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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第一章 胎動
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1-13 別れという名の始まり

「それじゃあ、アルシュ。行ってきまーす!」

 僕はジンの操縦するエアバイク(飛翔艇)の後部座席にまたがると、見送りに出ていたアルシュと(かたわ)らに立つ執事のハーディに向かって手を振った。


 事の起こりは、数日前・・・・。


蒼溟(そうめい)、出かけるから付いて来い。」

 僕の部屋に来たジンが開口一番にそう口にしたことからだった。

「どこに行くの?」

 森の中にでも行くのだろうか?それとも、ファンタスマ族たちの住む町だろうか?

「俺の国を拠点に、色々と・・・だな。」

 へぇ~・・・、何で僕が?!

「何で、とか思っているのか?理由は簡単だ。俺が逃走するための口実だッ!!」

 堂々と宣言したぁ!?

「えぇ~、どうして僕が同行すると逃走の口実になるんですか。」

 僕の言葉に、ジンは異邦人同士の方が物事の説明がしやすい上に、魔素を扱った魔術を教えやすい事などを理由に説得できるから…とのこと。

「それに、俺はこう見えて色々とこの世界で経験しているからなぁ。お前に面白いものを見せたり、楽しいことを教えてやったり、色々としたいのさ。」

 僕の頭をその大きな手でグシャグシャにしながら、ジンは楽しそうに笑った。

「でも、・・・・それに、みんなに挨拶をしないと。」

 あまり乗り気ではない僕に

「別に今生(こんじょう)の別れじゃあるまいし、ちょいとお出かけするだけさ。」

 気軽に考えればいいさ。と笑いながら旅立ちに必要なものを教えてくれた。それからは、支度に大忙しだった。

 旅の必須アイテムとして、〔圧縮袋(あっしゅくぶくろ)〕というのを教えてもらった。

これは、通常の布袋ではすぐに荷物がいっぱいになってしまうのと、旅する時に荷物がかさ張るのを防ぐために構想されたアイディア商品のようで、布地は魔術によって魔力を()りこまれたものを使用し、実際の圧縮に対しては、人族の魔工術式(まこうじゅつしき)によって作成されている。

 袋の留め金にある魔鉱石(まこうせき)を操作すると、中身を見なくても一覧表示される優れもの。ただし、時間経過は通常なので、(なま)ものを入れておくと(くさ)るそうです。

 その他にも、ジンやフェリシダーから魔術の基礎を教えて貰ったり、下働きの人達から魔術の応用…特に生活に密着した…ものを教えて貰ったり、レーヌ族からは付き人として同行を願い出るものがいたりと大変でした。


