閑話01 露天風呂にて
これは、1-12 と 1-13 の間のお話です。
蒼溟がフェリシダーを「さん」付けで呼ばなくなったエピソードですね。
魔の森にて。
森の宮殿内部にある書庫には深夜にも関らず、ほのかな明かりがついていた。
「蒼溟さま。」
机の上に置いたランプの灯りの下で読書をしていた蒼溟は、その声に後ろを振り向き。
「ん?・・・ッ!?」
驚きのあまり、しばし硬直してしまった。
そこには、燭台を片手にファンタスマ族の執事、ハーディが立っていた。
ロウソクの灯りに、その真っ黒な横顔を照らしていながらも、そこに陰影はなく。
暗闇の中でボンヤリと光る瞳に、なぜかハッキリと視認できる口元。
本人に悪気は一切ないのだが、ひっそりとした気配に革靴の立てるコツコツとなる足音。
さらには、本人の肌と衣服は黒系なのに着用している手袋が真っ白だった為に、薄暗い室内の中で空中を舞っているようにみえる両手。
「・・・ハーディ・・・えっと、もう見回りの時間だった。」
蒼溟は背中に流れる冷や汗を認識していながらも、何事もなかったかのように訊ねる。
「はい。もう夜も遅いので、そろそろお休みになられた方がよろしいかと。」
ハーディは就寝前に自ら宮殿内を見回りするのが日課になっている。
ファンタスマ族は睡眠時間が極端に短いので、彼が就寝するということは随分、遅い時間ということになる。
「そうだね。明日も早いし、そろそろ寝ようかな。」
蒼溟は本を閉じて、片付けながら答える。
「その前に、お身体が冷え切っていらっしゃるようですので、お風呂にでも入られたらどうでしょうか。」
ハーディの提案にしばし、思案する。
確かに。
驚きのあまりに冷や汗をかいてしまったし、ドキドキしている心臓を落ち着けるためにも入浴してサッパリしてこようかなぁ。
「そうだね、そうしようかな?」
あっ、でも着替えを取りに行かないと・・・・。
蒼溟の独り言にハーディは微笑みを浮かべながら
「着替えでしたら、レーヌ族の者に頼んでおきますから。蒼溟さまは、そのまま浴場へと向かって下さい。」
ハーディの親切心からの微笑みは、どうみてもホラー映画さながらの不気味な笑みにしか見えなくて。
「・・・でも、わざわざ起こさなくても僕が取りに行けば済むことだと・・・。」
ハーディに申し訳ないと思いつつも、若干怯みながら言う。
「大丈夫ですよ。常に誰かが起きていますし、彼らにとってヒトのお世話をするのは楽しみのひとつでもありますから。」
他のヒトに迷惑をかけることを厭う少年の優しい心遣いに、ますます笑みを深めるハーディに対して、さらに恐怖心を煽られる蒼溟。
結局、その恐怖心も重なって、蒼溟はハーディの言うとおりにしたのだった。
◇ ◇ ◇
脱衣所で手早く衣服を脱ぎ、身体を洗った蒼溟は、浴槽のひとつにゆっくりとつかっていた。
「はぁ~~~♪」
大きな光沢のある岩に背を預けながら、手足をゆっくりと伸ばしてくつろぐ。
「う~ん、気持ちいい~。それにしても、暗闇の中でハーディに出会うのはビックリするよなぁ。」
普段はヒトの気配に敏感な蒼溟ではあるが、読書に夢中になり過ぎてハーディに気付かなかったのだ。
そのうえ、ハーディは執事として常に控えめに存在することを心がけているため。注意していないとその気配を見失ってしまう。
これらが、偶然にも重なった結果・・・ホラー映画の特殊画像に負けず劣らずの恐怖心を煽る光景が出来上がったのだ。
