2-2 冒険者ギルド…ではないの?
翌日、ジンとその妻であるフィランに蒼溟、アオの四人?で朝食を取り、食後のお茶…アルシュの所では紅茶であったが、ジンの所では緑茶である…を楽しんでいた。
ちなみに、フェリシダーは旅の疲れと昨日のジンの仕打ちにふて寝中である。
「それでは、腹も満たされた事だし。」
ジンは湯呑を置くと、いつもの人の悪い笑顔を見せながら
「魔法とは言わないが、魔術があり、剣があり、ドラッへという竜種もいる。ファンタジー世界の定番がそろっている中で・・・だ。」
その言葉に、好奇心を煽られる蒼溟。
「主要都市に来て、まず、する事と言えば?」
ジンが答えをどうぞ!というように蒼溟に手を向けると
「冒険者ギルドに登録をするッ!!」
勢いのままに片手を上げて答える。その勢いにつられたのか、アオも一緒にみゅーッ!と声を上げる。
「はっはっはっ、ファンタジーの定番にして、王道な答えだが・・・。これが、ちょっと違うんだなぁ。」
楽しそうな三人の様子を微笑みながら見守るフィラン。
「冒険者ではなく、探求者ギルドという名前だ。」
言葉だけの意味で考えると、冒険の方は危険な事に挑戦するという感じで、探求者は目的のものを探し得るという感じだろうか?
「どう、違うの?」
「それはだなぁ。主要な仕事内容が魔鉱石を回収する事だからだ。蒼溟は、魔素が一定以上の密度にはならないことを知っているよな。」
ジンの問いかけに僕は頷く。
魔素は大気中に含有される元素の一つだが、一定の密度以上には濃くならない。空気よりも重く。現象をともなわない時は視認することすら不可能な、魔術を使用する者たちにとっては必須の物質だ。
「魔鉱石というのは鉱石と名づけられているが、別に地中から採掘しているわけじゃあねぇ。その姿が似ていることから付いただけだ。」
ジンの説明によると・・・。
魔素を多分に含むその姿は、金属を含む鉱物のような感じで使用する方法も似通っていることから付けられたそうだ。
「魔鉱石は、人族が行使する魔工術式には不可欠な物体だ。それを特定ダンジョン内に出現する[魔物]から回収するのが、探求者のお仕事なのさっ。」
「へぇ。それじゃあ、特定ダンジョン以外にいる[魔物]からは魔鉱石は回収できないの?」
その問いに、ジンではなくフィランが答えてくれた。
「特定ダンジョン以外には[魔物]はいません。」
その答えに首を傾げる蒼溟。
ファンタジー世界の定番といえば、野外フィールドでの魔物とのエンカウントだろう。
ちまちまとした小物を倒して、レベルを上げて、強力な武器や防具を手に入れ、ついでにヒロイン役のお姫様を救出して・・・・とかじゃないの?
「まぁ、正確にいやぁ。特定ダンジョンに出現するモノ以外を[魔物]とは呼ばないのさ。」
蒼溟の思考を読み取ったようなジンの答えに、さらに疑問が増す。
「???それじゃあ、[魔物]とそれ以外の区別は何かあるの?」
いいところに気がつきましたね。とフィランが微笑みながら説明してくれる。
「一番大きな違いは[魔物]に生殖活動が無いことです。」
特定のダンジョンのみに出現し徘徊する謎多き存在。
その表層には、クリスタル状の石が見て取れる。その色彩により、その体内で生成した魔鉱石の種類が大まかに分類できると同時に固体の強さも変動する。
「でだ、[魔物]をぶっ倒すと、その身体は霧散して、魔鉱石だけが残されるのさ。その後、一定時間が経つと、再びその近辺を似たような[魔物]が徘徊し始める・・・というエンドレス。」
「倒した後に、魔鉱石を回収しないでいるとどうなるの?」
魔鉱石から次の[魔物]が発生するのであろうか?
