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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第ニ章 安穏とした日々
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2-9 好きこそ物の上手なれ

 国営商店街へと入ると、そこは色彩豊かな店舗が立ち並ぶ一種、異様な雰囲気だった。

「あぁ、そうそう。蒼溟クンは、ピンクのラインより先の店舗に入ってはいけませんよ。その先は、成人した…リスクを理解したヒト達…専用区域ですから。」

 建物の間から奥の暗がりへとつながる道に引かれている線を指さしながら、リベルター兄さんがにこやかに説明してくれる。

「みゅ~~ぅ?」

 具体的にはどんなお店があるの?とアオが尋ねる。

「そうですねぇ・・・。差し障りがなさそうな所で・・・。」

 自分の肩に乗る薄青色の球体生物に兄さんは丁寧に説明を始めた。

「まずは、飲み屋でも男女専用と共通の三種類に分かれているとか。特殊な性癖に目覚めた人用とか、怪しげな薬から玩具、服飾とか。」


 飲み屋は、お酒や軽食などを主に扱う飲食店。ただし、一般向けとは違い男専用、女専用、共通と分かれているのには、それなりの理由があった。

 それぞれの専用は、お客を限定することにより無用な諍いを避けるためでもある。酒に酔い女性客にちょっかいを出させないように、というのもあるが男専用なら女性には聞かせられない下ネタ系から身体のちょっとした不調などの話を気軽にできる。

 女専用は、男性の目を気にせずに素の自分を出せる事と職場でのセクハラの憂さ晴らしとして、男性従業員に逆セクハラを行うこともできる店もある。


「まぁ、どのお店も従業員の趣味と、ある意味罰ゲームを兼ねた内容ですねぇ。一応、トラウマにならないように最低限の注意はしていますが・・・三割は新たな自分を発見し、四割は諦めと忍耐を身につけ、残りの三割は・・・二度と罰を受けないように真面目になりますね。」

 え~と、結局は無事には済まないということだろうか?

 僕が若干引いているのを他所に、リベルター兄さんはさらに詳しい内容をアオに説明していく。アオはそれを楽しそうに聞いているけど、時折“子猫さまを愛でる会”とか“(しつけ)の仕方研究会”に“禁断の愛後援会”、“胡蝶之夢(こちょうのゆめ)クラブ”等々。その名称だけで、なんとも言えない悪寒がする。

「今から行くのは、どんな所なの?」

 二人?の会話に筋肉マッチョな男性メイドに、美女による執事とか、妙な単語が聞こえてきて僕は不安のあまりリベルター兄さんに聞かずにはいられなくなった。

「エッ?あぁ、大丈夫ですよ。私が今から案内するのは、“魔工術式(まこうじゅつしき)研究会”という大手の善良なクラブですから。ほら、前に父上が乗り回していた“飛翔艇(ひしょうてい)”を作成した所です。」

 ジンの乗っていたエアバイクかぁ。

道楽で研究開発した物だと言っていたけど、専門の研究機関ではなくて、王城勤めの人達のクラブ活動で作られたとは思わなかった。


◇◇ ◇


「さぁ、ここですよ。」

 王城の外堀にはめ込まれているような感じの大きな倉庫のような建物。中に入ると一つの大きな空間を様々な衝立で区切った様相で、様々な機器を作成、研究しているようだった。

