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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第ニ章 安穏とした日々
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2-3 特定ダンジョン

 探求者ギルドの建物内から奥の扉を開くと、周囲を鉄条網で囲まれたグラウンドに出た。

「うわぁ、広いねぇ。・・・ところでダンジョンの入口はドコ?」

 蒼溟(そうめい)のせっかちな質問に苦笑しながら、

「あぁ、入口はここを突っ切った奥の方だ。ちなみにだ。この場所は様々な催し物と鍛練、それに緊急時の救助テントなどで使用するのさ。」

 ジンの説明を聞き流していた蒼溟だったが、気になる単語を聞いてオウム返しする。

「・・・催し物?」

 鍛練と救助テントはギルド関連だとは想像できるが・・・

「まぁ、それについては時期が近付いたら説明してやるよ。」

 反対側に到着すると、少し間隔を置きながら幾つかの建物があった。

「ダンジョンの入口らしいものは見当たらないけど?」

 不思議そうに首をかしげていると、懐から薄青色の球体生物もチョロっと顔?をのぞかせる。

「はっはっはっ、入口は建物内に組み込まれるようにしてあるからな。」

 なにそれ?と蒼溟とアオが見つめると、入口を取り囲むように建築したとのこと。

「なんで、そんなことをするの?」

「なぁに、一応の用心のためさっ。上空から盗賊や他国からの侵略などの際に魔鉱石を取られないためのなっ。」

 それよりも、さっさと入るぞぉ。と告げると蒼溟とアオを即して建物内へと向かう。

 透明なガラスのような扉を開いてスグの所に、簡易なカウンターが設けられていた。そこで貰った仮認証を係りの人に提示する。

「ようこそ、ダンジョンへ。」

 兵士のように統一された防具と武器を持つ男性が挨拶をしてくれた。

「おや?仮認証ということは、登録して初めての来訪だね。詳しい説明とかは必要ですか?」

 共に居るジンの方に視線を向けて尋ねる兵士に

「いんやぁ、必要ねぇわ。適当に地下1階部分を散歩して帰るつもりだしなぁ。」

 その言葉にジンの登録証を確認していた係りの人が兵士に小声で耳打ちする。

 ちょっと驚いた様子でジンを見た後は、

「失礼いたしました。それでは、ごゆっくりと探索して来て下さい。」

 敬礼をして笑顔で送り出してくれた。

「・・・なんだったの?」

 僕が不思議そうに通り過ぎた兵士とジンを見比べていると、ジンは肩を軽くすくめて

「さぁなっ、それよりも初ダンジョン探索に行くぞぉ~。」

 ジンに連れられて奥へと行くと、広い空間へと出る。

 その中央に、トンネルのような入口が大きく開いていた。

「ここが、入口だ。誰が、なんの為にここまでバカでけぇものをつくったのかは知らんが、トレホドラッヘ(陸竜)の中型種くらいなら楽々とおれる広さと高さがある。」

 見える範囲では、緩やかに地下へと続いているようだ。

 入口を覆うように、ドーム状にしてある建物には幾つもの明かりが灯っており、室内だというのに昼間のように周囲を照らしている。

「うわぁ~、スゴイねぇ。」

 僕の驚きに、懐から顔をのぞかせているアオも一緒に周りを見ている。

「さて、十分に驚きを堪能したかぁ。それでは、更なる未知へとご招待ぃ~。」

 僕の後頭部を優しくポンポンと叩いて、先に即すジンに従ってゆっくりとダンジョンへと入っていく。


◇ ◇ ◇


 ダンジョンの中は、まるで遺跡みたいだった。

「これが、他のダンジョンとの大きな違いだ。」

 ジンが壁を指差す。

 壁はまるで磨かれた大理石のようにツヤツヤしている。明らかに、自然にできたものではなく、人工物であることを示していた。

「特定ダンジョンは、先史文明時代の建造物とされているが・・・ホントのところは、誰も知らねぇ。大事なのは、ココに居る敵を倒せば魔鉱石が手に入る。という部分だけだなっ。」

 ジンのあっけらかんとした物言いは、学者連中にケンカを売るようなものではあるが。探求者としては、至極当然の言葉でもあった。

「ほれほれ、どうせ答えの出ない疑問なんざぁ捨てて。あっちから来るお客さんの相手をするぞっ。」

 ジンがそう言ってアゴで示した先には・・・

 奇妙なモノがいた。

 それは四足歩行の獣のような姿でありながら、全身が薄灰色で、まるで月明かりに照らされた影のように希薄な感じがした。

 額にある赤いクリスタルが唯一、その存在感をアピールしているが、身にまとう雰囲気は明確な殺意のみ。

「なにアレ。・・・もしかして、アレが[魔物]なの?」

 僕の問いにジンは視線を[魔物]から外さないまま

「あぁ、アレがこの特定ダンジョン内にしか存在しない[魔物]と呼ばれるものだ。ちなみに、アレに意志と呼べそうなものはねぇぜ。」

 そう言いながら、ジンは少し集中した後にうっすらと青い光をその身にまとう。

「奴の中にあるのは、単純明快な一つのことだけだ。」

 ジンは僕と[魔物]の間に立つとゆっくりと相手に近づいて行く。

「目の前にいる存在を殺すことのみ。」

 その言葉に反応するように、唸り声と共にジンに襲いかかる[魔物]

 は、早い!

