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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第ニ章 安穏とした日々
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2-10 初めてのお仕事

 さて、本日は探求者ギルドへ向かい個人認証用のタグと銀行の通帳みたいなギルドカードができているはずだから、そこに僕の個体情報を組み込む作業をしなければいけないらしい。

「個体情報を採取するって言っていたけど、どうやるんだろう?」

 僕は懐にいるアオに聞いてみる。

「みゅ?みゃ、みゃ~ん。」

 心配?大丈夫だよ、解剖されるわけじゃないんだから。と答えてくれるけど、その例えもどうかと思う。

 アオと雑談しながら、僕は一人で暖色系の目立つ建物へと向かった。


 受付のカウンターへと行くと以前にあったお姉さんが迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、蒼溟(そうめい)さま。」

 にっこりと優しく微笑むお姉さんに挨拶を返す。その後、お姉さんに連れられて簡易仕切りをされた部屋へ入って行くと、数人の担当者と他の登録者の人達が居た。

「探求者ギルドでは、犯罪歴や身体的、種族的な差別は一切されない代わりに、個人詐称に対しては厳しい罰則を行っております。」

 お姉さんの説明によると、例え王族や高位の生命体であろうと個人認証を詐称する行為についてはギルド全体での処罰対象とされる。その変わり、本人や各ギルドのマスターや高ランクのギルド隊員の認証があれば、通常の閲覧はもちろんの事、ギルド側による高位情報閲覧時でもその情報を開示することを制限することが可能となる。

「情報閲覧制限に関しては、各ギルドマスターとその都市や国により要請されることもあります。開示についての最終決定権は本人のみです。当然、本人と連絡が取れない場合は開示することはありません。」

 へぇ、個人情報の守秘義務は万全ということなのかな?

「ちなみに、その個人情報を違法に習得、閲覧しようとしたら?」

 僕の言葉に、お姉さんはかなり含みのある笑顔で

「全ギルド職員、及び関係者一同から討伐対象とされます。正直、情報を得るためならギルドよりも他の役所を攻めた方が得策でしょうね。」

 でも、そんな事をしてはいけませんよ。と最後に忠告してくれたけど、なんだろう。知ってはいけないことを聞いたような気分になるのは・・・。

「え、え~と。それで、個人情報の採取ってどうやるの?」

 僕のあからさまな話題変更にお姉さんは微笑みながら、簡易仕切りのひとつを指さして説明してくれる。

「採取の仕方は簡単ですよ。あの仕切りの中に筒状の更衣室があります。その中で魔術と方術、魔工術式による詳細情報を取ります。」

 更衣室の中では、全裸になって魔術による精査、方術…医療や占いなどの雑多な手法の総称らしい…による健康診断、魔工術式による精査の三種類が同時に行われる。

 それらを操作する魔技師たちにもその情報は見る事ができないらしい。情報の正否については別の手法によって行われるらしいのだが、その詳細は誰にも分からないとのこと。

「それだと、個人詐称されたかなんて、分からないのでは?」

 仮に情報が詐称されたとしても、本人にその意思がなく、偶然に起こった場合などどうするのだろう。例えば、更衣室の中に術式を組み込んだ装飾品を身につけたままだったり、アオのように別の誰かと一緒に入っていたりして情報が錯そうしたらどうするのだろう。

 首を傾げながら聞くと、お姉さんは以外な答えをくれた。

「大丈夫ですよ。女神さまの目を欺くなど、この世界に生きる誰にも行うことができませんから。」

 え~と、それは隠語ですか?それとも、本当に神様が存在するのだろうか。

 僕の不思議そうな顔に、お姉さんは楽しそうにクスクスと笑う。

「すみません。蒼溟さまは、ジンさまと同じく異邦人でいらっしゃるので納得できないようですが、この世界で生まれ育った者たちにとって女神さまとは、とても身近な奇跡でもあるのです。」

 女神さまの姿を見たものはいない。それなのに、女性だと認識するのは魔技師たちによる技術行使の際に、この女神と契約を交わす時に例外なくそう感じるからだそうだ。

「それに、異邦人の方たちが語られる神様のように、女神さまは万能ではありますが、万全ではありません。その基準がどんなものであるのかは私たちには測りかねますが、その加護と天罰は確かに存在します。」

 少し誇らしげに、そして畏怖と敬愛を含んだお姉さんの笑顔に僕は見惚れてしまう。

「それに、私たちが身近に感じる女神さまの使いとしてインフィニティ様がいらっしゃいますから。」

 薄青色の球体生物であるアオを見つめるお姉さん。その眼差しをさり気に流すアオ。

「そんなにスゴイ存在だったんだ。」

 僕の言葉にアオは、さぁね、どうでしょう?とはぐらかす。

「あっ、そろそろ順番が回ってきたようです。蒼溟さまはこちらへ。インフィニティ様はあちらでお待ち下さい。」

 僕らの様子を微笑ましそうに見つめていたお姉さんが教えてくれる。その後は、特に問題もなく順当に進んだ。

 少し驚いたのは、筒状の更衣室といわれていた装置がかなり高度な技術によって作られていたことだ。布で仕切られたような物を想像していたのだが、実物は半透明なプラスチックかガラスのような容器に細やかな模様のような術式、上部と下部には魔工術式で作成されたコンピュータのような機械。更に内部の天井と床には、今まで見たことのない円形の術式が書かれていた。

