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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第三章 激動する状況
32/69

3-1 竜の角落し ①

再び、投稿再開致します。

待っていてくれた方々(…いるのかなぁ?)遅くなってしまって、申し訳ありませんでした。

 さて、蒼溟(そうめい)が「初めての人生相談!」を開催している頃・・・


「ど・れ・に、すっかなぁ~♪」

 就業時間も過ぎ、ギルド職員の大半が家路についたカウンターの内部で、受託前の依頼書を漁る人影がひとつ。

「おっ? これは・・・つまらん。 こっちは?・・・微妙。」

 ひたすら怪しい影はガサゴソと書類を漁る。

「んっ?・・・おっ、これは良さそうだなぁ~。 確保っと♪」


 スッパ――――ン!!


「ぬわぁッ?! 吃驚したぁ~!」

 怪しい人影に、大阪芸人を彷彿させる素晴らしいハリセンでの突っ込みをかました人物はカウンター内部の照明を点ける。

「何をコソコソとやっていらっしゃいますか・・・ア・ク・レ・オ・様。」

「よっ、よお! 支部長、帰ったんじゃなかったのか・・・。」

 鉄板で補強した大きなハリセンを片手に冷気を漂わせた女性職員に、引きつった笑顔で答えるギルドマスターのアクレオ。

「そうですね、通常であれば帰宅しています。 ・・・ですが、サウラから警告を受けましたので、誰かさんの動向をチェックしていたのですわ。」

 『にっこり』と微笑むその姿は、一見すると優しげだが、(にじ)み出る怒気が室内の温度を急降下で冷やしていく。

「あっ、ははは~・・・。 それは、それは・・・。」

「そ・れ・で? 何を物色してらっしゃったのですか?」

 笑って誤魔化しながら、逃げようとするアクレオの首根っこを引っ掴むと、問答無用でその場に正座をさせる。

「えっと、・・・コホン。 将来有望な若者に対して、夢ある依頼を率先してまわしてやろうかとぉ~・・・・・」

 空咳をして、背筋を伸ばし、もっともらしい事を言って逃げようとするが・・・その悪あがきは支部長の怒りに油を注ぐ行為でしかなかった。

 かくして、支部長による教育的指導という名の説教地獄は夜を通して行われる事となったのだった。


◇ ◇ ◇


 首都であるルジアーダの街から北西にある広大な草原を三頭のトレホドラッヘが疾走していた。

彼らの姿は異邦人たちの認識にある“竜”…この場合は西洋ドラゴン…よりも“恐竜”に近い姿で、爬虫類のトカゲのような鱗をもち、強靭に発達した後ろ足により力強く大地を駆ける。

「イッヤホゥ―――ッ!! 久々の依頼受諾だぁ――♪」

 テンション最高潮のアクレオに同調するように、馬よりも速く駆けるトレホドラッヘは走竜の名に恥じぬ速度で草原を駆けていく。

「ちょっ、ちょっと、アクレオ様ッ!! 速度を上げ過ぎですッ!」

 並走する走竜の振動幅が増えたことにより、振り落とされないように頑張るサウラの悲鳴混じりの言葉をアクレオは笑って無視する。

「はっはっはっはぁ―――ッ♪ 蒼溟、遅れるなよぉー。」

 やや後方に位置する蒼溟が乗る走竜を振り返る

「はぁ~~い」

 呑気な声色で答える蒼溟の姿に、アクレオは『にやり』と笑う。

 戦闘要員としてギルド内でも上級職員であるサウラですら、思わず悲鳴を上げる速度にも関らず。 初めて乗る走竜の手綱(たづな)さばき、走行中の振動に対しての重心移動、振り落とされないようにガッシリと挟み込む脚力(きゃくりょく)、そのどれもが熟達した乗り手のように安定している蒼溟の姿に、頼もしさよりも、共に暴れれる予感に心が躍るのだ。


―― こいつは、面白いッ!!


