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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第ニ章 安穏とした日々
31/69

2-16 開き直りましょう!

章の変更を行いました。

 心の(うれ)いを忌憚(きたん)なく吐き出した蒼溟(そうめい)は、どこかスッキリと落ち着くことが出来た。

 問題は何ひとつ解決していなくて、心の中には焦燥感(しょうそうかん)や希薄な現実感と言った情緒不安定なままではあるが、一人で(かか)え込まなくても良いという状況は思っていたよりも安心感を得られた。

 蒼溟自身、こんな事を常日頃に抱いている訳ではない。

 不意に思い出しては、言いようの無い焦燥感に(あお)られて、自分を見失ってしまう。そんな時は、ひたすら身体を動かして鬱屈(うっくつ)とした気分を晴らすようにしている。

「蒼溟さまが魔術を行使しないのも、それが起因しているのですか。」

 シュンが気遣(きづか)わしげに問いかける。

「魔術を使えるのは人族以外でしょう。異邦人(いほうじん)であれば使えると聞いていても、自分の不安を肯定されてしまうように思えて・・・。恐くて、使えなかったんだ。」

 苦笑気味に答える蒼溟に対して、アオが唐突に

「蒼溟は、僕たちを信じる?」

 何に対してなのか分からない問いかけに、蒼溟は少し考える。

言動に対してなのか、存在に対してなのか、それともまったく違う意味を含んでいるのか。

「信じる・・・ううん、信じているッ!」

 自分に対しての不信感はあっても、一番身近にいてくれた二人に対しての信頼まで疑いたくは無い。

「信じてくれて、ありがとう。それでね、僕から蒼溟に言えることはひとつだけ。」

 少し間を開けられて、蒼溟は緊張でドキドキしながらアオの次の言葉を待つ。


「 お・ば・か・者 」


「えぇ!?」

 突然、(ののし)られましたッ!!

 ビックリしている蒼溟を余所に、アオは呆れたように深いタメ息を吐く。

「もうねぇ、精神年齢がお子様過ぎる。自己不信なんて、何でそんなマイナスイメージを抱くかなぁ。」

 やれやれ。といった感じで、アオは蒼溟の眼前へと浮かび上がる。

「心して聞いてね・・・それらの疑問は全て、杞憂(きゆう)です。考えるだけ、無駄ッ!無意味ッ!どうにもならないッ!」

 曖昧な表現など一切使用しない明確な答えに蒼溟は、半ば無意識に反抗する。

「で、でもッ!!」

「 “でも” も “もしかしたら” も無いッ!!」

 蒼溟の言葉を真っ向からぶった切るアオ。

「あのね、僕らにとって目の前にいる存在こそが“蒼溟”なんだよ。村の住人が“東雲”を名乗るなら、今の蒼溟にその資格は十分にあるの。」

 アオの言葉にすがる様な眼差しを向ける。

「今の蒼溟の中には、村で生活した記憶と教えられた知識がある。誰にとか、何でとか、関係ない。その記憶こそが、村の住人だった証となるのだから。」

「その記憶に自信がないのに・・・。」

 小さな声でこぼす不安にアオは笑う。

「蒼溟は、自信が無いと言うけど。蒼溟以外に、その村の事を知る者もいなければ、違うといえる者もいないの。」


「それなら、堂々と名乗りを上げたもの勝ちだよ!!」


 球体を仰け反らせながらアオは言い放つ。

「誰もその真偽を問える者はいないのだから、蒼溟が“ある”といえばその通りだし。教えて貰った知識も活用できるものなら“ラッキー”くらいの気持ちでいいんじゃない?」

 あっけらかんと言われた言葉に、蒼溟は目を見開く。

「えっ?そんな事で、いいの?」

「物事はそんなものです。リベルターも言っていたじゃないか。」


――― 楽しいが正義であり、言ったもの勝ちでもあり、出し抜いた者こそ強者。


「難しく考えたところで、答えなんて出て来ないのだから。それなら、開き直った方が勝ちだよ。」

 アオの楽観的な言葉に、シュンも賛同する。

「インフィニティ様…「アオだよっ!」…アオ様の言うとおりです。」

 途中で呼称に対しての訂正を受けながらも続けるシュン。

「存在意義など、自らで勝手に述べてしまえば良いのですよ。それに異議を言おうとも、実際に考え、行動するのは自分自身なのですから。」

 シュンは毛玉のような身体から飛び出ている手を振りかざしながら力説する。

「何をどう言い(つくろ)おうとも、結局は自分の為なのです。それこそが、生きるための本能なのですからッ!!」

 愛らしい外見と異なり、なかなかに辛辣(しんらつ)で自己中心的な意見に蒼溟は圧倒されてしまう。

「うむ。以外にもシュンは熱血キャラだったのかな?」

 アオのどうでもいい感想に、悩んでいたのが莫迦らしくなってきた蒼溟だった。


◇ ◇ ◇


 妙な方向に話がいき始めたので、仕切り直しのティータイムをする。

「まぁ、どうしても不安というなら。僕たちを信じればいいと思うよ。」

「ありがとう。でも、段々どうでもよくなってきた。」

 蒼溟の疲れたような言葉にアオとシュンは笑う。

「あははは、それは僥倖(ぎょうこう)だね。」

「ねぇ、アオたちはこういった事は考えたりしないの?」

 蒼溟の問いかけに

「それは、自らの存在に対して…という事ですか?」

 頷く蒼溟に、お互いを見合わせるアオとシュン。

「正直に言って、考えるだけ無駄かなぁ。僕の場合は、前触れも無く“発生”したから。」

 アオと答えに首を傾げる。

「産まれたとか、完成ではなく。発生なの?」

 生き物として誕生したのなら“産まれる”だし、機械などの非生物ならば“完成”とか“稼動”と表現するはずだが。

「もともと、存在自体があやふやで、誰にも認識されていない状態だったからねぇ。後になって異邦人の“無限大”という意味の“インフィニティ”と呼ばれるようになって初めて情報集積領域を認識したくらいだから。」

