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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第ニ章 安穏とした日々
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2-1 初めての都市 ルジアーダ

物語はここから本格的になる予定です。

 魔の森から旅立ち、数日後にはラント国の首都ルジアーダに到着した。

「うわぁ――!?すごい、人と建物がいっぱいだぁー。」

 都市の近郊をエアバイクで疾走するジンは後部座席の蒼溟(そうめい)の驚愕に、

「すげぇだろう。ここは、地球でいうヨーロッパに似た雰囲気らしい。」

 ジンが風で声が飛ばされないように大声で説明する。

「ヨーロッパ?」

「あぁ、俺も実際には行ったことがないからホントかどうかは知らん。だが、地球の中でも古い歴史と愛国心で溢れる人々が居る地域を真似ているらしいぞ。」

 ジンの説明に蒼溟は疑問を持った。

「それは、誰が真似ようとしたの?」

 当然の疑問に、ジンはニヤリと口元を歪ませて

「この国を建国した異邦人の一人がだ。」

 二人の言葉が聞こえてないのか、フェリシダーはエアバイクを追い抜かすと丘の上に建てられた城へと向かっていった。

「まずは、この国の城に向かってみるかぁ。」

 そう言うと、蒼溟の返事も聞かずにフェリシダーの乗った飛竜へ続くように、速度を上げるのだった。


◇◇ ◇


 城の発着所に降り立つと、フェリシダーはすでに飛竜から降り立っており、その周りを兵士らしき人達に囲まれ話をしていた。

「ジン様、お帰りなさいませ。」

 ジンのエアバイクもそのすぐそばに降りると、兵士の一人が駆け寄ってきた。

「おう、ごくろうさん。俺は、このまま家に戻るから後の詳しいことなどはフェリシダーから報告してもらってくれ。」

 そう言うと、兵士の後ろから現れたツナギ姿の男性にエアバイク(飛翔艇)を任せると、蒼溟をともなって城内へと向かった。

「・・・ちょっと、ジン!!」

 フェリシダーの慌てたような言葉を聞こえないフリをして、さっさと立ち去るジンだった。

「ジン、フェリシダーを置き去りにしてきてよかったの?」

 蒼溟が心配そうに後ろを振り返りつつも、ジンの後を付いて行く。

「なぁに、かまわねぇさ。小さな子供じゃあるまいし、自分で何とかするだろう。」

 笑いながら、城内を迷いなく歩いていく。

 そのまま、城を出ると門番の兵士に軽く挨拶をして高級そうな住宅街を進んでいく。

「蒼溟、ここが俺の家だ。」

 そう言って、垣根に囲まれた大きな屋敷を指さす。

 周りの洋風なレンガ造りではなく、木造建築の和風家屋でどこか日本を思い起こさせる感じだった。

「ふわぁ、ジンの家って大きくて広いねぇ。」

 門扉(もんぴ)はさすがに周りと似た作りにはなっていたが、中は自然な感じに整えられた庭園で四季にあわせたのか、所々に花や実をつけたものが見かけられた。

「おう、ただいまぁ~。いま帰ったぞぉー。」

 スライド式の玄関を開けて、奥に届くような大声で帰宅を知らせる。

「お帰りなさいませ、旦那様。」

 和服をアレンジしたような洋服を着た女性が、玄関先にくると正座で迎えてくれる。

「おう、家内はいるか?」

「奥様でしたら、縁側のある居間の方にいらっしゃいますが。」

 ジンは靴を脱ぐと、着替えのために奥へと行き。蒼溟は、女性に連れられて客間に通されることとなった。

「・・・まるで、日本にいるみたい。」

 蒼溟の言葉に女性はクスリとわずかに笑うと

「この屋敷は、ジン様のご趣味によって建築されましたから。屋敷を取り囲む[垣根(かきね)]から[庭園]、果ては下働きの者たちの服装まで、こだわりを持って指示されたそうです。」

 その言葉に、ジンって僕が想像していた以上にお金持ちなのかな?と思う蒼溟だった。


 通された客間は、畳敷きで出されたお茶も日本茶に近く。蒼溟は、この世界に来て始めて心からくつろいでいた。

「はぁ~~~。やっぱり、畳と緑茶は大切だよねぇ~。」

 その(つぶや)きが聞こえたのか、蒼溟の懐から薄青色の球体生物――インフィニティのアオが出てきた。その姿は、アルシュの宮殿にいた頃のハンドボール大から更に小さくなって子供向けの手毬くらいの大きさになっていた。