 他の有望な連中のように、筋骨逞しいタイプでは無い。どちらかと言えば、そこらの街中で見かける平凡な少年。 年齢も15歳前後にしか見えないにも関らず、すでに成人しているという。その割に、世間ズレした呑気な雰囲気に「天然ボケか?」と疑ってしまうが、その戦闘力は外見を裏切る。


―― こいつと居れば、俺ですら見た事の無いものを見れるかもしれない。


 そんな思いを抱かずにはいられない。何とも評価のしにくい蒼溟に、アクレオは今まで感じたことのないくらい、好奇心を刺激されるのだ。


 しばらく、高揚した気分のままに走竜を走らせていたが、そろそろサウラが限界に近い。

「それじゃあ、そろそろ速度を落として休憩場所でも探すかぁ~。」

 その言葉に異を唱えることなく、賛同する二人。

「アクレオさん。 あそこの低木の辺りはどうですか?」

 少しずつ速度を落としながら、蒼溟は前方を指差す。

 広大な草原とはいえ、周囲は様々な遮蔽物が存在する。 丈の低い牧草のような草から人族の腰辺りまで伸びた草に大きな岩石。木々はほっそりとした低木が多いが、垣根のように群生した樹木もある。

 蒼溟が指差した低木は、青々とした葉を広げ、近くには岩石が数個存在する程度の場所だった。

「おっ、中々いいねぇ。」

 周囲を警戒する際に邪魔になりそうな物も無いし、とっさに身を隠すことができそうな岩石もある。 休憩場所としては中々に理想的なところである。

「・・・二人とも、よく見えるわねぇ。」

 呆れたようなサウラの言葉。

 なぜなら、休憩場所として上げたところは現在地から約2キロ近く離れた場所だったから。

「まぁ、何はともあれ。 大型動物とも接触せずに休憩に入れることを祈るわ。」

 慣れない速度での走行ですっかり疲れたサウラは、これ以上の疲労は御免だといわんばかりの様子。


 木陰で休憩と一緒に昼食タイムとなった。

 トレホドラッヘたちは馬のように木につながれる事無く思い思いにくつろいでいる。傍では、どこから出したのか水桶を彼らに配り、自分たちの昼食の準備をする蒼溟。何故か、酒の準備をするアクレオ。それらをボンヤリと眺めるサウラ。

