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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第三章 激動する状況
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3-3 竜の角落し ③

 ヒルシュローク族のヒト達と一緒に宴の準備をしていた時に、ついでに“竜の角落し”について聞いてみた。

「“竜の角落し”の依頼は、天狗(てんぐ)の鼻折りみたいなものだから。」

 何それ?

「まぁ、要するに自分の力に酔った高慢なヒトの根性を叩きなおしましょうということ♪」

 芋の皮をむきながら聞いていると、楽しそうに笑いながらネコの手で器用にお皿を準備するお姉さんが教えてくれる。


 “竜の角落し” -裏話―

 程ほどに成長した幼竜たちが「自分たち(種族含む)が一番強い♪」と勘違いしたり、依頼を順当にこなし、ランクアップをした探求者が自らの実力を過大評価して多種族を見下したり、性格的に粗暴でむやみやたらとケンカを売るトラブルメーカーたちに対して

 『世の中には、お前よりも上がいるんだぞっ☆』

という事を教える為に『教育的指導』という名の袋叩きをするのである。

 幼竜たちには角の生え変わり時期に実力のある探求者を呼び、トラブルメーカーな探求者たちには、成竜の中でも実力があるものたちを相手にさせるのだ。


「それでも、種族としての特徴というか、生体的な要因で『教育的指導』を行うのは難しいと思うのですが?」

 特に幼竜たちに対しては、勢いもあれば、下手すると本人の資質でかなりの実力を持つ者もいるはずである。

 蒼溟(そうめい)の疑問に、お姉さんは『にやり』と笑い

「そうね、短期決戦だと難しい・・・というよりも、無理ね。」

あっさりと言う。

「短期決戦だと・・・? では、『長期戦』に仕立てあげれば可能だと?」

 首を傾げながら言ってはみるものの、それが出来ないから難しいと思うのだけど・・・。

「うふふふ♪ 察しのいい子って、好きだわ。」

 長期戦というよりも、消耗戦で相手をやり込めるようである。

「幼竜の相手をする場合は、周囲の大人たちが探求者に対して回復魔術を使用するの。逆に成竜の時は、幼竜たちが探求者へ回復魔術を行うわ。」

 同じ回復魔術でも行う者が未熟であればあるほど、傷の治りは遅いとのこと。

「探求者の方々に求められる資質は、実力もなんだけど、それ以上に耐久性が必要ね。」

 何度、倒されても立ち向かう意志のある者。それこそが“竜の角落し”でもっとも必要とされる技能だという。

「まぁ、我慢強さとも言えるけど、高慢になったヒトたちが一番、欠落している部分とも言えるからね。」

「我慢強さよりも、執拗(しつよう)さっと言うのでは・・・。」

「・・・日常生活ではあまり欲しくない資質よねぇ~。」

 確かに、物事や夢に対してなら美徳な感じだけど、ヒトに対してだとストカー・・・立派な犯罪者予備軍ですね。

「まっ、お祭りとしては歓迎すべき資質だし、好い方にとらえておきましょうか。」

 そうですね、深く考えたら負け・・・と思っておこう。


◇ ◇ ◇


 すっかり日も落ちて、調理をしていた小屋から直ぐ近くの広場には宴の準備が完了していた。

「ごめんなさいね。お客様なのに、お手伝いをさせてしまって。」

「でも、助かっちゃった。 アナグマの解体はさすがに大変だから。」

「僕の方こそ、お邪魔してしまってすみませんでした。」

 すっかり仲良くなったヒルシュローク族のお姉さんたちから声をかけられる。

「蒼溟クンだったら、お姉さんたちの住む小屋に泊まりに来ていいからね。」

