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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第一章 胎動
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1-2 旅立ちは突然に

事前に作成していたものを一気に掲載してみます。

 いつものように、朝の狩りを終えて井戸で顔を洗っていると、途中から(ひいらぎ)も来て軽く雑談をしていた。


「お~い、そこの小僧(こぞう)二人。」


 口悪く近付いてきたのは、村で大工のようなことをしている人だった。


「「おはようございます。」」


 柊と二人で挨拶をすると、黒々とした(あご)ひげを生やしたオッサンは軽く返してくる。


「おぅ、おはようさん。悪いがふたりとも、今日は俺の仕事を手伝ってくれないか。」


 この村では自給自足を原則としている。さすがに電化製品などは大人たちが村の外で買い付けてくるようだが、修理などは自分たちで行っている。


「オヤッサンの仕事というと・・・大工仕事の方?」


 村の家屋や道路整備まで自分達で行う大人たち。さすがに、人手が欲しい時などは村の住人が協力している。簡単な仕事であれば、子供たちも普通に借り出されるのだ。


「あぁ。(かい)の所なんだが、昨日の晩にオヤジさんが帰ってきたらしくてなぁ。奥さんと派手にやらかしたらしいんだわ。」


 (かい)という人は、柊よりも年上で子供たちの中でも年長者組に入る。その両親は、仲が良いのか悪いのか・・・・よく派手に夫婦ゲンカをしては、物を破損している。

 余談だが、一番物を壊すのは(みなと)兄さんのところ。姉さんたちのケンカとも言えない、じゃれ合いで壊されていくのだ。その規模は…思い出したくないくらい。


「分かりました。この後、すぐにですか。」


 柊が聞くと、出来ればすぐに来てくれるとありがたい…との言葉が返ってきた。



◇ ◇ ◇



「おう、二人とも久し振りぃ~。元気してかぁ。」


 柊と二人で現場に行くと、家の住人である(かい)兄さんが出迎えてくれた。


「海兄さん、お久し振りです。」


 村の住人が顔見知りのため、子供たちは血のつながりの関係無しで兄弟のような呼び方をする。


「あぁ~、なんか兄さんと呼ばれると村に帰って来たって感じがするなぁ。」


 柊の挨拶に、しみじみと語る海兄さん。実は、一年くらい行方知れずになっていたのだ。


「今まで、何をしていたの?」


 僕の質問に、海兄さんはニヤリと笑って近くの木を指さして答えた。


「あそこで、す巻きになっている親父のところに行ってた。」


 そこには昨晩の夫婦ゲンカの結果らしき姿の親父さんがいた。

 ・・・・さすが、村の男だなぁ。簀巻きにされて木に()るされているのに、割と平気な顔で寝ているよ。


「なんでぇ、家の支柱をへし折ったと聞いたから、もっと凄惨(せいさん)なのを想像していたのに。吊るされただけかよぉ。・・・・つまらん。」


 大工道具を持ったオッサンの残念そうなセリフに、海兄さんは平然と返したのが。


「いんやぁ~。結構、ド派手にさば折りとかされていたけど、村の子供たちの教育上悪いからという事で、今朝早くに(ちがや)ちゃんが直しに来てくれた。」


 ん?・・・直す。治療したというなら「治す」の方では?