「・・・本当に、怖かったぁ~・・・。」
幽霊やお化けなど平気な蒼溟にしても、あの光景は怖かったらしい。
そして、普段とは違った精神状態の為だったのか、この日の蒼溟は二度目の失態を演じるはめに陥るのであった。
◇ ◇ ◇
宮殿の中央部、3階の客間のひとつ。
妙齢の女性二人が親しげな雰囲気の中、雑談に花を咲かせていた。
「それにしても、アルシュと一緒に飲むなんて学園のとき以来ね。」
フェリシダーは深い赤色の果実酒をゆっくりと飲みながら、楽しげに微笑む。
「そうねぇ。お互いに立場ある身としては、たやすく会える機会も無ければ、こんなにくつろいだ雰囲気で飲めないものね。」
確かに、肩のこる社交界みたいなところでなければ顔を会わせないし、そんな場所では迂闊なことも出来ない。
お互いに苦笑しながらも、稀な機会を心から楽しむのだった。
しばらく、楽しいひと時を過ごし、そろそろ休むことにした。
「あっ・・・ねぇ、アルシュ。今から露天風呂に入らない?」
頬を赤らめながら、楽しげにフェリシダーが提案する。
「えぇ、いまから?・・・大丈夫なの?」
珍しく深酒している様子の友人に声をかける。
「大丈夫よ、これくらいの量。それよりも、久し振りに裸の付き合いをしよ?」
首を少し傾げながら言うフェリシダーの可愛らしい仕草に
「ッ!?・・・も、もぅしょうがないなぁ。」
アルシュはいとも簡単に陥落したのだった。
◇◇ ◇
蒼溟が手早く身体を洗っている最中に、脱衣所ではレーヌ族のひとりが衣服を回収しに来ていた。
レーヌ族の固有魔術のひとつである転移を駆使して瞬時に現れ、その糸のような手足で上手にカゴの中の衣服を折りたたみ、新しい着替えと交換した。
「あら?レーヌ族の・・・セィラね。」
名前を呼ばれ振り向くと、主であるアルシュとその友人であるフェリシダーが脱衣所へと入ってきた。
「こんばんは」
一言、挨拶と共に小さくお辞儀をする毛玉の愛らしい姿に二人は微笑む。
「お仕事の最中かしら?・・・ごくろうさま。」
フェリシダーの労いの言葉に、照れるように身体を左右にゆする。
「着替え・・・いる?」
二人の着替えも用意しましょうか?という問いかけに、
「そうね、お願いしようかしら?」
アルシュの言葉に了承の意志を伝えると、レーヌ族のセィラは姿を消した。
「レーヌ族って、ホントに可愛らしいなぁ。それに、働きものだし。」
フェリシダーは微笑みながら、ジンに見習わせたいくらいだ…と呟きながら衣服を脱いでいく。その隣りでは、アルシュも苦笑しながらも自らの衣服を脱いで、湯浴み着を羽織る。
この時に、もし二人が酔っていなければ気付いたのかもしれない。
働いていたレーヌ族・・・すなわち、誰かがすでに浴室にいることに・・・。
◇◇ ◇
湯船の中で弛緩していた蒼溟は、誰かの話声と気配によって目を覚ます。
あれぇ~誰だろう・・・こんな時間に?
偶然にも大きな岩によって蒼溟の姿は入ってきた人物からは隠れる位置にあり、また蒼溟もその人物を確認できなかった。
その為に、お互いが確認できたのはかなりの至近距離になってからだった。
「・・・えぇッ?!」
「あら?」
「んっ?」
蒼溟、アルシュ、フェリシダーの順に驚きの声があがる。
襦袢…和服の下にきる肌着…のような薄い湯浴み着を身にまとった妙齢の女性二人の姿に蒼溟は思わず見惚れてしまう。
かけ湯をしたのだろうか?
