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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第三章 激動する状況
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閑話03 ギルドの裏事情

 それは、蒼溟(そうめい)たちが“竜の角落し”の依頼を受けた後のことであった。


「そう言えば、支部長。アクレオ様の姿が見当たらないのですが、どこにいらっしゃるのかご存知ですか?」


 探求者ギルド職員の一人が、執務中の女性職員に尋ねていた。その手には、怪しげな梱包をされた四角い箱を手にしている。


「アクレオ様なら厳選した依頼を手に出かけたわよ。…ところで、その手に持っている物は何かしら。」


「えっ?まいったなぁ~。頼まれた物がようやく手に入ったので、お持ちしたのですが…ちなみに、中身はアクレオ様の“趣味”に関係するものです。」


「…捨ててしまいたいわね。」

 目を若干細めながら、ポツリとこぼす。その言葉に慌てて荷物を抱きかかえる男性職員。


「えぇ?! 冗談でも止めて下さいよぉ。これを手に入れるのに国営商店街を駆け巡ったあげくに、条件付きで入手したんですからぁ~。」

 少し涙目になりながら言う。

これを手に入れるために、彼は数日間もかけて店巡りを行い、さらには特殊な罰ゲーム付きの賭けごとまでして見事役目を果たしてきたのである。


「はぁ~…、まぁ、いいわ。アクレオ様ならヒルシュローク族の“角落し”に出かけたから数日間は戻ってこないわよ。その間、あなたはそれを保管しておきなさい。」


「あの依頼をアクレオ様が受諾(じゅだく)したのですか。…大丈夫でしょうか?後でヒルシュロークの方々から苦情なんてこないですよね?」


 その言葉に支部長と男性職員は無言で見つめ合うと、互いにため息をこぼした。

 その様子を不思議そうに見つめている若手の新人職員は、書類整理をしながら隣りの先輩職員に疑問に思ったことを聞いてみた。


「先輩、支部長さん達はなんでため息なんてついているんでしょうか? アクレオ様ならどんな難題であっても解決できると思うのですが…。それとも、ギルドマスターという役職が問題ですか?」


 仕事の指導役を任されていた先輩職員は、後輩の問いかけにどう答えようか悩んでしまった。


「あ~、それはだなぁ。この場合だと、役職よりも受諾したのがアクレオ様という部分が問題だな。」


 先輩の答えに、よく分からない?と言わんばかりに首を傾げる後輩。その様子を支部長たちが気付き、その職員を呼ぶ。


「あなたは新人だったわね。出身地はこの街だったかしら?」


「はい。アクレオ様の英雄譚を聞いて探求者に憧れたのですが…。 適正能力が一部足りなかった為に断念して、せめて他の方々の手伝いがしたいと思って職員になりました。」


「そう…英雄譚ねぇ。でも、探求者ギルドの職員になれるのなら探求者になるのも可能だったのではないかしら?」


 探求者ギルドの職員は、様々なサポート役を行うために適正能力がかなり高めに設定してある。その為、探求者たちのように一攫千金な(もう)けはないが、安定した収入と福利厚生により人気の高い就職先なのだ。


「あぁ、彼は視力で(はじ)かれたようですよ。他の能力は申し分なかったのですが、メガネが無いと物の輪郭すら危ういくらいの様子でしたので。」


 苦笑気味に答えたのは、いまだに箱を抱きかかえる男性職員だった。


「そうだったの。まぁ、有望な職員が一人でも増えるのは支部長として喜ぶべきことよね。そうそう、さっきのアクレオ様に関してのことだけど。丁度良いから、しっかりと私が教えてあげましょう。」


 ニッコリと微笑まれたはずなのに、何故か悪寒がする。それどころか、全身から冷や汗が流れ、本能から逃げろと訴えかけられているように感じる新人職員は助けを求めるように周囲を見回す。