「ジンッ!」

 僕は思わず名前を呼んでいた。

 それに対してジンは慌てることなく、ファイティングポーズをとると、向かってくる[魔物]を半身でかわす。

 それと同時にすれ違い様に[魔物]のアゴをアッパーカットで打ち抜く。

「ギャウッ!」

 犬のような悲鳴と共にその身体を反転させられ、柔らかそうな腹部にジンの肘鉄が容赦なく打ち込まれ、地面へと叩きつけられた。

 しばらく痙攣(けいれん)した後に、その姿は霧散した。

「・・・とまぁ、このように倒すとその姿は消えちまう。後は、転がっている魔鉱石を回収して、戦闘終了~。」

 何事もなかったように説明を続けながら、地面に転がっていた薄紅色の2センチくらいの石を拾う。

「・・・ジンって、結構強いんだね。」

 普段の足運びとかから、結構できるとは想像していたけど。まさか、殺気に溢れた敵に素手で挑んで、あっさり勝つとは思わなかった。

「あん?地下一階程度の[魔物]なら、身体強化魔術で武装した体術で十分だろう。それに、蒼溟だってこれくらい出来るだろう?」

 いやいや、相手を(ひる)ませたり、一時的に身動きできなくしたり、それくらいなら出来るかもしれないけど。倒すのは、さすがにムリだと思うけどなぁ。

「そんじゃまぁ、見るもの見たし。今日はこれまでにして、街にメシを喰いに行くかぁ。」

 確かに、準備も何もしていない状況で殺意に満ちた敵を相手にするのは危険すぎる。

 僕は素直にジンの言葉に頷くのだった。


◇◇ ◇


 あの後は、入口にあった簡易カウンターに魔鉱石を渡し、その鑑定をしてもらうとジンのギルドカードにその情報が入力された。

 それをギルドの換金所で提示すると報酬金が貰える仕組みになっている。


「本日の換金額は銅貨一枚となりますが、交換されますか?」

 換金所のカウンターで、窓口のお姉さんが告げる。

「あぁ、悪いがしてくれ。他の分はそのまま残しておいてくれやぁ。」

 かしこまりました。と言って機械を操作した後に、銅貨を受け取る。

「ジン、他って何かあるの?」

「換金せずに残していた分があるのさ。」

 ジンの説明によると、ギルドカードからの換金はいつ行っても良いようで、銀行のように預けたままでも構わないそうだ。

「それに、わざわざ換金しなくてもギルド内にある店の買い物はこのギルドカードで行うことができるから手間がはぶけるのさっ。」

 ジンと会話しながら、最初に立ち寄った登録所のカウンターへと向かう。

「すみません。蒼溟ですけど、お借りしていた仮認証を返却しに来ました。」

 僕はカウンターにいるお姉さんにそう告げると

「はい、わざわざありがとうございました。」

 営業スマイルではない、普通の微笑みで迎えてくれた。

「それでは、蒼溟さまの認証タグとギルドカードは作成にしばらくお時間がかかりますので二日後にご来場ください。」

「ジン、認証タグってなに?」

 その言葉にジンは首にかかっていた鎖を引っ張り出してみせてくれた。

「まぁ、本人の身分証明書を兼ねたもんだなっ。魔術と魔工術式によって個人情報といままでの賞罰などの経歴も刻まれている。一応、本人とその任意によってしか閲覧できないことにはなっているがな。」

 他にも、この認証タグを身に着けている本人が死亡すると自動的にギルドへその情報が転送される。タグを形見に仲間へ渡すヒトもいるらしい。

基本的に登録した本人が生きている間はタグも正常に機能するので生死を確認するのに手っ取り早いとのこと。

対して、ギルドカードは換金や倒した敵の数に種類、回数などの戦闘に関する情報が刻まれる。このカードは仮に失くしても、本人以外には使用できないし、再発行も可能…手数料はかかるが…。

「じゃあ、二日後にはそれができるんだ。」

 僕の期待する眼差しは、カウンターのお姉さんとジンに笑われてしまった。

「いんやぁ、まだまだ。基本のタグとカードはできるが、そこから蒼溟の個体情報を採取して更に加工するから。」

 ジンの言葉を引き継ぐように、お姉さんが

「はい。実際に使用可能になるのは、一週間後くらいになりますね。」

 ちょっと、ガッカリ。僕もジンみたいに[魔物]相手にどこまで出来るのかを試してみたかったのに。

 しゅんとなった蒼溟の姿は、まるで耳を伏せた子犬のようで可愛らしかった。

「クスクス。そんなに焦らなくても大丈夫ですよ、蒼溟さま。仮認証があれば、階数は限定されますが探検することも、換金することも可能ですから。」

 仮認証での換金は通常よりもレートが下がってしまうが、肩慣らし程度であれば問題ないとのこと。

「ホントっ!」

 目を輝かせて聞くと、お姉さんは楽しそうに微笑みながら頷いてくれた。

「まぁ、その前に簡単な装備と準備くらいはしねぇとなっ。」

 ジンが僕の頭をグシャグシャにする。



 こうして、僕の初ダンジョン探索は終わったのだった。

 自然発生した洞窟を想像していた僕としては人工的なダンジョンにとっても興味をひかれた。あの先には何があって、どれだけ強い[魔物]がいるんだろう。

 そして、村で教わった技術でどこまでいけるのだろう。

とっても楽しみだ。


さらりと流しましたが、貨幣は色々と細かい設定があります。

基本的に硬貨を使用していて、国などによりレートが違ったりします。

機会があれば、詳しい説明をチョコチョコと出したいと思います。


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