「サウラさん、お茶を入れたので飲んで下さい。少しは疲れが取れると思うので。」

 蒼溟から差し出された温かいお茶をこぼさないように両手で受け取り、ゆっくりと飲む。

「あっ、美味しい・・・。」

 無茶な速度で駆ける走竜から振り落とされないように常時、力んでいた為に強張っていた体からゆっくりと力が抜けるのを感じる。

「お口にあったようで、良かったです。」

 そんなサウラに微笑み、再び昼食の準備を続ける蒼溟。

「あれ? 蒼溟、オレには無いのか?」

「アクレオさんは、こっちの方が良いのでは?」

 酒瓶を片手にからかってくるアクレオに、すかさず簡易コンロで炙っていた干し肉を手渡す。

「ふっ、さすがは蒼溟。 わかってんじゃねぇか♪」

 機嫌良く干し肉を喰らう。

「すぐに昼食ができますから、もう少し待っていて下さいね。」

 酒盛りを始めたアクレオに苦笑しつつ、二人に告げると手際よく荷物から食器などを取り出しては近場の岩の上に広げていく。

「・・・手際がいいですねぇ。」

 手馴れた様子で、見た事の無い簡易コンロを使って次々に料理を完成させていく蒼溟の姿にサウラは呆れ混じりに呟く。

「料理をするのは嫌いではないですから。」

 そうこうしている内に、野外での昼食とは思えないほど、きちんとした食事が完成した。

「おぉ~。 こういう時の飯って、保存食ばかりで味気ねぇと思っていたが・・・。やるじゃねぇか、蒼溟♪」

 アクレオの言葉に、少し誇らしげに微笑むと

「ウチの教訓として、食事はきちんと()るように言われていましたから。」

少し懐かしそうにしながら、蒼溟は答える。

「そうか、なかなか良い教訓だなっ。 そんじゃ、冷める前に喰おうぜっ♪」


「「「いただきま~す」」」


 和やかに昼食を食べ始める。

「うめぇ、うめぇ。 こりゃあ、いいや。蒼溟、お前を食事係りに任命するッ!! これからも、オレの為に頑張れッ♪」

「本当に、美味しい!?」

 内心、アクレオの身勝手な言葉に反論をしようとしたサウラだったが、自分の料理の腕を考えると・・・・蒼溟君に、お願いしようかしら? 本人も嫌いじゃないと言っていたし、私も美味しいご飯が食べたいしなぁ~・・・・すぐに結論が出てしまった。

「そういえば、今回のギルドの依頼受託は、アクレオ様がされたそうですが・・・。」

 サウラからの反論が無いことに少し寂しさを感じていたアクレオは、その質問に嬉々として答える。

「おうっ!オレが直々に選んだ依頼“竜の(つの)落し”だ♪」

「・・・まぁ、いいでしょう。 それにしても都合良く有りましたね、そんな依頼。」

 サウラは少し考えた後に納得した。 実はとある勘違いをしていたのだが、そのことに気付くのはまだまだ先のこと。

「“竜の角落し”って、どんな依頼内容なんですか?」

 蒼溟は、竜の角といわれて思わず近くでくつろいでいるトレホドラッヘ達を見るが、彼らには角と呼べそうな突起物は無かった。

 それに気付いたサウラが説明をする。

「ヒルシュロークという竜族の一つで、頭部に二本の立派な角を持っているの。これを儀式にのっとり、手に入れるのが今回の依頼ね。」


 竜族の角は、他種族たちにとっては稀少な妙薬の原料であり、魔術媒体でもある。だが、これを手に入れるのはかなり困難である。

 ヒルシュローク族は、他の竜族とは異なり、鹿の角のようにある時期になると自然に角が取れてしまうのである。特に痛みも無く、取れても取れなくても身体に影響はなかったりする。


「まぁ、一種の力試しだな。 この依頼はヒルシュローク族からで、角の生え変わり時期に合わせて行われる。お互いに怪我をしたところで、儀式運営側がきちんと治癒を行ってくれるから安心して暴れればいいさ。まぁ、ケンカ祭りみたいなものか?」

 あっさりと言うアクレオに、サウラがタメ息と共に補足する。

「ヒルシュローク族もドラッヘ族も竜族の中でも比較的穏やかな性質ですが、決して戦うことが苦手という訳ではありませんので、油断していると死んでしまうので十分に注意して下さいね。」

「儀式と言っているけど、要するに戦って力ずくで角を取る・・・ということなの?」

 会話している間に昼食は終わり、片付けと食後のお茶を出しながら聞くと、

「もちろんだっ♪」

「えぇ、その為にギルドとしては、戦闘力は勿論のこと、ヒルシュローク族の居る場所まで辿り着ける体力と相手に不快な思いをさせない為に、ある程度の礼儀を有している探求者にしか依頼受諾の許可を出さないようにしているのですが・・・。」

 サウラはアクレオをちらりと見て、再度タメ息をするのだった。

 アクレオは、戦闘力と体力に対しては問題ないのだが、礼儀となると微妙だったりする。 ちなみに、適性のある探求者がいなかった場合は、ヒルシュローク族に連絡して時期を延期してもらうか、ギルド職員が交易として物々交換で竜の角を貰い受けたりする。