「あぁ、おツムの方は治療しようがないからなぁ。身体だけ、直した・・・という事か。」


 さも納得した…とうなずく二人の姿に、親父さんがちょっと気の毒に思えてきた。


「おはようございます。皆さん、朝早くからお手数をかけてすみません。」


 家の中から海兄さんの母親が挨拶に来た。確か、年の離れた姉が街に住んでいると聞いたことがあるが・・・二人の子持ちとはとても思えないほど若々しい容貌の女性だ。


「なぁ~に、いつものことさ。気にすることない、海坊やもいることだ。」


 当然のように、作業人数に組み込まれる海兄さん。本人も肩をすくめながら、作業を始めた。



◇ ◇ ◇



 支柱も新しいのに取り換え、ついでに家屋の修繕もこなした僕らは作業終了と共に海兄さんと雑談していた。


「ところで、二人とも将来は街に出て行くのか?」


 お茶をガブ飲みしていた海兄さんが口元を乱暴に拭きながら聞いてきた。


「僕は特に考えていなかったけど。街って、森がないんだよねぇ?・・・狩猟が出来ないなら、このまま村にいたいかなぁ。」


 蒼溟(そうめい)の言葉に、僕は思わず納得してしまった。狩りは、蒼溟にとって修行の一環(いっかん)であり趣味であり、遊びながら学ぶ場としての意味もあるからだ。


(ひいらぎ)はどうするの?」


 僕は少し考えながら、答える。


「・・・僕も出来れば村に居たいな。街の手芸や服飾関係にも興味はあるけど、人がたくさんいる所って何か落ち着かなさそうに思えるから。」


 僕らの答えに苦笑した海兄さん。


「まぁ、なんだ。一度は村の外に出て見た方がよさそうだなぁ。」


 見もしないで、それを否定するのは間違っているとは思うけど。この村は居心地が良いから、見知らぬ街へ行くよりも魅力的に思えるのも仕方がないと思う。


「まっ、実際にその時になれば意見も変わるかなぁ。俺みたいに半強制的っていう場合もあるからなぁ。」


 そういえば、海兄さんは気づいたらいなくなっていた。

 子供である僕らが不思議に思って兄さんの母親に聞いたら「・・・多分、大丈夫でしょう。打たれ強い子だから。」と言って放置していたな。


「海兄さんは、街に行って楽しかった?」


 無邪気に蒼溟(そうめい)が聞くと、人の悪そうな顔で海兄さんが耳打ちしてきた。


「・・・ここだけの話だが。街に行けば、綺麗なお姉さま方とお知り合いになれるぞ。」


 耳打ちされた内容に呆れてしまった。もっと、他に言うことはないのですか。


「?知り合って、どうするの?」


 きょとんとした表情の蒼溟に、海兄さんと二人して驚いてしまった。


「えっ、なに?本気で言ってるのか、蒼溟?」


 時折、幼い反応をするとは思っていたけど。それとも、ただ単に鈍感なだけなのかな?


「・・・そうか・・・仕方がない。そんな蒼溟に俺の大事なコレクションの一部をさずけてあげよう。」

 海兄さんは、どこに持っていたのか一冊の雑誌を手にしていた。そこには『R18』の文字が書かれていて・・・・・。

 無言で蒼溟の目をおおい隠すと同時に、海兄さんの母親がいつの間にか背後に立ち。


「ぐがぁ!!?」


 切れ味も鋭そうな(かかと)落としが、海兄さんの脳天に決まった。


「まったく、この子はどこから持ち込んだのかしら。」


 雑誌を回収して戻っていく母親の姿を涙目で見送る海兄さん。まぁ、当然ですよね。



◇ ◇ ◇



 結局、海兄さんが何をさずけようとしたのか分からないまま。僕は柊に連れられて、その場を後にした。


「そういえば、村を出るって長老の許可がないといけないのかなぁ。」


 海兄さんは、将来って言っていたが何を区切りに言ったのかさっぱりわからない。

 そもそも、この村では自力で抜け出すのがほぼ不可能なのだ。


「多分、成人の儀式をへれば自然と行かせてくれるのではないかな?」


 (ひいらぎ)の答えにちょっと納得。


「それに、無断で抜け出そうにもどこから行けばよいのか・・・。」


 苦笑する柊にさらにうなずいてしまう。


 実は、森で自由に狩猟できるようになって試したことがある。この村はどこにあって、どこまでが行っていい場所なのか。

 保存食と野営用の準備をして森をひたすら進んでみたり、村の街道をひたすら歩いてみたり、色々と試した結果・・・・どこにも行けませんでした。


「不思議だよねぇ。森はどこまでも森だったし、街道はいつの間にか村に戻るし、山の頂上からながめようとすると(きり)が出る。」


 今までのことを思い出しながら、あらためて不思議な村だと思う。


「まぁ、そのおかげで危険な犯罪とか起こらないと思うと感謝しないとね。」


 苦笑しながら柊がさらに続けた言葉が、僕にはとっても印象に残った。


「それに、知らないということは知る喜びがあるということだから。僕らが大人になってもまだまだ楽しいことはたくさん存在するいい証拠だと思うよ。」



◇ ◇ ◇



 その日の夜。



 いつの間にかまどろんでいた僕は、久し振りの母親の声を聞いていた。


―――いいのかい、こんなに突然で。後悔はしないかい。


―――ええ、かまいません。男の子はいつか旅立つものですから。


―――ふむ、本人の意思は一切関与していない旅立ちだがね。


―――あら、人生はそんなものですわ。自らで選び取るなんてほんのわずかなものだけです。


―――まぁ、いいさ。結局は避けられない旅立ちなのだしねぇ。


―――大丈夫ですよ。皆さんに可愛がられたのは伊達(だて)ではありませんから。


―――じゃあ、いくよ。


―――がんばりなさい、蒼溟(そうめい)




 そんな、誰かとの会話を聞きながら僕は深い眠りへと導かれた。


 ねぇ、母さん。

 そのあまりにも、一方的な言い分にさすがの僕も反論したいのですが・・・。

 そして、父さんからの言葉は無いの?


 ある意味、村の中での女尊男卑な風習をかい間見たような気分だった。


母親の暴挙が好きです!

3/25 表示変更、修正しました。

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