 すがるようなその眼差しを老若男女問わずに全員の職員が視線を逸らした。


「それじゃあ、ここでは何ですから第二会議室を使用しながらジックリと指導してあげましょうか♪」


 涙目で支部長にドナドナされる新人職員を残った職員全員…心の中で…合掌したのである。


◇◇ ◇


「うかつ者め。」


 支部長たちが完全にいなくなってからポツリとこぼされた言葉にほぼ全員の職員が無言でうなずく。


「まぁ、そう言ってやるなよ。まだまだ青臭い年頃の新人なんだから。」


 怪しげな梱包荷物を抱えた男性職員の言葉に、アッサリと後輩を見捨てた先輩男性職員が微妙なフォローをする。


「まぁねぇ~。新人研修の一環でもありますからねぇ~、支部長のアクレオ様に対しての永遠と続く愚痴という名の説明会は…。」


「それさえなければ、支部長も良い上司なんだけどなぁ~。」


 普段は気さくな親しみやすい雰囲気で数多の職員に気を使う才媛である女性支部長。見た目もちょっとキツメではあるが十分美女と呼んでOK!な容姿にスタイルも良い。

 そうなると、女性である事も一因ではあるが、舐めてかかる探求者たちも出てくるのだが…彼女は、それを実力により単独で制裁できる武力と知力を持っているのである。


「ウチの職員はもちろんのこと、他のギルドの職員からも受けがいいんだろう?」


「男女問わずに大人気ですよ。あの悪癖以外は…ねぇ~。」


 突然、話を振られた女性職員は苦笑しながら頷く。


「それだけ人気がありながらも婚期を逃し続けているのも、ある意味でアクレオ様が原因だからなぁ~。そりゃあ、グチも言いたくなるのは理解できるが半端じゃないからなぁ~。」


「酒の席であの悪癖に付き合ってみて下さいよ。翌朝になっても開放されないですから。」


 その時の事を思い出したのか、思わず梱包された荷物にしがみつくように身を震わせる。


「あぁ…、ご愁傷様~。」


「チッ、他人事だと思って気軽に言ってくれますね。」


「まぁまぁ。それに、支部長のグチを言いたい気持ちもよく分かるからなぁ。」


「まぁ。本来、ギルドのマスター職の方々の情報なんて全てが秘匿されていますから。」


「確か全情報が秘匿扱いだったよなぁ?」


 先輩職員が虚空を見つめながら思い出すように言う。

 実は、探求者以外のギルドも該当するのだが、マスター職の者たちは協会から多大な権限を与えられているため、その判断を他者の思惑により歪められないように様々な方法で情報及び姿を隠しているのである。


「えぇ、そうです。誰がマスターなのかはもちろんのこと、容姿に年齢、性別すら秘匿されています。その決定内容や指示は各支部長や該当懸案にかかわる役職クラスに送られるそうですが、その姿を見たものはいないそうですよ。」


「それだけを聞くと、頭の悪い連中が名を(かた)りそうだなぁ~。」


「女神さまに真っ向からケンカを売れるだけの度胸があるのなら止めはしませんけど?」


 面白がるような眼差しをあえて無視する。


「まっ、情報関連に関しては女神の介入があるから偽装することは難しいわな。」


「完全に不可能という訳ではないようですけどね。何事にも抜け道というものは存在します…アクレオ様のギルドマスターの役職もその一つではありますからね。」


 肩をすくめてポーズを取っていた先輩職員は、その言葉に目を見開く。

“初耳です”と言わんばかりの相手の表情に梱包荷物を片手に抱えたままの男性職員は首を傾げる。


「あれ?知りませんでしたか。情報の改ざんや偽装行為は一応、可能ですよ。ただし、かなりのリスクを負う事にはなりますけどね。」


「えぇ!?それは、魔術によるものなか!」


 情報操作が可能とすれば、今までのように表示されているものを鵜呑みにするわけにはいかないという事でもある。その危険性に先輩職員は若干パニックに近い混乱をする。


「まぁ、確実なのは魔術によるものらしいですが、人族による魔工術式でも可能らしいですよ?」


「なっ!!それが本当なら大変なことじゃないかぁ―――ッ!?」


 淡々と答える男性職員の両肩を握り潰さんばかりに掴みかかるとそれを激しく揺さぶる先輩職員に目を回しながらも落ち着いてぇ~と悲鳴をあげる。


「だ、だ、大丈夫ですよぉ~~。情報操作に対してのリスクはそれを行う以上にデメリットの方が大きいのですからぁ~~。」


「デメリット?本当かぁ~、頭の悪い連中に理解できるものなのか。」


「はいぃ~~。ま、まずは、情報操作を行ったところで閲覧時に介入できるだけであって、実際の情報はそのまま存在したままです。そして、これが一番大きなリスクですが…女神さまに目を付けられることです。」