 名付けられた事により、自己を認識した。その自己ですら、広大な情報集積領域を指すだけの言葉で、集積した情報を活用するという意識はなかった。

「蒼溟と遭遇して、その意識に関与して初めて固体認識ができたの。決定的になったのは、“アオ”と命名されてからだよ。」

 情報集積領域を種族として考えると、個体認識はひとつの生体ということだろうか。

「それだと、アオが誕生したのはつい最近という事?」

「ある意味、そうだねぇ。」

 呑気に答える薄青色の球体生物。

詳細を聞いた後では、生物というよりも機器のひとつのようにも思えてくるが・・・。

 機械って、精密で繊細なものだと思っていたけど一つも当てはまらないようねぇ。

 思わず胡乱(うろん)な眼差しを送ってしまう蒼溟をシュンは苦笑して見守る。

「それですと、私もアオ様と似たようなものですね。」

「えっ!? シュンたちレーヌ族も“発生”するのッ!!」

 思わず細胞分裂のように増殖する姿を想像してしまう蒼溟に、そんな訳ないでしょう!とツッコミを入れるアオ。

「いえいえ。私たちは“誕生”する方ですが、あまり血縁とか種族とかにこだわりを持たないのです。その辺りが、アオ様と似ている部分ですねぇ。」

 レーヌ族は、生まれた環境などによって特徴や固有魔術が変化する種族で、その差異は毛色で現れる。親から遺伝するのは毛玉のような体型だけで他の特色は一切受け継がれない。

「一応“序列”というもので種族内の指揮系統はされていますが、それも絶対ではありません。あくまでも、目安程度でその順位を決めるには細かい規定によります。」

「その序列は、部族間でなの?それとも、種族全体なの?」

「種族全体ですねぇ。序列二桁の方々は、地域で奉仕活動する部族の長になれる資格があります。ですが、特定の“(あるじ)”を得たものたちはこの序列から除外されます。」

 レーヌ族は他の種族と争うのを忌避(きひ)する代わりに、共生という形で存続を選んだ。

「蒼溟、レーヌ族の一番の特徴は“主”至上主義なんだよ。」

 アオの言葉に困惑する。

「生涯に一度だけ、特定の“主”を得ることが認められているのです。主の為に奔走し、主の為にその生涯を捧げる。これぞ、レーヌ族の存在意義ですッ!!」

 力強く断言するシュンの姿に、燃え盛る炎のような情熱を見たような気分になる。

「まぁ、全ての者たちが“主”を決めれる訳ではないみたいだけど。“主”を得たレーヌ族の者は、常識も規律も倫理観すら投げ捨てるから。」

 アオは、シュンに聞こえないように注意しながら、

「主持ちのレーヌ族には近付かないのが無難だよ。」

と蒼溟に教える。その温厚なのか、物騒なのか、どちらとも評価できない特徴に乾いた笑いしか返せない蒼溟だった。


◇ ◇ ◇


 湾曲空間固定から元の部屋へと戻ってみると、時間がほとんど経過していないことに気付いた。

「ねぇ、アオ。あの空間内では時間経過はないの?」

「みゃ、みゃ」

〔 いや、普通に経過するよ。今回は、どれだけ時間がかかるのか分からなかったから、湾曲空間内の時間を通常より加速していたけどね。〕

「おぉ、なんて便利で高性能な・・・。」

「みゅ、みゃあ~ん♪」

〔ふっ、無限の可能性から“インフィニティ”と名付けられていますし、低コスト高性能な万能アオちゃ~んですから♪〕

 そのボキャブラリーはどこから得た情報なのだろう・・・どうでもいいところで、悩む蒼溟だが

「まぁ、ここまで来ると“何でも有り”って感じだねぇ~。」

自分的には深刻に悩んでいた事柄をあっさりと“お莫迦”発言で済まされて、トドメには精神年齢“お子様”と評される 等々を受けた後では、考えるのを放棄したくなっていた。

〔 物事は適度に開き直りましょう。ところで、そろそろお休みになられた方が宜しいのでは?〕

「あぁ~、すっかり遅くなっちゃったねぇ。」

 夕刻にアルシュと会話して、その後に人生相談?を開催して、精神的にも思考的にも疲れた蒼溟は、そのままベッドに倒れこむと同時に気絶するように眠りについたのだった。


◇ ◇ ◇


――― 蒼溟が寝入った部屋の中。


アオ〔 ねぇ、蒼溟の前ではあえて聞かなかったけど… シュンは蒼溟を主として認定したの? 〕

シュン〔 いいえ“まだ”ですよ。 …魔の森に住まうレーヌ族たちも“主候補”として観察している最中ですね 〕

アオ〔 ふぅ~ん。シュン的には“お子様”な部分は、主として有り? 無し? 〕

シュン 〔 私的には“有り”ですね。完全無欠の方はそれなりに仕えがいありそうですが、多少なりとも欠点がある方が、支えがいがありそうですから 〕

アオ 〔 なるほど。これからの蒼溟が、ある意味本質に近い姿… という事かなぁ 〕

シュン 〔 それは、それで楽しみでございますねぇ♪ 〕

アオ 〔 そうだねぇ、楽しみっ♪ 〕


本人には大問題でも、人から見ると他愛もなかったりするのは、良くあることです。

ちょっと、大人に近付いた?蒼溟くんでした〔笑〕


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