「へぇ、竜族といっても色々なヒトたちがいるんだねぇ~。」

 どんな姿をしているのか、どんな所に住んでいるのか、好奇心をおおいにくすぐられて目を輝かせる蒼溟であった。


 その後は順調に旅を続け、ヒルシュローク族が住むダーイラ山脈の一角が見えてきた。

「よぉ~し、明日はいよいよ山登りだ! その前に町で最後の準備をするぞ。」

 アクレオの言葉にサウラと蒼溟の二人は頷き、午後には町に着くことができた。

「まずは、ギルドに寄ってドラッヘ達を預けておかないとな。」

 共にここまで旅してきたトレホドラッヘの手綱を握りながら、寂しそうに見つめる蒼溟にサウラは苦笑する。

「蒼溟君、そんなに寂しそうにしなくても帰りにまた、彼らのお世話になるのですから。」

「一緒に行ってはいけないのですか?」

 すっかり意気投合したらしい走竜と共にこちらを見つめて(うった)えてくる。


 ・・・・小動物みたいな眼差しでこちらを見ないで欲しいなぁ~。お姉さん、その手の視線には弱いのだけれど。


 サウラは気を取り直すように空咳を一つする。

「トレホドラッヘは走竜だから山道でも大丈夫だと思うけど、今回は他の竜族の住処に行くから。念のために、彼らはここでお留守番してもらおうと思うの。」

 ヒルシュローク族もドラッヘ族も温厚な種族なので、互いのテリトリーに入ったからと言って直ぐに争いなる訳ではない。

 問題は、ダーイラ山脈の一角という部分だったりする。

 ラント国の外周にある巨大クレータの円形山脈地帯をダーイラ山脈と呼ぶのだが、そこは世界でも有数の竜種の生息地帯なのだ。なかには、好戦的な者も存在するため、無用な争いを避ける為にも同じ竜種である彼らは留守番してもらう事にしたのだ。

 人族は単体での脅威はほぼ無しのため、竜種から目こぼしされるので問題はなかったりもする。


◇ ◇ ◇


 宿屋で夕食と入浴を済ませ、三人は明日の予定を話し合っていた。

「まぁ、登山といってもヒルシュローク族は(ふもと)に近い場所だから別に身構える必要もないがなぁ~。」

 彼らの住まいはダーイラ山脈北西部の麓に広がる針葉樹の森の奥である。

この辺りは、晩秋から翌年の早春まで雪に覆われる地域で、交易品として動物の毛皮や鉱物、針葉樹から作った木炭などが主要である。また、立ち寄った町では冬場は外に出れないことから織物や細かい装飾品の類も特産物として有名である。

「そうですねぇ。 大型の肉食獣たちに出会わなければ問題ないでしょう。」

 こちらの大型肉食獣は、本当に巨大で草原を駆けていた時には恐竜のようなトカゲもどきからライオン並みのハイエナもどきに、軽自動車と同等くらいの大きさの陸亀も見かけた。

 さすがに温厚とは言っても竜種であるトレホドラッヘを襲おうとする動物はいなかったがサウラさんの話では群れ単位で来られるとさすがに捕食される危険があるらしい。

「ところで、蒼溟。 まさか、今回の武器も棒切れじゃないよな?」

 最初は、棍棒にしようかと思ったのだがフィランとサカエさんに止められた。話を聞いたジンから日本刀によく似た刀を貰ったのだ。

「へぇ、蒼溟は刀剣使いだったのかぁ。」

「う~ん・・・? そこまで、熟達しているわけでもないですけどね。」

 アクレオの言葉に曖昧な表情を返す。

 村に居た頃は、祖父たちから色々な武器の使い方と動きを学んだが、(みなと)兄さんのように刀剣に対して長く修練を積んだわけではないのだ。その為、どの武器もある程度は使えるが、どれも中途半端な状態だと思っている。

「一番、馴染んでいるのは棒術と体術かなぁ。森で狩りをする時によく使っていたから。」

「そうなの?」

 サウラはちょっと納得のいかないような表情をする。

「まっ、なんだっていいさっ。 明日からはいよいよ、ダーイラ山脈に入るのだから♪」

 祭り前の子供のようにはしゃぐアクレオの姿に、サウラと蒼溟は苦笑するのだった。

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