「むしろ、大歓迎♪」

「そうねぇ。外からのお客様をお泊めするはずの(おさ)の家が、あんなだからねぇ・・・。」

 年配のお姉さんの言葉に、広場に集まったヒト達が振り返る。 そこには、ものの見事に崩壊した村長の家の残骸があった。

 じゃれあいで(えぐ)れた地面を埋めなおしたり、倒木を集めたり、周囲の動植物に回復魔術を施し・・・と遊んだ後の片づけをしていた四人がようやくこちらの広場に来た。

「あぁ~~、ひどい目にあったぜぇ。」

「年寄りをこき使うなんて、なんて非情な方々なのでしょう。」

「「自業自得でしょッ!!」」

 いまだに口論をしているが、ある程度のストレス発散は出来たようで、言葉の内容の割に穏やかな雰囲気をしていた。

「アクレオさん、ハク、サウラさんに村長さん、お疲れ様でした。」

 蒼溟の言葉に反省の色無しで軽く挨拶を返す男性陣、諦めと疲れを含んだ苦笑で返す女性陣、そして満足気な薄青色の球体生物のアオ。

 う~ん、特等席で傍観していたアオが一番、楽しかったようだねぇ。

 蒼溟の視線に気付いたアオは、他に悟られないように『にんまり』と笑うのだった。

「それでは、お腹も程よく空いたことですし、宴を始めましょうか♪」

 ハクの言葉に「私が長なのにぃ~」と呟きながらも表だって反論しない村長の姿があったが、いつもの事なのか、ヒルシュロークのヒト達は綺麗にスルーしていた。


― それから、数刻後 ―


「わっはっはっはー。蒼溟、飲んでいるか?」

 杯を片手にご機嫌な様子のアクレオに、苦笑で答える蒼溟。そんな彼らに

「そう言えば・・・そこの少年ッ! 私の名前はディアであって、村長という名ではなぁ~いッ! そんなジジむさい役職名は、ハクの爺様にくれてやればいいんだぁー!!」

ヒルシュローク族の村長、ディアが…毛並みのせいで分かりにくいが…かなり酔った様子で指差しながら怒鳴る。

「おやおや、由緒ある役職名をジジむさいとは・・・。」

「うっさい!! 大体、うら若き乙女である私がなんでお年寄り向けの役職を勤めなければいけないのよっ。」

「そこは、無駄に角を生やした己を悔やんで下さい♪」

 飄々(ひょうひょう)と答えるハクに、絡み上戸なのだろうか?ディアさんが喰ってかかる。

「あらあら、ディアちゃんの絡み酒が始まっちゃったわねぇ。」

 一緒に調理をしていたお姉さんが、僕の膝上に座りながら言う。

「村長さんになるには、角の数が関係してくるのですか?」

 ふと疑問になって聞いてみた。

「そうねぇ。少しは関係があるかしら? 有事の際には、村を守るために力有る者が必要だからっていう建前もあるから。」

「みゃ、みゃ。」 〔ヒルシュローク族の角は、魔力の量と強さでもあるから。〕

 僕の前にいるアオが振り返りながら教えてくれる。その隣りには、乗り物酔いから復活したレーヌ族のシュンが料理を小分けしてくれている。

「女性、強い」 〔女性の方々は、角の生え変わりは無いのですよ。その為、どんな時期でも男性よりも安定した強さを得られるのです〕

 蒼溟に小皿を手渡しながら、シュンが補足する。

「別に村長の役職に男女の差はないけどね。 ただ、ディアは一族の中でも取り分けて力が強いのと、お転婆なところを矯正する意味も含めてやらされているだけよ。」

 肩口から別のお姉さんがヒョッコリと顔を出しながら言う。

「成獣の男性陣は、広く世界を廻る旅に出るからねぇ。必然と村を守る役目は女性になるのよ。 単純に言えば、角が生え変わった後の男性の方が女性よりも数倍も強いわよ。」

 反対側の肩にも他のお姉さんが乗ったかと思ったら説明を引き継いでくれた。

「そうねぇ~、お子様たちやお家を住みよくするのは、成獣の女性の(たしな)み・・・と言ったところかしらねぇ。」