 目を回しながらも律儀に応える。


「協会ではなくて、女神に監視されるということか?」


 唸るように考え込む先輩職員に、軽く頭を振って正気に戻る男性職員。その手に持つ梱包荷物を落とさないのはさすがと言おうか…。


「監視とは違うみたいですよ。女神さま基準で面白そうな事柄に強制参加させられたり、面倒事を解決するために翻弄されたり、果ては実験に使われるなどでしょうか?」


「それのどこがデメリットなんだ?」


「全ての判断基準が女神さまだからですよ。私たちで言うと、アクレオ様の英雄譚にある内容を赤子に体験させるようなものです。」


 アクレオの英雄譚の大半は、彼固有の特性により実現できたものだ。

 たとえば、異常な自己治癒と方術+魔術を駆使した独自の回復術の使用を前提とした武力解決。強靭な精神力を持つ故に、場の空気を一切無視した高圧迫による恐喝など。


「…無理だな。」


「それを出来るものとして強制実行するのが、女神さま基準です。」


「普通に死ぬだろう。」


「その方が何万倍も幸せですね。ちなみに、敢行するまで仮想空間内で無限ループになるという話も聞きます。」


「…嫌な実行力だなぁ。」


「まぁ、その詳細は不明ですが内容は公開されていますから。愛のないハードSMプレイ希望の方には、あえてお勧めさせて頂きますけどね。」


 シレッと答える男性職員はきっとS属性であろう。しかし、怪しげな梱包荷物を片時も手放そうとしない姿に他の職員が徐々に好奇心を抱き始めている。


「そうなると、歪なマスター職であるアクレオ様は情報改ざんされた側なのか?」


「…その方が面白かったでしょうねぇ~。」


◇◇ ◇


 第二会議室。

 支部長によってドナドナされた新人職員が偶然にも同じ質問をしていた。


「マスター職が誰なのかも秘匿されているのなら、何故、アクレオ様は公表されているのでしょうか?」


「あぁ、簡単なことよ。ヒトは隠されると逆に気になる生き物だから…余計な悪事を働かせないための矢面、もしくは囮に公表されているのよ。」


 多大な権限をもつ存在であるギルドマスター職。その職業は多々あるが、噂では王族よりも発言力があるのでは?と穿った意見も存在する。

 それらに対しての好奇心や野心を逸らすために、あえて公表されるマスター職の者が何人か存在するのである。彼らは囮役のため、その権限には様々な制約がついているが、本人が希望した幾つかの特例を得ているとのこと。


「アクレオ様のギルドマスター職は、いわば足枷かしらねぇ。探求者としても一級であり、影響力も半端ではなかったから。彼を危険視した上流階級の暗殺や陰謀を未然に防御するのも特例の一つだったはずよ。」


 サラッと口にされたその内容を想像して、寒気がした新人職員。


「それでも、探求者ひとりにそこまでしますか?上流階級といえば、軍部を動かすことも可能なのではないですか?」


「その場合は、影響力に問題があるのよ。英雄譚で語られるように、彼の人気は民衆から貴族階級にまで及ぶわ。そんな人物が下手な発言をしてしまえば、戦すら始まるわよ?」


 確かに、本人にその気がなくてもアクレオを慕うもの達が曲解して、様々な問題を起こしかねない。決して、皆無とは言い切れないのが問題である。


「だから、どの国にも属さない代わりに災害などの時に無償奉仕を行う協会が総括する探求者ギルドのマスター職(囮)に任命されたのよ。」


「それでも、影響はあるのでは?」


「その場合は、協会経由でない彼の発言は無効扱いされるから。様々な約定を交わした後でないと、その実行力もない。」


 それらを無視して、アクレオを旗印に祭り上げようとすると協会から潰される可能性が出てくるのである。


「はぁ~、英雄も大変なんですねぇ~。」


「その憂さ晴らしを兼ねたイタズラのフォローに奔走する私たちの方が大変なのよッ!!!」


 新人職員の発言は、きっちりと支部長の地雷を踏みしめた様子でそこから更に終業時間までグチを聞かされる羽目に陥ったとか…。


怪しげな梱包の品物は、セクシィーポーズ姿の美少女フィギアです。

彼は、これを手に入れる為に女装をしながら酒場でジャンケン大会をしてきたのです!!上司の命令とは言え、男のプライドすら捨て去ったその姿に憐れみと一種の清々しさを感じた持ち主が自分のコレクションを譲ったのが真相です。

ハタ迷惑な上司を持つと部下が大変ですよねぇ~(゜-Å) ホロリ

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