「うわぁ――、スゴイねぇ。」

 驚く僕にリベルター兄さんは微笑みながら、さらに奥へと進んでいく。

 他の区画よりも大きめに取られた空間に、クレーンのようなもので吊りあげられた“飛翔艇”があった。

「この区画が“飛翔艇”の研究開発を担当しています。ちなみに、実用に耐えれるようになれば国が買い上げてくれる予定もあります。」

「んっ?なんだぁ、リベ坊じゃねぇか。」

 体格の良い中年男性がリベルター兄さんの後頭部を殴りながら、話しかけてきた。

「イタッ!?何をするんですか、大将!!」

 憤慨する兄さんを軽くあしらい、その人は僕を見つめる。

「おう、俺はここの研究施設を任されているガリーだ。まぁ、普段は“大将”と呼ばれているがなぁ。」

 軽く自己紹介をする。

「昔は王城の庭師として勤めていたんだが、事情があって辞めてなぁ。次の職を探していたところ、ジンの推薦でココの責任者になっちまったのさ。」

 僕らはガリー大将の案内で、事務所へと向かった。

「あっ、そうそう。他の研究グループからリベルターが来たら声をかけて欲しいと言われていたんだが。どうする?」

 問われた兄さんは、少し考えこむ。

「そうですねぇ。今日は蒼溟クンの案内人として来ていますからねぇ。」

「僕の事なら、気にしなくてもいいよ。ここで待っていてもいいし、時間がかかるようなら自分で帰れるから。」

 僕が気を使うと、それでも渋るリベルター兄さん。

「それなら、ワタシが案内役を代わりましょうか?」

 事務所のドア付近につなぎ姿の美少女が立っていた。

「レイル王女様。」

「ここでは、敬称などいらない。趣味の自由時間くらい好きにさせて。」

 リベルター兄さんの言葉に、王女さまは不服そうに言う。

「いえいえ、王宮魔技師筆頭としては姫様を呼び捨てになど出来ませんから。」

「その割には、いつも随分な扱いを受けているように思うけど?」

 可愛らしく首を傾げる王女さま。嫌みというよりも、素で不思議に思っている様子だ。

「いやまぁ、そうですけどねぇ。一応、他のヒトからの目もありますから。できれば、ご容赦していただくと私としては、ありがたいのですが。」

 苦笑するリベルター兄さんの言葉に、王女さまも思い当たる事があるのか、ため息をつく。

「あぁ、本当にねぇ。表面上だけの敬意など、式典の時だけでいいと思うのだけど。」

「まぁ、彼らにとってはソレしか頼るべき寄る辺のない者たちでしょうから。かつての忠義ある者たちでも子育てまで上手とはいかなかったようですからねぇ。」

 しみじみと、こき下ろすリベルター兄さんを見ていると、本当に他のヒトの目を気にしているのか怪しい。

「それでぇ、どうすんだ?姫様自らが案内役を申し出てくれているが、リベルターは残るのか?それとも、ついて行くのか?」

 ガリー大将の言葉に少し思案した後に、

「そうですね。ここは姫様のお言葉に甘えて、お任せしましょうか。蒼溟クンもそのほうが嬉しいでしょうから。」

 うわぁ、兄さん。とっても、イイ笑顔ですねっ。

「姫様、この者はジンの養い子にして私の義理の弟(おとうと)になります。名前は、蒼溟(そうめい)東雲(しののめ)。異邦人であり、魔の森の主の関係者でもあります。」

 紹介されて僕はお辞儀をする。

「そして、私の肩にいるのがインフィニティ殿。蒼溟クンは“アオ”と呼んでおります。」

 リベルター兄さんは、肩に乗ったままの薄青色の球体生物も紹介する。

「みゅ、みゅみゅ。」よろしく、“アオ”と呼んでもいいよ。

 アオの言葉にゆっくりと頷く王女さま。言葉がわかるのだろうか?