 膝上のお姉さんの背中を何となく撫でてあげたら、嬉しそうに喉を鳴らしてくれる。

「・・・ちょっと、何気に羨ましいことをされているじゃないの。」

 肩口のお姉さんの言葉に、僕はその顎下を撫でてみる。

「うみゃぁ~ん♪ 気持ちいい~。」

「あらぁん? 以外にテクニシャンじゃないの、お兄さん。」

 ニヤニヤと笑う反対側のお姉さんも同様に撫でてみたら、お褒めの言葉をいただいた。

「おっ? 女を(はべ)らすなんて、いいご身分じゃねぇか。」

 アクレオが笑いながら言うと、それに気付いたサウラが

「・・・女誑(たら)しですかぁ。 今度、私が直々に『教育的指導』をしてあげましょうね♪」

頬を薄っすらと赤らめながら、物騒な言葉を呟き。

「ちょっと、待ちなさいッ! 魅力溢れる私を除け者にするなんて、いい度胸じゃない!」

 ディアは見当違いな言葉をいいながら、蒼溟の腹部目掛けて体当たりをかます。

「これは、これは。・・・楽しそうなので、村の若者たちにも映像を送って差し上げましょうかねぇ~。」

 ハクは悪巧み満載の笑顔で“伝晶石(でんしょうせき)”を使って、宴の様子を記録していく。

「おっ! 中々に女性陣が積極的ですねぇ~。」

「みゃ、みゃ~♪」 〔男の意地と嫉妬で、ケンカ祭りに恋の華が咲く~♪〕

醍醐味(だいごみ)」 〔祭りとケンカは人生のスパイスで、恋は醍醐味と言ったところですね〕

 ハクとアオ、それにシュンは騒動から少し離れた場所で傍観しつつも楽しみ。

「わっははは♪ いいぞ、いいぞ、姉ちゃん。もっと、困らせてやれぇ~♪」

 アクレオは上機嫌で騒動を(あお)る。

「えっ?! ちょっと、待って下さい。わぁ、そこはダメッ!!止めて~、助けて~。」

 蒼溟は、いつの間にか宴に参加している女性全員に囲まれオモチャとして弄ばれていく。

涙目で助けを求める姿が余計に女性陣の嗜虐心を煽っているのだが、本人に自覚が無いのと酒の酔いも手伝って、宴は混沌のまま続くのであった。


 結局、この日の宴は混沌のまま参加者が酔いつぶれてお開きとなった。 その後、アオが風邪を引かないように空調設定を含めた結界をはり、シュンはどこからか持ってきた大量の毛布を各人にかぶせた。 ハクは、ほろ酔いのよい気分のまま“伝晶石”をどこかに運んだ後に、ひとりだけ小屋に戻ってベッドで丸くなるのであった。


◇ ◇ ◇


― ところ変わって、どこかの若者たちの集い。


「ふっ、ようやく角が生え変わるのかぁ。」

「これで、僕らも成獣の儀を受けることができるようになるね。」

「もう姉ちゃんに、子供扱いになんてさせないからなっ!」

 それぞれに思う事があるのか、会話にすらなっていない。だが、各々の“竜の角落し”に対しての意気込みと気合は十分な様子であった。

「おぉ~~い、ハク様から何か連絡が入ったぞぉ~。」

 そんな彼らの元に“伝晶石”を片手に飛び込んできた若者がいた。

「ハク様からですか?」

「なんだぁ? 今回の祭りの追加注意事項でもあったのか?」

「どうせ、爺さまのことだから、ロクでもない事に決まっているだろう。」

 あまり好意的ではない雰囲気の中で、専用の機械に設置して再生する。

「なっ!? こ、これは・・・。」

「うわぁ~・・・。」

「・・・ぶっ殺す・・・。」


 ハクが撮った“伝晶石”が原因で、とある騒動が起きてしまうのだが、それを予測していたのかどうかは、本人ですらも覚えていなかったそうな。


「・・・ハク様。 面白そうだからという思いだけで、行動しないで欲しかったなぁ~。」

 “伝晶石”を運ばされた若者は、小さな声で苦情をこぼすのだった。


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