薄い布地は所々濡れて透きとおり、その下の地肌にピッタリと張り付き。魅惑的な身体の曲線を露わにしていた。
アルシュは艶やかな長い白髪を右側にまとめ、耳の下でゆるく紐で縛り、前に自然な感じで流していた。その毛先は胸の頂付近にかかり、柔らかそうな膨らみの大きさを強調するかのようでもあった。
元々、全体的に純白な印象のアルシュであったが、いまの姿は白い地肌にほんのりと朱が交り、その身にまとう白く薄い湯浴み着の姿は穢れを知らない乙女のようでありながらも男を惑わせる色香を醸し出す熟女のようでもあった。
それに対して、もう一人の女性
フェリシダーはいつも束ねていた藍色の髪を自然な様子で下していた。その綺麗な髪は彼女のしなやかな身体にまとわりつき、女性らしい曲線を強調するように腕や胸元、赤みを帯びた頬に張り付いていた。
それをゆっくりとかき揚げて、後ろに流す時のちょっと緩慢な動きに女性の象徴である大きな胸が揺れる。いつもの颯爽とした雰囲気はなりをひそめ、どこか気だるげな様子が何ともいえない妖艶な印象を感じさせる。
自分とは違う大人な二人の女性の妖しげな色気に目を奪われて、そこから中々視線を外すことが出来ない。
蒼溟の視線を感じながらも、二人は…表面上は…動じることなく、少年と同じ浴槽へとゆっくりと入っていく。
その湯面の動きにようやく蒼溟は、自分を取り戻したのか慌てて視線を外す。
「あ、あの・・・。すぐに出るからッ!!」
視線をやや斜め上に向け、顔を真っ赤にしながら
「だ、だから、少し後ろを向いてもらってもいいですか。」
男の子の部分を手で隠しながら、懇願する蒼溟。
少年の初々しい態度に、普段からは考えられないくらい大胆な行動を取る二人。
「あら、いいじゃない。私の裸なんて、以前も見たのだし。」
毛皮に覆われてはいるが、確かに獣姿のアルシュは裸体である。彼女にとっては、獣姿も人の姿も、どちらも己である。
そういう意味では間違ってはいないが・・・。
「それなら、親睦を深める為に三人で裸の付き合いをするのも良いかな。それに、アルシュだけ呼び捨てで、私には「さん」付けなんて不公平だと思うなぁ。」
フェリシダーもすかさず、調子を合わせる。
「エェッ!?いや、でも・・・ほら、二人は女性で・・・僕も一応、男なのだし。」
しどろもどろに反論するも、その姿は可愛らしく。
逆に二人の嗜虐心を刺激するのだった。
「あれぇ、以前はアルシュの後ろ姿を褒めていたのに、私の身体は褒めてくれないの?」
そう言いながら、フェリシダーは酔いのまわった身体を蒼溟の肩にしなだれかかるようにすり寄るとその頬を軽く突付く。
「あらぁ、それなら今度は私の正面からの姿を褒めてもらおうかなぁ。」
アルシュは蒼溟の反対側の腕を取ると、自らの胸に挟み込むように抱きかかえる。
頬をバラ色に染めて、酔いのために新緑色の瞳は潤み、肩にアゴを乗せてくるフェリシダーの弾力のある胸。
普段の白い肌が綺麗な薄紅色に染まり、少し焦点が定まっていない様子の藤色の瞳に、豊満で信じられないくらいの柔らかさを誇るアルシュの胸。
蒼溟は恥ずかしさと湯船につかり過ぎて、のぼせた頭の影響で鼻血を吹き出す。
「えっ?!ちょっと、大丈夫!」
すかさずフェリシダーが蒼溟の頭を支えて、血で鼻が詰まらないように下を向けさせる。
「あぁ、蒼溟?!しっかり、湯からあがれる?」
アルシュはこれ以上、湯の中へ沈まないように身体を正面から支える。
さらに密着されて、視線はなにやら見てはいけない部分を捕らえてしまい、蒼溟は・・・素直に意識を手放すことにした。
すなわち・・・気絶したのだった。
「「・・・やり過ぎちゃった?・・・」」
お互いに顔を見合わせる酔っぱらい二人であった。
露天風呂のお約束でしょう(笑)
エロいのを目指してみましたが、いかがでしょう?
楽しんでいただけましたでしょうか?