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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第三章 激動する状況
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3-12 聞かなきゃ良かった

前回に続き、女性騎士たちの視点です。


ルビを使用した部分が消えていたので急遽、修正しました。

ご迷惑をおかけしてすみませんでした!

 さて、料理中の小猿ちゃんの手際は慣れているのか素早く(なめ)らかだった。

 途中で食材が足りなくなったのか、ジン様に断って森へと駆けたときに、私たちは自分たちの食料を提供しようとしたら断られた。


「普通、森の中とは言え、すぐに獲物を狩れるものかしら?」


「普通は、無理でしょう。」


 くどいようだけど『普通』は無理。


「あっさりと獲ってきたよね。しかも、短時間で下処理まで終わらせてきたようね。」


 そう、どこで処理してきたのかお肉の(かたまり)を手に戻ってきた。

 その所要時間、約半刻ほど。

 なんかねぇ、あまりにも常識を(くつがえ)させられ過ぎて、驚きよりも呆れてきた。


「これ、気にしたら負けかしら?」


「「「「「副隊長なみに、気にしてはいけない。」」」」」


 姫百合部隊の常識だ。部隊長と副部隊長のすることを一々気にしていたら胃潰瘍(いかいよう)になってしまう。

 あ、いい匂いがしてきた。そろそろ完成かな?



「「「「「「「美味しい!!」」」」」」」


 うわぁ、屋外でこんなに美味しいものを食べられるとは。他のメンバーもその美味しさに満面の笑みで食事をしているけど、個人的に色々とツッコミをしたい。


 まずねぇ、ここは野営地なのです。通常であれば、圧縮袋に入れてきた食材や調味料を基本として現地調達の肉や野草を入れたスープ一品と乾パンが一般的。

 現在、私たちが食べている夕食は彩り豊かな野菜炒めを始めに、おひたし、新鮮野菜のサラダ|(各種のドレッシング付き)、水餃子|(…と言ったかしら?)、お吸い物etcとバランスの取れたおかずである。

 いや、自宅じゃないのだから。バランスよすぎるでしょう。


 ここまでは…まぁ、ある意味で許容範囲だろう。料理にこだわる|(うちの部隊員にもいる)ヒトは専用の料理器具と調味料を旅の必需品として持ち歩くから。

 だからといって、何故に…テーブルと人数分のイス。それに、食器にティーセットと食後のおやつまで準備できるの! おかしいでしょう!?


 ここには、仕事|(私たちは任務、ジン様たちは依頼)で来ているのでしょう?

 それなのに|(一部の常識外れな)貴族の屋外パーティじゃないのだから!!


「……。」


「あら?珍しくツッコミ無しなの?」


「…とっても言いたい。でも、作って貰っているから。」


「くすくす。本当に貴女って、面白い♪」


 うるさいわ!アンタの家みたいに上流家庭じゃないのよ。作って貰うのが当たり前な環境ではなかったし、感謝を忘れた日には母親にどんな仕打ちを受けるか…。


「ところで、蒼溟(そうめい)くん。この炒め物って…」


 私たちが小声でやり取りしている間に、四人娘たちがさっそく食材を聞き出そうと小猿ちゃんに聞いているところだった。

 マメだねぇ。そんなに賭けに勝ちたいか?ちなみに、賭けたものは戻ってからの罰ゲームです。職場でのからかいのネタ…いえ、ちょっとしたレクリエーションとしてね。


「「えっ」」


 おっと、聞き逃した。あれ?四人娘のうち、三人が口元を押さえているけど…どうした?

 もう一人は、しばらく固まった後に味を確かめるように一口食べた後は普通に戻った。


「ねぇ、どうしたの。あの娘たちの様子が妙なのだけど?」


「あはは、実はねぇ…」


 あれ?アンタもどうしたのよ。笑顔だけど、微妙に目が(うつ)ろよ?



 使用した食材の内容を聞いて私は彼女たちに同情してしまった。結果の前に、平然としている私について言うわね。


 ウチの実家は湖の近くで、祖父母が何故か自給自足をしている自由気ままな性格をしているの。当然、食卓には一般的でない物も多く出てくる。彼らの信条は「獲物は基本、余すことなく活用する」というものなので、毒で無い限り食す。骨や皮などの廃棄物も土の肥料として加工する。

