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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第三章 激動する状況
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3-11 野性児との遭遇

森で遭遇した女性騎士たちの視点?

 近衛師団、第八部隊。

 通称、姫百合は後宮を警護する女性騎士たちで構成されている部隊である。

 部隊の中では、さらに三~六人でチームを組んで任務にあたるのが常である。


 本来であれば、後宮の外での任務など請け負うはずもなければ、任務とは言え護衛対象から離れるなど言語道断なのだが…。



「何故、私たちはここに居るのでしょうかねぇ~。」


「…緊急ではないけど。必要だから。」


「しかも、副部隊長が受けるほどの任務ですか?」


 姫百合部隊の中でも一際、小柄で童顔な女性騎士を見下ろしながら言う。

こんな幼子のような容姿でありながら、武力で判断すると騎士全体の中でも上位に位置するのだから、世の中って分からないものである。


「……後宮の中。つまらない。」


 どうやら、暇つぶしだったようだ。


「気にしていたら負けよ。」


 副部隊長を含めた三人チームの一人が慰めるように肩を叩く。

 私もその一人ではあるが、副部隊長はちょっと…かなり感情表現が苦手なようで、一見すると冷めたような表情をしていることが多いが、その内心で部隊長と一緒にイタズラを考えたりするお茶目なヒトだ。


「まぁ、監視の目がないだけ気楽かな。」


「そうよ。必要な事とはいえ、ヒトのあら捜しのような監視役も嫌ですし、監視されるのも煩わしいですしね。」


「面倒くさい。」


 とはいえ、今回の任務は本当に我々が必要なのか?


 任務内容は簡単に言えば、薬剤の原料採取である。

 後宮に住む第二王女、パシエンテ様は生来から病弱でよく体調を崩される。誕生されてから後宮の外に出たことなど数えるほどしかない。

 そんな彼女の常備薬の原料が最近、入手困難になっている。

早々に尽きることはないのだが、相手は王族直系の姫君である。何かあってからでは、遅い…という事から「市場から入手するのが難しいのなら直接、採りに行って来い。」と部隊長の一言で決まったのだ。


「思いつきでの提案に対する被害は、常に部下なのだけどねぇ~。」


 私がため息を付いていると、同じように借り出された四人チームが苦笑する。


「まぁ、今回は後宮専属の方術師どのの愛弟子さまも我々と同類なのですから。」


「彼女も気の毒ですよね。」


「気晴らしは必要…。」


 副部隊長、それは答えになっていません。


「それにしても、どうして市場では出回らなくなったのでしょうか?」


「原料である薬草自体に異変はないのよ。問題になったのは、プチティラノの繁殖期間が早まったのと、その活動範囲が重なってしまったことみたいよ。」


 周囲を警戒しながらも尋ねてくる四人チームの一人に他のメンバーが最近、入手した情報を教えている。


 プチティラノとは、中型の肉食爬虫類のことである。通常であれば、特に問題になるような種ではないのだが、繁殖期の彼らに近づくのは自殺行為とされている。


「繁殖時期のアレは、集団で狩りを行うからねぇ。」


「しかも、迂闊に倒すと血の臭いに惹かれてウボールカ達が寄ってくるから更に厄介ですしね。」


 ウボールカとは、自然界の掃除屋と称される死肉喰らいの雑食種である。身体的な差異は多種多様で犬型もあれば鳥型もいる。共通点は、死肉や腐肉しか食べないが頑丈な竜種の外皮すら彼らは食べてしまう。

 ちなみにエサとなるものが無いと土や石を食している、謎の多い種類である。


「そんな危険地帯に妙齢の女性たちだけで薬草採取って、自殺行為ではないでしょうか?」


「妙齢~? 未発達な身体でよく言うわね。」


「むぅ~、小さな胸でも需要はあるのです!」


「…特殊趣味。」


「副隊長~~~(泣)」


 副部隊長、ヒトのことは言えないですよ。


 確かに、騎士とはいえ女性七人に護衛対象一人の少人数で危険地帯での薬草採取は自殺行為ですよね。普通は。


「並以上、もしくは規格外の妖怪モドキ。」


 規格外の者たちが多い姫百合部隊の中でも更に特異なメンバーがここにいる連中だったりする。


「…それ、貴女も入っているのよ。」


 つい言ってしまった。

 そして…こ、怖いよ。メンバー全員から刺殺されそうな目線を頂いてしまった。

 私の寿命が縮まりそう…。

 