 それらが、魔技師の合図により一斉に稼働して十数分後には終了。後は、念のために身体に異常がないか軽く検査して採取は終わり。

「以外にあっけなかったでしょう?」

 僕の呆けたような表情がおかしかったのか、笑いながらお姉さんは聞く。

「なんだか、物々しい説明を聞いていたから。もっと、スゴイことをされるのかと思ってました。」

「クスクス。一応、脅し文句を入れつつ、時間つぶしの説明をするようにギルドからのマニュアルに記載されていますから。でも、説明内容に嘘偽りはないから本当に気を付けて下さいね。」

 お姉さんの言葉に素直に返事をして、僕たちは元の場所へと戻る。

「それでは、この後はどうされますか?仮認証でダンジョン捜索も出来ますし、低ランクの依頼であれば受諾することも可能です。」

 その言葉に僕はアオと顔を見合わせる。

 ダンジョン探索は魅力的ではあるが、装備などが準備できていない。それを考えると低ランクの依頼で出来そうなものをやるのもいいかもしれない。

「えっと、僕でも出来そうな低ランクの依頼ってありますか?」

 その言葉に、お姉さんはカウンター席で簡易端末を操作する。

 そこで僕は初めて気付いたのだが、他の探求者の人達の装備が剣や斧などの原始的なものだった為、技術がそんなに発達していないと思っていたのだが、先ほどの個体情報採取の機械やお姉さんが操作している簡易端末などを見ると、この世界の技術は所々でかなり高度な物を使用している様子だった。

「そうですねぇ。初めての方でもこなせるものとしては、街の清掃活動から個人の邸宅の雑務などがありますが、どうしますか?」

 僕は初仕事として、街の清掃活動を選んだ。

この依頼主は、都市の環境整備課からで国からの依頼と認識しても間違いではない。報酬としては大したことはないのだが、トラブルもなければ、必須技能もないので、子供からお年寄りまで小遣い稼ぎとしては定番だそうだ。

「それでは、期間は一日単位となります。集合場所に行けば、依頼主である環境整備課の担当者がいますので、開始と終了時にサインをもらって下さい。この専用用紙に記載してもらい、ギルドに提出していただければ依頼終了処理と報酬をお支払します。後の詳細な説明は依頼担当者から直接お聞き下さい。」

 僕は仮認証と専用用紙を受け取り、お姉さんにお礼を言ってギルドを後にした。


◇ ◇ ◇


 集合場所は、環境整備課の施設の一つでアオに案内してもらった。

 そこには、すでに様々な年齢の人達と担当者らしい制服を着た男性が居た。その人に専用用紙と仮認証をみせるとあっさりとメンバーに組み込まれた。

「それでは、どれを担当してもらいましょうか。」

 すでに各清掃活動に別れているメンバーを見渡しながら、お兄さんは考える。

 僕は初めて見る機械に興味をひかれていた。小さな五歳くらいから十歳くらいの子たちが空中に浮く台車のような物を囲むようにして立っている。それを不思議そうに見ていると、担当者のお兄さんが説明するよりも早く、子供たちのリーダーらしき男の子が教えてくれる。

「なんだ、お兄ちゃんは大きいのに、この清掃分別機を知らないのかぁ。」

「うん。この街に来たばかりで、何にも知らないんだけど。よかったら、教えてくれないかなぁ。」

 僕の言葉に得意そうに男の子は笑う。

「そっか。それじゃあ、仕方がないか。それなら、オレたちが色々と教えてやるよ。」

 その言葉に担当者のお兄さんが苦笑しながら、

「それじゃあ、この子たちと一緒の担当にしてもいいのかな?」

 それに了承すると、専用用紙に担当地区と活動内容を記載して、僕に返却してくれる。

「じゃあ、ある程度終わったらココに戻ってきて下さい。機具の返却と情報により、報酬価格が多少変わりますので。それでは、皆さん。本日も宜しくお願い致します。」

 それを合図に、それぞれが担当の地区へと向かったのだった。


「オレたちの担当地区は公園付近だから、2番目に稼げる場所なんだ。」

 街の住民が憩いの場として活用する結構広い公園らしく。随所に雑木林や簡易トイレに飲食店なども存在する。

「それで、オレたちが回収するのは飲食する時に使った後の器などが中心だな。」

 この世界では、使い捨てという理念はあるがそれをゴミとしてではなく、再利用可能な資源としてみなすらしく、器は主に土器を使用している。

それを残飯と器と分別し、前者は肥料の材料とし、後者は分別機の洗浄機能により綺麗にした後、粉々に砕いて改めて土器の材料として使われるそうだ。

「へぇ、そうすると食べ終わった後はその場に残すの?」

 僕の答えに、男の子は首を振って否定する。

「本当は、各所にある分別機に入れるんだけど。マナーの悪い連中がそこら辺に捨てちまうんだよ。オレらはそれを回収して、掃除するのがお仕事。後は、不審者や物を見つけたらすぐに通信機を使って知らせて、その場から逃げる。」