「みゅ?」

 蒼溟の飲んでいるお茶に興味を示したアオに、予備の湯のみにお茶を注ぎ渡す。

「みゅ~~~ん。」

 どうやら、アオも気に入ったようで二人?してのほほ~んと(くつろ)ぐのだった。


 フスマを開けて、ジンが客間に入ると…そこには蒼溟とアオが、日向(ひなた)ぼっこする年寄りのような雰囲気を醸し出していた。

「・・・ジジむさ。」

 真剣に若者らしさを教え込もうと誓うジンだった。


◇◇ ◇


 ジンは客間に置いてある座卓に、蒼溟と対面する位置に座ると、

「まずは、ラント国へようこそ!・・・どうだ、初めての都市は。」

 ジンの言葉に、目を輝かせるように蒼溟は

「スゴイッ!!人や建物がいっぱいで、見たことも無いもので溢れていて・・・。」

 村とは比べ物にならない程の人込みに、多くの種族。

建物ひとつでも、知識として教えられたものと実際に目にするとは大きな違いで、様々な建築に(ほどこ)された精緻(せいち)な装飾に、圧倒されるばかりだった。

 魔の森も蒼溟にとっては、未知なるものではあったが、村の森と同じように植物があり、川があり、動物がいる。森という共通点が、蒼溟のいままでの経験を生かしてくれたが、逆にそれほどの新鮮さを感じていなかった。

 だが、村という閉鎖された空間で育った為に、ルジアーダの都市のように多くの人々とその生活の場、それに付随する様々な施設などに免疫が皆無なのだ。

 興奮するままに話し続ける蒼溟に相槌(あいづち)をしながら、ジンはそんな年相応の少年らしい姿に()みを誘われる。

「どうやら、気にいったようだな。だが、蒼溟。この程度で、そんなに驚いていたら、この先が大変だぞぉ~。」

 ジンの笑みに、蒼溟の瞳はさらに輝きを増す。

「!!もっと、いろんなものがあるのッ。」

 身を乗り出して、ジンに問いかける蒼溟の落ち着きのなさに苦笑していると

「あらあら、なにやら楽しそうですね。」

 おっとりとした落ち着きのある女性の声がフスマ越しに聞こえてきた。

「おう、遠慮せずに入ってこいやぁ。」

 ジンの言葉に少し冷静になった蒼溟は、慌てて座りなおした。

 そして、入室してきたのは・・・フェリシダーよりも幾つか年上に見える女性で、着物のようなものを動きやすくアレンジした服を着ていた。

 なによりも驚いたのが、彼女の耳が横に長く、先端が尖っているのだ。

「初めまして、ジンの家内。エルフェ族のフィラントロピアと申します。フィランとお呼び下さい。」

 その丁寧な挨拶に、慌てて蒼溟も

「初めまして、東雲(しののめ)蒼溟と言います。こちらは、インフィニティのアオです。」

 座礼を返しながら、かたわらでのんびりとお茶を楽しむ薄青色の球体生物も紹介する。

 二人の自己紹介が終わったことを確認すると同時に

「蒼溟、フィランは地球のおとぎ話でよく登場するエルフ族に似た種族の出身だ。」

 ジンの言葉は予想していた内容と同じとは言え、実在を目にすると驚きに茫然としてしまう。

「くっくっくっ、予想通りの反応をありがとよッ。」

 楽しそうに笑うジンの様子に、呆れながらもフィランはその隣りへと座る。

「まぁ、このようにこの世界は、俺たちの想像を遥かに超える事象や風習、民族が多数存在する。その全てを受け入れろとは言わねぇが、見聞(みき)きする前から拒絶するのだけは勘弁してやってくれ。」