 そんな、まったりした雰囲気で薬草採取を行っている時だった。



「あっ!?」



 声を聞いたと認識した時には、すでに脇を通り過ぎていた。慌てて、振り向くと護衛対象である方術師の愛弟子の近くに一人の少年が現れていた。


 そう。突然、出現したとしか思えない素早さだった。


「動くなっ!」


 先ほどまでの雰囲気とは一変して緊張をはらんだ空気が漂う。


 ん?この少年、何かを掴んでいる?


 それが何なのか、確認しようとしたら近くの茂みに気配を感じて素早く身構える。


「あ~、悪い。任務の邪魔をするつもりじゃあ無かったんだが…」


 そう言って、敵意が無いことを示すために両手を挙げながら現れたのは一人の男性。


「…王宮魔技師筆頭補佐のジン様?」


 副部隊長の言葉に驚く。

 ラント国内でも有名な主要人物ではないか!? しかも、趣味人たちの憩いの場を作り上げた功労者の一人、リベルダー様の父君でもある。


「どうして…?」


 副部隊長の端的な問いに、ジン様は苦笑しながら説明してくれる。


「ところで蒼溟。一体、何を捕まえてんだぁ?」


 問われた少年は、ゆっくりと立ち上がるとその手に持ったモノを見せてくれる。


「そりゃあ、毒蛇の一種。アカヘビじゃねぇか。」


「採取しているお姉さんに噛み付こうとしていたのに気付いて、つい身体が動いちゃった。」


 失敗した…といった感じで照れ笑いをしながら、頭をかいている少年。


 いや、照れ笑いをしている場合じゃないぞ。


 頭を捕まれて、逃れようと少年の左腕に身体を巻きつけたアカヘビ。蛇の巻きつきは結構な力がこもっているはずなのだが、少年は平気な表情をしている。

 そのアカヘビを苦も無く腕から外して、いつの間にか傍らにいたレーヌ族から麻袋を受け取り、無造作に放り込む。口をきちんと縛り上げると、それを圧縮袋の中にしまった。


「あ~、蒼溟。アカヘビをどうするつもりなんだ?」


 それは、私も気になる。


「お酒に浸ける♪ ほら、マムシ酒のような感じにして。」


 いっ?! 毒性がそれほど強くないとはいえ、毒蛇だぞ!


「アカヘビでも大丈夫だったか?」

「うん、大丈夫だよ。これが意外に美味しかったりするしね♪」

とのん気に会話する二人に周囲の女性陣は引き気味である。


「それは薬用酒としても使えるのですか?」


 いや、若干一名だけ興味津々の様子だ。さすが、方術師の卵だけど…実行するのだけはやめて欲しいなぁ。


「コホン。…方術師(見習い)どのを助けて下さり、ありがとうございます。」


 妙な会話になりつつあったのを修正するために、空咳をして話しかける同僚。


「たまたまですので、気にしないで下さい。」


 少年はそう言うとジン様と一緒にこの場を離れようとする。


「待って。…暇なら。」


 それを止めたのは、今回のメンバーの責任者である副部隊長だった。


 どうやら、この任務の手伝いをして行けと言いたいらしい。

 でも、そこまで必要なのかなぁ?



◇ ◇ ◇



 唐突だけど、結論から言うと必要でした。正確にいうなら、原料採取の効率が一気に跳ね上がりました。


 もうねぇ、少年こと蒼溟くん。常識外の野生児でしたね。


 まず、方術師見習いさんから採取する原料を聞く。そして、いつの間にか居た薄青色の球体生物のインフィニティと会話したかと思うとジン様と会話後に別行動。

 私たちが野営地に移動して到着する頃に、合流。その手には、数多の原料があった。


 なにそれ?

