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箱庭の少年  作者: 木乃羅
第一章 胎動
12/69

1-12 少年の資質

 いつものように、夜明け前から狩猟を行った蒼溟(そうめい)は、本日の収穫物を加工していた。

「うん、保存食もだいぶ集まったかなぁ。」

 干物のひとつを火で(あぶ)って、アオと一緒に味見をしていると建物の方からジンが歩いてきた。

「おう、おはよう・・・。」

 大きな欠伸(あくび)をしながら、ジンが挨拶をしてくる。

「おはよう、ジン。」

 蒼溟の挨拶を受けながら、干物のひとつを取ると当然のように炙って食べ始めた。

「おっ、なかなかうめぇな。さり気なくきいている塩とコショウがまたいい感じだ。」

 そして、蒼溟の(そば)にいる薄青色の球体生物を目にすると

「なんだぁ?このゴム(まり)みたいな物体は。」

 指で突っつくジンにアオが嫌がるそぶりをすると、人の悪い笑みを浮かべて左右の頬?をつまんで引っ張った。

「おぉ~!伸びる伸びるぅ。おもしれぇな、コレ。」

 喜ぶジンにアオの堪忍袋の緒が切れたのか、


バッチ――――ン!!


その弾力を駆使して指から(のが)れると、ジンの顔面めがけて勢いよくぶつかりに行った。

「ぐぁあ!いってぇ――。このゴム毬野郎、よくもやりやがったなぁッ!!」

 ジンとアオの戯れを横目に、蒼溟は加工作業を順調に進め、片づけを始めた。


 そのまま、二人?を見捨てて宮殿の方に向かうと・・・丁度、こちらに来ようとしていたフェリシダーと会った。

「フェリシダーさんにアルシュ、おはようございます。」

 背後に眠たそうな顔をしたアルシュにも挨拶をする。

「おはよう、蒼溟。ところで、一人なのか?ジンはこちらに来なかったか?」

 その問いに無言で背後を指差す。そこには、未だに戯れるジンとアオの姿がある。

「・・・・何をしているんだ。」

 頭痛がするといわんばかりに、額に手をやり、深いため息をつくフェリシダーに

「あらぁ、何時の間にインフィニティ殿と仲良くなったのかしらぁ~。」

 未だに眠気が取れない様子のアルシュ。

「まぁ、アレは放っておこう。蒼溟、よかったら今から私と鍛錬をしないか?」

 気を取り直したフェリシダーが提案してきた。

「いいですけど、武器とか持っていないですよ?」

 フェリシダーはニッコリと笑うと、手にした木刀を差し出してきた。

 あれ?さっきまで手に持っていましたか?

 不思議に思いつつも木刀を受け取り、庭の空いている場所へと移動する。


◇◇ ◇


 フェリシダーと蒼溟が向かい合う。お互いに何か言葉を交わしているのを眠気の去らない頭でぼんやりと見つめるアルシュ。

 蒼溟が早起きなのはいつも通りだけど、フェリシダーたら何で私まで早起きしなくちゃいけないのかしら。

 半眼になりながら、二人の様子を見る。

どうやら、鍛練について話をしているようなのだが、アルシュは武器を使っての戦闘をしないので、二人が何を話しているのか理解できない。普段であれば、それなりに思考できるのだが、今は眠気で何を聞いてもさっぱり分からない。

何でもいいから、早く始めないかしら。

そんな事を思っていると、二人は礼をして、木刀を構えた。

フェリシダーは剣を両手で持って、左側に垂らすように構える。対して、蒼溟は気負う様子もなく、正面で構える。

一拍後、フェリシダーの方が動いた。まずは、小手調べのように蒼溟の剣を弾くように、下から勢いよく打ちつける。

ガシーンッ。

なかなかの勢いだったのか、木刀同士の接触する音が響くが、蒼溟の剣は最初の構えから動かない。それに、(わず)かな驚きの表情をしたフェリシダーだが、そのまま連続で蒼溟に剣をふるう。それらを最小の動きで捌く蒼溟、お互いに立ち位置はほとんど動かない。