「回収しそこなった魔鉱石は、ダンジョン内で一定時間後には砕け散るのさ。」
パンッと、手を打ち付けて答えるジン。
「それだと、回収した後の魔鉱石も砕け散ってしまうの?」
時間経過と共に砕けてしまうのなら…ダンジョンがどれだけの広さを持つのか分からないが…外に出る前や出た後に回収した物が砕けたら、その労力も無駄になってしまうのでは?と思ったのだ。
「いや、どんな仕組みなのかは一切不明なんだがな。ヒトの手に触れた魔鉱石は砕け散らないのさ。」
仮に、拾ったものを落としたとしても長期間、存在し続けるとのこと。
「まぁ、その前に他の連中が見つけて拾っちまうがなぁ。」
回収した魔鉱石はダンジョンから出ると直ぐに、探求者ギルド内の建物で換金される。
これは、ダンジョンによって取れる魔鉱石の種類が増減、存在の有無、などの違いがあるために国同士が貿易品目として取り扱っている為、個人の持ち出しを禁止しているのだ。
「まぁ、そうは言っても個人の武器や防具の増強や魔術の触媒としても使えるため、申請すれば持ち帰ることも可能だがなぁ。」
「特定ダンジョンと普通のダンジョンには違いがあるの?」
その問いに、ジンはニヤリと笑う。
「ある!だが、それは実際に見たほうが早いだろう。百聞は一見に如かず…というからなッ。見てのお楽しみぃ~。」
その答えにアオと一緒にブーイングをすると、
「まぁ、要するにだ。
探求者ギルドでは、魔鉱石の回収をメインに、他の細々とした仕事を得るための所だと思えばいい。そして、ダンジョンはギルドの付近に存在していて、そこにいる敵をぶっ倒せばいいだけのことだッ。」
簡単だろぅ?
要約しすぎる感じのジンの説明だが、確かに分かりやすい。
「細かい説明は、必要になった時にすればいいだろう。いっきに言ったところで頭がパンクするだけだ。」
それに・・・俺が面倒臭い!説明や勉強なんざぁ、大嫌いだッ!!
本音ダダ漏れ状況のジンに冷たい視線を送る薄青色の球体生物は、いつぞやのように、身体の弾力性を駆使した顔面攻撃を敢行するのだった。
◇ ◇ ◇
戯れ始めたアオとジンを止めたのは以外にもフィランだった。
無言の微笑みによる圧力に一人と一匹はすぐに陥落し、蒼溟をともなって戦略的撤退を敢行することとなったのだった。
「・・・ジンも、奥さんには弱いんだね。」
村に住んでいた頃の海兄さんの両親を思い出してしまった。
海兄さんのオヤジさんも、よく夫婦ケンカをしてはす巻きになっていたよなぁ。やっぱり、どこに行っても女のヒトは強いのかなぁ・・・。
「ばぁ~か、夫婦円満の秘訣のひとつだ。」
少し笑いを含みながら飄々とジンは答えた。
「奥さんは世話やきで、旦那は尻に引かれるくらいが丁度良い~♪ってなッ。」
謡うようにいった言葉の意味がイマイチよく分からなくて首をかしげていると、
「くっくっくっ、蒼溟にはまだまだ早いかぁ?」
大きな手で僕の頭をグシャグシャにかき回しながら、
「まぁ、お前は花より団子、色気よりも食い気の方が大事かぁ。そんじゃあ、まっ。早いとこギルドで身分証明書を手に入れて、街で美味いもんでも喰うか。」
ジンは朗らかに笑うと、アオも賛成~♪というように鳴いた。
ジンに連れられた探求者ギルドは、暖色系の目立つ建物だった。
「ジン、建物の周囲に鉄条網のようなのが張り巡らされているけど・・・なにアレ?」
僕の質問に対して、
「あん?あぁ、アレの向こう側に特定ダンジョンへの入口があるのさ。」
淡々とした様子でジンは教えてくれる。
要するに、鉄条網は違法に魔鉱石を持ち出させないためと、好奇心旺盛な子供が誤って入り込まないようにするための処置だそうだ。
「一応、ダンジョンから[魔物]が出てきた場合にそなえる為という理由もあるが・・・実際は起こりえないことだなっ。」
「なんで?」
特定ダンジョンに縛られているのか、そこでしか生息出来ないのか、奴らは外に引っ張り出すと何も残さずに霧散する。
「・・・日の光に弱いドラキュラのようだね。」
ジンの説明に率直な感想を言うと
「まぁなっ。そう考えると奴らの世界も狭いものだと思うが・・・実物を見るとそんな同情心は無くなるぞ。」
脅してくるジンに僕は苦笑しか返せない。見てもいなければ、その情報すら少ない相手にそれ以上の感情を抱けそうにないからだ。
「ほれほれ、くだらん事を考えんと。さっさと、登録を済まそうぜ。俺は腹が減ってきた。」
ジンの言葉に、僕の懐の中にいるアオもそうだ、そうだ。と同意するように身じろぐ。
建物の中は高い天井と広い待合室のようなものが設けられていた。
