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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第三章 激動する状況
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3-17 きな臭い情報

 あの後、王様の執務室から後宮へと向かった。


「仕事とか大丈夫ですか?」


 蒼溟(そうめい)の言葉に王様は豪快に笑い飛ばし、

「はっはっはっはっ。家族の交流以上に大切なものなど無い!!」

と執務放棄宣言を堂々としていたけど、後ろからインテグリダーさんが

「後でさせるから問題ないですよ。」

と小声でニヤリと笑うのが怖いです。


「それじゃあ、蒼溟はそのまま後宮に行ってこい。俺はコイツと話があるから。」


 後宮の入口まで来るとジンがインテグリダーさんの肩を鷲摑みにしながら逃がさないようにしている。


「帰るときは護衛の者に一言伝えて下さい。ジンを返品しますから(笑)」


「俺は物かっ!!」


「粗悪品、または取扱要注意品としてフェリシダーに引き取ってもらいましょうか。」


 何だろう…ケンカするほど仲が良い、を体言する二人がちょっと羨ましい。

 今頃、柊は何をしているのかなぁ~。

 …こっちに来る前に頼んでいたカタログを参考に新作でも作っていそうだな。


「ほれほれ、少年。気後れせずに行くぞ!!」


 どうやら、入口付近でぼんやりしていたのを躊躇しているように見られたようで…王様にヘッドロックをされた。しかも、そのまま引きずるように連れて行かれる。


「うわ、わ。自分で歩けますよぉ~。」


「はっはっはっはぁー!!」


◇ ◇ ◇


 蒼溟と別れたジンとインテグリダーは、互いに雑談をしながら彼らの縄張りの一つに向かっていた。


 王城内といえば、人様には言えない秘密部屋から隠し通路があるのは暗黙の了解ではあるのだが。ここは趣味人…奇人変人とも言う…が集う国である。

 面白そう、楽しそうなどの理由で建築職人から王城勤務者、果てはかつての王族連中に様々な立場と権威の者たちが“遊び”でイロイロなカラクリ仕掛けの部屋などを作成、改築した為に複雑怪奇なダンジョンと化している場所が多々存在するのである。

 その一画にジンとインテグリダーの隠し部屋も作られている。


「それで、あの確約から僅かな日数であっさりと意見を(くつがえ)した訳を話してもらおうか。」


 部屋に入るなり、静かに怒気を漂わせながらジンがインテグリダーを問い詰める。


「まぁ、それは悪かったと思っている。」


 口調をガラリと変えてインテグリダーは少しだけ申し訳なさそうにしている。その様子にジンは言ってやりたかった苦情をひとまず抑えて、事情を聞くことを優先した。


「…それで。」


「サングィスのバカ共が最近、不穏な行動を活発化させている。」


 ジンはその言葉に不快そうな表情をする。

 古代帝国の末裔をするサングィス国。

 かつては多くの支配地域を有する大国であったが時の流れとともに内乱と組織の腐敗により縮小していった国でもある。現在では、国領事態は小国と称しても良いのだが、古き時代の技術と知識、遺産により名義上は『大国』扱いの国である。

 また、人族至上主義を謳うために他種族から嫌われている。その主義に染まりきっているのが王族などの支配階級の連中で、他種族を見下すだけではなく自らの利益のためなら使役したり物扱いしたりと外道な行いを平然と行う。


「視察と親睦のためにと称しながら下劣なサルもどきを送ってきた連中か。…あの時に『闇打ち』としてクギをさしておいたはずだが?」


 過度の下劣な行いに怒ったジンたち親子を首謀に苛烈な“子供の教育”を実行し、それを口実に様々な干渉と要望を突きつけてきた外交官を秘密裏にインテグリダーが「第五王子が仕出かそうとした数々の汚点を証拠物件と共に秘密裏に提示」により撃退した。


 実は、これには裏があった。


 サングィス国の歪んだ至上主義の点でみれば、純粋な人族でないラント国の者たちに行ったサルもどきの第五王子の行動は別に問題視するものではないと判断されていたのだ。

 当然、それは交渉役であるインテグリダーも知っていた。その為に提示された情報の内容が問題だったのだ。

 何よりも国を愛するインテグリダーである。第五王子の行いもだが、サングィスの連中の言動も彼にとっては逆鱗に触れるものばかり。よって、彼が下した命令は『これを機に、誰にケンカを売っているのか思い知らせてやりましょう』というもの。

