(けいい)を説明する。ある程度はアオから聞いていたのか、特に質問なく純白の獣は黙って聞いていてくれた。


「うむ、良い名乗りだ。我のことはアルシュと呼んでくれ。」


 純白の獣―アルシュはさらに不思議なことを言った。


「我らが魔の森に住まうものにとって、名は自らを示す大事なもの(ゆえ)に真の名を告げることは容易ならぬこと。すまんな、異邦人よ。」


「いくつか質問があるのですが、異邦人とは僕のことですよね。」


 真の名というのも気になるが、それ以上に異邦人という言葉に何か含みを感じた。


「いかにも。異邦人とは異なる場所から来訪した者たちを言う。」


 それからアルシュは、簡単にこの森などの事も説明してくれた。


「この森は本来、人が入ることが出来ないとされている。一部の認可されている人族以外は女神の加護により動植物以外は立ち入れぬ。」


 魔の森とは人から禁忌とされているだけでなく、物理的にも入ることが出来ない場所だという。仮にこの森に入れたとしても進んでいる内にいつの間にか森の外へと出され、深い霧などによりそのまま何処ともしれぬ場所をさまよい続けるらしい。


「それじゃあ、僕はなぜ大丈夫だったんでしょうか。」


 僕の質問に、アルシュはアオを見る。


「古代の埋もれた遺跡にて、お主を救いだした上に名付ける栄誉まで与えたのじゃ。森に住まう資格は十分にあろう。」


 どうやら薄青色の球体生物であるアオは、この魔の森の中でかなり高位に位置するもののようだ。そのアオが仮称とはいえ、名を付けさせ、さらに容認した。そのことは僕が思っている以上に珍しく大事(おおごと)だったらしい。


「アオはそんなに重要な生き物だったのですか。」


 思わず聞いた僕に、重々しくうなずくアルシュ。


「この者は、この世界を守護する女神の使いとされているのじゃ。」


 動植物にこだわらず、この世に存在する全てのものに加護と天罰を与える女神。その手足であり目でもあり、なおかつ一個の生命体でもある彼ら。


「彼らは個々で経験したことを種族全体の情報源に蓄積(ちくせき)することが出来るらしい。」


 簡単に言えば、誰かが見聞きしたことを遠く離れた別の個体が情報として得ることが出来るということだ。


「さらにその能力は未知数で、彼らの可能性は無限大。それらを踏まえて彼らをインフィニティと呼んでいる。」


 そんなスゴイ存在に僕は、薄青色だったことから単純にアオと名付けてしまったのか。


「・・・・・・・。」


「みゃ?」


 見つめる僕になにか用?とばかりに不思議がる薄青色の球体生物。


「あ~、ちなみにだな。インフィニティの個体優先順位の目安がその羽だ。」


 今のところ確認されている形態は、3種類。一つは雪兎の形で、主に人里などで見かけられる。警報装置かわりとして人と共存しているそうだ。もう一つは、果実のような葉をもつ形で森や草原などでよく見かけるそうだ。


「雪兎と果実の形とでは、どちらの方が優先されるのですか。」


 僕が遺跡でみたアオ以外の球体生物の羽がどんな形をしていたのかイマイチ覚えていないが、トンボのような4枚羽のアオが指示していたのは事実だ。


「確か、果実の形の方だったはず。雪兎には羽が無いとされているからな。」


 どうやら、耳のかわりとして(ささ)のような緑の葉があるのだが、羽として数えはしないようだ。でも、それをいったら果実型の方はモロに葉をイメージしているように思うのだが。

 アオにたずねるような目線を送ると。


「みょ~~~ん。」


 いつぞやのように、知らないよぉ~ん。との返答でした。


「聞くだけムダだぞ。それにインフィニティの言葉は長い間共にいなければ理解できないしな。理解できたとしても、答えてくれるかどうかも分からんしな。」


 苦笑するように純白の獣が教えてくれる。


「アルシュも知らないの。」


 首をかしげながら聞いてみる。


「知らないな。それどころか、魔の森に住んでいることは知っていたが4枚羽が誰かについて回るとは思いもしなかったからな。」


 ホントに以外だ。予想以上の出来事に、驚きの情報で僕は少し疲れてきた。


「・・・・とりあえず、今日のところはここまでにしようか。」


 アルシュは僕の疲れに気付いて提案してくれた。その言葉に感謝しつつ、うなずく。


「それでは、2階にある客間に泊まるといい。荷物も一緒に運ばせておこう。」


 僕はアルシュに御礼を言うと、アオの案内で客室へと行く。気付くと外はすでに夕闇につつまれていた。客室には僕の荷物とテーブルにはできたてらしい温かな料理が準備してあった。


「ホントに、申し訳ないくらいにありがたいなぁ。」


 感謝をしつつ、それをいただく。食器はそのままにして置いて、整えられたベッドへと入りこむ。その上にアオがちょこんと乗ってきた。


「くすっ。 アオとの出会いは、一樹(いちじゅ)(かげ)一河(いちが)の流れも他生(たしょう)(えん)というやつなのかな。」


 ほんのちょっとの付き合いだと思っていたのに、気付いたらアオのおかげで今、こうして居られる。その事がなんだか不思議に思え、そして嬉しかった。



― 見知らぬ場所で最初に出会えたのが、君でホントに良かった。


― ありがとう、インフィニティのアオ。



 眠りに落ちながらの言葉に、何となくアオが照れているような雰囲気を感じつつも安心して僕は意識を闇へと沈ませた。



お風呂はこだわります!心の洗濯ですから♪

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