「どうした、蒼溟?」

 魔の森上空を飛ぶエアバイクを操縦しながら、ぼんやりと物思いに沈んでいた僕にジンが声をかけてきた。

「数日前の事を思い出していたんだ。慌ただしかったなぁと思って。」

「おいおい、なに年寄りくさいことをほざいてやがる。過去を振り返るなんざぁ、もっとシワくちゃのジジイになってからでいいのさっ。」

 快活に笑い飛ばすジンに僕も過ぎた日々ではなく、これからのことに期待することにした。


◇◇ ◇


「行ってしまわれましたね。」

 ハーディの静かな言葉に私はかすかに頷く。

 蒼溟の突然の旅立ちは、下働きの者たちから町に住む子供たちまで驚きと若干の寂しさ、それ以上の祝福を持って受け止められた。

 皆、心のどこかで彼がこのまま留まるとは思っていなかったのだろう。

 蒼溟が持って行った〔圧縮袋〕は下働きの者たちがひと針ひと針、健康と安全を祈願して作成したものだった。

その事を聞いて私は驚いてしまった。いつの間にそんなに皆から慕われていたのか。

「それにしても、あっさりと行ってしまったわね。」



 蒼溟に旅立ちを誘いに行ったジンは、そのまま私の私室に来たと思ったら

「アルシュ、蒼溟を連れていくから宜しくぅ~。」

と一言を告げるだけのものだった。

それを聞いた蒼溟の方がうろたえてしまって、私が夜に二人で詳しい話をしようと微笑みながら言うと安心したように頷いてみせた。


「ジンから詳しい話は聞いているわ。蒼溟はどうしたい?」

 私の問いかけに、蒼溟は少し考えると

「僕は・・・ここに居たいと思う気持ちと、ジンと一緒に世界を周ってみたいと思う気持ちが半々かな。」

 その答えに、私は胸が締め付けられるような感じがした。

 予想通りとはいえ、実際に本人の口から聞くとその衝撃は予想以上だった。

「正直、色々と・・・不安なんだけどね。」

 少し(うつむ)きながら蒼溟が言葉を続けた。

「不安?・・・よかったら、教えて。」

 私は優しく聞こえるように注意しながら、先をうながす。

「・・・この魔の森に居れば、僕は村にいた時のような生活を続けられると思う。ハーディやスリールたちとも仲良くなれたし、何よりもアルシュが居る。」

 その言葉に私の心は嬉しさで震えた。

「でも、そう思いながらもジンやフェリシダーと話をしていると、見たこともない外の世界に対して好奇心が抑えられないんだ。」

 蒼溟は視線を上空の星空へと向ける。

「小さい時から僕は村の外へと出た事がなかった。それが普通だったし、不満もなかった。でも、突然見知らぬ世界に飛ばされて、強制的に村の人たち以外と会話して・・・。」

 それは、今までの出来事に対しての彼が感じていた事柄だった。

 いつも飄々(ひょうひょう)とした雰囲気で、動揺していないように見えた蒼溟だったけど、その内心は普通の少年のように不安や期待などでいっぱいだったようだ。

「ここで、みんなに出会えたことは本当に嬉しいし、感謝もしてる。でも、僕はもっといろんな事を、様々な事を体験してみたい。」

 そう言って、蒼溟は私を正面から見つめた。

「だから、アルシュ。身勝手だと思うけど、僕の旅立ちを許可して下さい。」

 お願いします。と言って頭を下げる蒼溟。

「・・・蒼溟は勘違いをしているわ。あなたは私の客分として、ここに滞在しているだけ。だから、あなたが旅立つというのなら、私はあなたを止めることなんて出来ない。」

 その言葉に、顔を上げた蒼溟は泣きそうな表情をした。その彼の頬を優しく包み込みながら、私は微笑んでみせた。

「でも、それは建前ね。あなたはすでに・・・私にとって、かけがえのない家族と同じ。」

 その言葉に驚いたように目を見開く蒼溟に

「だから、辛かったり悲しかったりして、耐えられないと思ったら・・・いつでもここに帰って来ていいのよ。」

 顔をそっと近付けて、額に口づけをする。

「私たちはいつでも貴方の帰りを待っているし、ここを貴方の家だと思っていいのだから。」

 私の行動に驚いたのか、顔を赤くさせていく蒼溟。

その姿に私は(いと)おしさを感じていた。

「例え、貴方の行いで誰かが不幸になったとしても、私たちはその全てを受け入れるわ。家族って、そういうものでしょ。」

 少しおどけたように私は言う。

 口調は軽くとも、その心に嘘偽りは無い。

彼を男性としてなのか、弟としてなのかの判別はまだついてはいないが、家族として受け入れる気持ちはすでに出来ている。

「必ず、私たちの元に顔を見せに来てね。」

だから、これは・・・私の願いでもある。

「うん、わかったよ。・・・ありがとう、アルシュ。」

 はにかみながら、蒼溟は私と約束してくれた。



 遠ざかるその姿を、アルシュは見えなくなるまで見つめ続けた。


これにて、序章は終わります。

自分でした事ではありますが・・・ながッ!?

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