「くっ、せいッ。やぁ、・・・。」

 縦横無尽にふるうフェリシダーの剣に対して、蒼溟は受け流し、細やかな足運びでよけていく。それを追うように、フェリシダーも動いて行く。

「・・・ハッ!」

 蒼溟が半身になった瞬間、脇の下を狙うようにフェリシダーの鋭い突きが放たれた。それを、蒼溟は剣の柄部分で弾き飛ばし、返す動きでフェリシダーの首元へ剣を突き付けた。

「くぅ~ッ、参りました・・・。」

 しばらくの静止後、フェリシダーが悔しそうに負けを認めた。

 この間、半時にも満たない攻防であるにも関わらずフェリシダーは荒く呼吸するのに対して、蒼溟はまだまだ余力があるのか平然としていた。


◇◇ ◇


「はぁ、はぁ、はぁ・・・ふぅ~。」

 休みなく連続で剣をふるった為に私の呼吸は乱れに乱れていた。

 正直、蒼溟の実力を(あなど)っていた。

異邦人の大半は、戦いを知らないものが多いため、仮に武術を学んでいても、それは実戦を経験したことのない型だけのものだと思っていた。

ところが、蒼溟の剣には実戦を経験したもの特有の気迫とでも言うものが備わっていたのだ。これは、正直予想外だった。

フェリシダーは気をきかしたレーヌ族からタオルと水を貰い、喉を潤す。蒼溟の剣には、まだまだ余力を感じていた。まるで、剣の師匠かジンを相手にしているような感じだ。

そう、格上の戦士を相手にしているような油断ならない雰囲気。

「蒼溟、ありがとう。それにしても、スゴイな。」

 フェリシダーが爽やかな笑顔で礼を言うと、蒼溟は少しはにかみながらも

「いいえ。僕の方こそ、ありがとうございます。」

 お辞儀をして、木刀を返すとレーヌ族の毛玉のような身体を手に乗せて、失礼します。と言って建物の中へと行ってしまった。

「フェリシダー、どうだった?」

 眠気から覚めたらしいアルシュの言葉にフェリシダーは、

「あははは、完敗だな。」

 蒼溟を試すつもりが、逆に試されてしまった。もう、笑うしかないかな。


◇◇ ◇


 アオと戯れていたジンは、距離を置きながらも二人の鍛錬をみていた。

「へぇ、なかなかやるじゃねぇか。」

 フェリシダーは可愛い孫娘だが、こと戦闘などの訓練には手心を加えずに幼少の頃より鍛えてきた。剣の師匠から師範代クラスの腕はあると聞いたことがある。

「それをあっさりとかわしてみせるかぁ~。おもしれぇ。」

 その悪ガキのような笑顔に、アオはやれやれと言った様子で一鳴きすると姿を消した。


◇◇ ◇


 ジン、フェリシダー、アルシュの三人は部屋に戻ると今後について話し始めた。

「アルシュ、近日中に蒼溟を連れ出すぞ。」

「えっ?!準備期間を設けるのではなかったのですか。」

 ジンの唐突な宣言にアルシュが慌てたように聞く。

「あぁ、ありゃ~準備期間なんざぁ必要ねぇわ。」

 その言葉にフェリシダーも賛同する。

「そうね、聞く限りでは必要なさそうね。そもそも、保存食の確保をしている時点で本当にここに留まるつもりだったのかしら?」

 その言葉にアルシュも考えさせられる。

執事のハーディや調理師のスリールたちの報告から蒼溟の行動はまるで旅立ちを予感させるような感じではあった。

 旅に必要なサバイバル技術はすでに立証されているし、こちらの食材の調理の仕方に調味料の作成、加工まで出来るし、簡易の修繕作業まで身につけている。

「そうね、・・・・でも。」

 そうは思っても、あの少年が自分のもとからいなくなると思うとアルシュの心中は複雑になるのだった。

「・・・まぁ、明日にも出立するわけじゃねぇ。蒼溟のヤツにも言わなきゃならんしな。」

 ジンが慈愛に満ちた眼差しを一瞬したかと思うと、すぐにおどけたように言った。

 その心使いに感謝しつつ、アルシュは蒼溟と二人きりで話をしようと決心する。


 友人のそんな姿を横目にフェリシダーも考える。

 ジンが一人で国を出てしまうと、色々とマズイことが起こりそうだ。だからといって、蒼溟ひとりで旅立たせるわけにもいかない。

「う~ん、どうしようかなぁ。」


 それぞれに悩む二人の娘を見やりながら、ジンの心中はただ一言を想っていた。

 おもしれぇ。

 蒼溟は少年でありながら、その資質も習得している技術も、ほとんどが規格外だ。何もかもがアンバランスでいながらも、絶妙な感じで均衡を保ってやがる。

 自分が出来なかったこと、諦めてしまったこと、それらをヤツならやってくれるかもしれない。そう期待させてくれる何かを持っている。

 それを面白いとも思うし、蒼溟が進む未来がどうなるのか楽しみでもある。

 ジンは自分の全てを賭けてもいいと思える人物に出会えたことに、運命とか言うモノに感謝したい気分だった。


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