 なるほど。街の清掃と兼任して監視活動もするのか。確かに、これなら問題が発生する前に対策や次善策を取ることが可能だし、街の防犯としてはかなり有効だ。

「不審者や物の見分け方ってあるの?」

「うーん?特に無いかなぁ。まぁ、オレたちが見て不思議に思ったり、見たことのない奴を見つけたりしたら報告する感じかなぁ。」

 その言葉に他の子たちも頷く。

「えとねぇ。何でもいいみたいだよ。通信機を使う時は、変な人や動物に襲われそうになった時で、普段は画面にある地図に気付いた地点を押すの。」

 小さな女の子がそう言うと、専用用紙と同じ大きさと厚さの端末を見せてくれる。そこには、担当地区の簡易地図が表示されていて、そこの一つを指で押すと子供でもわかるように簡易の風景画が出てきた。

「ここのボタンを押して、見つけた変なものがあった場所を押すと色が変わるの。」

「それで、後はこのスピーカーの形をしたボタンを押して見たままを言う。すると後で係りの人が確認するらしいぜ。」

 他の子たちも一緒に説明してくれる。

「まぁ、滅多にないことだけど。オレたちがよく見つける不審者といえば、酔っぱらいが大半かなぁ。」

 男の子の言葉に他の子たちも頷く。

「そんじゃあ、後は実践で覚えるということでさっさとやろうぜぇ。」

「「「おぉ~~う!」」」

 他の子たちと一緒に返事をする蒼溟。

 それからは、子供たちと一緒になってゴミ拾いをして雑談をする。時折、お店の人から飲み物をもらったり、新作のお菓子を試食させてもらったりしながら和気あいあいと作業するのだった。

 ちなみに、各所におかれた分別機の中身は他のメンバーが回収と交換を行うらしい。実によく出来た仕組みだと思った。


 初めてのお仕事が終わる頃には、すっかり子供たちの仲間として認識されて僕とアオは友達を増やしていくのだった。


◇ ◇ ◇


「それじゃあ、今日は街の子供たちと仲良くなったのねぇ。」

 夕食時にジンの奥さん、フィランと侍女のサカエさんと楽しく雑談をする。

「うん。でも、ここは不思議なところだねぇ。技術が発達していないかと思ったら、見たことのないような高度な機械もあってビックリした。」

 僕の言葉にちょっと考える仕草をするフィラン。

「そうですねぇ。ラント国は、新興国でもありますから国としての歴史は他の国々よりもありません。その為、技術の大半は他の国から得たものです。」

 ラント国は巨大なクレーターの内部にあるようで、周囲は大きな山脈によって他国と隔たれている。

「様々な高度な技術を(よう)する組織として“協会”が有名ですね。」

「きょうかい?宗教かなにかの。」

 僕の言葉にサカエさんが教えてくれる。

「いいえ。先史文明時代の技術や知識を管理する組織で協同組合としての意味で“協会”と称されている団体です。」

 この“協会”は様々なギルドの総括であり、どの国にも属さない組織だそうだ。どこにも属さない代わりに災害や戦時中の医療には無償奉仕することを確約しているとのこと。

「特殊な組織でもありますから、管理や継承などに際しての人材育成として“学園都市”にも関与しているらしいですよ。」

 その言葉に首を傾げる僕に、意外にもアオが答えてくれた。

 学園都市とは、陸地の孤島とも言われる場所にあり、各国からの入学を許可している総合教育施設とのこと。当然ながら、各国で不可侵協定を結んでいて、それは反故にしようとすると世界中を敵に回しかねないらしい。

「アオは、そこに行ったことあるの?」

 僕の問いに、曖昧な返事をするアオ。

インフィニティとしての能力として、別の個体が学園都市に住んでいるようだ。その知識を共有していることから、様々な情報を教えてくれた様子。

「まぁ、その他には女神信仰のある大国や古代帝国の末裔を擁する国などが高度な技術を有しているとの話を行商の方から聞いたことがありますねぇ。」

 サカエさんの言葉に僕はワクワクしてくる。

 ラント国のルジアーダという街だけでも僕の想像を超えているのに、それ以上に不思議そうな国々の話に興味をそそられてしまう。

ジンはそんな国々を旅してきたのだろうか?今度、機会があったら聞いてみたいなぁ。

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