 私たちの今まで(数刻だけどね)の労力は一体なに?無駄だったの?


「ふぅ、世の中って本当に理不尽だよねぇ~。」


「なぁに、突然。」


「いやね、この任務が本当に暇つぶし状態になっちゃったなぁ~と思ってね。」


「まぁ、楽でいいんじゃない?」


「たまには、こういうのも良いと思いますけど?」


 同僚たちとのんびりと焚き火を囲んでのティータイム中。その傍らでは、ドラッヘたちがだらけた姿でくつろいでいる。


 一応、危険地帯だよね、ここ?

 仰向けになって寝るトレホドラッヘ…間抜けな姿に知らず知らずのうちにため息が出てくる。繁殖期中のプチティラノが来たらどうするのだろう。…ちょっと、見てみたいかも。


「それにしても、蒼溟くんって見た目の年齢の割に身体能力が高いよねぇ。」


「高いというよりも…。」


「森の中を移動する姿、なにかに似ていない?」


 木々の間を枝伝いに移動する姿や低木や藪の中を潜り抜けるように走る姿…野生児?いや、それも何か違うなぁ。動物?なんだろう…あっ!


「「「「「「野生のサル!」」」」」」


 奇しくも同僚たちの声がそろった。


「ぷっ、あははは。そうか、サルだ。あの身のこなしに、森を熟知した様子…ぴったり。」


「くすくす、そうね。しかも、小猿といった感じかしら。」


「ぷくくく、確かに。」


 突然の爆笑に、小猿ちゃん…じゃなかった、蒼溟くんたちはこちらを不思議そうに見ていたが、特に問題がないと判断したのか再びまったりとしていた。



 女性騎士たちの楽しそうな笑い声にジンと副部隊長はどうしたのかと思ったが、なにやら和気藹々としているので放っておくことにした。


「それで、この後はどうするんだ。」


「…どうしよう。」


「採取も終わりましたし、貴重な素材なども譲って頂きましたので街に戻りませんか?」


 副部隊長は『まだ遊びたりない』と言った雰囲気だったが、方術師見習いの方は多種多様な素材を早く持ち帰って薬剤研究をしたいみたいである。


「まぁ、道中ものんびりと行けばいいんじゃねぇか。」


 ジンが苦笑しながら提案すると両者とも素直に頷いた。


 皆がくつろいでいる間に蒼溟は、アオやシュンと一緒に食事の準備をしていた。どうやら、今日のところはこの野営地で一泊して明日の早朝から街に戻る予定らしい。



 今日の夕飯は、どうやら小猿ちゃんが作ってくれるようだ。

 私たちはその間に簡易テントを組み立て、装備の確認と手入れをする。他にも比較的安全な野営地とはいえ周囲の警戒は必要なため、近くの茂みに簡易ワナを設置する。


「今日の夜警は誰からにする?」


「う~ん、普通ならクジ引きとかで決めるけど。ここはひとつ、賭けをしない?」


「なになに?面白そうなこと?」


「何で賭けをするの?」


 確かに。コインの表裏でもするのか?


「ふふふ、賭けの対象は小猿ちゃんの料理が美味しいかどうか。食材には何を使っているのか。誰の料理よりも美味しいか…とかかなぁ。」


 なるほど。それは面白そうだ。


「でも、料理を任せられるくらいだから不味いっていうことは無いんじゃない?」


「だったら、誰の料理よりも美味しいか、とか?」


「う~ん、それならさ。夜警は普段の決め方にして、小猿ちゃんの料理は別のものを賭けない?」


「そうねぇ…。そっちの方が気兼ねなく楽しめそうね。」


 …この後に、私たちは密かに後悔する事となる。こんな賭けをするのではなかった、と。


自分の予想に反して書きやすくて楽しい♪


フェリシダーの同僚さんたち。彼女たちはエリート騎士で、良いところのお嬢様のはずなのだが…作者が書くとこうなるのか(笑)

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