 笑顔のまま、その瞳には真摯(しんし)な光りがあった。

 ジンのその瞳に、蒼溟は居住いを正すと静かに頷いた。

「郷に()っては郷に従えという言葉もある。だが、盲目的にその全てを受け入れれば良いわけじゃねぇ。その判断を下すのは、今は無理かもしれない。」

 静かに目をつむり、自らの内を見つめなおすような雰囲気を纏わせつつ

「それでも、自分の意志と感情に偽りを交えずに・・・様々な物事に対して、正面から関わっていけば、自然と判断できるはずだ。」

 ゆっくりと目を開けた時には、その表情に笑みはなく、ただ真摯な態度で

「俺は・・・蒼溟。お前なら、それが出来ると思っている。」

 ジンから蒼溟に対して、初めての(なま)の感情。

 そこには、大人だからとか、子供だからとかの(しがらみ)の無い。

一人の人間として対等な者に願う言葉でもあった。

「・・・今は、どう言えばいいのかも分からないけど。それでも、僕はどんな事になろうとも僕自身を偽ることをしない・・・そう、心がけていきたいと思う。」

 蒼溟の誓いとも言える言葉に、二人は優しくも厳しい眼差しで見つめるのだった。



 その後、四人?は軽く雑談をすると、夕食の前にジンが蒼溟をともなって風呂場へと向かった。

 その数刻後に・・・。

「ジ―――ンッ!!私に…報告を…全て押し付けるなんて、ひどいじゃないかぁッ。」

 ちょっと涙目になったフェリシダーが客間へと乗り込んできたのだった。


◇◇ ◇


 その日の深夜、夫婦の私室。

「フィランは、蒼溟をどう見る。」

 晩酌をするジンは唐突に自分の妻であり、生涯のパートナでもある相手に訊ねた。

「・・・可愛らしい方だと思いますよ。」

 はぐらかすような答えにジンはちょっと口をとがらせつつ、

「そう言うことじゃねぇだろ。」

「ふふっ。・・・そうですね、様々な嵐を呼びそうな感じですね。」

 楽しそうにジンを見やった後に、空になった杯へと酒を注ぎながら言う。

「嵐か・・・。」

「えぇ、ジンがこの国に様々な嵐を呼んだ以上に。彼は、もっと大きな・・・それこそ、この世界全てを巻き込むような嵐を呼びそうに思います。」

 ジンの飲む姿を視界にとらえながら、フィランは自分の言葉で表す。

「・・・それは、エルフェ族のサキミの巫女としての言葉か?」


 エルフェ族は、その昔に村単位でこの世界に転移してきた異邦人たちの末裔とされている。

彼らは、この未知の世界で生き残るために占術(せんじゅつ)…未来視の力…による宣託を中心に部族をまとめたとされている。

今や[森の民]として称される彼らの姿が本来のものなのか、環境や異種との交わりによってなされたのか、不明ではあるが占術に長けた巫女の家系は、いまなお部族内で強い影響力を持っている。


 ジンの言葉に肯定も否定もせずにフィランは注意深くゆっくりと語る。

「それは・・・正直、わかりません。ただ、貴方とあの方との出会いは必然であった。それだけは、巫女としても私の感覚としても確かな事だと・・・。」

 その言葉にジンは何かを噛みしめるように

「必然・・・かぁ。」

 そんなジンを見つめながらもフィランは

「ふふっ、貴方らしくないですよ。・・・必然とは、己の意志によって導き選んできた道筋を他人が勝手に評価したものに過ぎない・・・そう豪語したのは、どなたですか?」

 かつての若かりし日の言葉を口にする妻に、ジンは少し拗ねたような表情をする。

「そりゃあ、俺がまだ若造の頃のセリフじゃねぇか。・・・まぁ、確かに起こりもしない、その前兆すらないことに対して怯えていてもしかたねぇ・・・か。」

「そうですよ。例え、何が起ころうとも、貴方様がどうにかして下さると私は信じていますから。」

 微笑みながら、全幅の信頼を言葉にする妻に苦笑を返すしかないジン。

「言ってろぃ。・・・そうだな、とりあえず蒼溟は俺の義理の息子として扱うからな。そのつもりでいてくれ。」

 夫のその言葉には、仮に蒼溟が人々から(うと)まれる存在になろうとも、常にその(かたわ)らに居続け、間違った事に対しては遠慮なく叱りつけるつもりであるという意志が込められたものであった。

「はい、わかりました。存分に、思うままに振る舞ってくださいませ。」

 妻のその全てを受け入れるという意思表示に感謝と照れくささを感じながら、ジンは久方ぶりの我が家を堪能するのだった。


 エルフェとは、ドイツ語で[Elfe] エルフ を意味する言葉です。

 作中の言葉には時々、ネーミング辞典でつけたものがありますので、調べると面白いかも?しれません(笑)


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