 国王も含めて、腐れ貴族たちも稀にみる協力体制の下に数々の諜報部隊と暗躍部隊、それに国営商店街所属の“(しつけ)の仕方研究会”と”紙一重(かみひとえ)研究会”が参加したこの情報収集戦で圧勝したラント国。提示した情報事態は大した内容では無いのだが、肝心なのは短期間で様々な情報を裏づけ有りで集められたことである。


「言外にサングィスを滅ぼす事も可能だということを示したつもりだったのだが…。連中がそれにも気づかないバカなのか。それとも…」


「…それを覆すことが可能な何かがあるか。」


 インテグリダーの言葉を引き継ぐように呟くと深いため息を吐き出す。忌々しい思いと共に頭をガシガシと引っかきながら考えをまとめる。


「それで、その情報源と内容はどこからだ。」


 滅多な情報では断言などしないインテグリダーが確かな事実として口にしたのだ。すでに裏づけなどしてあるのだろう。


「情報源は…クリミナルからだ。」


 その言葉にジンは目を細めながらインテグリダーを凝視する。

 無言の圧力は互いに視線を逸らすことなく真っ向からぶつかり合い、徐々に殺気にも似た物騒なものへと変化していく。


「どいうことだ。返答次第では、タダじゃあすまさねぇ…。」


 ジンの脅しにインテグリダーも確固たる意思をこめた眼差しで迎え撃つ。


「ふんっ。返答によって変わる程度ならどうとでもない。国にとって必要ならば、私はなんでも利用してみせよう。」


「……ケッ!本当に嫌味なヤツだなぁ、お前はっ!!」


「ハッ!この程度で私を抑えれると思うジンが可笑しいのだよ。」


「いつか後ろから殴り飛ばしてやる…。それで、その情報が奴らの誤報の可能性は?」


 一通りの罵り合いにより、お互いの立ち位置を確認した後は現状の問題に意識を切り替える。


「正直、誤報であってくれた方が何倍も嬉しいものだね。連中からの接触直後に、私の子飼いからも同様の情報が入手された。サングィスの懐古趣味の貴族連中が中心らしいが…。」


 インテグリダーからの情報を要約すると…。


 サングィスの貴族連中の実に半数近くが今回の騒動に関わっているらしい。中心は懐古趣味の奴らとそれに便乗する形の若手の野心家どもで、かつての古代帝国の威光と栄光を取り戻すことを目標に侵略を開始する予定。

 当然、戦をするためには武力が必要である。その当てが古代研究所らしい。

 かつての技術と知識、遺産があるとはいえ、所詮は小国状態である。扱える人材はもちろんの事、世界調和役の協会から幾度となく監査を受けては封印状態にされていたはずだ。


「確か、サングィスの古代研究所は数年前に協会から解散命令を受けていなかったか?」


「正確には、命令ではなく勧告だな。協会はその組織意義上、発言力は強くとも命令権は一切もっていない。その為に、サングィスは再三の勧告を無視して研究を続けてきた。」


「それでも奴らの主張から推察すればウチの国だけではなく、周辺国にもケンカを売るつもりだろう。正直、人材も国力も無い現状では絵空事としか思えないぞ。」


「あぁ、私もそう思っていたよ。クリミナルの連中がこちらに接触してきた理由を聞くまでは…。」


 接触してきた理由だと?