色々な窓口が設けられていて、そこを様々な武器と防具を身につけた多種多様な人々が利用している。
「まずは、あそこの登録所で手続きをするぞ。」
ジンに連れられて、真ん中付近にあるカウンターへと近づく。
「ようこそ、いらっしゃいませ。本日は、どういったご用件で?」
受付のお姉さんからの営業スマイルを受けながら、登録の旨を伝えると用紙を渡された。
近くの机で立ったまま、貰った登録用紙に必要事項を記入していく。
「・・・ジン、出身地を書く欄はどうしよう?」
僕は、こちらの慣れない文字で悪戦苦闘しながら記入している途中で止まってしまった。
「あぁ、そこは空欄にしとけ。こっちの現住所は、俺の家を記入しとけばいいから・・・ちょっと貸せ。俺が代わりに記入してやる。」
そういって、僕の手から筆記具を奪いとると、慣れた様子で空白部分を埋めていく。
「まっ、こんなもんだろう。ここの名前の部分は、お前自身で記入しろよ。一応、自筆確認も兼任しているからな。」
用紙の上部にある欄に僕の名前をこちらの文字で記入する。
なんだか、不思議な気分だな。
ジンも僕もこっちの世界で生まれ育ったわけではないのに、こうして書類に自分の名前や自分に関わる事を記載していると、自分もこの世界の一部に組み込まれていくように感じる。
「書き終わったよ、ジン。」
そういって、記入もれが無いかをジンに確認してもらう。
「・・・慣れてない割に、読める字じゃねぇか。・・・しゃらくせぇ・・・」
俺は文字で苦労したというのに・・・とジンが小声でブツブツ言いながら、書類を受付のお姉さんに手渡す。
「・・・それでは、本日の登録者は蒼溟・東雲さま。一名で宜しいでしょうか?」
お姉さんは書類をサラリと確認した後に、ジンと僕を見て確認した。
「あぁ、こっちの坊主だけでいい。俺はすでに登録済みだからなっ。」
ジンはちょっと、意味深に笑いながら同意する。
お姉さんは怪訝な表情を一瞬見せるが、すぐに営業スマイルを浮かべる。
「では、蒼溟さまに対しては簡易の説明だけにさせていただいても宜しいでしょうか。」
ジンに確認を取り、同意を得ると僕に対して手招きをして説明してくれる。
「まずは、当方の探求者ギルドへの登録をありがとうございます。登録対象者に一切の制限はありません。」
登録自体は誰でも出来るようで、それこそ女性だろうと、老人、小さな子供でも可能だそうだ。
ただし、受けれる依頼内容には当然ながら、様々な制限がされていた。
「依頼内容には様々なランクを設けさせていただき、それを完遂できるランクにある探求者の方々に受理または、処理していただきます。」
ランク事態はあくまでも目安であって、絶対的な評価ではないそうだ。
ただ、低ランクの探求者が高位ランクの依頼を受けることはまず無いそうで、仮に受けれるとしてもギルドから様々な条件と立会により、完遂できる実力があるかを見定められてからの受理になるらしい。
「基本的に街の外で活動する依頼内容は、チーム単位で行ってもらっております。」
これは、特定ダンジョンであれば地上付近の階は一人でも討伐できる程度の[魔物]しかいないのと、仮に危機に陥ってもギルドの職員が救助しやすいためである。
それに対して、街の外は大型肉食獣や群れで狩りをする動物。警戒心が強すぎる草食動物などの危険が多いうえに、救助に行くことがかなり困難なためである。
「それで、本日は登録のみでしょうか?」
この後の予定を聞かれて、僕はジンの方をうかがう。
「そうだなぁ~。とりあえず、仮認証をくれ。こいつにダンジョン内を少し見せてやりたいんでなっ。」
ジンの申し出に受付のお姉さんは了承すると、少しお待ち下さい。と一言告げて、奥の棚の方に向かい、何かを持ってきた。
「それでは、ダンジョンへの仮認証をお渡しします。これは本日限りとなっておりますので、お帰りの際には、こちらまでご返却しに来て下さい。」
そう言うと、僕の手に厚紙くらいの板を渡してくれた。
「ありがとうございます。」
お辞儀をしてお礼を言うと、お姉さんは初めて営業スマイルでは無い微笑みで
「お気を付けて・・・いってらしゃい。」
と言って送り出してくれた。
ジンと共にカウンター前を横切り、奥の扉へと向かう。
「蒼溟。おまえ、意外にやるなぁ~。」
ジンのその褒めているのか、呆れているのか、よく分からない言葉を受けながら僕は扉の向こう側にあるダンジョンに好奇心が刺激されていた。
最初に書いた原稿を大幅に書き直すはめになった話です。
説明が細かくなり過ぎて読みにくいために行ったのですが・・・どうでしょうか?