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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第三章 激動する状況
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3-7 ギルドからの提案

「はい、確かに“竜の角”を受け取りました。これにて、依頼は完了となります。お疲れ様でした。」


無事にルジアーダの探求者ギルドに戻ってきた蒼溟(そうめい)たちは、第二会議室で依頼完遂の報告を行っていた。

本来であれば、依頼窓口にて完遂報告と納品を行うのだが今回は特例扱いだった為に、帰還を確認後に別室へと案内されたのである。


「それでは、アクレオ様は溜まった書類を(すみ)やかに片づけてきて下さい。」

 別室で蒼溟たちの対応を支部長自らが行うと同時にアクレオを逃がさないように他の職員に指示を出す。


「サウラは監視と依頼補佐の役目、お疲れ様です。この後は、報告書の作成と提出後にしばらく休暇を取って疲れを癒しておきなさい。」

 アクレオへの冷たい対応とは真逆に優しい労りを含んだ微笑みで支持すると退室するように即す。


「蒼溟クンは、少し残ってもらって宜しいかしら? ギルドから提案があるから、それについて詳しい説明をさせてもらいたいの。」

その発言にアクレオとサウラの親子は(いぶか)しげな顔をする。


「…支部長。 男日照りだからと言って、少年にまで手を出すのはどうかと思うが…。」

 アレクオの的外れなセクハラ発言に対して支部長は微笑みを保ちながら、すかさずに行動にて応える。


 ドカッ! バキ、ボキッ!


 不穏な音と共に床に無言で沈むアクレオ。わずか数十秒での出来事に、サウラと蒼溟は無言で両者から視線を逸らす。

 目を合わせたが最後、巻き添えを受けることは間違いなしである。


「サウラ、申し訳ないのだけど他の者たちと一緒にソレを運びだしてもらっていいかしら。」

 支部長の発言に待機していた職員共々、速やかに行動を移し、退室するサウラ。


それらを見ていた蒼溟は内心… 村に居た頃の海兄さんの両親のようだと思っていた。


 海兄さんの父親による無神経な発言にその母親の鉄拳制裁は、あの頃の日常風景であったがその制裁方法は多岐にわたっており、子供心に底知れぬ恐怖を感じたものである。


「さて、ようやく落ち着いて自己紹介が出来るわね。」

 支部長さんは深くため息をついた後に、気持ちを切り替える様に明るい声を出す。


「私の名前はアインマール。アインと呼んでくれて構わないわ。」


アイン支部長さんの挨拶に僕も一応、自己紹介をする。

まぁ、すでに知ってはいるとは思うけど礼儀だしね。 こういう事はきちんとしておかないと…村の大人たちの説教が後ほど行われるだろう。

例え、現在ここにいないにも関わらず、何故か知られているという不思議が…、言動に注意することに問題はないのだし、まぁいいよね?


「ふふふ、礼儀正しい子は対応していても気持ちいいものですね。」


アイン支部長さんは、楽しそうに笑った後に本題へと話を戻す。

「ところで、蒼溟くんはこの国のことをどれくらい知っていますか?」


その問いに、本なので知り得たものですが…と前置きをしてから

「巨大なクレーターが幾つか重なったような形状をしていて、最底辺と見られる地域には巨大な湖、そこから流れる河を下ると内海から外海へと続く。」

そして、最も重要なのがこの国の外交手段が基本的に水上からしか国外へ行くことが出来ないことである。


周囲にあるクレーターの外壁に見えるダーイラ山脈を越える事は、一応可能ではあるのだが、その道中かかなり危険でしかも、山頂付近になると天候の激変も常時らしい。

そして、その山脈には麓部分も含めて多種多様な種族が暮らしている。


蒼溟が最初に現れた“魔の森”も山脈付近である。

ただし、森周辺の地形は他とかなり異なったものとなっており、事実上の不可侵地域となっているのである。


「問題無いようね。それらを踏まえて言うのだけど、この国は他国からみると辺境というよりも秘境にある幻の国扱いになっているわ。」


「幻ですか?」首を傾げる蒼溟。


「えぇ、国としての存在を隠している訳ではないのだけれど、容易く訪れることが出来ない事と、古代から続くとされるサングィス国に国として認められていない事が原因ね。」


サングィス国とは、史上最古とされる帝国の末裔を(よう)していて、現在の国力はそれ程ではない。歴史ある国にありがちな様々な矛盾や陰部が存在するが、かつての高度な知識を有するために他国からは一目置かれているのだ。


「まぁ、何が言いたいかと言うとね。ここの探求者の質が(かたよ)っているのよ。」

通常であれば、様々な国を移動する高位探求者がいたり、地元に根付いた色々な質の探求者がいたりするものなのだが…ラント国では事情が異なる。


「他国の探求者の登録には、年齢制限や実力検査などがあるのだけど、この国にはその制限は除外してあるのよ。そうしないと、国内の生活や物流が滞ってしまうのが原因なのだけれどね。」

限られた人材に、他国とは比べ物にならないくらい平地での危険度が高いらしい。


「比較的に安全な街中の依頼は低年齢の子やお年寄りに、ダンジョン探索による魔石採集には若者たちへ依頼を振り分けているのよ。そして、ある程度の実力を身につけた探求者には街道を使った資源の採取などを頼むのだけど…。」