 正直、戦争というのは究極の消耗行為だと思う。資源はもちろん、人材に金銭、技術を消費しながら思想や学術面に悪影響を与えていく。戦争による精神異常や激変した環境は終戦後も続くし、解消できる可能性もかなり低い。

 その反面で、様々な反道徳行為による実験や立証により技術や医術などが飛躍するという皮肉な面も持ち合わせている。

 それは、戦争を体験したことがない世代中心の異邦人たちも知識としては持っている。


「もしかしなくても、俺たちが居るからか。」


「ふむ。解答とはほど遠いが、説得された内容の一つではあるな。ジン、連中から『核兵器のような物があるとしたら、どうしますか』と言われたぞ。」


「なに!?事実なら即刻、破棄だろう!」


「ふむ。やはり、連中の言うようにお前も危険視する兵器なのだな。」


「あぁ、アレは環境面にもかなりの悪影響を及ぼすからな。元々は、新エネルギー技術の一種で開発されたものらしいが、人族というのは扱い方を間違える種族みたいでな。開発した技術者も転用を考えた連中もその兵器の予想以上の威力と悲惨な戦地の様子に使うことをためらうほどだ。それでも、抑止力の一つと称して手放すことが出来ない。」


「まぁ、人族に限らずにヒトである限り、様々な不安や脅威から身を守るために必要な行為ではあるが…なんとも厄介な兵器のようだな。」


「あぁ、使用されれば爆心地に動植物が正常に育たなくなる。」


 ただし、これが『核兵器』であればだ。下手したら核兵器なみの威力を持ちながら、環境に一切影響の出ないものだったら?それがあれば兵力差や国力差すら覆されてしまう。


「最悪、争乱の時代が訪れる。」


「先史文明と古代帝国の間に存在する『空白の時』の再来か…。」


 現代よりも遥かに栄えたといわれる古代帝国、それを軽く凌駕する技術が存在していたとされる先史文明。その間に存在するはずの時の流れを記した史記が存在しないのである。その為に歴史家はその時代を『空白の時』と称している。また、その時代の史記を協会が秘匿しているとか、サングィスの王家が技術と知識を継承しているのではなどの噂が(まこと)しなやかにされているのである。


「事実かどうかは不明だが…『空白の時』は環境の激変により多くの動植物が死滅したとされてる。こんなのを再来させてもらっては困るなぁ。」


「それで。それと蒼溟がどう繋がる。」


 無関係に見えるサングィスの動向と異邦人の蒼溟、異邦人の連中が居るはずの世界の敵クリミナル。異世界の技術を取り込む為なら、何も蒼溟にだけ目を向けるのはおかしい。


「蒼溟は、魔の森の関係者だからだ。


 サングィスの古代研究所連中の中に切れ者が居るようでね。ウチの国の王位継承権の秘儀と魔の森の秘密を嗅ぎつけた様子で、ここ最近になって魔の森への不法侵入を試みようとするバカが軍隊レベルで居るようだ。」


 魔の森は、女神から保護された地域。許可なきものが立ち入ることの出来ない不可侵地域にして謎に包まれた場所でもある。


「蒼溟を媒体に森へと侵入しようというのか? だが、それなら余計に蒼溟でなくてもいいはずだが。」


 そう、魔の森にはジンやフェリシダーに王族連中も入ることを許されている。


「現状で、一番警備が薄いのは蒼溟一人だけ。それに、媒体に使えなくても様々な知識や洗脳による使い捨ての兵士にはもってこいの武力。間違った倫理観でも受け入れやすい年齢層。異世界の技術価値を理解していないであろう滞在期間。」


 次々と理由を挙げられ、ジンは押し黙ってしまう。そのどれもが、可能性ではあるが実現不可能とは判断できない曖昧なものばかりなのである。


「わかったか? いかなるこじ付けであろうと、しばらく蒼溟を拘束できるものであれば良いのだよ。この事態が収まるまで、護衛と監視を外すことができないのが現状だ。」


「だからと言って、王族はないだろう…。」


「ついでに、王族の方々の玩具になれば気分転換にもなるし、護衛の言葉にも素直に従ってくれるだろう。こっちとしては、一石二鳥だ(笑)」


 ニヤリと笑うインテグリダーにジンはうな垂れるしかなかった。


「すまん、蒼溟。俺はこの悪徳宰相(はらぐろダヌキ)に負けちまった。」


「はっはっはっは。智謀(わるぢえ)に関してジンに負けてしまっては、早々に宰相の名を返上しなくはならんからなぁ(笑)」


☆補足説明

王族の王位継承権について一般的には秘匿されています。

そのため、継承権を持たない者たちは自分から放棄したことになっています。

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