「・・・蒼溟に、アオ殿。ワタシはこの国の第一王女のレイル・ラントだ。よければ、レイルと呼んでほしい。」

 手を差し出す王女さま。戸惑う僕に、リベルター兄さんは背後から耳元に囁く。

「よかったら、姫様の友人になってあげて下さい。彼女は立場と様々な事情から年の近い友人がいません。蒼溟クンなら、問題ないでしょうから。」

 その言葉に後押しされて僕は決断する。

「宜しく、レイル。友人として付き合ってくれると嬉しいかな?」

 僕の言葉に王女であるレイルが満面の笑みで答えてくれた。その綺麗な笑顔に僕は赤面してしまった。

「さて、後のことは若い二人に任せて。邪魔者な私は、他の研究グループの連中と親睦を深めてきますかね。」

 お見合いの定番セリフに、泣き真似をしつつ、アオを僕に手渡すとリベルター兄さんは事務所から出て行った。

「「・・・・・・。」」

 恥ずかしさから、レイルと僕は真っ赤になってうつむいてしまった。

 失念していたけど、事務所内にはガリー大将に女性従業員も複数いて、そんな僕らを微笑ましそうに見つめていました。


◇◇ ◇


「へぇ、レイルは王女さまなのに“魔工術式研究会”の一員なんだ。」

「あぁ。王族が参加するのは本来いけないことなのだが、無理を言って認めさせた。それに、魔工術式は様々な開発の余地があって面白い。」

 僕とレイルは、事務所内の応接用のソファに座り雑談をしていた。アオはさり気にレイルの膝の上に乗って嬉しそうにしている。

「そろそろ昼時だな。せっかくだから、外に食べに行くか?」

 僕らは連れだって、建物を出ると国営商店街にある飲食店のひとつに向かった。

「国営とはいえ、レイルは自由に歩き回って大丈夫なの?」

 ここに居るのは王城勤めのヒトたちとはいえ、戦闘に特化した護衛がいるわけではない。王族が一人歩きするなんて、あまりにも不用心な気がしたのだ。

「まぁ、ココは人の出入りが自由だから、安全とは言い難いがな。それでも、護身用の装備に技術もある。」

 そういって、レイルは首にかけていたアクセサリーを見せてくれた。

 これは、ギルドの認証タグのような機能も持っていてレイルの身に何かあれば王城にすぐさま連絡がいくし、位置も確認できるそうだ。

「後は、ワタシが作った武器だが。大型の肉食獣でも一撃で気絶させることができる威力があるから、並みの相手では太刀打ちできないな。」

「へぇ、武器まで作るなんてスゴイなぁ。」

 感心する僕の姿に、ちょっと照れくさそうに頬を赤めるレイル。

「コホン。ほら、ここがお薦めのお店だ。」

 お店に入ると、従業員のヒトがすぐに来てくれて奥の人目に付かない席に案内してくれた。

「ここは“食材研究会”と“料理開発部”が経営している店で、半年に一回の割合で宮廷料理師たちと技を競いあっている。そのおかげで、とっても美味しい料理が割安で食べれる隠れた名店の一つなんだ。」

 レイルのお勧め料理を頼んで、待つこと数分。美味しそうな匂いに彩り豊かな料理の数々に僕とアオは喜んで食べた。

「蒼溟は、ギルドの登録は済ませたのだろう。探求者として、良質の魔鉱石が手に入ったらワタシに売ってくれないか?」

 あれ?個人での売買ってできるのかなぁ。

特定ダンジョンで回収した魔鉱石は基本的にギルドで換金を行う。一応、申請すれば加工前の魔鉱石を持ち出すことが可能だとは聞いているが・・・。

「あぁ、それなら大丈夫だ。申請時に取引相手としてワタシの名前と依頼書を見せればいい。その時までには、正式な依頼書を作成しておこう。」

「うん。問題が無いなら、別にいいよ。」

 僕が快く了承すると、レイルは嬉しそうに微笑んでくれた。

 う~ん、こんなに綺麗な子に頼まれたら、否だとは言えないよねぇ。

 それから僕らは、レイルの案内で国営商店街…年齢制限なしの区域のみ…を見て回り、楽しいひと時を過ごした。

その後“魔工術式研究会”の建物まで戻った僕らは、帰れそうにもないリベルター兄さんを置き去りに、レイルと別れて家路についてのだった。


◇◇ ◇


 ジンの屋敷に戻り、一日の疲れを癒すためにゆっくりと湯船につかる。

「はぁ~~~。今日も色々あって、楽しかったね。」

「みゅぅ~~ん。」

 う~ん、面白かった。と答えてくれるアオと一緒に僕はノンビリと浴室の天井を見る。

 この街に来て、そんなに経っていないのに僕は魔の森が懐かしく感じた。あの森の主は純白の獣姿で今も散策しているのだろうか。それとも、人の姿で宮殿にいるのかな。

「ねぇ、アオ。ギルドの認証タグができたら、アルシュに連絡してみていい?」

 僕の問いかけに、アオは快く請け負ってくれた。

 久々にアルシュとも連絡が取れる事と、この世界に来てはじめて年の近い友人が出来た事に僕は嬉しくてたまらなかった。

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