 なにが言いたいかというとね、余程の物でなければ口にした事があるので他の娘たちよりもゲテモノに耐性があるのよ。


 それでは、気になる食材を言うわよ。食事中のヒトたちは聞かないことをお勧めする。


 お肉について。出汁としては市場で購入した干し肉…これは普通。狩ってきたのは、ヌメっとしたトカゲもどきのラケルタ。猿の一種でシムパンゼー。どちらも普通は食べない。

 サラダは普通だけど。中に入っていたキノコは、笑い茸だった。ちなみに毒キノコ扱い。

 香辛料として乾燥させた様々な昆虫と薬草。香草茶の中にも入っていた様子。


 うん、ごめん。私も昆虫だけはダメだわ。 あ~、気分悪ぅ~。


 なにが最悪って、味は最高に美味しいのよ。姫様の毒味と新作の試食として王宮料理人たちの料理を食べたことあるけど、それに遜色ない美味しさなのよねぇ。


「…意外。」


 なんというか、食材の残りである現物を見たにも関わらず。普通に食事を続けている猛者|(蒼溟とジン様たちは除外)が三人ほどいる。


「副部隊長たち、平気なのですか~。」


「…美味しい。」

「以前に食べたものより美味しいです♪」

「毒ではないですから。それに新しい活用方法ですよねぇ。」


 順に、副部隊長、四人娘の一人、方術師見習いの感想でした。

 美味しければ気にならない様子。後、見習いさん。この料理を真似しようとしないでね。


「蒼溟、さすがにお嬢さんたちにはきついだろう。特に香辛料の素は…。」


 ジン様の言葉に、小猿ちゃんは苦笑する。


「姉さんから教わったのだけど。コレらは美容に良い「「「本当!?」」」…らしいです。」


 すっかり食べるのを止めていた三人が小猿ちゃんに詰め寄り「「「詳しく教えなさい」」」「は、はいっ!」と(おど)している。


 ちょっと、目が血走って怖いわよ。


「不思議ねぇ。そう聞くと何故かありがたみを感じるのだから。」


 諦めて食事を再開した私の隣りで、いつの間にか食べ終わっているアンタの方が不思議だわ。なに、もう気にするのをやめたの?


「ん? 別に、見た目は普通に美味しそうでしょう。聞かなかった事にしてしまえば、問題ないわよ?」


 姫百合部隊に所属している時点で、普通とはかけ離れた神経をお持ちのようで。はぁ、私もさっさと食べちゃおう。



 あの後、詰問を受けた小猿ちゃんは後片付けを理由に離脱し、それを追いかけようとした三人は先に食事を済ませるように怒られていた。



◇ ◇ ◇



 夜警中。

 私たち三人チームは副部隊長を含むため、二人でする。有事の際には、指揮をとってもらわなくてはならない為、休める時に休んでもらうのだ。部隊長が居るときは、私たちと同じように参加するけどね。


 まぁ、四六時中(しろくじじゅう)警戒しているわけではないので…。コツと多少の実戦を経験していれば特に無理することのないペースで過ごせる。当然、森で難なく狩りをする小猿ちゃんも割と平気な様子で何かの作業を行っている。


 好奇心からその手元をのぞいて私は固まった。


 小猿ちゃんは、薬剤をつくるすり鉢のようなもので何かをすり潰していた。粉末状になったそれは、見覚えのある色合いで……具体的には夕食時。


 私が(のぞ)き込んでいるのに気付いているだろが、気にせずにすり鉢に乾燥させたナニかを放り込み、丁寧に細かくすり潰していく小猿ちゃん。



ご~り、ご~り、ご~り、ご~り、ご~り…



 規則正しいその音が、まるで私の精神までもすり潰していくようだ。


 そう、あの粉末は夕食時に見かけたものであろう。小猿ちゃん特製の香辛料…。



 もし、この時に異邦人たちが言う『時間跳躍』というものが可能なら、私はこの時の自分の口を力ずくでもいいから、強引に封じていたであろう。


 それを聞いてはならない。世の中、知らないことが幸せである事もあるのだ。


 だが、その願い空しく私はその言葉を口にしてしまう。(あと)()いるからこそ、後悔(こうかい)と言うのだから…。



 そう、『(たず)ねてはならない』と祖父母と暮らしたことのある私の勘が訴えている。小猿ちゃんが丁寧にすり潰している、その素材の名前を…。


 だけど、この時の私はその予測が8割がた当たっているであろうことを確信しながらも、感情の面では否定して欲しいと願っていた。ぜひとも、私の勘違いだと言って欲しかった。たとえ、それがわずかな望みであったとしても…。


 私は、硬直した表情に無理やり笑顔を作り…一縷(いちる)の望みを抱きながら、ソレを口にした。


「蒼溟くん…。それはナニをすり潰しているの?」


 『それ』とはすり鉢の中にある粉末、『ナニ』とはその原材料のこと。

 私の引きつった笑顔に気付かないまま彼は、いっそ清々しいほど明解な答えをくれた。すなわち。


「夕食の時にも使用した甘味料です。たしか、名前はオープスト・ラオペだったかな?それを乾燥させたものですよ。」


 一般的な甘味料として使用されるのは、植物から採れるものと、昆虫が採取した蜜を加工したものである。それ以外にも地域や種族特性から様々な調味料が存在するのだが…。


 オープスト・ラオペ……完熟した食物や果実などを主食とする『イモムシ』の一種である。


 青虫よりも皮膚が柔らかく、その体内では食物などから得た甘味で満たされた『森の恵み』と言われる。獣人族たちの天然『おやつ』である。

 見た目はクリーム色のプリッとした感じで食したヒトいわく…「噛むと中から甘い汁がプチュッと出てきて、自然な甘味が口の中で広がると同時に、噛めば噛むほど身がホロッと崩れて…料理人でも再現が難しいほどの最高の食感だよ」と教えてくれた。



 あぁ~、イモムシですか…。

 夕食の時にも言ったが、私はゲテモノの中でも昆虫食は苦手である。そして、その中でもイモムシはどうしても生理的に受け付けないのである。それはきっと、私の本能が、魂の底から苦手なものとして記憶しているに違いないほどに……。



イィヤァアアアアアアアァァァァァーーーーーーーー!!!



 心の中で壮絶な絶叫を言いながら、私はその場でうな垂れていた。


 マジで、聞かなきゃ良かった|(号泣)


 昆虫料理は、実際にあります。

 日本では蜂の子とかイナゴの佃煮とか普通に販売しています。その他にも世界では、イモムシを筆頭にクモやムカデなども(もちろん、洗浄と下処理を行ったうえで)食べる所もあるようです。


 虫が苦手な人にとってはかなりの嫌がらせですよねぇ~。


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