ちなみに、配送などや商人の護衛依頼などは有力な探求者かギルドの職員が行っているとのことだった。


「蒼溟くんは、探求者登録をしたばかりの初心者ではあるけど、その実力はアクレオ様を始めに雑務依頼で知り合った職人や商人たちからも高評価を得ているわ。」

その言葉に、蒼溟は嬉しそうに照れ笑いをする。


「本来であれば、初心者にはある程度の期間を街中やダンジョン依頼で自らの適性を見極めさせた後に、各職についてもらうのだけど…。」

探求者ギルドは様々な難易度の依頼を登録者に振り分ける。

そこから、職人や商人に向いている者は各ギルドに登録をして定期的な仕事を得るのが普通のヒト達の流れである。たまに、定職に就くのを嫌がって探求者として魔石採集による臨時収入で生活する者もいる。


「提案というかお願いなのだけれど…蒼溟くん、中堅探求者として働かないかしら?」

その言葉に再度、首を傾げる蒼溟。


「今と中堅との違いは何なのですか?」

あまり、差が無いように思える。 交易の重要部分は各ギルドがしっかりと管理しているようだし、僕みたいな初心者が中堅扱いになったからといって、出来ることなど大した事ないと思うのだけれど?


「あぁ~、説明不足だったわね。中堅探求者には、ギルド職員たちのように交易関係は勿論の事、様々な調査や難易度の高い資材採取の依頼を請け負ってもらっているのよ。報酬は初心者より当然いいし、依頼中での怪我や事故に関しての保障もギルドが行っているわ。」

ただし、街中での雑務依頼やダンジョンの低級者向けの階での魔石採集が出来ないらしい。


「どうかしら? 蒼溟くんなら問題無く出来ると思うのだけど、受けてもらえないかしら。」

アイン支部長の言葉に少し考える。 特に不利益になるような事も思いつかないことから、蒼溟はこの提案を受け取ることにした。


「いいですよ。 僕がどこまでお役に立てるか不明ですけど、やれる事なら頑張ります。」

蒼溟の言葉に、アインマールはホッと安堵のため息をつく。


「ありがとう。 経験不足な部分とかはギルドの方で補佐させてもらうから、安心してちょうだい。無理な提案をしたのは、こちらなのだから…受けてくれて、本当にありがとう。」

アイン支部長の笑顔に、蒼溟も嬉しくなる。


「じゃあ、認証タグとギルドカードの書き換えを行うからもう少し時間をちょうだいね。」

アインマールの言葉に素直に頷くと、身に着けていたタグと鞄からギルドカードを取り出して渡す。書き換えが終わるまで、和やかに雑談をするのであった。


◇◇ ◇


「お帰りなさいませ、蒼溟さま。」

ジンの屋敷に戻ると、サカエさんが迎えてくれた。


「ただいま、サカエさん。」

蒼溟は、数日ぶりの自宅にホッと安堵する。


すっかり、ここが僕の帰る場所になっているんだなぁ。

そう思うと何とも不思議な気持ちになる。 魔の森に居るアルシュの住む場所も居心地が良いのだが、ジンの屋敷はなんとなく実の両親と一緒にいる時のような気持ちになるのだ。


「おっ、蒼溟じゃねぇか。お帰りぃ~。」

部屋から移動する途中だったのか、リラックスした格好のジンと出会った。


「あっ、ただいまぁ~。仕事の方は、もう大丈夫なの?」

久し振りに見かけたジンに嬉しそうに話しかける蒼溟に、ジンはにやりと笑いながら

「おう。ようやく、引き継ぎもすませたからなぁ。やっと、隠居できるってもんだぜぇ。」

ジンは蒼溟の頭を手荒に撫でながら、食堂へと揃って向かう。


「隠居って、王宮魔技師の役職を辞めて来たの?」

ジンの仕事を思い出しながら聞く。

リベルター兄さんの口ぶりでは、そんなに簡単には辞職できそうな雰囲気ではなかったはず。


「はっはっはっ、立派な後継者に有能な若手部下たちが居るからなぁ。ジジイがいつまでも出張っていては、後続連中に迷惑っていうものだ。」

そう言ってもっともらしい発言をするが、実際には面倒な仕事や責務関係をリベルターに負わせているだけである。

また、国政に対しての御意見番的な役目は、蒼溟に肩入れするからと宰相補佐のインテグリダーに宣言して解除させたのである。


「これからは、俺が蒼溟に付き合ってやるから。やりたい事や興味を持った事など色々と遠慮なく行動していいぞ。余程の事でなければ、俺が対処してやるから。」

ジンの言葉に蒼溟は驚くが、その厚意に素直に頷く。


探求者として、蒼溟が本格的に動き出すのはこれからなのだ。

そして、その行動に熟練のジンや豪華メンバーが参加することになるのだが、この時の蒼溟にそこまでは想像できるはずがなかった。


ジンの奥さんであるフィランは、お家で留守番役です。

彼女曰く、妻として家を守るのも大事な役目ですから~。本音は、孫たちの世話とからかう方が楽しかったりする。

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